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第四十五話 勇者(彼女)対 魔王(父親)

迷宮のモンスターを討伐したことが国中に知られたせいか、若い獣人達が迷宮に入って冒険ごっこをするようになった。


まあ、当分再ポップしないだろうし、深い階層に行かなければ安全だろう。


国の兵士も交代で見張っているみたいだし、今後は良い訓練場所になるな。


しばらくモッハトルテ国で休養をとって、街の様子をうかがった。


アークザリアとの交流も始まり、数人の人間がモッハトルテ国にやってきた。


最初はぎこちない様子であったが、数日経てば結構仲良くやっていけそうに見えた。


俺たちは大半がノンビリと過ごしていたがオルガだけは相変わらず鍛冶をしていた。


迷宮10階層で採れた鉱石が魔力をだいぶ吸っていて、なかなか良いそうだ。


今回はリンに頼まれ、武器を作っているようだった。


「なあ、ミーナ」


「何、マオくん」


2人用のソファに座りながらミーナと会話する。


「そろそろだよな」


「そろそろですかね」


「行ってみる?」


「うん、マオくんと一緒ならどこでも行くよ」


ニッコリ笑うミーナを見ていると色々我慢が出来なくなる。


「ミー…」


ガバっといこうと瞬間、俺の眼前に矢が通り過ぎる。リンですね、わかります。


ちょっと野性的になってしまったので反省する。


「それでは、みんな集まってくれ」


俺は何事もなかったかのように、みんなを招集した。


「今回のモッハトルテ国の迷宮で俺たちは、かなりの経験値を稼いだ。そろそろ良い時期だと思う」


みんなも自分のステータスは把握している。


俺とミーナを除けば成長は限界に達しているから、魔王(親父)に挑戦しても良い時期だと思う。


「マオ、お前のお父さん倒せるかな? いや、倒してもいいのか」


オルガが素直な疑問をぶつけてくる。


「今の俺たちなら、かなりいい勝負ができると思う。倒していいのかと言えば、魔王はそういうものだから仕方ないと思う」


「マオくん……」


ミーナが心配そうに俺の方を見ている。


「勇者は魔王を倒すために生まれてきている。ミーナは魔王を倒さなければならない。俺は親父とミーナ、どちらかを選ぶと言うなら、ミーナしか選べない」


「息子のお前がそう言うなら仕方ないな」


オルガはニッコリ笑って答えた。


「親父は、正直凄く強い。でも今の俺たちなら倒せるかもしれない。挑戦してみよう」


「御主人さまのいうとおりついていきます」


「私も頑張って回復するわよ」


リンとカルさんも相変わらず俺についてきてくれる。嬉しい限りだ。


俺たちはすぐに出発の準備をして、モッハトルテ国王に別れの挨拶をし、転移で魔王城へ向かうことにした。


そしていつも通り魔王城の入り口に転移した。なぜか知らないがササが一番最初に俺たちの前に来る。


「にぃ~だぁ。にぃの匂いがしたと思ったよ。また、みんなで遊びに来たんだね」


今回は遊びではないんだがな。こら、そこの勇者、ササを抱いて目をキラキラさせない。


これから魔王と戦うのに何て緊張の無さなんだ。


俺たちは魔王城へと入っていった。いつもは弾丸のように飛んで来る母親がゆっくりと姿を現した。


「あらあら、マオくん達、いよいよするつもりなのね」


さすが母親だ。俺たちが何をしに魔王城に来たかはわかっているみたいだ。


「あの人も喜ぶわね。いきなり99階層に行ってもいいけど、パーティーの戦い方については話し合ったの?」


しまった。いつも通りの戦い方をするつもりで何も話合わなかったけどまずかったか。


「少し相談した方がいいわよ。終わったら魔王の間にいらっしゃい」


母親に言われ、とりあえず俺の部屋に移動した。


「さて、作戦だけど親父は魔術師だからな。99階層に転移したら魔法をガシガシ撃ってくると思う」


俺とミーナなら直撃を受けても1発は耐えられるだろう。2発目はわからん。


「私とマオくんは離れて挟みこむように攻撃していこう」


「そうだな、カルさんはオルガに守ってもらいながら、みんなの補助をしてもらおうか。リンは……」


あ、しまった。リンは魔法の矢でしか基本攻撃できない。


親父(魔王)には魔法は効かないしどうするか。


「御主人さま、大丈夫です。対魔王用にオルガに武器を作ってもらったのです」


そう言えば、モッハトルテ国でオルガが武器を作っていたな。なんの武器だったんだ。


「これです」


リンは弓を見せた。なるほど、魔法の弓ではなく、実物の弓か。


ジョブ的に考えて弓の武器なら他の種類の武器と違って使いこなせるのかもしれないな。


矢も大量に作成していて、それはリンのポーチにつまっているらしい。


オルガよ、どれだけ鍛冶大好きなんだお前は。


「なるほど、リンは弓で攻撃してくれ。くれぐれも親父(魔王)の魔法をくらわないように気をつけてな」


「わかりました」


「ねぇ、マオくん。魔王には普通の攻撃は効くのかな」


「魔法以外なら攻撃は効く。でも回復スキルもってるから、致命傷にするのは難しいと思う」


「ということは、やはりライトセイバーで斬りつけるしか倒せないのね」


恐らく親父(魔王)を倒そうとするのならそれしかないだろう。


そして俺もライトスマッシュで攻撃し続けるつもりだった。


その後も立ち回りの話し合いをして、何とか作戦を立て終えた。いよいよ魔王との戦いだ。


俺たちは魔王の間へ向かった。魔王の間では親父が奥の椅子に座っている。


身長は2メートルぐらいの大きさで待っていた。


小さくなっているのは良いが、なんと腕が6本生えていた。


「マオくんのお父さん、腕6本もあったんですか」


ミーナが軽く驚いていたが、俺はかなり驚いていた。


俺は今まで親父と訓練していたが本気の時は腕が4本だと思っていたからだ。


6本の腕を生やした親父を見るのは初めてだった。


「いや、今まで4本生やしていたのは見たことがあるが、6本は初めてだ。魔法の攻撃が更にきつくなりそうだ」


魔法は腕から放たれることが多いため、腕の本数が増えると同時に色々な魔法で攻撃される恐れがある。


そして親父は威圧スキルを最大限に使っている。


しかし俺たちパーティのメンバーで威圧スキルごときで倒れるような者はいなかった。


まあ、一般人なら即死だけど。


母親が俺たちに近づいて来た。


「今からあなた達を魔王と共に99階層に転移しますね。本来なら1階層から順に降りてきてもらって戦うのですが、魔王も今回の戦いが気に入っているみたいですぐ戦いたいそうです。私が腕を上げたら転移するので、準備してくださいね」


母親はチラリと親父の方を見て、また俺たちの方を向いた。


「それでは、気を付けてくださいね、カルさん」


ん、なぜここでカルさんに話しかけた。母親が手を上げると俺たちは転移を開始した。


転移で俺たちは99階層に飛ばされるのだろう。


だだ広い部屋みたいなところに俺たちと魔王、そしてなぜか母親まで転移されていた。


「マオくん、あれ」


ミーナが指さす方向には親父(魔王)が6本の腕を広げて魔法を唱えているようだった。


背後には6つの大きな火の岩、いや隕石が見えた。


瞬間、隕石が解き放たれ、高速で隕石が向かった先はカルさんだった。


「カルさんっっ」


俺は声を上げるのが精一杯だった。親父(魔王)はいきなりカルさんを狙ったのだ。


母親はこれを教えてくれていたのだろうか。


「ふあっはっは。回復役を潰すのは戦いのセオリーだ。回復役さえいなければお前らはゴミ同然だ」


親父ながらムカつく言い方だ。だが、それよりカルさんの無事を確認しなければならない。


もし今の攻撃でカルさんがやられていたら被害は甚大だ。


隕石衝突で煙がモアモアしていたが、ようやく晴れてきた。


そこにはカルさんを守るオルガの姿があった。


オルガの盾でカルさんを守れたみたいだ。良かった、カルさんは元気そうだ。


オルガも大してダメージをくらっていないようだ。


「隙ありっ」


ミーナが知らぬ間に親父に斬りかかっていた。


親父も油断していたのか、腕でガードしたため、肘から下が斬り落とされてしまった。


「今度の勇者はなかなかやるな」


親父、余裕かましてるけどライトセイバーで斬られたから、徐々に消滅していくぞ。


と心の中で突っ込んでおいた。



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