12<入学試験編③>
実技試験開始直前。
リザ本人は女子更衣室のロッカーに隠れて待機。俺は魔術を受けリザに変化する。
リザが心配そうな目で見るので、俺は胸を張って言った。
「大丈夫だって。俺の変化はあの高レベルの魔獣ですら騙せた。バレやしないさ」
「それを心配しているのではありません」
リザは俺に忠告する。
「いいですか? これから貴方はリザ・ガードナーです。頼みますから、振る舞いも口調も淑女を心がけて下さいね?」
「わかってるさ。俺に任せとけ」
「口調!!」
「承知致しました。私にお任せを」
俺は淑女らしくスカートを軽くつまむ素振りをしながら頭を下げた。
リザは呆れたようにため息をつく。
「出来るなら最初からしてください。ご武運を」
俺は返事代わりにウインクして見せた後、試験会場である第一運動場へ向かって駆けだした。
なんとか開始時刻ジャストで試験会場に滑り込み、何食わぬ顔で待機所のベンチに座る。
受験生32名全員が出揃った。
これから1人ずつ、定められた受験番号順で試験を受ける。
リザの受験番号は32番、つまり最後だ。おそらく願書の提出順だろうな。
番号を呼ばれるまで、受験生はこのまま運動場脇のベンチで待機する。
運動場の中央に白線で直径20mの円形の枠を描き、その枠内で戦闘試験を行う。
枠から出れば負けだ。その他、武器を手放したり戦闘不能に追い込まれてもと負けとなる。
対戦相手の試験官はロア・メイクピース。
俺のよく知っている、ヒゲ面でいかつい見た目のおっさん教師だ。
生活指導の担当で、悪友と一緒にバカやったとき何度もコイツに絞られた。
数多くいる魔剣学園の優秀な教師の中でも、戦闘技術は上位に入る。
過去、何度か補習を受けたくなくて全力で逃げ回ったことがあったが毎回コイツに捕まえられた。
日頃のお返しのため3人がかりの不意打ちで一発入れようとした時、軽くあしらわれて全員が倍ぐらいの威力で反撃を喰らった。魔剣学園の生徒を指導するだけの、圧倒的な実力があると言うことだ。
いかにも怖そうな雰囲気を出しているロア先生のせいで、これから戦う受験生はすっかり萎縮している。
そんな中でただ一人、自信ありげな受験生がいた。
「受験番号1番、マック・スプリングフィールド! 前へ!」
審判に呼ばれた名前は、事前にリザから聞いたことのあるものだった。今年の受験生の中でも最も特待クラスに入る可能性が高い人物、マック・スプリングフィールド。
高水準の魔力適性を持ち、魔力保有量も多い。身体能力も高く頭も良い。ついでに無駄に顔も良い。
相当なスペックを持ち弱点らしい弱点もない彼は、試験において最大の壁となり得る相手だ。
さらに彼は、リザと因縁のある人物でもある。
リザが【不適合者】と認定されるまで、マックはリザの婚約者だったのだ。
それまで良好な関係を保っていたのに不適合者と認定されるなり一方的に婚約破棄され、ひどい言葉で罵られたとのこと。
俺も同じ不適合者として似たような心当たりがあるので、リザには同情を禁じ得ない。
そのマックがロア先生に物怖じせず、笑みすらこぼしながら戦闘試験の舞台に立った。戦闘前にロア先生はマックに声をかける。
「自信がある顔をしているな」
マックは堂々と自負を語る。
「もちろんですよ。万が一僕が魔剣学園に落ちるようなことになれば、この場の全員が落ちると言うことですから」
「いいだろう。入学前に魔剣学園のレベルを教えておいてやる。手加減するからかかってこい」
開始の合図がなされ、第一戦闘試験が始まった。
マックの戦闘技術は本物だった。ロア先生相手に何度も飛びかかり、10秒もしないうちに何十もの斬撃を正面から叩き込む。
無論ロア先生は攻撃を全て見切り対応する。そして隙をつきマックへ反撃する。
マックは反応速度も良く、この反撃を素早く察知し避ける。
お互い決め手を欠いたまま、正面戦闘のみで開始から1分を経過した。
初期位置からほとんど動いていなかったロア先生は、ある程度マックの実力を認めたのか移動しながらの攻撃を繰り出すようになった。
素早い動きでマックの背後に回り、死角から攻撃を仕掛ける。
マックはこの背後の攻撃にも何度か対応し、斬撃を避けつつ距離を取ろうとする。だがロア先生のスピードはどんどん上がっていく。
背後に回られる頻度も増え、既にマックは防戦一方になっていた。
そのまま劣勢が続き、最終的に手持ちの魔剣を叩き落とされマックは敗北した。
なんて奴だ!
戦闘試験に1人で2分40秒もかけやがった。迷惑すぎる!
俺は30分以内に試験を受けさせて貰わないと困るのだ。自傷により自発的に魔剣に戻ることは出来るが、リザに変わるのは不可能。時間が来れば俺は強制的に魔剣の姿に戻ってしまう。そうなれば試験どころの話じゃない。
例年通りの戦闘試験であれば、1人当たり20~30秒くらいしかかからない。交代時間含めても15分くらいで俺の番が回ってくると踏んでいたのに。
さらに追い打ちをかけるように、不快な表情をしている俺に対しマックは気持ち悪いドヤ顔を見せる。
これは絶対勘違いされている。
『逃がした魚は大きいと思ってるか? 惚れ直したか? だけど君のような【不適合者】じゃあ僕に釣り合わないんだ。お前が悪いんだぜ?』と顔に書かれている。
全然違う!
お前の牛歩戦術に迷惑してるっつってんだよ!
――――
続けて2番目、3番目の受験生が戦闘試験を受けていく。こちらは20秒~30秒と例年通りの試験時間だった。
よしよし、順調だ。このまま早く俺の番に来てくれよ……!
そう思っていた矢先。
「そんなレベルで魔剣学園に受験しに来たのかい? 君達は」
試験が終わり、外野で待機していたマックが今試験を受けた受験生2人を煽り始めた。
「この程度の試験で30秒そこらも耐えられないなんて、はっきり言って才能無いよ。次の試験を受ける前に帰った方が良いんじゃないかなぁ?」
2人の受験生は悔しそうに震えながら、マックから目線をそらす。マックの言葉に怒りながらも、返す言葉がないといった様子だ。
だがここに1人、怒っているし返す言葉もいる人間がいる。
俺だ。
時間を掛ける=優秀な成績、なんて考え方が以降の受験生に広がれば皆逃げ腰になり、間違いなく30分をオーバーする。
それは困る、非常に困る。
自分の試験時間だけでなく他人の試験時間まで引き延ばしにかかるなんて迷惑極まりない奴だ。ここでガツンと言ってやらねば。
「鏡に向かって言ったらどうですか? マック・スプリングフィールド」
俺がそう言うと、マックは冷たい視線を投げかけてきた。
やれやれめんどくさいな、というジェスチャーをしている。
「リザ、根拠のない反論は見苦しいぞ。僕はありのままの事実を述べたまでだ」
「どうやら事実の認識力に欠けるようですね。試験時間が長ければ優秀だとでも?」
「当然だ。他の人間に出来ないことが、僕には出来るという証明さ」
マックは勘違いをしている。自分が強いから戦闘時間が長引く、と。
ロア先生にとってはマックも他の受験生もどんぐりの背比べだ。本気になれば全員秒殺できる。
マックが最初に大口を叩いたので、面白がって時間を掛けて見てくれたというだけだ。
「遊ばれていることにすら気づかないなんて。試験官が気の毒ですね、皮肉も通じないのですから」
「なんだと?」
マックは不快感をあらわにした。
「最初の1分、試験官は初期位置からほとんど動いていませんでした。にも関わらず貴方の攻撃は全て避けられるか剣でいなされていました。そこで次に、貴方は試験官の背後を取ろうと試みましたね?」
「……まさか。君にそこまで見えていたのか?」
図星だったようだ。マックは焦りと驚きを隠せずにいた。
「試験官は貴方が背後に回る動きを試みたとき、その都度反撃を加えてそれを抑えていました。正面戦闘にこだわって戦っているように見えて、実は『逃げられなかった』というのが本音でしょう?」
「ぐ……!」
マックは言い返す言葉もないのか、唇を噛み沈黙した。
「これが防衛戦であれば、あなたは『強敵をそこに押しとどめた』という戦果を得られます。そこで試験官は想定を切り替え、途中から貴方の背後を取ることに終始するようになりました。背後を取られるということは、そのまま後衛の味方に攻撃を加えられるということです。つまりその時点で貴方の負けです。マック・スプリングフィールド、貴方は戦闘の後半で何回負けたでしょうか?」
「……っ!?」
マックは今まで気づいていなかった事実を認識し、焦燥をあらわにしていた。
ちなみに背後を取られた回数は後半の100秒で18回だ。防衛戦であれば後方部隊に18回攻撃を入れられている。話にならない。
「せっかく貴方に目をかけて、親切にご指導頂いた試験官に同情します。魔剣学園のレベルを肌身で感じて尚、今のような不遜な態度では『指導が無駄だった』と思われるでしょう。はっきり言って減点対象ですよ? 口を慎んだ方が御身のためかと」
マックはうつむき歯ぎしりする。悔しさとショックを隠せずにいるようだ。
俺は今度は2番3番の受験生に向かい、フォローする言葉をかけた。
「貴方達も気を落とすことはありませんよ。無理に試験時間を引き延ばそうとして本来の実力を出せない方がマイナスです。審査員の方々は非常に優秀です。例え1秒未満の攻防でも見逃すことはありません。貴方達の努力や実力はきちんと彼らに伝わっていますよ」
二人は安堵した表情をし、俺の言葉に感謝を述べた。
このやりとりを聞いていた他の受験生達も自分の実力を出すことに集中するようになり、例年通りの速度で試験が進行していくようになった。
それでも時間は既にギリギリだが、まあなんとかなるだろう。




