これは夫の酷い裏切りに遭い世を儚んで断崖絶壁で身投げするような話。
「昼ドラならあり得る展開…そう、夫の裏切り──〝不倫〟だ。
しかも、長年連れ添った自分と同じ年齢の夫…学生時代の恋愛から結婚に発展した熱愛結婚。子供は三人。
もう若くはない、若くはないが…それは夫とも同じ。
なのに、なのに──
ー そ の 女 は 誰 ? ー
…明らかに自分よりも遥かに若い、若すぎる。
当が立ってしまった自分よりもーーその“不倫女”は若かった。自分よりも。
彼女は調べれ調べるほど嫌悪感と憎悪が拭えなかった。
だって、そうだろう。自分は…言われたのだ。
“結婚したら奥さんに毎日出迎えられたい”
と。
…それなのに。
現実はどうだ?
結婚して15年、されど15年。
子供も三人授かれたし、私は営業部のエースから退いて家庭に入った。
…──会社の後輩だと紹介した、その不倫女は21歳。私は貴方(夫)と同じ48歳。
いつしか私と子供達がいる家庭よりも、不倫相手の家に出掛ける事が増えた貴方(夫)。
ボイスレコーダーをこっそり仕込んで聞いた…あなたとその女の会話、嘲笑、愚痴。
…そう、そうなの。あなたがそのつもりなら私は──…、
そうして馬鹿で愚かな妻(私)はあなたを想い一人断崖絶壁の上から身投げした──。」
「…と言う話って良くあるじゃない?昼ドラには」
「そうだな」
黒髪ロングのポニーテール少女が自身の二回りも年上の大柄な男の胸に乗っている訳だが──道場にいるその他は気にしている様子もない。
「あれって…実際の所どうなの?私はちっとも分からないわ。普通不倫女共々夫も含め訴えるものじゃん。…なんで身を退いちゃうのかな?慰謝料と養育費をふんだくってやる!ぐらいの気概をみせるものだわ。」
「……。」
「……。」
黒髪ロングのポニーテール、キリッとしかめた黒目はまだまだ幼く健気で愛らしい…だが、言っている事がいろいろと辛辣である。
勧善懲悪もののドラマとか漫画とかアニメが好きな少女…そう、“少女”はこの道場の道場主の孫娘であり、未だ鍛え抜かれた胸元を座布団にされた大柄な男…彼はその道場主の少女の祖父から“師範代”の位を授かった実力者だ。因みに祖父の眼鏡に敵った稀有な人物──“婿殿”として認められた男の年齢は32歳。
齢16歳の少女、彼女が高校を卒業と同時に結婚式が控えている…随分と性急だが、『老い先短い儂の最期の頼みじゃ。儂に…儂に…ひ孫を抱かせてはくれんか?』と言われれば断る事も出来ない。
加えて、大柄の男は少女の事を悪からず想っている──とくれば。
暫し無言で見詰め合って──、
「ふ、ふふ…っ!」
「ぶ、ぶくくっ!な、何を言い出すかと思えば…そ、それこの前の俺の妹の話じゃないか…!あの性悪の!(笑)ww」
と、二人して抱き合ったままゴロゴロと畳の上を笑い転がっていく。
周囲は生温い…もとい、呆れたような雰囲気で二人を見ている。
「で、結局“私とその女どっちと別れるの?”のオバサンの質問に年若い不倫女共に元旦那さんを睨め付けていたらーー…」
「「どっちも選ばず逃げ出した!!www」」
少女と大柄な男は二人揃ってそう言ってまたゴロゴロと今度は反転して元の場所まで転がりながら笑っている。
厳のような大柄な体躯、精悍な顔立ち、笑った時に寄る目尻の皺が少女──“朱音”には殊更魅力的に写る…やはり、同年代の男子とは違うのだ。大人の余裕と言うのか…どっしり構えている姿は好感が持てる。
毒舌で辛辣な自分の物言いに反論ではなく、暴力で解決しようとする粗野な男の子など論外、論外だ。
ケラケラと笑って転がって…強めにバンバンと背中を叩かれるが、“ちゃんと”加減してくれているのが分かる…嬉しい。ふふ。
私はまたケラケラと笑ってその野太い喉仏に顔を擦り寄せそっとキスをした。…このくらい良いだろう、たぶん。いいの!
「…!?あ、朱音…ッ、」
「…なに?」
…私は顔を上げれないのだ、察してよ。
「…ここ、神聖な道場の真ん中なんだけど…!?///」
ーー明らかに動揺してる。ふふ、かわいいなあ~♡
遥かに年上の男の人なのに……なんだかかわいらしい人。
若干上擦ってて、抱き締める腕の筋肉が意味もなくピクピク動いてる…面白っ♪
クスクス。
「…あまり、誘惑しないでくれ。頼むから…爺さんに殺される」
「ふふふふ、大袈裟~。」
「いやいやいやいや」
「クスクス、フフフッ♪」
大柄な男──