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37<少しずつだとしても>

<そんなことが……!?>


 卓越した魔術師の多くは、自身の魔力回路に誇りを持ち、磨きをかけて生きている。

 それが、忌まわしき過去の傷跡だったなんて。


<……でも、ただの昔話だろ。今は違う>


「はい。国政に寄与する貴族階級の多くを魔術師が占めている現代で、そんなことを出来るわけがありません」


<そう、そうだよな。特権階級でありながら、いつ自分たちが材料にされるか怯えながら暮らす環境なんて許すはずもない。自分たちの身を守るため、全魔術師から反発されるのは必至だ>


「正にその通りです。だからこそ、現代では人間を魔法実験の材料にすることは固く禁じられ、言葉にするだけでも軽蔑される位の禁忌となっています」


<ああ、そうだな――――でも、それなら何故ロプトルはカビの生えた古くさい技術を使って、しかも投獄・極刑のリスクを背負ってまで人間を原材料にした魔剣製造なんてやってるんだ?>


 リザはこめかみを押さえて少し考え込む。


「……それが分からないのです。貴方の父上、ベイス=フロックハート殿を相手に一対一で、それも危うげ無く勝利できる程の恐るべき達人であれば、強力な魔獣を狩ることも容易いはずです。魔獣の魔力保有量等の潜在能力で平均的に人間を大きく上回るのですから、ただ強力な魔剣を製造したいのであれば魔獣の一部を使った方が効率が良いでしょう」


<昔に人間を材料に使っていた最大の理由は『手に入りやすいから』だったはず――大手を振って人間を材料に出来た昔とは違って、ガードの堅い優秀な魔術師を闇討ちする意味が無いよな……>


「ええ――これについては今はまだ想像でしか議論できないでしょう。ただの快楽殺人鬼という線もありますし、目的や動機を探るのは難しいと思います」


<うーん、行き詰まったな……>


「……ここからはあくまで憶測ですが」


 リザは眉間に皺を寄せ、更に難しい顔をして考えを述べる。


「フロックハート家であれほどのことを行ったのですから、何らかの大きな理由がある行為であるのは間違いないと思います。その理由が快楽・研究・財産……いずれにせよ一度凶行に及びその後捕まっていないと言うことであれば、二度三度と同じようなことを起こす可能性が十分に有ります。父上が話していたと言う、7月4日の対抗戦会場が正にその悲劇の壇上となる可能性だってあるでしょう」


<以前に皇帝陛下の暗殺が画策されていると予想してたけど、その線を生かすなら、例えば陛下を魔剣にしようとしているとか?>


「十分にあり得る話ですね。もっと言えば皇帝一家以外にも数多の魔術師が多方から集結するのですから、ターゲットが複数存在しても何ら不思議ではありません。高位の魔術師を狙うのが目的であれば、ロプトルが現れる条件は揃っていると言えるでしょう」


<……まさかその集結した魔術師達相手に、大立ち回りをする気なのか? 正気とは思えないな……>


 いくらロプトルが強いと言えとも、数百人の魔術師と数千人の兵隊を相手にして勝てる見込みがあると思っているのだろうか。

 少なくとも兄貴のアルトや、学園のナディア校長の強さは広く知れ渡っているはず。

 まさかとは思うが、彼らを同時に相手取っても勝てると思えるほど、強さを自負しているのか?


 自分の実力を見誤った、ただの傲慢な魔術師であれば取るに足らないが――その実力が、本物ならば。


 そんな相手に、俺は……俺達は果たして勝てるのか?


 勝負の土台にすら、立つことが出来るのだろうか。


「今回、そのレベルの相手と戦闘が起こってしまうかもしれません。例え、それが少しずつだとしても――私達は強くならなければ」


 そのとき、予鈴のチャイムが鳴った。

 リザは立ち上がり、俺を手にとって授業に向かう。


「今日はいよいよ戦闘訓練の日です。広場に向かいましょう」



――――――



「はーっはっはっはっ! 遂に、遂にだ!」


 授業前、広場のど真ん中でマックが何やら高ぶり叫んでいた。


「スプリングフィールド家当主たる母上より正式通達があった! 代々伝わる魔術血統術式の使用許可が、遂に下りたのだ!!」


<え、もしかしてマックって今まで血統術式を制限してたの?>


「みたいですね」


 ひそひそと内緒話をしているのに気づいたのか、マックがリザの方を見る。


「リザ、なーにをコソコソと呟いているんだ。まさか陰口じゃ無いだろうな?」


「被害妄想ですよ。それより、気安くファーストネームで呼ばないで貰えませんか?」


「何だとぉ!?」


 ムキになったマックが更に突っかかってくる。


「口を慎め、僕は君と違って次期当主第一候補の――」


「やめんか二人とも」


 いがみ合っている二人の間に、嘆息したロア先生が割って入った。


 そして、後ろの木陰で文庫本を読みふけるステファニー・フォースターにも声をかける。


「フォースター女史も、見ていたならちょっとは止めに入らんか」


 フォースター女史(と呼ばれたステフ)はロア先生を一瞥すると、面倒臭そうな冗長した素振りで立ち上がり、無言でロア先生の元に歩を進めた。

 ロア先生の元に1年生特待クラスの3人が集まる。


 先生は一つ咳払いし、うだうだとした雰囲気を締めてから言葉を出した。


「知っての通り今日は戦闘訓練だ。実力の近しいものから得られるものも多いだろう。3人各々、1対1の戦闘訓練を実施する」



 最初の戦闘はリザが観戦、残りの2人――マックとステフの対決になった。


 地面には入学試験時のような、およそ直径20mの円形の戦闘場が描かれている。

 場外に出たり、武器を落としたり、気絶や拘束で戦闘が続行できなくなれば負けだ。 


 円形の場内中央でマックとステフが向かい合い、一礼した。


「では、マック・スプリングフィールド対ステファニー・フォースター、始め!」


 

 ロア先生の宣言と共に、向かい合う2人が勢い良く衝突した。


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