17<合否通知>
ガードナー家の治癒士に診て貰い、火傷も綺麗に癒えた2週間後。
春の訪れと共にリザの元に一通の封筒が届いた。
魔剣学園の公式文書、合否通知書だ。
執事から封筒を受け取ったリザは、俺と共に自分の部屋の中で開封することにした。
<良かったな! 開けなくても分かる、合格だ。薄いペラペラの封筒じゃないからな>
合格の場合は入学手続書等の準備書類が多数入っている。不合格の場合は通知一枚のみ。この封筒の分厚い見た目は間違いなく合格だ。
「ありがとうございます。あとは――特待クラスかどうか、ですね」
<そうだな>
不安材料はある。
特に最終戦の決着の仕方。魔術の暴発を装って先生の良心につけ込むという、騎士道精神の欠片も無いような不意打ちで奪った勝利だ。先に武器を手放したのはこちらという所も引っかかる。
あれが試験官や審査員の目にどう映ったのか。大きな減点対象となった可能性もある。
リザは封筒に手を当てて本人確認の魔術を解き、封を切って恐る恐る中身を見た。
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-『合格通知』-
受験番号32番 リザ・ガードナー
貴殿は本学院の入学試験の結果、特に優秀な成績を収めたため特待クラスの合格を通知致します。
採点結果:1120/1000点(1位/32人中)
魔剣学園校長 ナディア・ロッキンガムより
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<やった!>
「やりました!」
特待クラス合格だ、それも文句なしの首席合格!
俺達は手放しで喜んだ。
「ありがとうございます。貴方がいたからこそ掴んだ結果。感謝してもしきれません」
<俺だってリザの力を貸してもらっただけ、大したことしてないさ。それに点数だって俺が受験したときより遥かに上で――――え?>
「……変ですね、点数が」
<変だな>
1000点満点のテストで、何だ1120点って。まさか計算ミスか。
<魔剣学園の教師は足し算も出来ないのか。頭まで魔剣で出来てるんじゃないか?>
「頭から足先まで魔剣の貴方がそれ言うんですか……?」
そのとき部屋の外からノックの音がした。リザの部屋の外には封筒を手渡した執事が待機していた。
「お嬢様、封筒の中身をご覧になられましたか?」
「ええ、合格です」
リザは合格通知書を見せる。
「存じております。先に『配達員』に伺いましたので」
執事は微笑んだ。
ええ? どういうことだ?
配達員が中身を勝手に見るなんて、とんでもないことなのでは?
いやそもそも魔術による封はそう簡単に開けられるものではない。いったいどうやって中身を知ったんだ?
「『配達員』は応接室で待っておられます。どうぞこちらへ」
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「よお、首席合格おめでとう! 第一戦闘試験では世話になったなぁ! はーっはっはっはっ!!」
応接室で待ち構えていたのはロア先生だった。隣の部屋まで響きそうな大声でリザを歓迎する。
大笑いの時、リザは思わず両耳を軽くふさいだ。
「お元気そうで何よりです。こちらこそ、その節はご指導を賜りありがとうございました。わざわざ受験生皆に出向いて頂いているのですか?」
「まさか、ガードナー女史だけさ。出向いた理由は2つある。1つは点数の説明だ」
ちょうど気になっていた所だ。
実はただの表記ミスで実際は特待クラスに入れませんでした、なんて言われたらたまったもんじゃない。
「点数配分はこうだ」
ロア先生は配分表をリザに見せた。
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筆記試験:400/400点
適性試験:120/200点
実技試験:400/400点
第一実技特別評価:100点
第二実技特別評価:100点
合計:1120点
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筆記満点! 流石リザだ。
実技試験も減点要素が無くて良かった。
ただ特別評価ってのは分からない。聞いたことない項目だ。
「普通はあまり表に出さない資料なんだがな」
と前置きしてから、ロア先生が内容の説明を始めた。
「目に付くのは特別評価だろう。これは本来、実技試験で優秀な成績を収めたが他の要素に足を引っ張られて落ちそうな受験生に対する、敗者復活みたいな評価制度だ。2回の実技試験に対し、それぞれ最大100点をボーナスとして与えることができる。杓子定規な採点で才気溢れる若者の将来の芽を摘むのは学園、引いてはこの国の損失だ。筆記や適性で多少劣っていても目を瞑ろうってわけだな。だが今回はそれと違う意味合いでこの評価システムを使った」
筆記で満点だったリザには必要ない評価処置だからな。
「例年に比べて実技試験で優秀な成績だった受験生が多くてな、各200点の範囲では差を付けるのが難しかったんだ。そこで、最優秀成績だったガードナー女史に最高点を取ってもらうことにした。試験において大切なのは適正な評価をすることと1000点満点を守ること、どっちだ? と問われれば迷う余地は無かったさ」
そういう経緯があったのか。
「ご説明ありがとうございます。ただ、頂いた評価に疑問を持つのは些か差し出がましいのですが……第二戦闘試験の勝利方法は200点に値するものだったのでしょうか?」
ロア先生は手をひらひら振って笑い飛ばす。
「当たり前だ、勝ちは勝ち! 特にギルバートは軍人上がり、友人はおろか親や子供を人質に取られたって戦わなきゃいけない立場だった人間だ。そんなことで減点する方が恥ずかしいわい」
戦場では死にものぐるいの兵士や魔物を相手取ることになる。不意打ちなど日常茶飯事のことだっただろう。
「ま、今は教職だから受験生・生徒の安全を最優先するあの行動がベストだ。俺だってそうする。うーむ、強いて言うなら相手を目の届く範囲に置けない状況を作られたこと自体が敗因だな」
ロア先生は顎に手を当てて戦闘試験の分析をする。もしかしてリザとの次の戦闘に向けて対策を考えているのか。末恐ろしい奴。
「よって何も気にせず堂々と学園に来るが良い。さて、あとは俺が来たもう1つの理由だが――」
ロア先生はリザをまじまじと見つめる。
「入学式の首席の挨拶について、ですか?」
「いや、そうじゃない。ガードナー女史ほど聡明であれば同封書類だけで理解できるだろう。実は、ここには旧知の仲である友人がいてな」
旧知の仲? 友人?
先生と友人になった覚えは無いが、まさか。
俺の正体に気づいて――――
そのとき、応接室の扉が勢い良く開いた。
「ロア!? 手紙も無しに急に来るなんて、相変わらずな奴だな!」
リザの父親でありガードナー家当主、レオン・ガードナーが入ってきた。
「久し振りだなレオン! 手紙はあるぞ。手紙と一緒に来た」
ロア先生とレオン当主は共に笑い出した。
旧知の仲というのはリザの父親のことだったのか。随分と親しげだ。
全く、いつもヒヤヒヤさせられる奴だ。
先生と当主の下らない談話を聞き流しながら、俺とリザはこれから始まるであろう騒がしい学園生活に思いを馳せた。




