序幕、神去村にて
___鬼が哭く山 鬼が哭く山 鬼哭山___
___畏れを知らない鬼が出る___
___悪さをすると 鬼哭山の鬼に さらわれる___
___さらわれた子供どうなる 鬼になる 子鬼なる___
親が子に言い聞かせるように歌う童歌の一節
その童歌に出てくる鬼哭山をみて、そう遠くない場所にある農村【神去村】
大人達は畑に田んぼの農作業、それらを狙う害獣駆除に精を出し、子供達は自分の出来る範囲で手伝い、遊び、健やかにすくすく育つ。
この平和で和花な村の長、名を【ミヅナ】
ミヅナは齢八十余りと高齢、顔に刻まれたシワは老人の其れだが、耳も目もしっかりしている。歩くには杖が必要だが、助けようとすると一喝してくるほど元気な婆様だ。
しかしミヅナの年齢に そぐわないのは健康面だけではない。美しく整えられた髪の毛だ。
ミヅナの半分ほどの年の者でも白髪混じりになるというのに、ミヅナの髪の毛は艶々と黒く、サラサラと日に当たると鈍い藍色に輝く。
これはミヅナの家系の者は代々伝わる容姿らしい。
ミヅナの父は黒髪だったが、母はミヅナよりも藍色が強く輝く髪の持ち主だった。母の母、ミヅナの祖母にあたる女性は藍色が更に輝いていたらしい。
ミヅナが生まれる前に祖母は亡くなっていたので、ミヅナには母から聞いた話でしかないので真偽のほどは分からない。
「さてと…」とミヅナが長の仕事である見廻りを始めた。
ほどなくして威勢の良い声がミヅナの背中を叩く。
「おぅ!ミヅナ婆!猪肉が獲れたから、後で持ってていくからなぁ!」村一番の体躯と声が大きい男衆、名を【トウゴ】
「ミヅナばぁば、あの話聞きたぁい!」と、トウゴの後ろから可愛らしいおねだりをしてきたのはトウゴの娘、名を【ツムギ】
「おやおや、相変わらず似ても似つかない親子だよ」とからかうミヅナに「ミヅナ婆の髪と年齢の差よりゃマシだ」とトウゴがいつものように返す。
「言うように成ったねぇ…昔は鳥の雛みたいにビービー泣いて…」
「おぉっと!いけねぇ、畑仕事に戻らねぇと!」半ば遮るようにトウゴは大声で仕事に戻ろうとするが
「ねぇねぇ、ミヅナばぁば、あの話!あの話!」と、なにやらせがんで聞かないツムギ
「おやおや本当にツムギは あの昔話が好きだねぇ…トウゴ、ツムギと見廻りがてら昔話してくるから、しっかり畑仕事に精を出すんだよ?」
「おぅ!ツムギ、ミヅナ婆を良く見てろよ、何かあったら直ぐに呼びに来るんだぞ?ミヅナ婆も年が年だからよ」と軽口を叩きながら畑に走る
「早くお行き!…全く変わらないねぇ…さてと、じゃあ少し歩こうかい、ツムギや」うん!と元気に返事をするツムギと連れだって見廻りすることにした。
タイトルは
【おにと こおにの わらべうた きたんろく】
と読まさせてくださいお願いします