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第三十七話 リンの故郷と少年エルフ

リンが両親に挨拶したのと同時に俺が感じた殺気の正体は、見た目リンよりも若いエルフの少年だった。


彼の持っている剣は切れ味も悪そうに見えたし、少年が全力で俺に斬りつけても俺の体は全くダメージを受けないだろうし無視することにした。


ところが、俺の前に影が迫りエルフの少年を吹き飛ばす者がいた。


「私のマオくんを傷つけるな~」


ミーナだった。ミーナ、俺を守ってくれるのは嬉しいけど相手はどう見ても子供だよ。


俺、子供より弱くないからね、ミーナの体当たりでエルフの少年吹き飛んだけど大丈夫なのか?


「ツバイ??」


リンがビックリした顔でエルフ少年に駆け寄る。少年は木にぶつかってケガをしているようだった。


俺はミーナにやり過ぎだぞ、と注意してリンのところへ向かった。


エルフの少年を俺を見るなり再び殺気を向けた。


「お前がリン姉ちゃんを奴隷にしたんだな。お姉ちゃんを自由にしろ」


あぁ、俺がリンを奴隷にしたと思って恨んでいるんだな。


お姉ちゃんって言ってるけど、リンの弟なのかな。


「ツバイ、あんた何やらかしてるの。御主人さまは私の命の恩人なの。強くて、優しくて、だから私が自ら奴隷を望んだのよ。それなのにあんたったら、剣を向けるとか有り得ないよ。しっかり話を聞いてよね」


まあ、俺がリンを奴隷にしたと考えれば憎い気持ちもわあるけどね。


とりあえず治癒でツバイの傷を治してやった。そして、リンの家へ俺たちは移動した。


リンが村から連れ去られたときの話から俺に救われるまでの話を両親にした。


ツバイは弟ではなく、幼馴染らしい。


「そうか、11~16歳くらいのエルフ女性が奴隷として捕まって、生き残ったのがリンしかいないのか」


リンの両親は娘だけが助かって嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだった。


リンも自分の今までの境遇を更に詳しく説明し、両親も酷い生活ではないことを知り安心していた。


そして寝るとき、広めの部屋に全員寝るだけなんだが、隣にきたリンが幼馴染の少年のことで俺に謝った。


「御主人さま、先ほどはツバイが迷惑かけてごめんなさい」


「あぁ、別に気にしなくてもいいんだよ。彼とリンは仲が良かったのかい?」


「えぇ、年もほとんど変わらなくて、私がさらわれるまでは一緒に遊んでいました」


「リンはこの村に残って生活してもいいんだぞ」


「私は要らない子なのでしょうか」


リンが少し俯き自信なさそうに呟いた。とんでもない。


リンはパーティに必要なんだが、まだまだ子供だし村で楽しく生活してもいいと思っただけだ。


「そんなことはないぞ。リンは凄く必要な人物だ」


ハッキリとリンに向けてそう言うと、リンが少し嬉しそうな顔をした。


「今は御主人さまと一緒に行動したいのです。足手まといになるまで一緒にいさせてください」


「そうか、わかった」


俺はリンの頭を優しく撫でてやった。リンは嬉しそうに目を閉じて顔を赤くしていた。


リンとは反対側にはミーナがいる。撫でてやること以上のことは出来ません。


俺はミーナの方を向いて大胆にもミーナを抱き枕代わりにしてやった。


ミーナも一瞬驚いたみたいだったが、特に抵抗もなくそのまま俺は眠りに落ちていった。


次の朝、みんなで食事をとっていると何か視線を感じた。


リンやミーナは既にそれが何かに気付いているのだろう。何しろ俺でもわかる。


視線の正体はツバイだ。


「朝から何か用かい、ツバイ」


「勝負しろ。お前がリン姉ちゃんを奴隷にしたんだから、負けたらお姉ちゃんを自由にしろ」


リンがヤレヤレという顔で何か言おうとしたが俺が腕で制した。


「ちょっと勝負してくるわ」


みんなに聞こえるように言って、俺はツバイと少し森の中に入っていった。


「ここらでいいか。自由にかかってこい」


俺はツバイに自由に攻撃させた。ツバイの武器は昨日と同じ剣だ。


斬られても傷などできやしない。ツバイは必死に攻撃をしかけてきたが、リンのパンチにも及ばない。


「ふぅ、ふぅ。お前無敵か」


ツバイも攻撃疲れになっていた。


「俺はお前じゃない。マオという名前がある。そして、その鈍らな剣では俺に傷をつけることはできない」


ツバイは剣を見て俺を見て、う~んと唸っていた。


「なぁ、ツバイ。お前はリンのことが好きなのか」


「な、なに言ってるんだ」


すぐに赤くなる顔、そしてこの慌てよう、間違いないだろう。


「リンは今、魔王退治のために俺たち勇者のパーティの一員として必要なんだ。だから一緒にいてもらっている。でも魔王を倒した後はどうなるのか俺は知らない。奴隷契約もそのときは解約しようと思う。それでリンがこの村に戻るのかどうかは分からないがリンの相手をするのなら相応に強くなっていないと相手にされないぞ」


そう言って俺は母親からもらった竜翼槍を取り出しツバイに渡した。


「この槍をお前にやる。そして俺が少し槍の基本を教えてやろう」


槍を受け取ったツバイは、その軽さ、性能に驚き、とても気に入ってくれた。


そして俺はツバイに槍の訓練をした。


しばらく、するとツバイもだいぶ槍を上手く使えるようになってきた。


なかなか才能がありそうだ。教えもどんどん吸収していく。


リンが俺たちのことが心配になったのか近づいてきていた。俺はそっとその場を離れた。


訓練に夢中になっているツバイの所にリンが近寄って何か話をしている。


リンもツバイと話しをしているのが楽しそうに見えた。うん、ツバイには頑張ってもらうのがいいかな。


結局、5日間ポンパ村に滞在した。


オルガ達は暇で仕方なかったかもしれないが、ツバイに槍を教えるのが面白くなってきて夢中になってしまった。


そしてポンパ村を離れるときになって、リンが少し寂しそうな顔をしていた。


「リンお姉ちゃん大丈夫だよ。俺もっともっと強くなってマオさんみたいになるから。だから安心して魔王退治して、それで魔王倒したらまたポンパ村に絶対来てね」


ツバイがリンにそう言うとリンがツバイの頭を撫でながら「うん」と応えていた。リンは大丈夫そうだ。


俺はツバイにマオさんと呼ばれるようになっていた。なんだか弟子ができたみたいで変な気分だ。


ツバイはまだJOBを獲得していないが、きっと槍関係のいいJOBが出てくることだろう。


ミーナはここ数日間情報収集をしてくれていた。


どうやら迷宮の入り口付近で魔族を見かけたという噂がいくつかあるらしい。


とりあえず俺たちはシルビア迷宮に向かうことにした。


リンの両親、ツバイに挨拶をして俺たちはポンパ村を離れた。


シルビア迷宮は、地下30階ぐらいと聞いている。とても魔王とか発生していないように感じられた。


相変わらず走って移動の俺たち、シルビア国の南部に迷宮はある。


もう少しで迷宮というところでリンが声を出した。


「みなさん、止まってください。魔族がいます」


うん? 俺では全然気配が分からない。ミーナでさえ感知できていないようだ。


「トレント族の魔族です。木に擬態しています」


そうか、木に擬態しているからミーナの検知スキルではわからなくて、リンの魔力感知の方に引っ掛かったのか。


それにしてもトレント族か。話できるのかな。ヴーヴー言ってるイメージがあるからな。


俺たちは迷宮近くからゆっくり近づいて行った。


「あれとあれとあれが魔族です」


リンが3本の木を指して教えてくれた。魔眼で言われた木を見てみた。


名前:ザーナ・ザーナ

種族:T魔族

スキル:林檎Lv15、樹液Lv18

称号:森の一部

JOB:森林士Lv20

状態:木


本当だ。T魔族ってなってる。言われなきゃ分からないよ。だって状態も木だし。


スキル林檎、樹液って何なんだ。


『おい、また人族が来たよ』


『またかよ、どうせ俺たちの林檎目当てだろう。採られると痛いっつうの』


どうやら、こいつらは人間たちに林檎を採られているようだ。


「マオくん、気を付けて。魔族が何か話をしているわ」


あれ? そう言えばヴーヴー聞こえないと思ったら俺の指輪翻訳スキルついてたわ。


みんなにはヴーヴー聞こえるのかな。


「ミーナ、大丈夫だよ。人間に対して林檎採るなって文句言ってるだけだよ」


「え? マオくんヴーヴーの意味分かるんだ」


『おい、あいつ俺らの言葉が分かるみたいだぞ』


『本当か。凄い人間もいたもんだ』


「翻訳スキル持っているからな。俺、あいつらと話をしてみるよ」


魔族と言えどLv20ぐらいなら全く相手にならないだろう。俺は一人で魔族に近づいて行った。


『待て、お前は俺達の言葉がわかるのか?』


「あぁ、分かるが。それがどうした」


『おぉ、人間でも会話できるやつがいるとは驚きだ』


「お前らはこの迷宮の前で何をしているのだ」


『ここは、適度に魔力があって、体に気持ちいいからだ。それなのにお前ら人間が俺達の林檎を盗っていく』


「だから襲うのか?」


『襲ってなどいない。林檎を盗むなと言ってるだけだ』


なるほど。普通の人が聞いたらコイツラの言葉はヴーヴーとしか聞こえない。


何か木の化け物に襲われている気になったのだろう。


「お前らは迷宮の中に移動できないのか」


『移動はできるが、なんであんなうす暗い所に移動しないといけないのだ。太陽の光を浴びた方がよっぽど体に良い』


その通りである。コイツらの言い分に間違いはない。


「わかった。俺たちがこの国の王様に話をつけて、迷宮近くの林檎は採らないように注意してくるわ」


『本当か』


『おぉ、それは助かる』


『お前みたいな人間もいるのだな。見直した』


「いや、まあ俺も魔族だけどな。ひとつ聞きたいのだが、この迷宮に魔王はいるのか?」


『魔王? とんでもない、ここの迷宮は30階層ぐらいだ。魔王なんているわけない』


「そうか。それなら問題ないな。2,3日中に王様に話をしてくるから無茶なことはするなよ」


『『『わかった』』』


「マオくんの話だけでも何となくわかったけど、とりあえず国王のところへ行くのね」


「あぁ、そうだ。ここには魔族がいるけど害のある魔族ではないしな。手をださなきゃ問題ないだろう」


俺たちはシルビア国王のところへ向かうことにした。徒歩で。

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