15<入学試験編⑥>
第二実技試験が始まった。
ロア先生は負傷のため交代だ。
本人は全然いけると息巻いていたが、見た目が傷だらけのスプラッタなのでドクターストップがかかってしまった。
代わりに声がかかった試験官が枠内に立つ。
その名はギルバート・フィッツジェラルド。数多くいる教師陣でも戦闘能力は上位、ロア先生と同じくらいだ。
しかし見た目は対照的。ロア先生を言い表すならゴリラ、ギルバート先生は鶴と言ったところか。細身の長身で吹けば倒れそうな外見だが、実際に対峙すると恐ろしいほどの圧がある。
それもそのはず。元々は王国の直属軍に所属し、准将まで上り詰めた人物なのだ。
戦闘面でも前線でバリバリの活躍をしており、王国最強の称号すら手にしていた剣聖である。
14年前、魔獣との戦いで重傷を負うまでは。
魔獣の爪痕はギルバートの魔力回路にまで深い傷を与え、それ以降魔力の操作に難を抱えるようになった。いわば後天的な【不適合者】だ。
だが不適合者とはいえ、豊富な戦闘経験・数々の華々しい戦績を抱える人物を無下に扱うなど許されるはずもない。
功労者が不当な評価を受ければ王国軍の今後の士気にも関わるし、亡命されて機密情報が他国へ流れようものなら大損害だ。
そういう訳で、豊富な戦闘経験を次の世代へ引き継ぐという名目で破格の待遇で魔剣学園の教師として招かれた。
ちなみにギルバート先生を不適合者と知っている人はほとんどいない。まず疑う人がいないのだ。
強いから。
これでも全盛期に比べれば格段に弱くなってしまったらしいが、一体どれほどの強さだったのだろうかと思うと戦慄してしまう。
ちなみに、この経緯は俺が不適合者の認定をされたときロア先生に教えてもらった。『前例はある。ひたすら頑張って努力して戻ってこい』と。
見た目通り熱い奴だ。
「受験番号01、マック・スプリングフィールド! 前へ!」
審判に呼ばれたマックは枠内に入り、ギルバート先生と対峙した。
ロア先生と戦う前の自信ありげな表情は見る影も無く、緊張感に満ちた様子だ。
俺の指摘を受けての心情の変化もあるだろうが、ギルバート先生に気圧されているというのが9割方だろう。
「では……始め!!」
――――
「そこまで! 31番、試験終了!」
妹のティナは開始8秒で場外まではじき飛ばされた。何とか体勢を保ち、地面に転がることなく無傷で戦闘を終えられた。
他の受験生? 全員秒殺だ。
初見のマックに至っては、俺が開けた校舎の壁の穴までぶっ飛ばされた。冥福を祈る。
他の受験生との戦闘を見て分かった。ギルバート先生は魔力の出力コントロールを安定化できない。
1の魔力を出すのか100の魔力を出すのかは撃ってみなければわからない、と言う性能だ。
ここぞというトドメの一撃で弱威力の攻撃になったり、様子見のジャブのつもりで放った一撃が必殺の威力になる。
これでは手加減しようがない。本気を出してはいけない試験官としては大問題だ。運が悪ければ受験生に死人が出る。
その手加減しようがない性能で、手加減出来ているのが滅茶苦茶凄い。
魔力の出力タイミングに合わせ、素の身体能力で無理矢理力の流れる方向を変えて威力を生かしたり殺したりしている。とんでもない神業だ。
正直言って、この人をぶっ飛ばすのは絵空事に見える。
もともとの剣術が剣聖の域に達しているため、低出力だろうと何だろうと一撃一撃が普通に脅威だ。しかもここまで短時間の戦闘が続いている。連戦によるスタミナ消費も無いに等しいだろう。
さあ、この強敵をどう攻略するか?
「受験番号32、リザ・ガードナー! 前へ!」
俺を装備したリザは、ゆっくりと枠内へ入った。
<何やっても俺が合わせてやる。全力でいくぞ>
リザは小さく頷いた。
ギルバート先生もこちらを見据え集中している。
もしロア先生を倒したときと同じ事をしても対応してくるだろう。
もちろん同じ手は使わないし、使えない。理由は2つ。
1つ目、俺とリザの得意分野は違う。俺の得意は身体強化だが、リザの得意は異なる。同じことをしても同じ出力は得られないだろう。リザはリザの得意で戦うべきだ。
そして2つ目。
この試験において俺達は大きなハンデを抱えている。
魔剣、つまり俺が決してダメージを受けてはいけないこと。
俺の魔剣特性は決して表に出てはいけないのだ。
魔力障壁で強化しているため一定の衝撃に耐えられるとはいえ、近接戦闘はリスクが高いと言わざるを得ない。
では、どう戦うか。
無言で向き合うリザとギルバート先生の間に立ち、審判は声を張り上げた。
「では……始めっ!!」
合図と共にリザは俺を前方に掲げ、爆炎魔法を詠唱する。
「【フォーカスバースト】!!」
剣先から放たれた爆炎が火柱となり、ギルバート先生へ真っ直ぐ向かった。
俺と出会う以前のリザは射撃系魔法を放っても方向が定まらず、180度旋回して自分の顔にぶつかってくるぐらい指向性に難があった。しかし、俺という魔剣と回路接続することで俺の『扱い易い』性能が上乗せされ、指向性の面が改善できる。リザは元々魔術知識に長けていたのもあり、今はむしろ得意分野だ。
先生は向かってきた火柱を最小限の動きで真横に避けた。
すかさずリザは魔術を再起動し、複数の火柱が放たれる。
先生を取り囲む炎は次第に多くなり、徐々に回避行動を制限していく。
魔剣は魔法杖と剣を兼ねるから魔剣だ。当然魔法での攻撃も正攻法の一つ。
近接戦闘で勝ち目がないなら、中距離から一方的に攻撃して押し切る。
ギルバート先生が取るべき手段は3つ。
①:対抗して同じく射撃系魔術を使う。
②:距離を詰めて近接戦闘に持ち込む。
③:耐え切って魔力切れを狙う。
①について:魔力の出力が安定しないなら射撃系魔術は使用できないだろう。体から離れてしまえば身体能力を生かしたコントロールも無意味。高威力側に振れればそのまま受験生を殺しかねない。
②について:身体強化魔術を用いた高速移動で距離を詰めるのがセオリーだ。だがギルバート先生の場合、出力オーバーで自ら枠外へ飛び出す恐れがある。
となれば解答は③。消去法的に今のまま耐え切って魔力切れを狙うしかない。
だが、リザの魔力保有量なら魔力切れを起こす前に相手を押し切れる。
試験場の枠内は既に火の海だ。もう何処にも逃げ場はない。
――潮時だ。流石のギルバート先生もギブアップするだろう。
そう思った矢先、ギルバート先生が猛スピードでこちらに突っ込んで来た。
出力オーバーで飛び出すのが怖くないのか!?
……いや、違う!? 嘘だろ!?
あいつ魔術を使っていない!
身体能力だけで火の海をかいくぐり、この距離を一瞬で詰めてきやがった!!
あの細身でどこにそんな膂力があるというのか。並外れた能力に、リザも俺も驚愕を隠せない。
リザは思わず魔剣で防御体勢をとり、ギルバート先生は剣を振り抜く。
ギルバート先生の魔剣と、リザの魔剣である俺が衝突した。
俺を纏う魔力障壁が破られ、激しい火花が散り金属音が鳴り響く。
<やられた!>
衝撃によって俺の姿は変化し、ギルバート先生の魔剣の姿になってしまった。
俺の魔剣性能が公に露呈することは、リザに被害を及ぼしかねない。
『相手の魔剣をコピーする能力』と思われるだけならまだ良い。
だが、もしも『無機物だけでなく、人間の姿にも変化できる』特性を闇組織に推察されてしまったら――
情報の漏洩を防ぐため、リザを抹殺しにかかるかもしれない……。
絶体絶命。俺達は窮地に立たされた。




