味噌っかすで作る最強ギルド『国士無双』
冒険者ギルドでの戦闘は三人組のチームが四つに、それを補佐する二人組が一つの十四人体制と言うのが一般的だ。それ以上少ないと魔物相手に不利を取られることが多くなり、それよりも多いと互いが邪魔になってコンビネーションが取りにくい。誰が考えたわけでもないが、自然とそう言った形が出来上がっていた。
そうとなると、チームで戦う以上必要になるのは個々の実力はもちろんだが、メンバー同士の連携や意思疎通が重要となってくる。どれだけ強力な力を持っていても協調性がなければ使えないし、実力的に劣っていたとしてもそれだけで使えないと言うわけでもない。
要するに、人の才能や資質とは使い方によってどうとでも輝くのだ。
だが、それでも向いていない人間と言うのは少なからず存在する。
ビャックは正にそう言った類の人間だった。個人としての力量は申し分ないのだが、他人と連携をとる事が致命的に苦手で、全体を見渡すような視野の広さを持ち得ていなかった。どれだけ優秀であろうとも、手足にも頭になれないのであれば、そんな人間はチームには必要ない。
それでも、ある程度は個人の実力からギルド内で一定の価値を見出されていたビャックであったが、その無理も時間の経過とともに次第に利かなくなっていく。そして今日、新しい人材がギルドに加入したことによって彼は遂にギルドから追い出されることとなった。
突然の告知にビャックはギルドに抗議を入れるが、誰も相手にしてはくれない。どうやら水面下で新人のギルド入りは進められていたらしく、根回しは完璧の様だ。それでなくとも、連携の取りにくい彼の戦い方を好意的に考える人間はおらず、ギルド内で浮いていたのだから当然だ。
ギルドハウスを追い出されたビャックの足は、気が付けば場末の酒場へと向かっていた。ギルド員達が使うことのない質の低い酒場であったが、今の彼にはお似合いの場所と言えるだろう。そこにいるのはビャックと同じようにギルドを追い出され、特定のギルドを持たないはみ出し者連中が集まっているようだった。
しかしここに集まった十三人と未だ見ぬ一人が、後に『国士無双』とまで呼ばれる最強ギルドになることをまだ誰も知らない。
正月の親族麻雀もいよいよ佳境、南三局での出来事だった。
最後の親番が回って来たジャン(最下位。持ち点五,八〇〇)が自模ったのは何も記されていない『白』の牌。これを手牌に加えれば『白發中東東南西北一八①⑨ⅠⅨ』となる。これでこの形は、横の繫がりが薄い牌一三種類だけで作る高難度高得点の上がり役、役満『国士無双』の完成一歩手前(聴牌)となった。
これは逆転に十分な大役であり、正月から家族にボコボコにされた譲治に廻って来た大チャンスである。
ここで攻めねば男ではないと、喜び勇んでジャンは不要な萬子の『八』を切る。
「あーあ。それ、ロンだ」
「え?」
炬燵机の上に勇んで『八』を叩きつけると、僅かな間を挟んで対面の父親(一位。持ち点五二,〇〇〇点)が手元の牌を一斉に倒した。公開された父親の手牌は整理されていないのでわかりにくいが、『八九九①①④④ⅡⅡ東東中中』と見事に聴牌されている。
そして譲治が切った『八』を含めれば、その手牌は完成だ。
「『え?』じゃあなくて、七対子・ドラドラで六,四〇〇だ」
逆転の為の渾身の一手があっさりと潰されて呆然とするジャンに、父親が無情に掌を突き出す。
「あの、父上? 俺の点棒、五,二〇〇点しかないんですけど」
「あっそ。じゃあ、お前がドベだな。晩飯はお前の驕りだ」
「いや、ちょっと待ってくれよ! 俺、たった今『国士無双』聴牌したんだ」
「うん。知ってる」
「へ? あ! クソ親父、俺の上がり牌二枚も握ってやがる!?」
「さて。何を食いに行く? 母さん、マリン。お父さんは回らない寿司食べたい」
既に勝った気分の(実際、勝負はついたのだが)父親の言葉に、両脇の女性陣が「食べ放題じゃない焼肉!」「フランス料理のフルコース!」勝手なことをのたまい始める。
「そんな、俺の国士無双がぁ……」
敗者の嘆きを気にする者はいない。
最強ギルドの成立はまた今度だ。