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13<入学試験編④>

 俺の変化時間はあと5分。

 受験生は残り2人。リザ(俺)と、もう1人は―――


「受験番号31、ティナ・フロックハート! 前へ!」


 妹のティナだ。


「では、始め!」


 審判の合図と共に、ティナは走り出した。

 速度を保ちながら小刻みに進路変更し、ロア先生を素早い動きで翻弄していく。上下左右からの立体的な動作に付いていくため、ロア先生は早々に両足を地から離した。


「スピードに自信有りか。付き合ってやろう」


 先生は走りながらティナ同様の多角的な攻撃を繰り出してきた。2人は枠内を縦横無尽に駆けていく。


 ティナと同じ、いやわずかに上回るスピードで先生は戦っている。

 追い詰められそうになり、ティナがギアを1段上げて加速する。先生もすぐに1段上げて対応する。


 素晴らしい動体視力と反射神経、それに追い付く速度で行われる淀みない魔力操作。俺が受験生のとき、ここまでの動きが出来たか怪しいところだ。まさかティナがここまで動けるとは。


 ティナはギアを2段3段と上げていき、先生もそれに合わせていく。

 そしてついに、ティナは膝をついた。スタミナ切れだ。

 息切れしながら体を震わせ、歩くのもままならないほど消耗してしまっていた。


「そこまで! 31番、試験終了!」


 審判に肩を支えられながら、ティナは枠内へ退場した。珍しくロア先生も汗をかいている。


「良い運動になったぜ。今年の受験生はまあまあやるな。さて、第二試験の前にひと休憩するか」


 待て待てーい!

 俺を無視するんじゃない!


 当然ながら審判は、枠外へ出ようとするロア先生を慌てて止めにいった。


「え? ああ、すまんすまん! 次で最後だったな!」


 ロア先生は手を合わせ詫びながら枠内に戻ってきた。

 もしかして受験生相手とは言え、流石に31連戦はロア先生も疲れてきてるか?

 もしそうならラッキーだ。


「受験番号32、リザ・ガードナー! 前へ!」


 変化が解けるまで残り3分。やっと俺の番がきた。


――――


 俺とロア先生は一礼の後、お互いに魔剣を構える。


「では、かい…」

「待ってください」


 審判の手が振り下ろされる前に、俺は開始の合図を遮った。

 時間がないが、後々のことを考えるとこの宣言だけはやっておきたい。魔剣を構え、ロア先生を真っ直ぐ見据える。


「このリザ・ガードナー、持てる全力で以って戦います。宜しくお願い致します」


「ほう、騎士らしい宣誓だな。いいだろう、こちらも真剣勝負だ」


 ロア先生は先ほどにも増し、より隙の無い構えをとる。気迫からは疲れなど微塵も感じさせない。だがまだまだ油断と手加減がある。普段を見ているから分かるが、ロア先生は本来の力を出していない。

 ロア先生が本気になったら魔力圧だけで周囲に失神する者が出てくる。受験生レベル相手にそんなこと出来るわけが無い。


 それでいい。そうしてほしい。

 俺は言質を取りたかっただけ。当たり前だがロア先生とガチンコの真剣勝負なんて御免被りたい。

 

 審判が再び手を上げ、振り下ろす。


「では改めて……開始!」


 宣言通り全力で行く。

 リザの魔力保有量と俺の魔力回路操作、全部出し切った魔力強化を見せてやる。何が起こったのか分かる時間さえ与える気はない。

 開始0.1秒で俺は身体強化と魔剣の強化を施し、これからの行動に見合うだけの耐久力を得る。そして開始0.2秒で、俺は音速を越えてロア先生にまっすぐ突っ込む。

 先生も0.2秒で【受験生相手仕様の】身体強化・魔剣強化位はできている。しっかり魔剣を構え守りも固めている。

 だが俺の耐久強度、強化の『重さ』は受験生のレベルを遥かに超える。今のロア先生の強化では全然足りない。物質と物質が衝突したとき、弾き飛ばされるのは『軽い』方だ。


 ロア先生が構えた魔剣を、支給された魔剣【一文字】で切り払う。先生は為す術無く魔剣を吹き飛ばされ、さらにその衝撃で体は宙を舞った。


 それだけでは終わらない。


 ロア先生の体は200m先の校舎まで吹き飛ばされ、さらに校舎の壁を突き抜けた。

 先生の持っていた魔剣は空中で粉々に砕け、雪のように舞い散った。音速を超えて移動したため衝撃波が発生し、爆音が鳴り響く。おおよそ見立て通りの結果だ。

 入学試験中は授業が無いので校舎内に生徒はいない。校舎をマット代わりに使っても誰も傷つけることはないから問題ない。

 壁の弁償?

 受験生如きの攻撃を受けられない試験官が悪い。そっちにツケとけ。日頃のお返しが出来てちょうど良いってもんだ。


 この一瞬の出来事についてほとんどの受験生は理解が追い付かず、口をぽかんと開け放心状態になっていた。

 見えていたのはマックくらいだろうか。にやけた顔は面影もなく、恐怖に歪んだ表情をしていた。

 対照的にティナの顔には『すごいですリザさん!!!』と書かれているような、キラキラした笑顔を見せていた。流石俺のかわいい妹だ。

 審判や審査員達は全ての事象を認識できていたのか、各々顔を見合わせ驚愕し、狼狽している。


「決着、で宜しいでしょうか?」


 俺が審判に確認すると、うろたえながらも勝敗を宣言した。


「あ、ああ。勝者、リザ・ガードナー!」


 どよめく受験生と審査員達の中で、俺は勝利の喜びを噛みしめ小さくガッツポーズした。

 ……そして、その数秒後。


「リザ・ガードナアァァァッ!! まだぁ、勝負はぁ! 終わっていなあぁいっ!!」


 穴の空いた校舎から弾丸の様に飛び出したロア先生は、叫びながら俺の前に戻ってきた。

 ガラス片やらなにやらが刺さりまくり全身血だらけだが、急所はきっちり避けており動作には支障ないようだ。むしろさっきより元気かもしれない。

 相変らず頑丈な奴だ。こっちはもう時間が無いっていうのに。


「枠外に出れば負けです。勝敗は付きました、終わりですよ」

「実戦においてそんなルールはないっ!!」


 実戦じゃなくて試験だし。試験官がルールを守らなくてどうすんだよ。


 俺は呆れながらも、ロア先生は熱くなると止められないタイプだったなと思い出した。なだめるにはどうするか。


「私が魔剣学園に入学すれば、いつでも勝負できるようになるのでは?」


 ロア先生は少し考え込むような素振りを見せる。


「……うむ、その通りだ。その通りだとも! はーっはっはっはっ!!」


 俺の言葉でロア先生は冷静さを取り戻し、今度は大笑いした。


「再び学園で会おう、リザ・ガードナー。お前に『指導』できるのを、楽しみにしているぞ」


 ロア先生はそのまま去って行き、崩れた校舎の壁を他の教師と共に片付け始めた。

 厄介な奴に目を付けられてしまった。今更だが、やっぱり目立たない方が正解だったかな……。

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