26<レインvsノエル③>
「やばっ!!」
間一髪。
俺は上着を脱ぎ捨てて、すぐさま高度を下げる。
掴んできた手指を何とかやりすごせた。
心臓の鼓動が鳴り止まない。お、驚かせやがって……!
だがもう大丈夫だ。壁に近寄りさえしなければあの手指が俺の体に届くことは決してない。
あとはレインの方角から放たれる召喚獣に気を付ければ良い。
「【ぶつかれ、#f8f5e3 アイボリー】!!」
眼下のレインから新たな召喚獣が放たれる。
今度はわかりやすい軌道だ。形状や大きさから、鳥型では無さそうだ。
ただ真っ直ぐ俺に突っ込んでくる物体。これなら避けるのは難しくないだろう。
――えぇ!? でかい!
あれは……象か!?
なんてものをぶつけて来やがるんだ!
大きな牙を向けてくる巨大な象が、大砲のように俺に向かって来た。その巨大さ故に凄まじい迫力に圧倒される。
あんな重量級の物体を上方に射出できるなんて普通あり得ない。『ぶつかれ』という命で召喚された、あの召喚獣の特性か。
攻撃範囲が広い。
余裕を持って避けなければ。
「【バースト】!」
俺は火炎魔法の出力を上げ、緊急回避した。
巨大な象の召喚獣は脇を通り過ぎ、そのまま上方の天井まで突っ込んだ。
大質量に押し潰され、体育館の天井は次々と崩落し始める。
激しすぎる戦いに耐えきれず、生徒達は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。
俺も他人の心配はしてられない。崩れ落ちてきた天井の建材を避けながら機会を伺う。
ここまで矢継ぎ早に、それも大質量の召喚獣まで繰り出したんだ。レインも消耗していないはずが無い。
あと一息。ここを耐えれば――。
そのとき、背後から水色の巨大な手が現れた。
崩落した天井にひっついていた、【ベビーブルー】の召喚獣……!
召喚獣が設置されていた建材ごと叩き落として、俺に攻撃を届かせにきたのか!?
まさか、それを狙って天井に召喚獣を射出した――?
もう一度緊急回避を―――っ、間に合わない!
何とか身をよじらせて回避を試みたが、巨大な手指が俺の両足を掴んだ。
移動を封じられた。
流石にこんな重しを付けたまま飛ぶことは出来ない。あとはこのまま地面に落下し、打ち付けられるだけだ。
俺の負けか……。
いいや、違う。
……最後まで、諦めてたまるかよ!
俺は約束を果たす。
もう出来ることがない訳じゃない、何が何でも勝ちにいってやる。
これが――
「最後の一発だ!」
以前とは違う。封じられたのは足だけ、まだ両手が空いている。
俺は魔術を行使し、自動起爆型の火炎弾を2つ作る。
その内の1つを破裂させ、手元の魔剣【五月雨】を射出した。
射出された魔剣はレインめがけて猛スピードで突っ込んでいった。
対するレインは慎重にその剣を見つめ、タイミングを見計らう。
刹那、【五月雨】はレインの振り抜いた【七星】に切り払われ、空を舞った。
――すまない、レイン。
最後の一発と言ったな。
アレは嘘だ!
一発目の【五月雨】の影から、二発目の【五月雨】が現れた。
その魔剣は、振り抜かれた【七星】を持つレインの右手に放たれる。
そのままレインは【七星】を弾き飛ばされ、右手に【五月雨】が貫通した。
そのまま、まち針のようにレインは地面に縫い付けられた。
この2発目の【五月雨】は俺だ。
事前に五月雨で自分を傷つけ脱出。さらに置き玉の火炎弾を時間差で破裂させて、2つの投擲を実現させた。
この能力含めて、俺の今の全力。
何が何でも勝たせて貰った。
……いや、勝ちなのか? 俺、魔剣になって動けないし。
「私の勝ちですね、レイン先輩」
現れたのは、本物のリザ。
余りにも早い。自室で隠れている手はずだったのに……もしや、こっそり観戦しに来てたな?
リザの勝利宣言に、レインは疑問を述べる。
「……リザ・ガードナー、か。これは引き分けじゃないのか? せめて靴紐だけでも貰えないか?」
「諦めの悪いところがよく似ていますね」
「やっぱり僕の負けでいい」
<どういう意味だレイン! 褒め言葉だろ!>
リザが微笑み、聞こえていないはずのレインも苦笑した。
「――私の剣は強かったでしょう? 先輩」
「全くだよ。もう二度と、敵にはしたくないね」
観客も審判も逃げ出した決闘の行方は、俺達のみが知る結果となった。
決闘については、もちろん後日ひどく怒られる事態になった。
下級生であるリザは断れなかったのだろうと情状酌量の余地があったため、1日の謹慎と口頭注意で済んだ。
だがレインは後輩の女子生徒に決闘を挑み、体育館の天井まで破壊したのだから目も当てられない。
右手の治療を含めての期間だが、1ヶ月の停学処分を喰らってしまった。
『あぁ、ノエルと同じになってしまったよ』と嘆息する声は、何故か少し嬉しそうに聞こえた。




