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19<天覧試合>

 魔剣学園は週5日授業があり、週2日は休みだ。

 5日授業の内、2日はA、B、特待クラス合同の授業、残りの3日はそれぞれのクラス専用の授業となる。


 合同授業の基礎学問を一通り終え、今日は特待クラス専用の授業。

 第一運動場には特待クラスの1年生と担任の教師が揃っていた。


「と、言うわけで俺が特待クラスの担当教師だ! 宜しくな! はーっはっはっはっ!!」


 1年特待クラスの担任には、本人たっての希望でロア先生が任命された。


「最近は悪ガキ3人組が暴れなくなったからヒマでしょうがなかったんだ。お前らの相手を出来て嬉しいぜ」


 誰だろうな悪ガキって。まるで全然これっぽっちも心当たりが無いな。


 1年生の特待クラス生徒は3人。

 リザ・ガードナー、マック・スプリングフィールド。

 そして推薦入学生のステファニー・フォースター、無口な女子生徒だ。

 推薦入学自体魔剣学園では珍しいが、特にステフはあの厳格な校長が是非と推薦して入学した人物だとか。実力は未だこの目で見てないが優秀なことは間違いないだろう。


「貴様ら1年生はまず体作りだ。魔力ばかり向上しても体が追い付けなければ魔剣の扱いなど笑止千万!   ということで、今日は走り込みだ!」


 出たよ走り込み。まさに体育会系だ。


「まずは1周500mあるこの第一運動場を20周してもらう」


 せっかくの特待クラス専用授業でやることが走り込みとは……と3人とも不満そうな様子でスタートラインに着いた。

 その不満も痛いほど分かるが、ロア先生の言うことはもっともなことだ。

 身体的にも魔力的にも成長期にあたる今、基礎を伸ばせるだけ伸ばしておかないと将来後悔することになる。


「あ、あと魔力強化は禁止だぞ」


「「「ぇ」」」


 敬語のリザや無口のステフが腑抜けた声を出すほどの鬼縛りだ。

 魔力による身体強化有りなら、特待生レベルの3人にとってウォーミングアップの範疇。しかし純粋に体力勝負となると話は別だ。

 特にリザの顔は恐怖に満ちている。

 しかしロア先生は本気だ。怖い顔でこちらを見つめている。


 魔力強化しないなら帯刀している魔剣も不要、ただの重しになってしまう。

 3人とも魔剣を脇に置き、もう一度スタートラインに戻った。


「何やってんだ? 帯刀状態で走るに決まってるだろう。戦場では帯刀して動けなきゃ意味が無いぞ」


 鬼ですか。ああそうだ、鬼でしたよロア先生は。

 特にリザは青ざめていて、走る前からもう吐きそうだ。


 3人は見えている地獄へ向かって走り出した。


――――


 授業時間内に完走できたのはマックだけだった。流石スタミナに自信ありというだけはある。

 ステフは後半バテてしまい途中からフラフラと歩いていたが、リザは途中で一歩も動くことが出来ず倒れてしまった。


「はーっはっはっはっ! 情けない! 首席の名が泣いてるぞガードナー女史!!」


 ロア先生は分かってやっている。リザは体力が無い。


 幼少期から貴族として最低限の護身術を教わっており剣術もある程度の型は学んでいるが、基本的には研究者肌のインドア派だ。

 特に魔法学園を目指してからは部屋に籠もり勉学に勤しむばかりで、俺と出会った時点で剣を振るうのは数年振りのことだった。


 試験では豊富な魔力保有量を生かした身体強化魔術を行使し、体力面の不安は帳消しどころか長所の域まで達していた。逆に言えば、魔力無しで行動するならこの場で一番苦しいのはリザだ。


 強くなるためには自分の弱点を突きつけられる経験も必要だろう。それは分かる。しかし少々早急では?


 リザの表向きの入学目的は『魔力コントロール向上』。不適合者からの脱却を明白にするための証明作りだ。

 俺としては、降りかかる火の粉を払えるよう強く育つことも必要だと思う。魔獣に狙われた件もあるし、今後組織の手にかからないともいえない。だが少なくとも組織の件はロア先生が知る由も無い。


 もしも自身の目的に合わないと思われ、リザに魔法学院へ転校されるようなことがあれば魔剣学園も大きな損失なんじゃないか?

 わざわざガードナー家に出向くようなロア先生だ。個人的にもリザに期待しているだろう。


 何か、早急に成長を促したい理由が――――

 そうか、魔術学校対抗戦か。


――――


 ある日の放課後、リザはロア先生の教員室に呼ばれていた。


「実は、ガードナー女史を魔術学校対抗戦の選手候補者として推したいと考えている。無論今後の成長度合い次第だが」


 魔術学校対抗戦。年に一度行われる、魔剣学院vs魔法学園の戦闘演習だ。通常は高年次生である3年生、4年生で選手団が構成される。しかし1年生のリザに白羽の矢が立った理由があった。


「我が魔剣学園は基本的に剣の腕が良いから入ったという人間が多い。それ故に近接戦闘には滅法強い。

だが魔法学院は逆だ。むしろ身体能力は劣るが魔術の腕が良いから入ったという人間が多数派。それ故に射撃系の魔術に長けている。そのままいけば魔剣学園の選手は全員近づく前に撃ち落とされる。つまりこちらも中距離戦闘を行える射手を用意し、援護射撃で近づく隙を作らなければならない。――しかし我が校において練度の高い射手は少数だ」


「それで私を? 少数とはいえ、高年次生の優秀な射手はおられるのでしょう? 彼らの出場機会を奪うのは如何なものかと思いますが」


 リザの言うことももっともだ。

 対抗戦は勝ち負け以前に、優秀な生徒を外部に紹介することで卒業後の進路である研究施設や軍部等の就職先へアピールする目的がある。学校側だけで無く生徒にも大きなメリットがあるイベントだ。

 1年生のリザは今回で無くとも出場機会が残っているが、高年次生は大抵1回か2回。


 対抗戦に選手登録できるのはわずか6人。


 この枠にリザを入れることで、出場するはずだった選手から恨みを買う可能性も有る。

 多少の実力差であれば高年次生を優先すべきだろう。


「例年通りの対抗戦ならそうだろう。だが今回の対抗戦は違う。例えわずかな差でも、勝利にこだわらなければならない」


 ロア先生は大きく息を吸って吐く。


「今回の魔術学校対抗戦、皇帝陛下がご観戦になられることが決まった。天覧試合となったのだ」


 ――――天覧試合。

 皇帝陛下が公務として直々に観戦される試合。


 確かに魔術学校対抗戦は国内でも有名なイベントではあるが、そこに皇帝陛下が来られるのは記憶にないことだ。


「昨今の魔物の増加や周辺国の軍備増強に伴い、我が国も長期的な政策として教育機関に力を入れるべきだとのお考えを示されている。その一環として対抗戦に興味を持たれたようだ。ここで魔剣学園の潜在的価値を示すことが出来れば――身も蓋もない話だが、多額の予算を引っ張ってこれる」


「要はお金ですか。本当に身も蓋もないですね……」


「何とでも言え。我が魔剣学園も先立つものは必要なんだ。予算が付けば生徒にだってメリットが山ほどある。校舎・寮の一般設備拡充や増築、魔道書・古い文献などの図書を充実させ、耐用年数を倍くらい超えた魔力分析機器も新調できる。国立魔工技研の最新空調設備も導入し、食堂のメニューだって増える。ついでに俺達教師の賞与も出る」


「最後は生徒のメリットではありませんが」


「教師の懐が温まれば生徒への対応も少しは優しくなる、かもしれん」


<嘘つけぃ>


 リザは俺の心からの声に、堪えきれず軽く吹き出した。


「期待しています、先生」


「そりゃこっちのセリフだ」


 ロア先生はやれやれと言った表情でリザに激励する。


「期待しているのは俺だけじゃない。多数の来賓を受け入れられるよう、あのクルセイド旧城広場を借り受けた程の大イベントだ。少々指導にも力が入るが、励めよガードナー女史」


 ……クルセイド旧城広場、だと?


<リザ、今年の対抗戦は何月何日か聞いてくれないか>


 リザは素直にそのままロア先生に質問した。


「先生、対抗戦は何月何日に開催されますか?」


「7月4日だ。もう残り3ヶ月を切っている。早々に準備を進めないとな」


 俺はリザと出会う前の過去を回想する。


『――7月4日、クルセイド旧城広場で手配した――』


 リザの父親、レオン・ガードナー当主が闇商人と取引した際に交わした言葉を思い出した。

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