20<思惑>
リザの寮内私室に戻り、俺はリザと会話する。
俺はレオン当主の言葉をリザに伝え、その意味を推察していた。
「父上が闇商人と交わしていた取引……。それが、対抗戦をクルセイド旧城広場で行うことと言うのですか?」
<話の流れ的にはそうなる>
「闇の組織が対抗戦で悪事に手を染めるつもり、と」
<おそらくはな>
リザは少し考え込み、疑問点を述べた。
「通常の対抗戦はもっと小規模な形で実施するのでしょうか?」
<ああ、いつもは大規模な会場を借りずどちらかの学校の敷地を使って行うことになる。対戦相手になる魔法学院の懐は知らないが、少なくとも学園側はそんな金無さそうだし>
「では対抗戦を大規模に実施することで誰かにメリットが出ると」
<うーん……会場付近の商人は儲かるかもな>
「……理由としては弱いですね」
まあそうだ。
ガードナー家の口利きを貰えるなら、3ヶ月を待たずして儲ける方法がいくらでもありそうだ。
<そうだな、別の視点から考えた方が良さそうだ。となると――>
「天覧試合、と言うところですね。皇帝陛下が観戦なさると言うことですが」
<――――最悪の事態を考えれば、暗殺だな>
「まさか!」
リザは驚きを隠せず声を荒げた。
「ガードナー家は皇帝家に代々仕える家系です。まさかその使命を忘れ、父上はそのような狼藉に手を貸したと?」
<皇帝家も一枚岩というわけじゃない。皇帝陛下には少なくとも3人の皇子がいるし、親族を含めれば皇位継承権を持つ者は多数いる。皇位継承を望み、凶行を唆した皇族がいる可能性は否定できない>
「そんな……」
<もちろんそうと決まったわけじゃない。だが――>
「ええ、この目で確かめる必要があります。是非とも対抗戦の場に参加し、敵の思惑を探らなければなりません。そしてもし最悪の想定が事実ならば……ガードナー家の誇りにかけて、その謀略を打ち砕きます」
<ああ。対抗戦には間違いなく兄貴も出場するし、味方に付いて貰えばもう怖いものなしだ。敵の思惑をくじいてやろう>
――――
遂に来た仇敵の尻尾を掴めるチャンス。逃す手は無い。
さらに対抗戦への参加はごく自然に兄貴と接触できるまたとない機会でもある。兄貴に事情を話し、あらかじめ味方に付いて貰っておけば怖いものなしだ。
リザもガードナー家としての誇りを守るため気合いが入っている。
ここが踏ん張りどころだ。
来たるべき対抗戦に向けて上級生と渡り合える実力を付けるため、リザはロア先生の日々の鍛錬に何とか食らいついていった。
ロア先生に期待されているとはいえ、実態としてリザのライバルは多い。
ただでさえ選りすぐりの生徒達から更に最強のメンバーを揃えるというのだ。少々の無理はしないと追い付けないのも事実。
普段の授業においても予習復習を欠かさずこなし、さらには俺の魔剣特性を調べるために、歴史ある学園図書館に通い詰め基礎知識を蓄えていった。
頑張りたい気持ちはわかる……だが、流石にオーバーワークだった。
1週間もすると、リザの顔には疲れが滲み始めていた。
――――
「今日の走り込みはここだ!」
……ここは学園の裏山山道、登山道の長い長い階段だ。
実際に目の前で見ると圧倒されそうになる坂道だ。全部でおおよそ400段くらいと聞く。
「ダンジョン踏破は足場の悪い中を延々と行軍することになる。これくらいの坂道で気圧されていては話にならんからな!」
まあそれはそうなんだが。もう少し手心を加えて欲しい。また魔力回路無しで走るんだろ?
3人は明らかに不満そうな顔で登山道を走り始めた。
往路の登りまでは良かったのだが――折り返して下り坂で事件は起こった。
「――あぁっ!?」
<リザ!?>
失敗した。とっさのことで俺との魔力回路接続が間に合わなかった。
リザは足を踏み外し、坂道を滑り落ちた。




