第七話 怒りの勇者(見習い)と俺とエルフの少女
俺たちは、どこか分からない場所に飛ばされた。親父も行先くらい教えろよと思う。
ミーナはふ~っとため息をついていた。もしや転移酔いとか?
「マオくん、私のLV上げ手伝ってくれるのは嬉しいけど、魔王強すぎじゃない?」
違った、親父(魔王)の話だった。
「うん、親父は馬鹿みたいに強いよ。勇者LV99じゃ全然無理みたい」
「そう言ってたね。どうなるんだろうね」
「ミーナ安心しろ、俺もこれから強くなるし、パーティメンバー増やせば親父も倒せるって」
「強くなるのはいいけど、お父さん倒してもいいんだ」
「そこは気にしない。弱ければ殺される。弱肉強食でしょ。ん? そう言えば何でミーナは親父(魔王)を倒すんだ?」
「え? だって魔王って悪いでしょ。人間殺すし。魔族達も魔物をけしかけて人間を襲うし、倒さないといけないじゃん」
「う~ん。親父は魔法馬鹿だけど自分からは攻撃しないよ。相手が向かってくるから相手するだけで、基本襲わないし。魔族も色々いるから好戦的な魔族もいれば平和的な魔族もいるし、人間と変わらないでしょ」
俺の答えにう~んとミーナも考え込んでしまった。
立場が変われば見方も変わるのだろうが、していることは同じなのだ。
「そんなこと言われると魔王倒せないよ」
「親父(魔王)倒せるの?」
「無理」
即答。返事が早いよミーナさん。でも可愛いよ。
俺がによによしていると小さな殺気を感じた。ウサギの魔物だな。
とりあえず、俺とミーナはパーティを組むことにした。
パーティの組み方は、相手の手と自分の手を左右合わせて人間アーチを作るような姿勢でパーティと念じることだ。
それだけでパーティを組むことができる。何か恥ずい体勢だ。
パーティを組むと戦闘後の経験値がパーティメンバーに配分されるほか、パーティメンバーの位置検索もできる。
ウサギの魔物が8匹ほど俺たちの前に現れた。
俺は素早く槍を取り出し、1匹ずつ殺していく。一突きで死ぬので簡単だ。
ミーナが1匹倒したとき、ウサギの魔物は全滅した。俺は素早く魔物の魂を食らった。
名前:マオ・アーク・デモン
種族:D魔族
スキル:魔眼Lv2、魔淫Lv1、ファイアLv1、ライトスマッシュLv1
称号:助け人
JOB:魔槍師Lv2
おぉ、レベルが上がっている。さすがにレベル低いから上がりやすいのかな。
ミーナのステータスも見てみる。
名前:ミーナ・セルジロ
種族:人間(女性)
スキル:鑑定Lv2、ハヤブサ斬りLv2、防御Lv5
称号:お人よし
JOB:勇者(見習い)Lv4
ミーナは、俺が残りの魔物を倒していたことに驚いていて俺をしばらく見てたが、はっと我に返り自分のステータスを確認したようだ。
「やった、レベルが上がっている。すごい、防御Lv5って・・新しい称号もゲット出来た~」
ミーナはレベルが上がったことよりも新しい称号を取得したのが嬉しかったのだろう。
すぐに称号を変えていた。
新しい称号は「盾を持つ者」だ。「お人よし」より全然良い。
俺たちはその後も当てもなく進みながら、ときおり出会う魔物を倒していった。
俺は、魔眼、ファイヤ、ライトスマッシュなどのスキルも使ってスキル上げも順調にこなしていった。
おかげで、スキルとJOBのレベルが上がった。
スキル:魔眼Lv4、魔淫Lv1、ファイアLv4、ライトスマッシュLv3
JOB:魔槍師Lv4
魔淫は使わないと上がらないのだろう。ミーナとキスはしたいが、我慢だ。
いつまで経っても魅了していたらダメだからだ。
途中、新しい称号「弱者いじめ」を取得したのは内緒だ。ミーナも順調にレベルが上がっていた。
スキル:鑑定Lv5、ハヤブサ斬りLv6、防御Lv9
JOB:勇者(見習い)Lv8
携帯食を食べながらとは言え、ぶっ通し状態で結構魔物を討伐したと思う。
魔物は、魔族の魔力に感化されて動物が変異するもので、とても狂暴になる。
自分たちより魔力の強いものは襲わないが、普通の人間とかはよく襲われる。
ちなみに俺とミーナは魔力を制御して魔力を感知できないようにしている。
ミーナは、何だろう? 魔力があるのは分かるが、魔法スキルはないんだな。
人間は、魔法を習って覚えるのか。
辺りが暗くなり始めた頃、確かに悲鳴が聞こえた。俺とミーナは悲鳴の聞こえた方へ急いだ。
俺たちが駆け付けるとそこは酷い状況だった。襲われていたのは、奴隷を乗せていた馬車。
まずは、奴隷商人達が殺されていた。
そして奴隷は5人だろうか。全員人間ではない。
エルフとか犬人族とか亜人の女性達だ。山賊は4人いた。
それぞれが、奴隷を乱暴に扱っていた。斬りつけて抵抗する力を奪い、無理やり犯しているのだ。
奴隷達は、大量の出血もあり、もう長くはないだろう。
一人余った奴隷は、檻の中で茫然としている。もう生きる希望を捨てているみたいだ。
周りで起こっている惨事に何もできず、ただ座り込んでいた。
「あなた達何してるのよ」
ミーナにしては珍しい、怒りをあらわにして山賊に向かって行った。
そして一人の山賊のクビを躊躇なく切り落とした。
怖ぇ~ミーナ怖いよ。普段あんなに可愛いくておっとりしてるのに。
怒らせてはいけないリストにミーナが加わったことは言うまでもない。
最初の山賊は、いきなり襲われて油断もあったのだろうが、他の山賊達は、すぐに奴隷から離れ、武器を取る。
魔眼でLVを見ると、山賊LV15ぐらいだった。
山賊LV15がどれくらい強いかわからないが、ミーナには厳しいかな。
俺は、すぐにミーナの前に出て山賊どもを殴った。
そんなに力は込めてないが、みんな20mぐらい吹っ飛んでいた。
その際木々も倒していったから、かなりのダーメジを受けているはずだ。
実際、盗賊は誰1人ピクリとも動いていなかった。
ミーナは山賊とはいえ、人を殺してしまったせいか、呼吸が乱れていた。
俺は、ミーナに近づき「大丈夫だよ」と言って、頭を撫でてやった。
ミーナも何か思うところがあったのか、少し落ち着いてから、おれに抱きついてきた。
え? なんで抱きついてきてるの。いや、俺得だから構わないけど。
ぎゅっと軽く抱き返してやったら、ミーナの力も抜けたみたいだ。
可愛いミーナとずっとこうしていたかったが、まずは生存者だ。
俺は、山賊達におもちゃにされていた奴隷達を見た。残念だが、彼女たちはすでに死んでいた。
出血多量が原因であろう。さすがに、俺の治癒でも死人は生き返らせることは出来ない。
結局残っているのは檻の中の奴隷エルフの少女だけだ。
俺は、ミーナから優しく身体を離し、檻の中のエルフの様子を見に行く。
エルフは俺が近づいても微動だにしない。本当に生きているのだろうか。
俺はエルフの腕をとり、脈を測ってみた。
冷たい腕であったが、わずかに血液の流れを感じとることができた。
よし、生きているな。
俺は、体中傷だらけ、主に鞭とかでやられたのだろう、ミミズ張れとなっているところから丁寧に治癒していった。
一応ひととおり治癒したのだが、全く反応がない。
顔を覗き込むと、目が虚ろであった。身体的治療をしたが、精神的に参っているのだろう。
うん、ここは魔淫の出番なのではないだろうか。
一応俺は、ミーナの方を振り返る。ミーナも事情を察したのかコクリと縦に頷いた。
よし、これで魔淫スキルを発動できる。
俺はエルフの少女にゆっくりキスをした。しばらくしてから唇を離した。
その時、魔淫スキルがLV2になった。しかし、エルフの少女は相変わらずだ。
再び、キスをする。魔淫スキルがLV3になった。少女は変わらずだ。
何これ、どんだけ精神病んでるの。結局、魔淫スキルがLV5になって、初めて少女が反応を見せた。
後ろの方では、ミーナが「何で何回もキスしてるの。ズルイ。」とか小声で呟いていた。
いや、だって反応ないし。LVも上がったし、うん問題ないよね。
「ありがとうございます。私の御主人さま」
え? 何言ってるのこの娘。首に巻かれた革の奴隷リングが光り、その後青色になった。
「何、勝手に奴隷にしてるのよ」
ミーナが怒って、やって来た。いや、まて、知らないから。俺、何もしていないし。
ミーナの話によると、奴隷リングを巻いた状態で奴隷魔法というのをかけると、奴隷契約が
発生するらしい。
ミーナは、どうも俺がこの奴隷魔法をかけたと思ったらしい。
いや、そんな魔法知らないからね。
もうひとつ、奴隷契約が発生する場合がある。
それは、奴隷リングを巻いた者が御主人さまと強く認めた場合だそうだ。
普通の奴隷は、奴隷商人によって虐められ、ご主人となる人については、あることないこと悪く吹き込まれる。
そのため、奴隷は生きる屍のような状態になってしまうのだ。
今回の場合はエルフの少女が望んで奴隷となったみたいなのだが、ミーナを納得させるのは大変だった。
「魔淫スキルのせいじゃないの。何度もキスして魅了したんでしょ」
ふむ。ミーナに言われるとそんな気もする。
何しろ魔淫スキルはLV5まで上昇しているのだから。
「魔淫Lv5」・・・相手にキスすることにより相手を魅了する。魅了効果(30分)により、精神的、肉体的痛みを一切なくす。
ん? んんん? スキルレベルが上がって、効果も上がったはず。
LV5で魅了効果が30分だと。あれ、ミーナ?
「ミーナ。俺はミーナのことが好きだ。ミーナは俺のこと好きか?」
「え、な、何。突然言わないでよ。わ、私もマオくんのこと好きだよ。ま、魔淫スキルのせいでしょうけど」
顔を真っ赤にして答えるミーナ可愛い。え~どうしようかな。
「ミーナ。俺の魔淫スキルLV5になったんだ。魅了効果も30分に延びた」
「ふぇ、え、30分」
ミーナは、変な声を出して俺に背を向け固まった。
「ばれた、ばれた」とか呟いている。こいつ知ってての態度だったんだな。
「可愛いよ、ミーナ」
俺は、背中からミーナを抱きしめ頭をポンポンしてやった。
ミーナは体が少し震えていたが、嫌な様子ではなかった。
その時、背中から衝撃が襲った。いや、俺じゃなかったら背骨折れてるよ、マジで。
後ろを振り返ると、俺の背中に抱きついている奴隷エルフと視線が合った。