第三十九話 勇者ミーナが最後まで出来ない理由は謎
料理の湯気加減からして、食事は出来たてだと思われる。
すなわち、親父も席に着いたのはついさっきだろう。これなら怒られることもないだろう。
なのに、なぜ、威圧してきているのか。
みんなが固まって動けなくなったら食事どころではないのだが。
しかし、みんなはそれほど威圧を気にすることなく席に着いていった。
だいぶ耐えれるようになってきているんだな。正直感心した。
さすがLV99のメンバーだ。魔王の威圧に耐えられなければ戦うことは出来ないわな。
「ほぉ、これはまた団体で訪ねて来たな」
親父、何だか嬉しそうだ。残念だけど、すぐに戦ったりはしないからね。
「父上、ミーナを勇者にし、パーティメンバーを加えたこの場にいる者が勇者パーティです。もちろん私もメンバーの一人です」
親父は一人一人をじっくりと見ている。魔眼でスキル等を確認しているのだろう。
特に勇者であるミーナを見つめている。「こら、そんなにミーナを見るな」俺は心の中で叫んだ。
「これは、素晴らしい。今回の勇者は限界突破のスキルを持っておるではないか。マオも同じスキルを持っているとは、すでに現パーティメンバーは15年前の勇者パーティより確実に強いメンバーになっておる。まあ、儂も鍛錬はし続けているがな」
ガハハと笑いながら本当嬉しそうだ。
「あなた、食事が冷めてしまうから早くいただきましょう」
「そうだな、食べ終わってからまた話でもするか」
親父は威圧を少し緩め、食事モードに入った。そして俺たちも食事に手を付け始める。
ミーナが俺に視線を投げていた。うん、わかるよ言いたいことはね。俺はただコクリと頷いた。
ミーナが言いたかったことは親父の事だろう。
以前のミーナの鑑定スキルでは親父の真のステータスを見ることは出来なかったが、今なら見える、親父のステータスが。
名前:ウィル・アーク・デモン
種族:D魔族
スキル:ファイアLv159、ブリザドLv150、サンダーLv151、ウインドLv148、アースLv149、ダークLv120、魔眼Lv99、限界突破、転移Lv99、治癒Ⅲ、自動回復、無詠唱、魔法無効、魔力無限、勇者特効
称号:魔法の王様
JOB:魔術師Lv154
状態:やや興奮
魔法のレベルが150とかどんだけの威力なんだよ。想像できないな。
魔王だけあって取得スキルも多いし、最後の方のスキルはヤバイものばかりだ。
自分は魔法バンバン使うくせに魔法無効とか反則やし、勇者特効スキルってひどいな。
勇者は余計にダメージをくらうのか。それなら魔王特効ってスキルも欲しいもんだ。
ミーナもレベル100超えで親父とも少しは戦えると思っていただけに、まだ差があることを知って少し落ち込んでいそうだ。
大丈夫だ、俺がいるからな。
「マオくん、ミーナさんは2回目だから知っているけど、他の方々の紹介をしてくれるかしら」
母親がメンバーについて紹介して欲しいと言ってきた。一番知りたいのはリンのことだろうけどね。
俺はオルガ、カルさんの順でまず紹介した。
「で、こちらのエルフの少女は旅の途中で襲われていたところを助けたら仲間になったリンです。なぜか私の奴隷になってしまったけど、私から奴隷にした訳ではありません」
「は、初めまして。リン・イザルと申します。御主人さまに助けられたのは運命だと思っています。この身尽きるまで御主人さまのお世話をするつもりです。よろしくお願いします」
いや見事な一生奴隷宣言だ。ごめん、俺は引きます。
リンはちゃんと幸せになって欲しい。例えばポンパ村のツバイなんかいい線いってると思う。
「あら、マオくんミーナさんには楽してもらってリンちゃんを働かせる予定なの?」
なぜそうなる、というか今の説明ではそうなるのか。
「いえ、母上違います。リンは九死に一生を得たから私のことを気にしているのです。私はリンにはちゃんと幸せになってもらいたいと考えてます」
「ん~リンちゃんに何回魔淫スキル使ったのかな? 使いすぎるとマオくんから離れられなくなるけど」
「うっ」
それは回答に困る。確かに結構な回数リンとはキスしているが、それは仕方なくだ。
魔淫スキルが上がってからは2回ほどだろうか、マズイのか……。
「でもマオくん、まだミーナさんにも手を出していないようね」
ボっとミーナの顔が赤くなる。確かにキスは何度もしたがそれ以上は何もしていない。
「当たり前じゃ、儂はまだ勇者のことを認めておらんからな。儂が認めるまではマオとの正式な付き合いも無しだ。大体、イチャイチャして儂に勝とうなんて100年早いわ」
100年したら勝てるのか? いや、その前にミーナは人間だから死んでいるな。
「あなたが認めるかどうかはともかく、ミーナさんに一言いいますね。マオくんと最後まですると魔王は絶対に倒せないわよ」
ブーーーッ。 吐いた、俺初めて口から噴き出したわ。
最後までするって、食事の時に話すことか? ササが『おにぃ汚い~』って叫んでいる。
爺が素早く寄ってきて拭いてくれている。サンキュー爺。
「あ、あの最後まですると勝てないってどういう事なんでしょうか?」
ミーナ、そこ聞き返す?
もしかして最後までしても良いとか思っていたのか、いや、そんな事は無いよね。
「ミーナさん、その理由はここでは話せないわ。色々とマズイことなの。でも、後で教えてあげるからね」
どういう事だ。最後までするという言葉はOKなのに、勝てない理由がここでは話せないとは。
気になる、後でミーナに聞いてみることにするか。
「さて、お腹もいっぱいになったことだし……」
「今回は戦いません。顔見せに来ただけですから」
親父の奴、戦う気満々だ。今の戦力では、まだ親父に届かない気がする。
もう少しレベルを上げないと負けてしまう。
俺からあっさり断られ、親父は寂しそうに転移していった。
良かった、強引に戦いになったら大変なことになっていた。
「お風呂の準備が出来ているわ。ミーナさん、カルさん、リンちゃん一緒に入りましょうか」
母親がササも連れてみんなで浴場に移動した。俺は残ったオルガと一緒に別の風呂に向かった。
いつもは親父専用の風呂で露店風呂となっている。広さは結構ある。
「ふ~気持ちいいなぁ」
つい、おっさんみたいな感想が口から出てしまう。
「マオ、さっき魔王と会ったが以前見かけた時と違って平気でいられたよ。レベルが上がったせいかな」
「そうだな。親父の威圧結構きつかったと思ったけど、みんな平気そうだった」
「ただ、魔力のない私でも魔王の魔力を感じた気がした」
「親父は魔王だからね。ほとんどの魔法を使えるし、レベルも150くらいだし、魔力無限、無詠唱……ひどいな」
「魔王とんでもないんだな。マオ、私達のパーティで勝てるのか?」
「いや、今はまだ無理かもな。もう少し実践経験を積んで臨めば可能かもしれない」
「そうか、マオが言うならそうなんだろうな。しかし、魔王倒してもいいのか? 父上なんだろう」
「それ(父上)は言わないで。まあ倒せるかどうかわからないけど、ミーナは絶対守ってみせるよ」
「私もカルをしっかり守らないとな」
男2人でゆっくり入る風呂もなかなか楽しい。
のんびり時間が過ぎていくこの感じ、すっかり忘れていた。しばらくは魔王城に滞在しておこうかな。
風呂を上がり、俺たちは部屋に戻ったが女性陣はまだ戻ってきていなかった。
少しウトウトし始めた頃にミーナ達が部屋に帰ってきた。
風呂上がりの女性というのは、みんな色気があって視線に困る。
ミーナは俺を見かけると顔を真っ赤にしていた。何か母親から聞いたのだろうか。
もう、だいぶ眠くなってきたので俺はベッドに寝そべっていた。リンが俺の隣にやってくる。
「えへへ~御主人さま。リンは御主人さまなら何されても良いですよ」
あれ、リンは興奮状態なのか。ミーナを見ると顔は真っ赤にしたままだが、ベッドに寄ってこない。
「ミーナもおいでよ」
俺が誘うと嬉しそうな顔をするミーナ、可愛い。でも中々近づいてこない。どうしたんだろう。
「あ、あのね。私マオくんのこと信じてるから。魔王倒すまで我慢するって」
ん? 何を突然言っているんだ。何を我慢……、ナニか。さっきの食事の時の話と関係あるのか。
「ミーナ、その、さっきの食事の時の話だけど、魔王を倒せないってどんな理由?」
「はわわっ」
ミーナのあわてぶりが凄い。
「マオさん、それ聞いちゃう。それ聞くと我慢できないかもだよ」
カルさんが横やりしてくる。何だか知らないが、ナニするのは我慢しなくてはいけないようだ。
まあ、別に最後までしなくても今はキスだけでも十分だしな。
「ミーナ、言いにくいことだったら、もうこれ以上は聞かないよ。夜も遅いし寝ようか」
ミーナは俺がこれ以上追及しないことを聞いて安心したのか、ようやくベッドまできて寝る体勢になったが、いつもと違って少し距離を開けられた。
もう、余分なことをミーナに言うのはやめて欲しい。
リンが俺の片腕にがっちりしがみついて寝る体勢になっていた。
次の日は爺が起こしに来てくれた。親父は朝から外出していたので親父を除いたみんなで朝食を摂った。
ササがリンのことを気に入ったのか、リンから魔法について教わっていた。
ナイスだササ、おかげで俺はミーナと2人きりになれる。
でもミーナの態度が少しぎこちないんだよな。
俺の事嫌ってはないと思うけど、少し距離開けられてるみたいな。
「ミーナ、どうしたの?昨日から少し変だけど」
「ご、ゴメンね。マオくんのこと意識し過ぎちゃって、何か私だけ恥ずかしい」
俺はいつものようにミーナの頭に手をのせ、撫でてやった。
「マオくんの頭撫で凄く気持ちいい。キスも気持ちいい。でもそれ以上されたら私が我慢できなくなるかも」
ボソっと言ったミーナの言葉はよく聞き取れなかった。
「よくわからないけど魔王(親父)を倒すまでは、我慢するよ」
そう言うとミーナはニッコリ笑って俺の肩に頭を預けてきた。何とか距離間も元通りだ、良かった。
さて、これからどうしようかと思っていた矢先にとんでもないことが起きていた。
それが判明したのは夕食の場だった。親父が席に着くなり口を開いた。
「ところで勇者ミーナよ、今、アークザリア王国はドラゴンの群れに襲われているがノンビリしていていいのか?」
「「「「「えっ」」」」」
一同唖然とした。そういう大事なことは早く言って欲しい。
というか大丈夫なのかアークザリア王国。
俺たちは夕食を諦め、すぐに出発の準備をした。
そして親父にアークザリア王国まで転移するように頼んだ。
夕食が済むまでは転移しないと言っていた親父だったが、母親の一声で渋々俺たちを飛ばしてくれた。
おかげで俺たちはドラゴンに襲われているアークザリア王国に一瞬で着いた。




