23<鬼教師リザ>
頼られたことが余程嬉しかったのだろうか。リザの張り切り具合は目を見張るものがあった。
足の痛みが吹き飛んだかのように目をらんらんと輝かせ、魔術も使ってないのに背面からメラメラと炎が立ち上って見えるようだった。
「――手配は済ませて置きました。今からこの部屋に運んでもらいます」
<手配って……?>
「人が来ますので、これからはお静かに。貴方の声は私にしか聞こえませんが、念には念をということで」
<わかった。リザだけになるまで会話は控える>
5分ほどすると、ノックの音がした。
「リザさん! 持ってきました!」
ティナの声だ。
「ありがとうございます。今開けます」
リザが部屋の扉を開けると、両手に10数冊もの本を抱えたティナが現れた。
ティナは机の上に抱えた本を並べていく。
「基礎射撃術論全3巻と魔術障壁影響演算術全4巻、空間観測術法上下巻、遠隔系統における魔術回路運用論、セイリュウ先生・ストドラ先生共著の実戦派魔法技術論。その後に別で頼まれてた、ナイトレイ先生監修の視覚情報分析論と下級射撃魔法詠唱呼吸法もありました!」
辞書みたいな厚さの本がずらずらと並べられていく様を、ただ眺めるしか出来なかった。
まさかとは思うが、俺は今からこれを覚えていくのか?
吐きそう。胃無いけど。
「ご面倒をお掛け致しました。この埋め合わせはまた必ずさせて頂きます」
「これくらいのことでそんな! ミラム堂のチーズケーキでいいです!」
頼んじゃうかー。
微笑むリザを尻目に、ティナは足早に部屋の外へ出て行った。
……さて、ここからは俺の仕事か。
今までリザばかりが苦労しているのはフェアじゃない。
少しでもリザの力になりたいしな。たまには本気で頑張りたい。
「残りの本はここに置いて良いですか?」
ティナが台車を転がし、山盛りに積まれた本を運んで戻ってきた。
嘘だろぉ……!?
――――
その日の夜。
魔剣のままではメモも取れないし、本のページもめくれない。
俺はリザの姿に変わり、自室で講義を受けていた。
リザは教えるのも上手い。予想していたより早く理解が進んでいる。
――それはそれとして、背後に積まれた大量の参考書は一向に減る気配が無い。
今日一日でどこまでやる気なんだろうか。
リザがふと、俺に問いかける。
「そういえば、魔剣の体は睡眠を必要とするのですか?」
「いや――多分無いな。人間の頃の癖で夜間は意識閉じたりしてるけど、徹夜しても支障なかった」
リザはにこやかな表情を見せる。
「良いことを聞きました」
「やっぱ今の無しで」
「こぼれたミルクを嘆いても仕方がありませんよ」
そういうわけで、俺の勉強時間はリザが就寝後も続行となった。
俺は30分毎にリザに魔術を使って貰わないと、リザの姿を維持できない。
リザに無理して起きて貰う選択肢は元々無いが、もしそうしたとしても俺がコピーするのは『眠たいリザ』だ。これではとにかく効率が悪すぎる。
つまり、夜間の勉強は魔剣の状態で行うしかない。
何とかする方法は一応ある。
人間は昔から怠惰なもので、魔術師にもそれは当てはまる。【本のページを勝手にめくる魔術】が当然存在する。
ただし自分のスピードでめくれるわけでは無い。あらかじめ任意の設定速度でページがめくられていく。
取りあえず、リザに魔術を行使してもらってみた。
「はやいはやいはやい! 速いよ!」
「いつもこれくらいのスピードで読んでいたのですが」
「一行目しか読めなかったよ……。頼むから今の30分の1の速さにして欲しい……」
――――
そして、勉強と実践を繰り返す日々が続いた。
効率化のために、自分だけで出来る勉強はリザ就寝中の夜間に行うことにした。
日中はリザの体を使わせて貰って、わからなかった所の質問と学んだ事が実際に出来るかの実践練習だ。
リザの部屋はある程度広いため、最低限の試射練習は可能。だがその程度のレベルで満足してしまえばレイン相手に通用しないだろう。広い空間での実践練習はやはり必須だ。
そこで毎日放課後の30分だけ体育館を借りる申請を行い、リザの姿で秘密特訓を行うことにした。ロア先生も休み中の自主練習として快く許可をくれた。
そんなこんなであっという間に10日は過ぎ、決闘の日がやってきた。
リザの体調も万全。3日前から既に授業に復帰している。
ある程度、やりたいことの練習は出来た。
今度は以前のようにはいかない。約束を果たすぞ、レイン。




