第二幕、童歌の時代へ
「よっこいしょ…」とミヅナは歩き疲れたツムギと共に、手頃な岩の上に腰を下ろした。
「よっこいちょ!」とツムギはミヅナの真似をする。おやおや…とミヅナは微笑んでツムギと二人、神去村を見渡せる小高い丘まで来ていた。
小高い丘には大人の三倍は有ろうか?という木々が茂り、日陰を作り休憩にはもってこいの場所だ。ツムギも涼しげに吹いてくる風と、サラサラと揺られる葉の音に心地良さそうにしている。
「さてツムギや、幾つになったかね?」とミヅナ
「うーんとね…うー…」と指折り数えるツムギ
「七つ!七つだよ ばぁば!」ツムギは元気に答える
「そうか、もう七つかい…早いねぇ」懐かしむミヅナ
「ふむ…」
「…どうしたの?ミヅナばぁば?」
「…うん?いや…大丈夫だよ。じゃあ『いつものお話』の時間なんだけどね、ツムギが七つになったから、今日は『童歌の秘密』でも話そうかね?」
「わらべうたのひみつ?」
「そうさ、ツムギは良い子だから童歌は あまり聞いたことがないだろう?アレは悪い事をした子供を嗜める…叱るための歌なのさ」
「…まえにお父ちゃんの仕事道具に触ろうとしたら…怒られたあとで歌われたよ…すごく悲しかった…」
「悲しい?トウゴめ、ずいぶんひどい叱り方したんだね?」
「ううん、ちがうの。お父ちゃんは『ツムギが怪我したらお父ちゃんはすごく悲しいし、お母ちゃんに何て言えばいいんだ?』って。ツムギが大事だからって。そのときはうれしくなっちゃって笑っちゃったんだ。お父ちゃんも何でか笑っちゃって、二人で笑ったの。でもね…」
「悲しくなったのはね…『わらべうた』なの」
「あぁ、トウゴも歌い聞かせたんだね。でもあの童歌は『悪い子は鬼にさらわれる』って歌だよ?アレは。なぜ悲しかったんだい?怖くはないのかい?」
「だって、おにさんはさ、なんで泣いてるのかなって。1匹はさみしいから、わるい子でもいいから そばにいてほしくて子どもをさらうのかなって思ったら…悲しくなっちゃって泣いちゃったの」
「おやおや…ツムギは本当に優しくて良い子だ」ツムギの頭を撫でながらミヅナは童歌の言葉を続ける
___鬼が哭くなく山 鬼が哭く山 鬼哭山きこくやま___
___畏れおそれを知らない鬼が出る___
___悪さをすると 鬼哭山の鬼に さらわれる___
___さらわれた子供どうなる 鬼になる 子鬼なる___
「やっぱり悲しくなっちゃう…」童歌を聞いてるうちに、今にも泣だしそうになる
「でもねツムギ?この童歌はね…」声を ひそませるミヅナ
「『本当にいた鬼と子鬼』の言い伝えなのさ」
「え!」と泣きそうな顔が驚きに代わり、ツムギのくりくりの目は更に真ん丸になった
「わらべうたの鬼さんは本当にいるの?」
「あぁ、存在よ。いや…『存在してた』ってことだよ。今は存在いのさ。今は童歌の中だけに生きている鬼と子鬼なんだよ」
「いないのに いる??生きてるのに いないの??」
「そうさ、そもそも鬼も子鬼も…わたしの家に代々伝えられてきた童歌なんだ。わたしのお母さんも…お母さんのお母さん、おばあちゃんも…そのまたお母さん…ってね、ずいぶん昔から伝えらてきたんだよ」
「そんな昔のわらべうたの鬼さんが、何で本当にいたのか わかるの?」
「それはね…」とミヅナは自分の髪を指した
「ミヅナばぁばの きれいな髪?」
「ふふ、ありがとう。わたしの髪は日に当たるとさ、少し藍色になるだろう?わたしのお母さんはもっと藍色だったんだよ。おばあちゃんは もっと藍色でキラキラしてたらしいんだ」
「へー!ミヅナばぁばよりもキラキラしてたんだ!…でも…なんでキラキラの髪がさ、わらべうたの鬼さんが いたことになるの?」
ミヅナがツムギに耳打ちするように「それはね…鬼と一緒に居た子鬼の髪の毛がキラキラの藍色だったのさ…」続けて
「わたしの家系は『子鬼の血を引いてる』って伝えられいるんだよ」
「え!ばぁば、子鬼さんなの?!」
「あっはっはっは!確かにトウゴと他の悪タレの目には鬼にも映ってたかもねぇ!」
ひとしきり笑うとミヅナは「___はー……さて…ツムギや。今日は『真実の童歌』の話をしようか」
「鬼さんと子鬼さんのお話?!ききたい!ききたい!」
「じゃあ『童歌の鬼と子鬼』はじまり、はじまり___」