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01<惨劇のプロローグ>

 激しい雷雨に見舞われた深夜。

 中級貴族フロックハート家邸宅の三階寝室。

 次男坊のノエル・フロックハートは眠りから目覚めた。


(未観測の魔力反応が10以上……!? 侵入者だ!!)


 俺はベッドから飛び起き、愛刀の魔剣【五月雨】を掴んだ。


 邸宅の魔力障壁が破られる凄まじい衝撃音。

 同時に窓が割れ、黒ずくめのローブにフードを被った賊が2人飛び込んでくる。


 賊はどちらも魔剣を所持している。1人は大型の両手剣。体つきも大柄だ。もう1人はレイピア状の刺突剣。小柄な体格に合わせた軽量型の装備だ。


 両者共にフードの隙間からこちらを見据える刺すような視線は、獲物を狙う猛獣の如く明確な殺意を示している。


 小柄な1人は右に展開し様子を伺う。

 大柄なもう1人が正面から斬りかかってきた。


 殺意の籠もった数度の重く速い斬撃が放たれたが、俺はそれらを全て捌き切る。更にこちらも鋭く切り返して反撃する。

 賊はその反撃を紙一重で躱し、慌ててその場から飛び退き距離を取った。

 俺の戦闘技術が予想以上だったので面食らっているようだ。


「なかなかやるな。本当に不適合者か?」


「お前が大したことないだけだろ? 学園だったら落第生だな」


 俺はわかりやすく挑発したが、大柄な賊は乗ってこない。むしろ一層慎重になり、しっかりと守りを固める構えになった。

 大柄な賊とのやりとりの隙に小柄な賊が俺の背後に回って、2人で挟み撃つように陣形を作る。


 非常に厳しい状況だ。


 このまま2対1でヒット&アウェイを繰り返され、持久戦に持ち込まれたら厄介。

 ただでさえ前後の攻撃に対応するのは困難。気力体力が消耗すれば隙も出来る。

 このままでは確実に殺される。


 リスク覚悟で数を減らすしかない。


 俺は脚部の魔力回路を活性化させ、移動能力を爆発的に向上させる。

 そのまま全速力で駆け出し一気に距離を詰め、力任せの一撃で正面の1人を窓の外まで吹き飛ばした。

 だがその大振りの隙を突き、賊の1人が俺の背後から迫る。


 即座に体勢を変え回避を試みるが、その一撃は想定よりも速かった。

 レイピア状の魔剣が俺の背中を貫く。


 俺は激痛を堪えながら攻撃に転じ、背後の敵に斬りかかった。

 相手も即時撤退を狙っていたのか、素早く魔剣を引き抜いて退避されこちらの斬撃は空を切った。


 だが想定内だ。


 間髪入れず賊の脇腹に回し蹴りを入れ、思い切り吹き飛ばす。

 賊は壁際の本棚に勢い良く打ち付けられた。崩れた本に埋もれ、賊は動かなくなった。


 ひとまずこの場は助かった。


「……っぐうっ!」


 緊張の糸が切れるとともに、背中の傷の痛みが増す。

 元よりリスク覚悟の行動ではあったが、思っていたよりもダメージが大きい。

 痛みで意識が飛びそうだ。


 朦朧となりながらも、別室の父と母、そして妹の身を案じる。


(まだ敵は8人以上いる……ここで倒れるわけにはいかない)


 俺はよろめきながらも部屋を出た。


――――


 邸内の廊下には壮絶な光景が広がっていた。


 護衛の兵士、非戦闘員の執事やメイドがあちこちで血塗れで横たわっている。

 首や四肢が繋がっている者はほとんどいない。


 強いショックを受け、踏み出すべき俺の足は止まってしまっていた。


 そのとき、背後から優しい声が響く。


「ノエルお兄様!」


 俺の妹、ティナ・フロックハートが寝間着姿で現れた。かすり傷程度の怪我はあるが、五体満足で元気な姿を見せてくれた。


「ティナ!大丈夫か!?」


「ええ、私は大丈夫。それよりお兄様の方がひどいケガじゃない! 早く手当を!」


「俺のことは心配するな、お前は早くここから逃げろ」


「逃げろって、お兄様は残るつもり!?」


「ああ、父と母の様子が気になる。お前は魔剣学園にいる兄貴を、アルトを頼れ。兄貴はアホだが腕っぷしは本物だ、必ずお前を守ってくれる。……くっ!」


 再び傷口の痛みに襲われ、俺は歯を食いしばった。


「無茶よ! その傷で動くなんて!」


「……頼む。俺も両親の無事を確認したらすぐに追いかける。だから、頼む。逃げてくれ」


 俺の必死の懇願に何かを感じたのか、ティナは折れた。


「……学園で待ってるからね?」


「ああ、俺も必ず向かう。約束するよ」


 俺は窓から脱出する妹を見送り、階下の大広間へ向かった。



――――


 俺は2階の吹き抜けから階下を臨んだ。1階大広間の様子は更なる絶望を見せた。


 地に倒れ伏す、四肢が分離した母。傷口から多数の細かい刃が痛々しく飛び出しており、凄惨な死を遂げていた。


 そして敵と一騎打ちをしている満身創痍の父、ベイス・フロックハート。


 父はフロックハート家の現当主であり、魔剣の扱いも戦闘技術も超一流の熟練者だ。打ち合える剣士はそういない。


 そのはずなのに、既に父は多くの創傷を受けており苦悶の表情を浮かべる。

 明らかな劣勢であった。


 その上、敵の魔剣の効果なのか母親と同じように傷口から細かい鋼刃のトゲが析出しており満身創痍の父を更に苦しめていた。


 対照的に、黒いローブに身を包む敵は無傷。

 その上、見た目は幼い顔立ちの少年だ。俺より年下かもしれない。

 人形のような青白い顔色で中性的な印象だ。現実感を失わせる不思議な空気を漂わせている。


「そろそろ頃合いだね。君の妻は適合しない粗悪品だったけど、君は良い素材になりそうだよ」


 敵の挑発に怒り、父は深く踏み込んで切りかかった。


「貴様の思い通りにはさせんぞ、ロプトル!!」


 父の渾身の一撃を、ロプトルと呼ばれた少年は微笑みながら悠々と躱す。さらに、敵の魔剣は舞うように美しい軌跡を描き父にとどめの一撃を加えた。


 父の体は恐ろしいほどの早さで小さな刃で埋め尽くされていき、小さく圧縮される。そして、父が居た場所には一本の魔剣が転がった。


(切りつけた相手を、魔剣に変える魔剣!?)


 驚くべき効果を持つ魔剣だ。

 そんな魔剣が存在するなんて聞いたことが無い。想像したことすら無かった。

 何が目的かは分からないが、一刻も早く学園に戻りこの恐ろしい情報を皆に伝えなければ。


 しかし遅すぎた。


「気づかれていないと思ってた?」


 とんでもない速度だ。

 俺は瞬きすらしていないのに、父と戦っていた少年に背後を取られていた。


「君も素材になりそうだね。期待しているよ」


 声を上げる間もなく、少年の凶刃が俺を襲った。

 自分の体が別の物質へ変成していくのがわかる。


 輝く白い羽が舞い、まばゆい光に包まれる幻覚。

 これが死か。


 俺はノエル・フロックハートとしての人生を終え、魔剣となった。



初投稿になります。

本作を閲覧頂き誠にありがとうございます。

ご評価頂けると大変励みになります。

【2022.3.6 書式等を微修正】

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