第四十七話 魔王消滅
まさに勝負が決する直前、俺の母親が乱入してきた。
「ミーナさん、魔王ウィルは私の大好きな旦那なんです。目の前で殺されるのを黙って見ているわけにはいきません」
やはり、親父が大事という理由だったのか、でもそれは勇者には通じない言い訳だ。
現にミーナもまた剣を構えている。
「それに魔王ウィルが倒されたら次に魔王になるのは息子のマオくんなのよ。ミーナさん、あなたはマオくんも殺すことが出来るの?」
なにぃぃ。親父が倒れたら俺が魔王になってしまうのか。それはマズイ、うん凄くマズイぞ。
「え?マオくん魔王になっちゃうの?」
ミーナが俺の方を見ながら聞いてくる。
いや、俺に聞かれても初めて聞いた事だし、分からないけど魔王の息子だったら自動的にそうなるのか。
「うちのマオくんは魔王の資格である称号を持っていますからね」
「えぇ、マオくん、魔王の称号持ってるの?」
うぉい、知らぬ間に手に入れた魔王の資格を持っていたことをここでバラすのはやめてほしい。
「う、うん。なんか知らない間に魔王の称号手に入れてました」
ミーナの問いに嘘はつけない。真偽スキルでもバレるしな。俺は正直に答えた。
ミーナはショックのあまり剣を手から落としてしまった。
「この世界では、魔王は魔族しかなれないの。なぜなら魔王の称号を得るには生物の魂を集めないといけないから」
おぉ、そう言えばモンスターとか倒したときに魂回収していたな。
あれって魔王になるために必要だったのか。
「魔族だけが魂を集めることができる。そして自分が倒した生物の魂を10,000個集めると魔王の称号が手に入るのよ。でもそれは魔王の資格を得たにすぎないけどね」
なんかうちの母親魔王に関して詳しいな。さすが魔王の妻だ。
「そして、これが重要なのだけど、この世界に魔王がいるというのは何で判断しているかわかりますか?」
母親がミーナに話かけているが、ミーナはわからないようだった。
「アークザリア城にある魔王水晶で魔王を観測しているのよ。その水晶はアークザリア領を表し、そこに魔王が生まれると丸い光点が発生するの。魔王は主に迷宮で生まれるから、最大5人の魔王が誕生するわ。魔王が生まれるとすぐに光点が発生するのはね、魔力感知によるものなの」
魔王水晶、魔力感知、うちの母親は何でそんな事まで知っているのだろう。
俺たちは母親の言葉に集中していた。
「魔王の魔力は他の魔族、モンスターと比べて桁が違うのよ。だから、ある一定以上の魔力を有している魔族は魔王と認識されるの」
確かに親父のだだ漏れ魔力は半端ない。
普通の人なら近づくことも出来ないだろうし、近づいたら魔力にあてられて死んでしまいそうだ。
「だからね、こうするの」
そう言うと母親は親父に向かって何か呪文を唱えた。一瞬親父の体が光に包まれた。何をしたんだ。
親父の体から発せられる魔力がレベル40ぐらいのモンスターの魔力になっていた。
「これは魔力封印術。相手の魔力を半永久的に抑え込むものよ。あれだけの魔力が今ではレベル40~50ぐらいのモンスター並に抑えられているでしょう。まあ、レベルやスキルはそのままだから、戦うとすればレベル90台のモンスターぐらいの力に落ちているわ。そして、これで魔王は消滅した。魔王は倒されたと認識されたわ」
なるほど、魔王水晶で魔王と探知したものが魔王であるから、魔力を抑えられた親父は魔王と認識されなくなったわけか。
「あ、あのお母さま。どうして、そんなに魔王について詳しいのでしょうか」
ミーナがみんな思っていたことを聞いてくれた。
それはそうだ、魔王の資格、魔王水晶、これらのことを知るうる立場ってなんなんだ。
「実は、わたし前回の勇者パーティの一員なの」
「「「「「ええ~」」」」」
俺たち一同驚きの声を上げるしかなかった。
「15年前に魔王ウィルに挑んでね、速攻回復役が殺されてしまったの」
なるほど、それで出発前にカルに声をかけていたのか。
まあ、今回は婚約者のオルガがいるから必ず守っていただろうがな。
「その後はグダグダよ。勇者も私も光系の攻撃をしてもすぐ回復されるし、攻撃魔法は無茶苦茶だし。メンバーも倒されてね、私も瀕死だったんだけど一番頑丈だったから生き残ってしまって、その前にウィルの魔法に惚れてしまったんだけど、介護してもらってますます好きになってしまったのよ。ミーナさんも知っていると思うけど魔族だから悪いとかじゃなくて魔族だって、亜人だって、人間だってみんな同じなのよ」
前回の勇者パーティって、それで色々と詳しかったのか。
う~ん、やられて好きになるとか母親はMだったのか。
「お母さま、前回の時にその魔力封印を使えば倒せたのではないですか」
さすがミーナだ。冷静に話を聞いている。
今の状態にさせることが出来れば、勇者と何とかして倒せたに違いない。
「そう、うまくいかないのよミーナさん。わたしがこの魔力封印を会得したのはウィルと結婚した後なの」
ですよね~。魔力封印使えるのなら前回使っていますよね。
「これで分かったかしら。アークザリア王国では魔王を認識していないから、今は魔王がいないという状態なの。だからミーナさんはこれ以上戦わなくていいのよ。それとも魔王ウィルを殺して、マオくんを相手にする?」
「いえ、お母さまの話のとおりであるのなら、魔王はいないのですからこれ以上戦う理由がありません」
「あらぁ、本当物分かりが良くて助かるわ。ミーナさんならマオくんのお嫁さんでも全然異論はないわ。まあ、もしマオくんと戦うというんであったら、マオくんの封印を解いてましたけどね」
「え、マオくんは既に封印されているんですか」
「そうよ。マオは産まれた時から強大な魔力を持っていたので、すぐに封印したの。でも封印しても今の様なのでね」
パーティのみんなが俺を一斉に見た。
そう、俺の魔力は普通のモンスターで言えばレベル80ぐらいなのだ。
封印してレベル80、つまり親父の2倍なのだ。
「そんな、今でさえ強いのに、封印を解いたらとんでもない強さになるじゃない」
うちのパーティで強い順と言えば、1番はミーナ、そしてわずかに劣って俺が2番だ。
しかし、この封印を解けば明らかに順位は逆転するだろう。つまり俺、最強なのだ。
「マオくんが悪い魔族でなくて良かったね、ミーナさん」
母親の言葉にほんと、安堵したミーナがいた。俺はがっくりと膝をついている親父に声をかける。
「父上、今回の戦いは私達の勝ちということで、ミーナと俺のことを認めてもらえますか」
親父はゆっくりこちらに顔を向けた。
「あぁ、今回は儂の負けだ。マオが封印されてたとは儂も知らなかった。例え勝っていても納得いくものではないし、実際勇者は強かった。マオの嫁に相応しいだろう」
恋人じゃなくて嫁で話が進んでいる。話の進み具合が早いが、俺は全く気にしない。
隣で顔を真っ赤にしているミーナの肩を抱いた。
「疲れたから、一旦戻ろうか」
そう言うと親父は転移の魔法で全員を魔王城へ転移させた。
俺たちパーティメンバーは全員俺の部屋に転移していた。
どうすれば、こんなに細かい転移ができるのだろう。とりあえず2つのベッドに俺たちは横になった。
「ふ~みんなお疲れ様。あの親父に勝てるなんて、みんな凄いよ」
「御主人さまのおかげです。私は全然役に立てませんでした」
「私なんか攻撃ほとんで出来ずで、カルを守るので精一杯だったよ」
「オルのおかげで私はうまくみんなをフォロー出来たと思う。オルがいなかったら私たぶん死んでたわ」
「封印したままで戦えるんだからマオくん強過ぎ。納得いかない」
初めて会ったときは恐怖で震えてた少女がだいぶ強くなったもんだ。俺はミーナの頭を撫でた。
「ミーナと戦わなくてすんで良かったよ。それに家族にもミーナのこと認められたし」
またまた、ミーナの顔が真っ赤になる。でも満更ではないようだ。
これで、ミーナと結婚することも可能だろう。問題はリンをどうするかだ。頭の痛い問題である。
俺たちはその後夕食を家族と一緒にとった。
「ミーナさん達は、まずアークザリア国王に魔王を倒したことを報告した方がいいわ。まあ、向こうはもう魔王がいないって知っているけどね」
母親が今後のことについて教えてくれた。俺たちはまず、アークザリア国王へ報告に行く。
そして次はオルガたちの国王に挨拶すべきなんだろう。
一応魔王はいなくなったから、勇者パーティは解散ということになるのだろう。
そうするとオルガとカルさんはカーマ国に残ると思う。
俺とミーナとリン。この3人はどうするかだ。難しい問題だ。リンは俺に依存し過ぎているからな。
俺がうんうん考えている間、ミーナはササと楽しそうに遊んでいる。
ミーナ、本当ササのこと好きだな。微笑ましい光景ではあるが、今は今後のことは考えなければならない。
俺は思い切って母親にリンのことを相談してみた。
「アークザリア国王の挨拶が終わった後に奴隷を解除してみるといいわよ。今はマオくんに依存しているけど、それは奴隷の効果が大きいと思うの。一度奴隷を解除すれば落ち着いて自分のことを考えられると思うから、その後で本人の意思を確かめてみたらいいと思うわよ」
さすが、母親だ。奴隷についても知識がある。
確かに自ら奴隷になったことで、依存度が高いのかもしれない。
いつまでもリンを奴隷にしたくないし、リンの人生を縛るつもりもない。
俺はミーナだけいればいいのだから。
「母上、ありがとうございます」
満面の笑みで母親にお礼を言ったら、抱きしめられて殺されそうになった。
この世界で一番強いのは俺の母親ではないだろうか。
親父も食事をしながらオルガ達とも話をしていたし、オルガ達の強さも認めたみたいだ。
俺は親父に声をかけて、ある物を作ってもらうことにした。
リンだけが一人寂しそうに食事をしていた。親父と戦っている時に自分が役に立たないと感じていたせいだろうか。
しかし、最後の攻撃は、親父の気を引く絶妙な攻撃だった。
あれがなければ親父の首に迫ることはできなかっただろう。俺はリンの側に行って頭を撫でてやった。
リンは一瞬俺を見たが、すぐに顔を伏せてしまった。
リンも十分強いんだが、何をそんなに気にしているのだろうか。
夜はいつものように川の字になって寝る俺たちだった。




