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02<ガードナー家>

 真っ暗闇の中、声が聞こえる。


「ベイスの魔剣は最高級品だよ。僕の目に狂いは無かった。10年は保ちそうだ。ついでに作ったもう一つは……まあそこそこかな。君にあげるよ」


「宜しいのですか?」


「ベイスのと違って、寿命はせいぜい1年くらいだよ? 扱いに慣れた頃には刀身も魔力回路もボロボロさ。このレベルの魔剣はいつでも作れるし、興味無いね。適当に売り払えばいいんじゃないかな」


「ありがたき幸せ。ではそのように……」



 ……。



「ガードナー家の次女は適合する魔法杖や魔剣が無く難儀しているらしい。魔法系学校に入れなければ不適合者として処刑もあり得ると」


「当主は娘に適合できる魔剣であれば大枚をはたくとのこと。足下見てふっかけてやりましょう」


「いや、魔剣学園の入学試験申請まであとわずかしかない。交渉や調査には時間を掛けられんぞ。とにかく急げ!」



 …………。



 兄や妹の情報は入ってこない。

 妹は、ティナは兄貴のもとへたどり着いただろうか。


 会話を聞いている限り彼らはただの賊では無い。この計画性、闇で暗躍している何らかの大きな組織だ。一度捕まれば決して逃げ出すことは叶わないだろう。


 せめて、せめてお前達だけは無事でいて欲しい……。


――――


 再び光を目にしたのは数日後だった。


 どうやらここは貴族家の応接室のようだ。

 二人の男が机に横たわる魔剣を挟んで会話している。


 この魔剣が俺だ。

 体は魔剣だが、目が見える。俺は周囲を視認する機能を持ち合わせているようだ。


 一人は見覚えのある顔だ。上級貴族ガードナー家当主、レオン・ガードナー。皇国の祭典で見たことがある。

 あのとき見た社交服姿では無くもっと簡素な普段着を纏っているが、どれも高級品であるのが見て取れる。

 レオン当主は、俺を鞘から取り出した。


「素晴らしい!」


 レオン当主の歓喜の声を聞き、もう一人の男も満面の笑みを見せる。

 黒いローブを身に纏う、いかにも怪しげな男性だ。所々欠けた歯、やせ細った手指。レオン当主とは対照的で、有体に言ってとても貴族とは思えない風貌をしている。

 おそらく俺を運んできた人間、闇商人か何かだろう。


「ご用意できる魔剣の中で最高のものをご用意させていただきました」


 嘘つけ、前にそこそこって言われたぞ。俺は兄貴と違って根に持つタイプだ。


「なるほど、見るだけで分かる。凡百の魔剣とはまるで違う出来だ。これほどの品であればきっと娘にも適合するだろう。報酬にも色を付けようじゃないか」


「ありがたきお言葉でございます。しかしながら、これはあくまで運送費として頂きましょう。対価は、わかっていますね?」


「……。7月4日、クルセイド旧城広場で手配した」


「ああ、なんと素晴らしい。貴方様にも天使の加護があることでしょう……」


 黒ローブの男は多額の金銭を取引し、消えるように去って行った。


 俺はガードナー家の次女、リザ・ガードナーという少女の部屋に運ばれた。


――――


「父上。私は受け取らないと言ったはずです」


リザの部屋では、当主とリザが押し問答をしていた。


「そんなこと言わず、試しに使ってみてくれ。お前もきっと気に入るはずだ」


「私が魔剣や魔法杖を扱えないのは、全て私の実力不足が所以です」


「実力不足なものか! お前の魔力保有量は既に宮廷魔術師の50人分に匹敵し、今でも成長し続けている。暗殺対象となるのを防ぐため伏せている事実だが、知れば五月蠅い外野の凡人共もすぐに黙るだろうさ」


「過大な魔力保有量も扱いこなせなければただの産業廃棄物。処理に困る危険な不発弾に過ぎません。だからこそ【不適合者】という危険人物に認定され、被害を起こす前に事前に処理されるのでしょう?」


「不適合者が社会にとっての危険因子であることは確かな事実だ。だがリザ、お前はそうならないさ。私もロゼも、お前には期待しているのだ」


リザは自嘲気味に小さく笑った。


「姉上が気にしているのは家の名が穢れることだけだと思いますが」


「……ロゼは将来家督を継ぐ者だ。強い言葉でお前に当たることもあるだろうが、相応の責任を感じている故なのだ」


「責任というのであれば、私も感じています。……昨今増加している魔獣災害は、核となる被害者の魔力保有量が高いほど周囲への被害も増すと聞きます。私が標的となれば、未曾有の大災害を引き起こす恐れもあります」


「リザ、今度は違う。今度こそは――――」


「その言葉は、もう何度も聞きました」


「リザ……」


 かけられた言葉にも反応せずリザはうつむき、それ以上何も話さなくなった。


「……まだ時間はある。今後の人生も含めてゆっくりと考えなさい」


 レオン当主は落胆しつつ部屋を後にした。


――――


「っっこんな魔剣!!」


 俺はリザにぶん投げられ2回ほど壁にバウンドしてから、再びリザの足下に転がり戻ってきた。

 剣だから全然痛くないが、女の子にぞんざいに扱われるとなかなか精神に来るものがある。正直ちょっと泣きそうだ。


 リザはもう一度俺を拾い上げ、今度は思い切り暖炉に叩きつけた。


 鈍い衝撃音。暖炉の石が崩れるが、俺は刃こぼれ一つしていない。


「無駄に頑丈な魔剣ですね……。わかりました。最終手段です」


 俺は床に突き刺され、刃の側面に手のひらを押し当てられる。


「不適合者と言われるのも、あくまで指向性に難があるだけ。爆撃魔法を零距離で撃ちこんで消し炭にします」


 リザの周囲に多量の魔力が漂う。

 

 待って。ちょっと待ってくれ。

 勘弁してくれ。


「【フルバースト】!!」


凄まじい轟音とともにリザの部屋は爆炎に包まれた――――。


「……死ぬかと思った」


 邸内に付与された魔力障壁で壁や柱、窓は守られているので無傷。だが内装はボロボロだ。壁掛けは傾き本棚が崩れ、部屋には多数の本や調度品が散乱していた。


 煤と煙で前が見えないが、どうやら俺は死んでないようだ。現に五体満足でここにいる。


 ……え?

 五体満足で?


 俺はさっきまで魔剣だったはずだ。

 今の俺には腕があり、足があった。そして今、声が出せた。


 そうか、そういうことか!?

 一定以上のダメージを受けると元の姿に戻れる、そういう仕組みだったんだな!?


 俺は喜び、久し振りの自分の体の感触を確かめた。

 耳がある!口がある!長い髪がある!胸がある!


 ……何で胸があるんだ?


 白煙が晴れ、リザは俺の姿を目にして驚愕した。


「あなたは何者ですか!?どうして私と同じ姿に……!!」


 俺は目の前の少女、リザと瓜二つの姿に変化していた。



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