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おしゃべりを預ける場所です。

東京都江東区住吉駅そばにある「トークバンク」という喫茶店。ここにはいつも悩めるお客さんが訪れママに話を聞いてもらっている。



千代まま編part1


 

今日も常連の千代ままが訪れ、辛い思いをママにぶつけていた。千代ままのひとり娘の千代は30歳なのだが、急性骨髄性白血病に侵され1月からずっと入院している。3月に臍帯血移植を受け1ヶ月も吐くわ下すわして4月にやっと生の食品以外の食べ物を食べる許可がでて、毎日千代の食べたい物を聞いては運んでいるのだが、相手は病人なもので


「やっぱり違うものが食べたい。」


と言われては、その食べたいものをさがしてまた持っていくのである。

千代の病院ではワンフロア全部白血病の患者が入院しており

その家族は自然に仲良くなり情報交換しているのだが、ある日千代が


「どうしても、カレーメシが食べたい。カレーメシなら食べれると思うの。」


と言うのでスーパー5軒も探し回り、やっと手に入れ、病院のキッチンにある電子レンジで作ってたところ、そのカレーの匂いがフロア中に広がり


「千代ちゃんまま、カレーメシどこで手に入る?うちの子が匂いで食べたいと言うから。」


などと聞かれまくり余分に買っておいたカレーメシを分けてあげたりした。


 病院へ行く前の1時間余りここでモーニングを食しながら、


「ねぇママ、今日はモスバーガーが食べたいって言うもんだから急いでだんなに買いに行ってもらったのよ。買いに走り回ったり、毎日病院に通うことがどんなに大変かなんて全然わかってないんだから。」


「まぁそう言わずに行ってあげなさいよ。みかんの缶詰めがあるから千代ちゃんに。みかんなら食べれるのよね?ままちゃんには荷物になっちゃってごめんなさいね。」


「ママいつもありがとう。コーヒー一杯の客で割あわないわね。」


「困った時はお互い様よ。千代ちゃん退院したら2人でいっぱい通ってきて。」


「ありがと、ママ。」


「さて、11時になったから病院に行ってきます。」


「気をつけて行ってね。」


千代ままは電車に慣れずパニックに悩んでいた。

住吉から半蔵門線で三越前まで行き、それから長い通路を通って銀座線に乗り換え虎ノ門にある病院に毎日通うのが苦痛だった。愚痴をこぼしながらも毎日通ってるのは1人娘の千代が可愛くて大切だからだろう。


 虎ノ門に着くと11時半になるのでちょうど金比羅さんに来ているワゴンのお弁当屋さんで千代の食べれそうなおかずを選んで買って12時に面会OKになるので病院にむかう。飲みものも買わないといけないな…と病院の入口にある自販機でポカリを3本買う。


千代ままが病室に入ると千代は起きて待っているので


「なんで来るのわかるの?」


と聞くと


「足音でねー。わかるんだよ。あーー!!おかあちゃんがきたーってね。今日も荷物がいっぱいだね何があるの?」


「足音でわかるの?」


「あーー!!みかんの缶詰!!あー!!モスだ!!おとうちゃん行ってくれたの?」


「みかんの缶詰はトークバンクのママさんから。モスはお父さんが遠くまで買いに行ってくれたのよ。だからあんまりクズ呼ばわりしないでね。」


「さすがママさん、私が食べたいものがわかってる。ねぇ、みかん食べたい!!」


千代ままはみかん缶を持ってキッチンへ行き、使い捨て容器にみかんを入れて千代に渡した。あんなに喜んでいたのに2つ3つ程しか食べれない。


「もっと食べないと白血球増えないよ?」


封を開けたら一日中で食べ切らないとならない。臍帯血移植してまだ日が経ってないから白血球が少なく菌やウィルスに抵抗力がないのだ。


「モスバーガーも温かいうちに食べたら?」


「うん。食べるよ。」


これも一口食べたらもう食べない。病院食なんてとんでもない!というくらい食べない。たまに冷やしぶっかけそうめんや冷やし中華などがでて食が進むことがあるが、すぐに吐き気がして吐いてしまう始末だ。


 次の日も千代ままは故郷の友達から送ってもらったりんごをいくつかレジ袋に入れて、千代の着替えの入った袋も一緒に持ちトークバンクに出かけた。


「ママおはよう。故郷のりんご送ってもらったからお裾分けね。昨日のみかんご馳走様。でもね、2つ3つしか食べれないのよね。」


「おはよう、千代ままちゃん。千代ちゃん吐かずに2つも食べてくれたの?すごいすごーい!!

闘病って子育てと同じだと思うの。焦らずにほめてあげてね。あら、おいしそうなりんごいただいちゃっていいの?」


 千代ままはうなずきながらカウンター席に座ると、少し離れたところに女の人が座っている。千代よりは年上だろうその女性は泣いているではないか。


「ママー。今日はこのまま病院いくね。また明日顔出すね。」


と千代ままはその女性に視線を向けてママに言った


「あ、ごめんなさいね。お大事にね。」


さてと!今日は1時間早く千代の顔見るか…と着替えの袋を大事に抱え直して半蔵門線乗り場に向かった。



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