第三十三話 勇者ミーナの回想
ミーナの突然の戦争宣言に俺は全く反応することが出来なかった。
最初に反応したのはさすが騎士団長のオルガだった。
「ミーナ、いきなり戦争と言っても訳がわからん。まず、城で何があったのかを説明してもらえないだろうか」
オルガの言葉で少し落ち着いたミーナが今日の出来事を説明し始めた。
〇 ミーナ視点
今日の私は不機嫌だ。
アークザリア国王に会うのは全然いい、でも1人ってどういうことよ。
せめてマオくんと一緒とかいいじゃない。
パーティメンバーは宿にいる予定らしいけど、こういう時ってリンちゃんが心配だわ。
この前の件があるから勝手なことはしないと思うけど、マオくんお願いされると弱いような気がする。
あぁ早くお話を聞いて宿に戻りたいな。ご飯も中途半端だったし、残念だよ。
そんな事を考えて馬車に乗っていたらアークザリア城に着いた。
私は兵士に案内されて城の大広間で座って待つことになった。それからしばらくしても何も変わらない。
あれ? 今朝国王と会う約束だよね。
時間的に早いから先客がいるとは思えないけど、何で放置されているんだろう。
それとも何か、国王様となれば忙しくて、時間がおすほど大変なのか。
空いた時間に謁見するのだろうか。
なんかイライラする、まだ若いけどイライラする。
だって、その後も音沙汰なしだよ。暇過ぎるよ。
1辰刻ぐらいは待っただろうか、ようやく兵士に声をかけられ王様の前に案内された。
何度見てもアークザリア国王は威厳がある。さすがアークザリア領をまとめているだけのことはある。
片足をつけ、頭を下げた状態でも感じるほどだ。
「頭を上げこちらを見よミーナ。ついこの間勇者(見習い)だったお前が今は勇者となっていると聞いた。ふむ、確かに以前会ったときとは全然雰囲気が変わっておる。我と別れた後のことを話してくれ」
国王の隣にいる人物が恐らく鑑定スキル持ちなのだろう。最初に私を見て国王に何やら耳うちしていた。
私は最初からのことを説明した。
仲間に裏切られて殺されそうになったこと、マオくんに救出されたこと、リンちゃんを救ったこと、カーマ国での魔王退治とオルガ、カルさんのこと、ヘルメド国でラーシャさんと一緒に魔王を退治したことなど。
もちろん、マオくんが魔族、現最強魔王の息子であることは黙っていた。
私が誘拐されて洗脳されたことも話しはしていない。
魔物を退治するところはつい熱が入って詳しく説明してしまった。
「ふむ、それだけの経験をしたのなら勇者になっているのも納得できる。短期間で凄い成長だ。これならアークザリア迷宮の魔王も倒せるかもしれんな」
それって、マオくんのお父さんだよね。いや~無理。まだ感覚的にあの魔王には勝てない気がする。
強過ぎなんだよね、マオくんのお父さん。まだまだ修行してレベル上げないといけないなぁ。
そんな事を考えていたらお腹が鳴った。……恥ずかしい。
「はっはっはっ。そう言えば今日は朝早くから呼んだから食事も満足に取れていなかっただろう。悪かったな、こちらで昼食を用意してある。みんなで食べよう」
昼食、そんな言葉で喜んでしまう私はチョロインだと自覚してしまう。
ところで、みんなでって言ったけど実はマオくん達も呼んでいたのかな。もうっ国王ったら意地悪なんだから。
昼食の場所に案内されると見知らぬ男女4人が先に座っていた。
上座の誕生日席と言えるところに国王が座り、その周りに4人が座っている。
少し離れた反対側の誕生日席が私の座るところらしい。みんなって知らない人たちだった。
多分アークザリア国の騎士団とかの人たちだった。
それなりの雰囲気を醸し出していたから鑑定スキルを使わなくても分かる。
「よし、揃ったな。それでは先に食事にするとしよう。冷めたら美味しいものでもそうでなくなるからな」
国王の発言で先にというところに何か違和感を感じたが目の前の食事を見たら何も考えることはできなくなった。
食欲恐るべしだ。食事もほぼ終わりに近づいた頃に再び国王が口を開く。
「せっかく一緒に食事をしたのだから、お互い簡単な自己紹介をしようか。まあ、我のことは言うまでもないな」
国王はチラっと隣にいるドワーフ族の男に目をやった。
「俺はガン・サザール。アークザリア騎士団長をしている。よろしくな」
オルガさんみたいな人物はオルガさんと同じく騎士団長をしていた。
私も小さくよろしくお願いしますと返事した。
次にガンさんの隣に座っていたイケメンな若い子が挨拶した。
「僕はハママ・トーマス。アークザリア騎士団の副騎士団長をしています。よろしくお願いします」
スラッとした感じで線が細いのだけれど、その立ち方には隙がなくかなり強い騎士だと感じた。
こちらも同様に返事をした。
次はガンさんの前に座っていたエルフの女性だ。
リンちゃんよりは年を取っているように見えたけど、私と比べて上なのかどうかはよくわからなかった。
「ロメリア・クルト、魔法使いです。自分ではアークザリアで1番の魔法使いだと思っています。よろしくお願いします」
おぉ、純粋な魔法使い初めて見ました。確かに魔力を凄く感じます。
まぁ、でもマオくんには全然及びませんけどね。やはりマオくん最高。忘れずに返事はしといた。
「ラン・タージュです。僧侶をしています。勇者ミーナ、よろしくお願いします」
この人なんか感じがいい人だ。とても優しそうで僧侶とかピッタリな感じがする。
ランさんにも挨拶をして、私の番だ。
「ミーナ・セルジロです。最近勇者になりましたが、まだまだ力不足を感じています。魔王を倒せるよう今後とも努力していくのでよろしくお願いします」
お辞儀をするとみんなが拍手をしてくれた。なんか恥ずかしい。
ここで国王がとんでもないことを言った。
「では、このメンバーでパーティを組み、アークザリア迷宮奥深くにいる最強魔王を討伐してもらいたい」
え? 何それ、聞いてませんけど。
確かにこの人たち強いのは分かりますけど、パーティ既に組んでいますから。
マオくんのいないパーティとかありえませんから(本音)。
「待ってください国王様。私は既にパーティを組んでいます。パーティのメンバーは皆それぞれ大変強く、アークザリア国の騎士団の人達の力を借りなくても大丈夫です」
「勇者ミーナよ、アークザリア迷宮の魔王はとんでもなく強いのだぞ。そこら辺で集めたパーティメンバーなんてゴミのようにやられるぞ」
知ってます~。私の方があなた達より魔王の強さは知ってます。
でもね、うちのパーティメンバーでゴミのような人なんていないんだから。
「私達のパーティは2度迷宮の魔王を倒しています。ここにいらっしゃる方も相当強いことは分かりますが、うちのメンバーも負けていません」
「はっ。面白い冗談だな勇者さんよ。俺より強い騎士なんて知らないんだけどな」
ドワーフのガンさんが鼻で笑っている。何この人、オルガさんと違って偉そうだし性格的に合わないよ。
こんな人と組むとか嫌だな。
「私も魔法では最強と思っているからね。私より強い魔法使いがいるのなら紹介してもらいたいわ」
魔法使いのロメリアさんも最強と思ってるし、自信があるのはいいけど井の中の蛙じゃない。
「勇者ミーナよ。ここにいる者は、アークザリア最強の4人を集めているのだ。ハママも剣技では、ガンを上回っているしランは治癒Ⅳも使える僧侶だ。こんなメンバーより強いメンバーはいないぞ。相手は最強魔王だ。最強には最強を用意しなければならない」
国王が自分の部下たちを自慢しているようにしか私には聞こえなかった。
性格的に合わそうなメンバーが2人いるし、何しろマオくんがいないなら嫌すぎる(本音)。
「私のパーティも先ほど言ったように、こちらのメンバーより劣ってはいません」
「わっはっは。いいぞ勇者よ。ぜひ勇者のパーティとやらを見てみたい」
ガンさんは完全に私達を下に見ている気がする。まあ、でも確かにガンさん強そうだ。
でもオルガさんも同じくらい強いと思うけどな。
「そうか勇者ミーナは、我の用意したメンバーでは力不足だと言うのだな」
「はい」
国王に向かって何と生意気なことをいう娘だろうと誰もが思ったに違いない。
国王も一瞬ムっとしたがすぐにいつも通りの表情になった。
「ならば、明日こちらのメンバーと勇者のパーティとで死合いを行う。安心して欲しい。もし、本当に死んでもこちらにはランがいるから生き返らせることはできる」
「うちのメンバーにも治癒Ⅳ使える者がいるので問題ありません。その死合い受けて立ちます」
こちら側のメンバーにも治癒Ⅳを使える者がいると聞いて国王も少し驚いたがこれまたすぐに落ち着いて言った。
「明日、アークザリア南方の平野にて死合いを行うこととする。その結果をもって勇者のパーティを決定する。それで問題はないな」
「はい、ありません」
「では、明日また兵士を迎えに行かせよう。いや、面白いことが増えたな。頼むからあっさり負けないように頼むぞ勇者」
むぅ、国王でさえなめている。これだから上の人は嫌なんだ。もう偉そうにしている人多すぎだよ。
結局美味しかった昼食の味も忘れ、怒りでいっぱいになった私はまっすぐ宿屋へ戻った。
そしてマオくんの部屋に向かった。
マオくんの部屋では、リンちゃんがマオくんのベッドの匂いを嗅いで幸せそうにしていた。
なにそれ。それを見て私の怒りが最高潮になったのは言うまでもない。
マオくんがいないところをみると、また勝手に変なことをしているのだろう。
ヅカヅカとリンちゃんの側に寄り、首ねっこを掴んでやった。
「え、あれ。ミ、ミーナさん……」
突然のことでリンちゃんは震えていた。
「マオくんはどこ?」
「ご、御主人さまはオルガさんの部屋に行ってます」
「そう。だからココにいたのね」
「ち、違うんです。御主人さまの部屋のお掃除してたんです。本当です。それで一通り掃除が終わったら、何かベッドが気になってしまって……」
ギラリと睨むとリンちゃんは黙った。ともかくみんなに明日のことを話しないといけない。
リンちゃんに構ってばかりにはいられない。
私はリンちゃんを持ちながらオルガさんの部屋に向かってみんなを集めた。
そしてリンちゃんの話以外の部分を説明することにした。
〇
「……という訳なのよ。明日アークザリアの精鋭メンバーと死合いすることになったのよ」
ミーナ沸点低っ。死合いって殺し合いですか。いくら治癒Ⅳ使えるからって無茶し過ぎだな。
そうとは言え、決定事項だし今更中止はないのだろう。
「ミーナ。その死合いで負けたらパーティから抜けないといけないのか」
「えぇ、なんか話の流れてきにそうなってしまったみたい。あぁ、だからリンちゃんも負けたら奴隷解除して自由の身だからね」
「ひぃぃ」
ミーナに睨まれて恐怖しているリンがいた。コイツまた何かしでかしたんだろうか。
「ミーナ、ドワーフの騎士団長ガンと言ったか?」
「えぇ、オルガさんのような感じで中々強そうでした」
「ガンは昔カーマ国の騎士団長をしていた男なんだ。アークザリア騎士団にスカウトされてカーマ国を抜けたんだが、そうか騎士団長をしているか」
「えっオルガさんの前の騎士団長だったんですか?」
「あぁ、俺は副騎士団長だったんだが、アイツには全然敵わなかったな。今はどうなんだろうか」
おいおい、ミーナ大丈夫なのか。オルガは結構頼りにしているんだから抜けられたら困る。
さらにオルガ抜けたらカルさんも抜けるんじゃないか。
取り敢えず俺はなぜか怯えているリンに話かけた。
「なあリン。俺と一緒にパーティにいたいか」
俺に話かけられたリンの震えがだいぶ弱くなった。
「はい、御主人さまと一緒にいたいです」
「そうか、お前はお前が思っているよりだいぶ強いから大丈夫だ。オルガもリン用の防具を作ってくれたしな。頑張れ」
俺が頭に手を置くとリンは嬉しそうに頷いた。
「頑張ります」
そしてリンを膝の上から降ろしてミーナのところに向かう。ミーナも少し後悔しているのかもしれない。
「ミーナ本当怒りやすいな。でも、俺たちメンバーのことだから怒ったんだよな。任せておけ、俺たちが強いのはミーナも知っているだろう」
「うん、マオくんは私より強いし、誰が相手でも負けることはないと信じてる。でも他の人は分らないよね、わたし迷惑かけてるかな」
俺はミーナの頭を撫でながらもう一度言ってやった。
「任せておけ」
「うん」
まさかアークザリアの人間と死合いをするとは思わなかったが、負けられない戦いであることは分かった。
そうして俺たちは戦いの日を迎えた。




