第四話 勇者(見習い)と親父(魔王)のファーストコンタクト
俺が親父を紹介しようとしたら、ミーナに驚かれた。
「え、何。私殺されに行くの?」
どうも俺がミーナを親父につきだして戦わせようとしていると思ったみたいだ。
いやいや、そんな馬鹿な。
何でミーナ殺させるの。確かに親父は強い。俺でも全然敵わないよ。
勇者しかも(見習い)をぶつけたりしない。
「違うよ。顔合わせだけだよ。将来ミーナは勇者になって、親父(魔王)倒さないといけないんだろう。
どんなもんなんか見といても悪くないだろう。それに親父は1度勇者を倒しているから、興味なさそうだし。俺に勇者討伐任せるぐらいだからな。いきなり襲われたりはしないから大丈夫」
「本当かな。う~ん、でもマオくん優しそうだし信用しても大丈夫かな」
うん、信用してくれるのは、凄く嬉しいけど、ミーナ大丈夫? チョロインなの? 騙されたりしない?
まあ、今回は本当に大丈夫だと思うけどね。
「それじゃあ、行こうか」
そう言いながら右手を出してミーナの手を求める。
ミーナは、えっという感じで一瞬戸惑ったがすぐに手をだしてきた。
ミーナの右手は柔らかかったが、剣の練習の跡かマメが出来ていた。
真面目に訓練しているんだなと思った。
魔王城を思い浮かべつつ、転移の魔法を発動する。すると一瞬暗くなった後すぐに魔王城の前に着いた。
今度は、ほぼ地面と同じ高さくらいに転移したので、無事両足で着地できた。
「ここは?」
まだ手を繋いだまま、ミーナが話かけてくる。
「魔王城だよ。僕らが住んでいるところ。アークザリア迷宮の100階にあたる所だよ」
「100階? ウソっ。迷宮は99階までじゃないの?」
「本当だよ。100階より下は魔族の住処なんだ。99階より下があるのは秘密だけどね」
ミーナが軽くあわあわしていると、妹のササの声が聞こえてきた。
「にぃ~おかえり~」
小さな羽をパタパタさせてこちらに飛んでくる。
そしてポスっと俺の胸に抱きついたササの頭を撫でてやる。
そんなササを見ながらミーナは更にあわあわしている。
「な、何なのその子。可愛いすぎなんだけど」
ふんす、ふんす息を吐きながら、ミーナが興奮していた。
「こいつは、俺の妹のササだ」
ササは首を上げて、ほよっという感じでミーナの姿を見た。
「にぃ、この人間誰? もしかして彼女?」
年の割にませたことを言う妹だ。彼女ではない、だが、彼女にしたいくらい可愛い。
「私はミーナ。マオくんの彼女ではありません。よろしくね」
なぜか両手を広げてウェルカムの状態のミーナ。
何かを察したのか、ササが俺の胸からミーナの胸へ飛んでいった。
そして、見事にミーナに抱きしめられていた。
「可愛い~。何、この小さな角と羽。尻尾まである~」
ミーナは明らかに興奮している。このままでは、ササはミーナの胸で窒息死するに違いない。
「ミーナ。そのままだとササが死ぬぞ」
俺の言葉にハっと気付いたのか、ミーナが両腕の力を弱めると、ぷはぁっとササが無事呼吸をした。
「ご、ごめんなさい。つい興奮してしまいました」
おいっ、つい興奮で殺しそうになるのか。とツッコミを入れたくなったが自重した。
「あれ? そう言えばマオくんは見た目人間っぽいけど、角とかはないなのかな」
あぁ、そう言えば角と羽を収納していたの忘れてた。意識しないと出し入れ出来ないんだな。
ふんっとイメージすると角と羽が身体から出てきた。
「やっぱり、マオくんも魔族なんだね。角とか隠していたら鑑定スキル持ちじゃないと気が付かないよ」
気のせいか、ミーナが俺のことをじっくり見ている気がした。
ササはじぃっとミーナの顔を見ている。
「ねぇみたいなカワイイ人間がにぃの彼女だったら嬉しいのに~」
ミーナは、ササから声を掛けられて、顔を真っ赤にして返事した。
「なります。今すぐ彼女になります。ならせてください」
え?何言ってるのこの人。いや、俺は彼女になってくれるのは全然OKなんだが。
ちょと動機がおかしくないか。
俺が多少引いているのを感じたのかミーナが続けて言い出した。
「な~んちゃって」
「「 ・・・・・・ 」」
2人いや2魔族ともドン引きである。
俺は、汗がダラダラ出てきたミーナに近づき、肩をとんとんして落ち着くように言った。
しばらくしてミーナが落ち着いてきたので、ササにミーナの説明をした。
「このミーナという人間は、勇者(見習い)なんだ」
するとササがビクンとして驚きながら言った。
「しゅ、しゅごい、にぃはもう勇者見つけてきた。ママに報告でしゅ」
いや、見習いなんだけど。と言おうとしたがササはピューっと飛んで行ってしまった。
玄関前にいつまでもいても仕方がないのでミーナと城の中に入ることとした。
すると前方から白い物体がこちらに急接近してきた。
いや、白い服を着ている母親だろう。これは相当気を入れないと大惨事になる。
スピードがヤバすぎだ。
ズドーンという音ともに俺は白いものに包まれた。
慣れているとはいえ、油断はできない威力だ。
「マオくん、おかえり~。もう勇者見つけてくるなんて、超優秀なんですけどぉ」
俺は何とか首を横に振ってスペースを確保して言った。
「勇者の見習いだけど、連れてきました」
見習いと聞いて母親の拘束が緩くなったので、離れることに成功した。
母親はミーナの方に体を向けて、ミーナの身体を上から下まで見渡した。
「勇者は見習いだったのねぇ。それだと勇者になるのは、まだまだね」
でも、すぐに見つけてきたマオくんは偉いわと言いながら、俺の頭を撫でてきた。
恥ずかしいからやめて欲しい。
「父上に会わせてみようかと思います」
「父上・・」
なぜだかミーナがジト目でこちらを見つめてくる。
「あの人は勇者にはもう興味ないみたいだし、見習いなら尚更興味なさそう。まあ、でもマオくんが勇者(見習い)を連れてきたのは報告するほうがいいわねぇ。いつもの部屋にいると思うわ」
いつもの部屋、魔王の間か。俺はミーナについてくるように言って、魔王の間に向かう。
いつの間にかササも近くに来ていた。母親がミーナの横を歩き何か会話をしている。
竜人語ということは分かったが内容までは聞こえない。ミーナは竜人語も話すことができるのだな。
何かミーナが顔を赤くしていたが、もしや俺の小さい頃の恥ずかしい話とかしていないだろうな。
まあ、俺の小さい頃の記憶はあるが、それは転生の記憶を持つ俺ではないから他人事みたいに感じるが。
ササは俺の背中におんぶされている。ミーニャ、ミーニャとか小声で何か言ってる。
それはそれで可愛い。
そうこうしているうちに魔王の間に着いた。大きな扉を開き、俺、ミーナ、母親、ササが部屋に入った。
親父はいつも通り、大きな姿で座っていた。
ミーナを見ると大きさにビックリしたのか、あわあわ言っていた。
そして、親父が言葉を発した。
「儂が魔王だ」
いや、知ってる。
ミーナにも教えた。
魔王に会わせると伝えていたのだから、何当たり前のこと言ってるんだ、この魔王。
しかも魔王の威厳というスキルを使いながら発声しただろう。
普通の人間なら恐怖で死ぬぞ。ん? 死ぬ?
俺は、バっとミーナの方を振り返る。ミーナは口から泡を吐いて倒れるところだった。
母親がすぐに支えてくれて倒れずにすんだので良かった。
母親は「大丈夫よ」と言いながら、ミーナの身体を俺に預けて部屋に連れて行くように言った。
俺は受け取ったミーナを抱えながら自分の部屋へミーナを運ぶこととした。
魔王の間を出てすぐに「あ~な~た~」という母親の大声が聞こえてきたけど、気にしないことにした。
ササはいつの間にか姿を消していた。
とりあえず、ミーナを俺の部屋のベッドに寝かせた。息はあるようなので死んではいない。
良かった。ホント良かった。
親父ダメだろ、勇者とそのパーティ以外は、威厳耐えられないからな。
ミーナも勇者(見習い)だから何とか大丈夫だったんだろうな。
でも相当な恐怖を感じただろう。
俺は、まだ意識が目覚めないミーナに魔淫のスキルを発動した。
これで少しは落ち着いてくれるだろう。
何気なくミーナのステータスを確認してみた。
名前:ミーナ・セルジロ
種族:人間(女性)
スキル:鑑定Lv1、ハヤブサ斬りLv1、防御Lv3
称号:お人よし
JOB:勇者(見習い)Lv2
すげぇ、魔王の威厳スキルを1回くらっただけで、勇者LVと防御スキルLVが上がってる。
すぐに自分のステータスを確認したが、前と全く変わっていなかった。
いつも親父と一緒にいたし、慣れてるか。
俺は、ミーナが目を覚ますまで椅子に座りながら、可愛い寝顔を見ていた。