第六話 勇者(見習い)とレベル上げ
ミーナは数時間で目を覚ました。良かった、死ななくて本当良かった。
ちょうど、母親がおやつを作ったので食べようということになっていた。
「ミーナ、ごめんね、大丈夫? 親父があんな馬鹿だったとは思わなかった。母親があの後何か親父を叱っているみたいだったから、許してくれ」
「言いたいことはいっぱいあるけど、さっき父上って言ってたよね。普段は親父呼びなのに」
今、一番言いたいこと、そこですか。そこは俺も気になってたよ。
俺が転生の意識を持つ前の俺が父上って呼んでいたから、そう呼んでいるだけなのだ。
でも、父上、母上って呼ぶのは恥ずかしい。ふむぅ、どう説明すれば良いのやら。
「えっと、それは昔からの口癖みたいなもので、父上、母上と呼んでるだけなんだ。違和感あるかもしれないが気にしないでくれ」
ふ~んと返事するミーナの目が生暖かく感じた。
そうだ、一緒におやつを食べに行こうと言おうとしたら、ギュルルルという音が聞こえてきた。
何だ、こんな音は魔族に生まれてから聞いたことがない。
人間の時はよく聞いたものだ、仕事忙しかったからね。ミーナも顔を真っ赤にしてあわあわしてる。
俺は、ミーナの手を掴んで声をかけた。
「ちょうど、おやつの時間なんだ。一緒に食べに行こう」
ミーナは恥ずかしながらもこくんと頷いた。
食卓には、両親とササが既におやつ(ドーナッツ)を食べていた。
爺の手作りドーナッツは旨い。紅茶も用意されていた。
親父は、2mくらいのサイズで座っていたが、よく見ると右の頬が腫れている。
親父の身体にあれ程のダメージを与えられるなんて、恐ろしい。
母親は怒らしてはいけない。絶対だ。
「あ、マオくんやっと来た。ミーナちゃんもさっきはごめんね。さあ、座って一緒にドーナッツでもどうぞ」
ミーナは親父に気づきビクビクしていたが、大丈夫だよって声をかけながら、頭を撫でたら落ち着いた。
俺とミーナが座ると爺が目の前の皿にドーナッツを積んでいった。
「あ~ミーナとか言ったか。先ほどはすまんかった。勇者(見習い)にはきつかったかもしれんな」
うぉい、キツいとかいうレベルじゃないだろう。死にかけてたぞ。
今の親父は魔力制御しているのか、魔力を抑えて、言葉にも何の力も加えてない。
これなら、普通に会話できるだろう。
「しかし儂はマオに勇者を倒せと言ったが、まだ、見習いだったのだな。勇者になるには、見習いレベルを50まで上げないといかん。そうして勇者LV1になり、そこからまたLV上げして魔王討伐に行くのだから、どのくらい先になることやら。ちなみにこの前来た勇者はLV99だったが、弱かったぞ」
親父・・武勇伝挟まなくていいから。ミーナ固まっているだろう。
ミーナが「そんな」、とか「LV99」とか呟いてるぞ。
「あなた、ミーナちゃんはマオくんのお嫁さんになるかもしれないから倒さないであげて」
「ぶほぉ」
吐いた、盛大に吐いた、俺が。何言ってるんだこの人。どんな思考しているんだ。
彼女でもないのにすっ飛ばして嫁とか。
ぷるぷるしながら、ミーナを見ると顔を真っ赤にして俯いていた。
「マオくん、ミーナちゃんを見る視線がとても優しいんだもん。ミーナちゃんのことは好きなんだよね。魔淫スキルも何回か使ってるみたいだし」
えぇ、何でわかるの。母親怖えっ。でも魔淫スキルは必要な時しか使ってないんだが。
もしかして、ミーナは俺に魅了されているのかな。
「ふむ、そうか将来の花嫁を殺すわけにもいかないな。だが、見習い如きに儂の息子のマオと結婚させるわけにはいかないな。少なくとも勇者になって儂を納得させる強さを身につけてもらわんと認めん」
ええ~親父も何言ってるの? 本人同士を無視して話進めるのはやめて欲しい。
「ミーニャ、ねぇになるの? 嬉しい~」
ササがパタパタ飛び回り始めたが、それどころではない。どうする。どうこの場を収める。考えろ俺。
「それなら、マオくんとパーティ組んでレベル上げすれば、ミーナちゃんが勇者になるのも早いんじゃないかしら」
ミーナとパーティって、そんな俺得な。
いやいや、まて、魔族と勇者がパーティってありなのか。色々まずいんじゃないか。
「おぉ、それは良い案だ。さすが儂の妻。マオが傍についていればレベル上げも簡単であろう。マオに言いなおさないといけないな、勇者を育てて連れてこいと」
何か本人の意思を無視して、次々と決定されていく。
両親がその後も何か話をしていたが、もう開き直ってドーナッツを食べることにした。
少し顔を赤くしたミーナもドーナッツを食べまくっていた。
その後、俺とミーナは俺の部屋に戻った。
「ミーナ、さっきは親が色々言ってごめんな。そ、その俺がミーナのこと好きっていうのは本当だ。俺は初めてミーナを見たときから一目惚れだ。でもミーナは俺の魔淫スキルを受けて俺のことを好きになっているんじゃないのか。確かに魔淫スキルを何回かミーナに使ったけど、必要だと思って使ったんだ。そこは誤解しないで欲しい」
俺はまず、正直に自分の気持ちを伝えた。
ミーナは何か少し考えていたようで、しばらくしてから答えた。
「そ、そうよ。私もマオくんのこと、す、好きなのはスキルのせい。ズルイわ。でも、そのスキルで救われたのは確かだから、そこは感謝しているの。ありがとう、マオくん」
少し顔を赤くしながら言ったミーナは、やはり魔淫スキルの効果が残っているのだろうか。
魅了スキル恐るべしだな。
俺は次にミーナのLV上げについて話合った。
ミーナは勇者(見習い)だから、勇者にならないといけないらしい。
LV上げを手伝うのは、全然構わないのだが、勇者と魔族の組み合わせが問題だ。
何しろ本来敵同士だからね。
「マオくんのステータス見られるとまずいわ。名前にアーク・デモンが付いてるし、種族がD魔族だしスキルもまずい。特に魔淫が」
「あれ? 称号の魔王の息子はいいの?」
「称号はね、自分で変えることができるの。ステータスを見て、称号を触ると他に持っている称号と変えられるのよ」
そうだったのか。そう言えば、新しい称号手に入れてたな。
俺は思いだして、ステータスを表示させ、称号の部分に触れた。
本当だ、魔王の息子という文字が揺れている。
水晶玉のときのように指を動かすと次の称号が表示された。「助け人」だ。
「あぁ、マオくん、普通の称号持ってたのね。これなら、称号は大丈夫だよ」
「ねぇ、ミーナは他に称号持ってないの? 今のお人よしは騙されやすいというのをアピールしてるみたいだけど」
そうミーナに言うと、ミーナはうっとなってポツリと言った。
もうひとつの称号は「ドジっ娘」だと。
ミーナ、どうやったらそんな称号手に入るんだ。
ツッコミをいれたかったが、可哀相なのでやめておいた。
そのまま、あーだこーだ言いながら、結局名前と種族とスキルを隠せないと一緒に行動するのは難しいという結論になった。
夜になり、俺の部屋でミーナも寝ることになった。俺がベッドの中からミーナを呼んだ。
「お~い、ミーナもベッドにおいで。大きいから2人くらい平気だよ」
やましい気持ちがあって言った訳ではなく、ベッドに寝なければ石床に寝ることになる。
幸いミーナには魅了の魔法がかかってるし、一緒に寝るのは気にしないだろうと思った。
だが、ミーナはしばらくもじもじしながら、中々ベッドに来なかった。
俺が、ミーナの手を握り少し強引にベッドに連れ込んでようやくミーナも一緒にベッドで寝ることになった。
いくら俺がミーナのことを好きだとしても、魅了スキルにかかって俺を好きになっているミーナに手を出すようなことはしない。
俺は紳士だからな。俺はミーナに触れることなく、そのまま朝まで深い眠りについた。
「にぃ~朝御飯だよ」
ササが俺たちを起こしにきてくれた。食卓に行くと、母親がによによした目でこちらを見てくる。
「あら、あら、二人ともすっかり仲良しになったのね」
ミーナの顔がボッと赤くなる。可愛いけど、昨日は手を出してないからね。
朝食のサンドイッチを食べながら、昨日の問題点を母親に相談してみた。
「母上、ミーナのLV上げについて行くのは構わないのですが、私の名前、種族、スキルの一部がステータスで確認されるとまずいのです。何か方法はないでしょうか」
母親は、うふふと笑って、親父の方をチラっと見た。
「何だ、そんなことかマオ。儂に任せれば一瞬で解決だぞ」
親父はそう言うと、俺の頭に手をかざし、フンっと気合いを入れた。
ん? それだけ? 終わりなの。
ミーナが俺のステータスを見た。
名前:マオ・アークン
種族:人間(男性)
スキル:ファイアLv1、ライトスマッシュLv1
称号:助け人
JOB:魔槍師LV1
「す、すごい。名前どころか種族まで変わっている。スキルも人間が取得できるものになっています」
ミーナが俺をみて驚いている。
俺が魔眼を使うと全然変わっていないのだが、鑑定スキルと魔眼スキルの差なのだろうか。
「はっはっは。名前、種族を詐称してみた。スキルは、魔族関係スキルは見えないようにしておいたのだ。まあ、人間の持っている鑑定スキルで言うと、鑑定スキルLV99ぐらいないと見抜けないだろうな」
「鑑定スキルLV99なんて、そこまでレベル高い人なんて、いないんじゃないのかな・・・」
ミーナがさらに驚いていたが、これで問題はなくなった。
後は俺の角と羽を収納すれば、一緒にLV上げが出来る。
朝食を済ました後、俺たちは身の回りの準備をして便利なポーチに物を詰めた。
ミーナも俺とLV上げをすることは反対ではないようだ。
魔淫スキルが効いているのだから反対はしないと思っていた。
う~ん、このスキルはいつ効果が切れるのかな。あまり使わない方がいいのかな。
準備を終えて魔王の間に行く。ミーナと手を繋ぎながらだ。
なんか恋人同士みたいだ。いや、転移するときバラバラになったら困るからね。
もちろん、仕方なくですよ。そして、親父に転移をお願いした。
俺たちは、どこかに飛ばされた。