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27<図書迷宮ライブラ>

 魔剣学園図書館地下6階特別書庫、一般生徒立入禁止区域。

 そこにリザと魔剣状態の俺、そしてレインがいた。


 理由は決闘に対する懲罰。

 俺達はナディア校長から、地下6~8階特別書庫の2週間に渡る清掃作業を命じられた。


 地下5階までは普通の図書館だが、地下6階以降の特別書庫はただの書庫では無い。

 数々の魔道書とそれを守護する魔法生物が跋扈し、独自の生態系が構築されている。


 いわばダンジョン化しているのだ。


 【図書迷宮ライブラ】

 それが、このダンジョンにつけられた固有名称――。


 その図書迷宮で、俺達は象のように巨大なナメクジ型の魔物と対峙していた。


「嫌あああああ!!」


 リザの悲鳴にレインは思わず耳を塞ぐ。

 少しでもリザを落ち着かせようと、俺は冷静に声をかけた。


<そんなに嫌いなのか、ナメクジが>


「嫌いです! ヌメヌメしたものは全部嫌いなんです!!」


 リザは涙目で、魔剣の俺を闇雲に振り回している。

 俺は目を回しながらリザを諭す。


<でもアレ倒さないと掃除が進まないんだが……。いくら綺麗にしてもアイツの進路跡が全部ヌメヌメになっていくし>


「分かってます、分かってますよ! 想像するだけで気持ち悪いんだから言わないでください! 【フォーカスバースt」


 リザは詠唱を始めたが、隣にいたレインが手でリザの視界を塞ぎ、魔法の発動を制止した。


「爆炎魔法はやめよう。ここは書庫だ、燃え移って希少な書物が灰にでもなったら……謹慎期間が伸びる」


 レインに窘められたリザは不満そうだ。


「じゃあどうしろって言うんですか!?」


「普通に切り捨てれば良い。あのナメクジは不定形の魔物だが、内部に核がある。切り進んで行けばいつか核に辿り着く」


「そんな無茶苦茶な!?」


 レインは不思議そうにリザを見つめる。


「確かに大型で危険な魔物だが、等級で言えばFクラス。動作も遅いし耐久力も無い。近接戦闘でも無傷で倒せるだろう」


「そんな心配をしているのではありません、核に辿り着くまでに体中ヌメヌメになるじゃないですか!!」


「そうか、そうなるな。すまない、僕の想像力が足りなかった。今からしっかり想像し始めることにする」


 目をつぶり瞑想にふけり始めたレインに対し、リザは剣鞘で思い切りレインの頭を叩いた。


「あなたのご友人はこういう人しかいないんですか!?」

 

<否定できない>



――――――


 図書迷宮ライブラの清掃作業にリザは放課後から参加したが、レインは停学期間中のため朝から丸1日かけて清掃作業に勤しんでいた。


 リザの途中参加までの間に厄介な魔物はレインがほとんど片付けており、作業は大幅に前倒しで進んでいた。

 図書館閉館の刻限まで少しだけ間があると言うことで、清掃初日ながら下見のため地下7Fにも足を伸ばそうということになった。


 往き道の階段で、リザはレインに謝意を述べる。


「地下6階だけでも運動場ほどの広さがあるのに……放課後までに相当頑張って頂いたんですね。ありがとうございます」


「僕には召喚魔獣があるからこの程度は苦にならないよ。そもそも罰を受けるべきは僕とノエルだけだ、巻き込んでしまって申し訳ない。本来なら僕一人で片付けても良かったんだが……」


 地下7階に辿り着き、レインは本棚の一角へ案内した。


「この書庫は君達にも見て貰った方が良いと思ったんだ」


 本棚には魔剣の製造方法に関する書物が並んでいた。


「この棚には魔剣の製造工程の初期、原材料選定に関する研究書物が並んでいる。魔剣の核に適した原材料について知っているかい?」


「一般的に用いられるのは魔力の導通性に優れた希少な鉱石、強靱な魔獣の角や爪、ですよね」


 レインは頷き、話を続けた。


「この地下書庫にはそういう一般的なものではなく、もっと別の『公表できないような原材料』を使った研究書物が並んでいる」


「……『人間』ですね? 生きた魔術師の魔力回路自体を魔剣製造に用いた、禁忌中の禁忌の研究……」


 レインは深く頷いた。


「ノエルが魔剣の姿にされた魔法技術は、この研究内容と関連があるはずだ。僕だけでは読み解くのに時間がかかるが、君の力を借りることが出来ればありがたい」


「もちろんです。むしろ私も、ずっとこの研究書物を探していました……やはり立入禁止区域の地下書庫にあったのですね」


「清掃作業を早々に切り上げられれば、その分調査に時間を割くことが出来る。今日は刻限も近いからここまでにするが、明日以降は本格的に調査に取りかかろう」


「はい!」


 そのとき。


 体全面が視界になる俺だけが、背後の今降りてきた階段上に人影を目端に捕らえた。


 高級そうな純白の寝間着姿で、ブロンズの長髪をたなびかせる少女。

 どこか浮き世離れしたその姿は、夢に吸い込まれそうな――。


 いや、そんなことに気を取られている場合では無い。

 俺達の会話が組織にでも漏れたらマズいことになる。敵か味方か分からないが、何が何でも口止めしないといけない。


<リザ、後ろだ!>


 リザが振り返り、レインがそれにつられて後ろを見る。

 この場の全員、謎の少女が階段を駆け上がり立ち去る後ろ姿を微かに捉えた。


「だっ……誰!?」


「逃がさない。足下を視た。僕からは決して逃げられない」


 レインは堂々たるストーキング発言をし、全速力で階段上の少女を追った。

 巨大な本棚で作られた迷路のような道を、レインは迷うこと無く抜けていく。

 リザと俺はそれを必死で追いかける。


「ここだ!」


 迷路の行き止まりに辿り着いたレインは断言した。

 だが、そこに件の少女はいない。

 切らした息を整えながら、レインは悔しそうに疑問を呈す。


「間違いなく、足取りは追えたのだけれど」


 追い付いたリザは答えを出す。


「魔術、ですよね?」


「そうだね……」


 レインは同意するが怪訝そうに周囲を見渡す。


「ただ、周辺で魔力励起の痕跡が全く無いんだ。つまり僕等を遥かに上回る高位の使い手か、国宝レベルの特殊な魔術を行使したか」


 どうしようもないレベルの魔術師が、俺達を追跡している可能性がある。

 緊迫した事態に、リザも思わず冷や汗を垂らす。


「……敵対人物で無ければ良いのですが」


「そう願うばかりだね。でも、楽観視は出来ない。今は特にね」


「今は、というと?」


「対抗戦メンバーに正式に認められたのだろう?」


「ええ。全校生徒への公式発表は明日ですが、内定の通達は頂けました」


「それだよ、良くも悪くも君は少々目立ちすぎだ。出る杭は打たれる。やっかみの対象になるってことさ」


 なるほど、とリザは膝を打った。


「君が対抗戦出場メンバーになることを快く思っていない人間は、生徒もそうだが教師にもいる」


「教師にも、ですか」


リザは少し驚き、レインは頷く。


「例えばセレスト・ナイトレイ先生だ。対抗戦代表を決める協議会で、君を選ぶことに大反対したらしい。これから理不尽な嫌がらせを受ける可能性もあるだろう。十分に気をつけて欲しい」


「……わかりました」

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