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16<入学試験編⑦>

 変化した俺の姿を見て、ギルバート先生は初めて声を漏らした。


「ここで『付与魔術エンチャント』か。面白い」


<……?>


 一体何を言っているんだ?

 辺りが火の海で見えにくいが、試験官や審判、受験生達が俺に向ける目は奇異よりも感嘆に近い。少しばかり想定外の反応だ。

 そして俺は、自分の周囲で起こっている事態にようやく気づいた。


<リザ! 一体これは!?>


 俺の周囲には炎が循環していた。剣先から持ち手までが、炎ですっぽり覆われていたのだ。


 リザは俺の言葉に返答しない。冷や汗を垂らしながら必死で魔力コントロールに集中している。

 それもそのはず。

 リザが今やってるのは付与魔術ではない。付与魔術『もどき』の曲芸だ。

 こんなことまで出来るようになっていたなんて。いや、むしろ本来の実力が発揮されたということか。


 付与魔術を使って魔剣に火属性を付与させれば、魔剣の攻撃に火属性を追加できる。

 付与が非常に強力であれば、魔剣自体が炎を纏うまでになり攻撃力も上昇する。さらにこの周りが火の海である環境。火属性の攻撃にはバフがかかる。


 ギルバート先生はこの作用で魔剣を強化し、攻撃を受けきったと思っている。


 だが魔剣に付与魔術を行う場合、魔剣の魔力回路は使用できない。つまりリザの魔力回路のみで魔術を行使する必要がある。

 無論不可能だ。リザ単体で魔術を行使すること自体、未だ難しい。強力な属性付与など出来るはずもない。


 実態はただの目くらまし。変化した魔剣を炎で覆い隠蔽しているだけに過ぎない。

 炎を噴出しては周囲を循環させ、消滅した端から炎を補充していく。ただ魔力を著しく消耗するだけのハリボテを作っている。さらに炎が俺に当たってしまい変化することを防ぐよう、細心の注意を払いながら炎の移動をコントロールまでしている。手元まで炎で覆うため、リザの手首に痛々しい火傷が広がっていく。

 俺の魔剣特性を露見させないため、ここまでのことを……。

 早急に元の魔剣の姿に戻らなねばならない。


 魔剣の姿に戻る手っ取り早い方法は、自傷行為。だが今はギルバート先生の剣の姿、そもそも動くことが出来ない。まずは行動できる形態、つまりリザの姿を経由する必要がある。もちろん普通ならアウトだ。

 だけど、今のリザならいけるかも知れない。 


<すまない、リザ。……作戦がある。今から言う通りに動けるか?>


 リザはうなずき、真っ直ぐに試験官を見据えた。


 リザは今まで以上に魔力を活性化させ、炎の噴出量を一気に増加させた。リザ自身の体を包み込むほどだ。

 

「あああああっ!!」


 リザは悲鳴と共に炎の渦に飲み込まれ、姿形が見えなくなった。


「!?」


 魔力の暴発――!?

 燃え上がるリザを見たギルバート先生は焦燥し、魔剣を捨ててリザのいた炎の渦に全速力で飛び込んだ。

 先生の目に、一瞬リザの『幻影』が映る。『幻影』はさらに魔力を行使し、身を焼いた。

 その体を抱きかかえようとした瞬間――そこにはリザの魔剣が転がった。

 瞬間、炎は晴れた。その場にリザの姿はない。


「忘れ物ですよ、先生」


 リザは先生の首元に、ギルバート先生の所持魔剣を突きつけた。

 辺りの火の海を利用して炎の影に隠れ移り、リザはギルバート先生の背後に回り込んでいた。さらに先生の魔剣を回収して背後に迫ったのだ。先生が剣を落とさなければ零距離火炎魔法しかなかったが、運が良かった。


 ギルバート先生の判断は理解できる。魔力が拡散した時点で付与魔術としては対象不在の異常事態、コントロールの喪失。そのまますぐに魔力暴発を引き起こす。

 しかし、実態は火炎の移動操作をしているだけ。暴発を装いつつもしっかり魔力操作出来ている状態だったのだ。


「【幻影魔術】までも……。とんだ騎士道精神だな。参った」


 ギルバート先生は口元を緩めた。先生の言葉からは怒りや悔しさの感情は微塵も感じらない。

 深い安堵感に包まれた様子だった。


 火の壁で遮蔽していたから、少なくとも生徒には姿を見られなかっただろう。

 ギルバート先生が俺の特性に気づいたかどうかは分からないが、火属性系統魔術には蜃気楼のように虚像を作り出す幻影魔術も含まれる。状況的にそちらを疑ってくれたようだ。

 

 それはそうと、途中で魔剣を手放したのは実際こちらの方が先だ。

 ギルバート先生が「参った」と言ってくれたからこちらの勝ちではあると思うが、どんな評価を受けるかは未知数だな……。

 

――――


 試験の全行程が終了した。

 俺の魔剣特性は公にならず、一応は戦闘試験で2回とも勝利するという目標も達成出来た。


 だが代償として、リザは手にひどい火傷を負った。

 手当をするため、すぐ校内の医務室に向かい治癒士に応急処置を施してもらった。


 リザも俺も、せめてティナには別れの挨拶をしなければと思ったが、早々にガードナー家専属の治癒士に見て欲しいと従者達が心配したこともあり、足早に帰路に着くことになった。


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