第三十六話 対アークザリア精鋭-3-
〇 リン視点
みなさん、凄い。御主人さまが凄いのは言うまでもないけど、オルガさんも流石です。
私も勇者パーティの一員として無様な戦いは見せられません。
オルガさんの戦いが終わった後に御主人さまに呼ばれました。何だろう? わ~い。
喜んで近づいてやりました。ミーナの悔しがる顔が見えました。
御主人さまは私に次の戦い方を教えてくれました。御主人さまのお話は本当にためになります。
これで勝利間違いなしです。御主人さまの話はこんな感じでした。
「リン、いいか良く聞け。相手はエルフの魔法使い、魔法には相当自信を持っているのだろう。恐らく極大魔法で一気に決めにくると思う。弱い魔法なら無詠唱で連発できるのだろうが、それではリンにダメージを与えられない。だからこそ詠唱の時間がかかる強力な魔法で攻めてくる。その詠唱の隙を狙って攻撃し、詠唱を妨害してやればいい。恐らく相手も妨害の事など百も承知だ。結界魔法か何かで妨害できないようにしてくるだろう。そこを妨害できるかどうかが勝負を決定する。わかったな」
その後頭を軽くポンポンされたら、幸せすぎて御主人さまのアドバイスが頭から抜けてしまいそうになりました。
そんな幸せな気分に浸っていたら、ロメリアと言う年増エルフが近づいてきたのです。
そして奴隷の私を馬鹿にしてきました。
いいんです。私は奴隷になりたくてなったから恥ずかしくないんです。
そんな事は気にしてませんと思っていたら、ロメリアは暴言を吐きました。
「雑魚の奴隷になったんだ。ふ~ん」
ブチブチっと何か切れる音がしました。あれ? この年増エルフ何言ってんの。
誰が雑魚だって。私の事を馬鹿にするのは100歩譲って許しましょう。
しかし、御主人さまを馬鹿にしましたね。あなたの死は確定しましたよ。
体中が熱くてたまりません。私の体の中の魔力も沸騰しそうな勢いで暴れてます。
とりあえず、御主人さまの近くで戦いはできないので、少し移動することにしました。
「私こそが勇者パーティに相応しい。魔法使いを極めた私の魔法に恐れ慄くがいい」
ロメリアの戯言には耳をかしません。私の怒りは120%ぐらいの状態です。
最初から全開でやっつけてやります。
「それでは、勝負開始」
アークザリア王の勝負開始の声が聞こえた。私は素早く魔法の矢を最大数(99本)発現させた。
ロメリアは何やら詠唱している。そんな詠唱なんて終わる前に勝負をつけてやる。
私は魔法の矢をロメリアに向けて発射した。
すると魔法の矢はロメリアに当たる前に見えない壁に弾かれていった。
御主人さまの言う通り結界を張っていた。
結界の中でロメリアはニヤリと笑いながらも詠唱を続けていた。
いかにもあなたの考えはお見通しよ、みたいな顔に私の怒りがさらに大きくなった。
続けて第2波攻撃だ。間髪入れない魔法の矢の攻撃に結界もヒビが入った。
ロメリアの顔が一瞬驚きの表情をしていた。
続けて第3波攻撃だ。
この攻撃で完全に結界を破壊することに成功した。
ロメリアにもわずかながらダメージを与えることができた。
「何これ、何で私の結界が壊れるの? 魔法矢の攻撃も早すぎじゃない」
詠唱を中断させられたロメリアが驚きの声を上げた。でも、そんなの関係ない。
御主人さまを馬鹿にした者には死を与える、これは決定事項なのだ。
私は第4波攻撃を行った。魔力を帯びた魔法の矢が一斉にロメリアを襲う。
「う、嘘。こんなに大量の魔法の矢を無詠唱で連続で発現させるなんて……」
彼女が全てを言う前に数十本の矢が彼女を貫く。魔法使いが体中に矢を受けたらどうなるのか。
もちろん彼女は体に数十本の矢を突き刺したまま絶命したのだ。
「勝者リン・イザル」
アークザリア王の宣言とともに魔法の矢を消失させた。
ランという人がロメリアに近づいて蘇生していた。私は御主人さまに向かって走りだした。
そして御主人さまに飛びつく。そんな私を御主人さまはがっちり受け止めてくれた。
「リン、ちょっとやり過ぎの感があるけど、よくやった。強かったぞ」
そう言って御主人さまは褒めてくださいました。嬉しいです。
さっきの怒りの気持ちなんてどこかへ飛んでいったみたいです。
生き返ったロメリアは私の顔を見て青ざめていました。ザマーミロです。
私のポジションは誰にも譲らないのです。
〇
アークザリア王も最初のうちは余裕があったのだが、ガンやロメリアが敗れたのはショックだったみたいだ。
「いやぁ勇者ミーナよ、さすが勇者パーティの面々だな。よもや我が国の精鋭たちが負けるとは思いもよらなかったわ。確かに勇者のパーティに必要なのは強いメンバーの方であろうな。今後も今のパーティで魔王退治をよろしく頼む」
王様もようやくうちのメンバーの実力を認めてくれたみたいだ。
メンバーの入れ替えなどなくてよかった。俺は今のパーティは結構お気に入りだ。
その後王様に招待され、俺たちは王様達と一緒に食事をすることになった。
ランさんとカルさん、ガンとオルガは仲良さそうに一緒に食事をしていたが、ロメリアとリンは目も合わそうとしていなかった。
イケメンは、ミーナにちょっかい出すのを止めて欲しい。
「ところで勇者ミーナよ。実は最近シルビア国で魔王が出現したという噂を聞いてな。真偽を確かめに行ってもらえないか。まあ、こちらでは魔王は確認できていないのだが」
「わかりました。魔王の出現が本当だとしたら大変な事になります。早速明日にでも出発したいと思います」
「ふむ、任せたぞ」
魔王の話がでたときにリンが一瞬寂しそうな顔をした。
何か思うところでもあるのだろうか。あとで聞いてみるとするか。
食事を終え、宿屋に戻った俺は部屋で一休みしようとした。
ふと、視線を感じて見るとリンが何か俺に言いたそうにしていた。
「あ、あの御主人さま。誠に勝手ながら明日から7日間ほどお休みをいただけないでしょうか」
おや珍しい。いつも俺の予定を気にして側にいたがるリンがどういう風の吹き回しなのだろうか。
「休みをとるのは全然構わないけど、何かあったのかい?」
リンには悪いが、リンがいなければその分ミーナとイチャイチャできるので休みを認めない理由がないのだが、リンの休みの理由がふと気になった。
「実はわたしの出身国はシルビア国なのです。そこで魔王が出現したという噂を聞いて故郷の村がどうなったのか確認したいのです。私事で本当にすみません」
そうか、リンはシルビア国で暮らしていて奴隷商人に捕まりカーマ国へ売られそうになったのか。
俺もいくつか国を周ったがカーマ国の差別が一番ひどいからリンが売られなくて本当に良かった。
故郷が気になるのも仕方がないだろう。
「そうか故郷が心配なんだね。それなら当然様子を見に行きたくなるな。で、何で1人で行こうとするんだい? 俺たちは一緒に行けないのかい?」
リンがとんでもないですよという感じで手を振りながらアワアワしていた。
「わ、わたしの村のことでしたので御主人さまに迷惑かけられないと思いました」
「俺たちは仲間だろう。リンの育った村も見てみたいし、みんなで様子を見に行こうか」
俺がそう言うとリンが目に大きな涙をためて嬉しそうに微笑んでくれた。
「ありがとうございます御主人さま。やはり私は御主人さまが一番大好きです」
ペコペコお辞儀するリンが凄く愛おしく思えてハグしそうになったが、何とか我慢した。
ミーナの視線に気付いたおかげだ。
「リンちゃんったら他人行儀なんだから。私たちは仲間なんだし、一緒に行動しようよ。シルビア国へ行くことになったしちょうどいいよ」
「ミーナもありがとう」
素直にミーナにもお辞儀をしていた。
しかし、1度お辞儀をすると俺の横に転がりこんできてぎゅっと俺の腕を掴んできた。
「御主人さまと一緒に村へ戻れるなんて幸せです」
可愛いのはいいのだが、ミーナの機嫌が悪くなってきている。
ミーナもリンとは反対側に転がり込んできて同じようにぎゅっとしてきた。
ただミーナの場合はリンとは違って柔らかいものの感触がハッキリと感じられていた。
当ててんのよという主張がハッキリとわかった。嫉妬なんかいらないんだけどな。
俺はミーナの額に軽くキスをした。
次の日オルガたちにもリンの村へ行くことを説明した。もちろん反対意見などは出なかった。
リンの村だが、ポンパ村という小さい村で舗装などは全然されていない木々の間を進まないと着けない村なので、今回も馬車ではなく走りで移動することになった。
確かに走りで移動も速いのだけれども、走りっぱなしは精神的に堪える。
ポンパ村は、シルビア国の北部にあるらしい。都市アークザリアからはそんなに離れていない。
詳しい場所はリンしか知らないのでリンが先頭で俺たちは移動し始めた。
途中魔物が出てきたが、何か変わった魔物とか言う訳もなく一撃でサクサク退治されていった。
途中キャンプをしながら、俺たちはポンパ村を目指した。
「もうそろそろ、村に着きます」
リンが何か少し嬉しそうな顔をして、走るペースを少し上げた。
それから、数分後俺たちは元ポンパ村に着いた。
森の中でわずかながら開けたスペースがある。恐らく木で作っただろう家の残骸もある。
家だったと思われるものは全て破壊されていた。
人の気配もない。もしやポンパ村は魔王に襲われてしまったのだろうか。
リンがショックを受けていないかと思いリンを見るとリンは走り回って何かを探しているみたいだった。
「あ、あった。これだ」
リンは何やらつぶれた家の柱だったと思われるところに文字を発見した。
「御主人さま、ポンパ村の住人は引っ越ししたみたいです。場所はここから南東へ10㎞ほどいったところです。私たちの村は時折移動しているんです」
どうやら、魔王とかに襲われてしまった後ではないようだ。
「びっくりしたよう。ポンパ村が魔王に襲われたかと思ったよ」
ミーナも同じ考えだったようだ。村自体が移動するので、村長の家だった柱に次の移転先を記すそうだ。リンはそれを探していたみたいだ。
俺たちは、もうひと踏ん張りと思いさらに10㎞ほど移動した。
するとさきほどと同じようにわずかながらのスペースに村が作られていた。
しかし、村は分かりにくいところにあった。リンが案内しなければ見つけることは出来なかっただろう。
恐らくポンパ村はできるだけ外界との繋がりを断っているのだろう。
俺たちが村に入ると家からは続々とエルフが出てきた。
そしてリンを見つけると夫婦だと思われるエルフが声を出した。
「リン、リンなのかい。あぁ、やはり奴隷になってしまったのだね。ごめんな私達の力が足りないばかりに」
涙を流しているエルフにリンは近づいていった。
「お父さん、お母さん。確かに私はあちらの御主人さまの奴隷となっていますが、幸せな生活を送っています」
リンが俺の方を振り向きながら両親に説明した。その直後俺は鋭い殺気を感じた。
エルフの少年が剣を持って俺に斬りかかってきたのだ。
次回更新は14日0時です。よろしくお願いします。




