第四十六話 魔王を倒す者が勇者
さすがミーナだ。初撃の魔法が自分に向いていないと分かるやすぐに親父に斬りかかっていた。
そして親父は腕を斬られたということは、ライトセイバーの効果で徐々に消滅していくはず。
こちらの初撃で勝負あったも同然だ。斬ったミーナも上手くいきすぎて驚いている。
親父は余裕で何か言ってたが、もう勝負はついた。
「「「えっ」」」
俺とミーナと親父が同時に声を出した。
俺とミーナが驚いたのは、親父が光に包まれて消えていかなかったからだ。
どういうことだ、なぜ肉体が消滅しないのか。
「何で回復しないのだ」
親父は自分の腕が回復しないことに驚いているようだ。
いや、あんた、ソレくらったら普通消滅するんだけど。どれだけ再生能力高いんだ。
「前の勇者の時は普通に回復したのだがな」
前の勇者って15年前か。勇者のレベルが99だったからだろうか。
ライトセイバーのレベルによって威力も変わっているのかもしれない。
親父は、いつまで経っても再生しない腕を肩からちぎり捨てた。
すると一瞬でちぎられた腕が再生した。再生早すぎだろ。
「さすが魔王ね」
ミーナも親父の異常さに気付いたようだ。
親父はミーナの危険性に気付いたのか、ミーナにも攻撃を仕掛けていった。
俺はその隙をついて親父にライトスマッシュで攻撃した。
親父は俺の攻撃がミーナと同じく光属性の攻撃だと気付いたのか、攻撃を受け止めようとはせず躱した。
「はっはっ。マオまでも光の攻撃が出来るとはな。これは儂でもピンチだな」
そんなことを言いながらも親父は6本の腕から魔法を数多に繰り出していた。
俺とミーナには2本ずつ腕を使い、リンとカルさん達にも攻撃していた。
親父の魔法は、1撃1撃の威力が半端ない。
まともにくらったら俺とミーナ以外は1発でおしまいだ。
そんな魔法を避けながら、俺、ミーナ、リンが親父に攻撃を仕掛けていった。
しかし親父は魔力無限だ。魔法乱発っていうレベルじゃねぇぞ。
こりゃ、15年前の勇者パーティにはきつすぎだろう。
限界突破者が2人以上いなければ親父とはまともに戦うことが出来ないわ。
俺とミーナの攻撃を躱しながら魔法を連発する親父。かすり傷程度しか与えられなくなってきた。
傷口はうっすら光がもやもやしているけど、身体が消滅する気配はない。
回復もしていないようだが、大したダメージではないようだ。
「マオくんのお父さんチート級の強さだよ」
「さすが御主人さまのお父さんです」
ミーナの言ってることには同意するが、リン、感心している場合ではないぞ。
油断したら俺たち本当に殺されるからな。
親父は魔法が全く効かないため、リンはオルガが作った武器で攻撃している。
たいていは躱されているが、リンも俺たちの攻撃に合わせて親父が避ける場所に矢を置きにいって攻撃している。
いくつかは親父の体に刺さるが、すぐ矢は抜かれて回復されていた。
親父と戦う前にリンから矢に毒を塗ってもいいか俺は訊かれていた。
多分親父には効かないと思ったので許可したが、やはり親父に毒は効いてなさそうだった。
ただ、物理攻撃で親父に傷をつけられるのは、それだけでも凄いことだと思った。
オルガの鍛冶能力には本当驚く。オルガの武器防具はもはや国宝級だろう。
親父の魔法を何発もくらっているのに耐えれる盾でカルさんをしっかりと守っている。
もう、オルガ達の周りの地面削りとられてるしな。
オルガ達のことを思いながら、親父を攻撃しようとしていたらミーナが地面の石に足をとられたのか一瞬バランスを崩した。
その一瞬が命取りだ。親父の風魔法がミーナに当たり、ミーナの左腕が切り落とされた。
あわてて切られた左腕を拾いくっつけようとするミーナにカルさんの治癒魔法が飛ぶ。
するとミーナの切られた腕は何事もなかったかのようにくっついていた。
さすがカルさんだ。タイミング完璧だ。
致命傷さえくらわなければ、いや、致命傷をくらってもカルさんがいれば俺たちは戦える。
「む、やはり回復役は邪魔だな」
親父は6本の腕を天に向かって上げ、一気に降ろす素振りをした。
何百という雷の矢が上から雨のように降り注いだ。いちいち魔法が大規模すぎる。
だが、オルガの盾はそれをも防ぐ。
魔法では埒が明かないと思ったのか、親父はオルガ達の方へ歩いていった。直接ぶん殴るつもりだろう。
このまま親父のやりたいようにはさせない。俺とミーナが親父に向かって攻撃をしかける。
親父も俺達の攻撃を避けなければならないから、なかなかオルガ達の近くへは行けない。
ミーナがタイミングよく跳躍して親父を頭から真っ二つにしようと攻撃した。
親父は顔をミーナに向けると口からドラゴンのブレスみたいのを吐いた。
ミーナの攻撃はブレスに押され、ミーナは吹き飛ばされたのだが、親父がミーナを見た瞬間の隙を俺は見逃さなかった。
ライトスマッシュで親父の右わき腹を刺してやった。
すると親父の右わき腹から、わずかながら消滅が始まった。
どうやら、俺のライトスマッシュのレベルがミーナのライトセイバーよりレベルが高いのが効いているようだ。
「これはっっ」
親父は、自分の身体がわずかながらでも消えていってることに気付いたようだ。
すかさず、攻撃された部分ごと自分の体を引きちぎった。
右腹全部無くなった状態だったが、すぐに再生していた。全く無茶苦茶な身体である。
これでは、倒す方法としたら心臓をつくか、首を斬り落とすぐらいしかないのだろうか。
そして親父は俺の方をギロリと睨んだ。あ、結構怒っている時の顔だわ。
そりゃそうだような、息子から殺されるような攻撃くらったわけだから怒るよな。
そこから先は魔法攻撃が更にえげつなくなってきた。魔法が止まらない状態だ。
これ、なんていう無理ゲーなのだろう。
俺とミーナが無傷のまま親父に攻撃を当てられることはできなくなっていた。
カルさんのフォローを受けながら、地道に攻撃をしていくしかなかったが、親父もなかなか隙を見せない。
リンも頑張って攻撃しているようだったが、あまり牽制にはなってなかった。
ただ、分かったのは俺とミーナが連携攻撃してもまだ1歩届かないということだった。
オルガはカルさんの守りに集中してもらわないとカルさんに何かあったら一気にこちらが崩れていきそうだ。
となると後はリンを含めたところで連携攻撃をしないといけないのだが、リンの火力は俺とミーナに比べると弱すぎて物足りない。
親父もリンの攻撃にはあまり気を使わなくなってきていた。
リンの攻撃に致命傷となるものがないからだ。
3人がうまく連携しないと親父を倒せそうにないことは、ミーナやリンもわかっているようだった。
俺たちは阿吽の呼吸で攻撃を仕掛けていく。
だが、なかなか決定的な隙を作りだすことが出来なかった。親父の魔法もますます熾烈になってきた。
「ワハハ、どうだ何も出来ないだろう」
もう、なんなのこれ。というくらい魔法が乱射されていた。
ほとんど何も出来ない状態だがゼロではない。魔法の合間を縫って攻撃は仕掛けていった。
どれくらい時間が経っただろうか。1時間はゆうに過ぎている。
モッハトルテ国の迷宮での修行の成果が今、まさに出ていた。
まだ、みんなも体力的にも魔力的にもいけそうだった。
だが、この動けるうちに何とかしないとまずくなる。
親父も余裕かましてるけど俺かミーナの攻撃は当たれば厄介だから、気にはするはずだ。
気が抜けないのはどちらも一緒。どちらも致命傷が与えられないので戦いは今のところ五分五分だ。
「今回の勇者パーティは素晴らしいな。前回は、10分も持たなかったぞ」
うは、前回の勇者パーティかわいそうだ。恐らく初撃で回復役を潰されて、あとはジリ貧だったんだろう。
俺たちは一応親父の魔法に対処できているからな。
ただ、長引くのはマズイ。早く親父に大ダメージを与えないといけない。
時折襲ってくる極大魔法は、カルさんがうまく結界を張って俺たちを守ってくれていた。
くらえば、かなりダメージを受けそうな魔法だけど、カルさんの結界は素晴らしい。
攻撃を1回くらったら結界は消えてしまうが、親父の魔法に全然負けていない。
極大魔法は、何か準備がいるのか親父も連発はできないようだ。
ミーナは全力で戦える相手がいて凄く嬉しそうだ。ヤバイ、完全に戦闘狂の目だ。
俺と初めて会ったときは、ビクビクしているか弱い女の子だったのに、今では俺より強くなってる。
勇者という職業が人を変えてしまったのだろうか。
ミーナは親父に対して容赦なく斬りかかっていた。俺もミーナに負けてはいられない。
母親譲りの槍術で親父に攻撃を仕掛けていく。親父も魔法をうまく使いながら俺たちを牽制していた。
ふと、リンを見るとリンが俺の方を見ていた。ふむ、恐らく矢の残数があとわずかなのだろう。
地面に落ちている矢を拾えば大丈夫だろうが、そんなのを1本1本拾っている余裕はリンにはなさそうだ。
そろそろ決めないといけないな。
「くらえっ」
わざと大きな声で親父の正面から最大威力のライトスマッシュで攻撃する。
この威力、もろにくらえば親父といえども腹に大きな穴があく。親父は避けなければならなかった。
槍の攻撃は直線的だ。親父はとっさに左に避けた。
「痛っ」
親父の左目には、リンが避ける方向を予測して撃った矢がささっていた。だが、それだけだ。
親父はその矢を引っこ抜けばすぐに回復する。
その矢を抜くわずかな時間にミーナが攻撃をしていた。攻撃先は親父の首。
ミーナのライトセイバーがロックオンしていた。当たればさすがの親父もお終いだろう。
「ちょっと、待ってぇ」
ガキンという音ともにミーナのライトセイバーが俺の母親の槍によって止められた。
俺はミーナのライトセイバーを止めることができることに驚いていた。
ミーナは素早く母親と距離をとり、警戒した。何だ、もしかして親父の味方をするつもりなのか。
親父1人でギリなのに母親が加わったらマズイかもしれない。しかし、そんな心配はすぐに消えた。
「今回の戦いは魔王の負けです。あなたもそれでいいですね」
親父はムゥと唸った後、わずかに頷いてみせた。母親から親父の敗北宣言が出たのだ。
母親からすれば旦那は大事ということなのだろうか。いや、でも親父倒さなくていいのか。
「あのぉ、お母さま。勇者は魔王を倒さないといけないのですが」
ミーナが至極当然のことを口にしていた。




