第二十五話 フラグを立たせない勇者
異世界転生ものの主人公って、なぜかキレイな女性が集まってくるイメージがあるよね。
現に人間生活29年彼女なしの俺でも可愛い彼女ができてるし。
夕食をみんなで宿屋1階の食堂でとっていると、ラーシャさんも食事なのか、俺たちの近くにやってきた。
俺の両隣には、ミーナとリン、向かいにオルガとカルさんが座っている。
ラーシャさんは、ミーナに気が付き、ミーナの隣にやってきた。
「お隣よろしいでしょうか」
「はい、構わないですよ」
特に断る理由のないミーナは、隣にラーシャさんが座ることを認めた。
ラーシャさんには、3人ほど兵士らしき者が付いている。護衛だろうか。
魔眼でステータスを見るが、剣士レベルが5~10ぐらいの兵士だった。
これで護衛とか出来るのか少し心配した。
「自己紹介がまだでしたね、私はラーシャ・ヘルメド。ヘルメド国王の娘で今はある任務中です」
さらっと国王の娘であることを話してるけど、普通の人なら緊張して話とかできなくなるんじゃないか。
ミーナも鑑定スキル持ちだ、とっくに正体には気づいているだろうから驚きはしないだろう。
気のせいか、ミーナは俺の姿を隠そうとしている位置にいる。気のせいですよね?
「ヘルメド国の姫さまでしたか、これは失礼な態度をとってしまっていたかもしれませんね。私は、ミーナ・セルジロ、勇者をしています。今は魔王討伐のための修行中です」
いやいや小国のお姫様よりも勇者の方が上のような気がしますけど。
まあ、身分的には平民なんだけど。でも、世界を救えるのは勇者しかいないからな。
「まあ、そう言えば1ヵ月ほど前にアークザリアで勇者(見習い)が誕生したと噂を聞きましたが、ミーナさんが勇者(見習い)だったのですか。あれ? そう言えば勇者なのですか?」
「はい、ラーシャ様。私は、勇者(見習い)として誕生し、それから経験を積んで勇者となったのです。勇者になったのは最近のことなのです」
「ミーナさん、私のことはラーシャと名前で呼んでください。私は先ほどミーナさん、いや勇者に助けられたのですから」
「わかりました。ラーシャさんと呼ばせていただきます」
「ありがとうミーナさん。それにしても1ヵ月で見習いから勇者そのものになるなんて、凄いです」
「いえいえ、私一人の力ではとても無理ですから」
そこで、ラーシャさんはミーナの周りで飯を食べている俺たちに気付いた。
「こちらの方々は、勇者のパーティの人達なのですね」
ビクっと反応したミーナが、仕方なく俺たちの説明をしようとした。
「えぇ、私の隣にいる人が、彼氏のマオくんです」
ん? 普通パーティの紹介ってJOBとか言うんじゃないの? 相変わらず雑な説明してるよね。
しかも俺はミーナの彼氏だから手を出すな的な説明ですか。ラーシャさんも目が点になってるよ。
「あ、ミーナさんは彼氏も一緒にパーティに連れていくタイプなんですね」
どんなタイプだよ。そんなタイプ無いだろう。
魔術師と近接格闘のバランスパーティのタイプとか、JOB関連でタイプ分けするのが普通だろう。
彼氏とか彼女とか連れてくパーティって絶対どちらか殺されるパターンだよね。
「マオくんの隣が奴隷のリンです」
ミーナ、待って、その説明アウトだから。
ラーシャさんもキャパオーバーしてるっぽいから。
「御主人さまと24時間一緒のリンです。ミーナよりも愛されています」
リン、アピールポイントがズレているから。
あぁ、もうツッコミどころ満載だ。
「え? 奴隷。パーティメンバーですよね。彼氏とか奴隷……」
「私の向かいに座っているのが、カーマ国騎士団長のオルガさんです。その隣が同じくカーマ国魔術師団所属のカルさんです」
リンやラーシャさんの言葉をスルーして、気にせずパーティ紹介するミーナが少し怖い。
「なんと、カーマ国の騎士団長の方がいらっしゃるのですね。それならば経験を積むのも容易いのでしょう。羨ましい限りです」
俺はリンの方を向いて右手で一本指を立て、自分の口元に近づけ、喋らないでねという意味のポーズをして、左手でリンの頭を撫でてやった。
リンは気持ちよさそうに頷いてくれた。
「実は先ほど任務中であると話ましたが、ヘルメド国内に最近魔物が多数発見されて、その原因を探っているのです。我が国は、騎士団といったものがありませんので、兵士もそれほどレベルが高くなく、そこで戦闘職のレベルが高い私が調査班に選ばれたのです」
「そうなんですか。私は実家がアークザリア国のパルオの町なのですが、そこでヘルメド国の魔物の話を聞いてここに来ているのです」
「まあ、そうだったのですね。厚かましいお願いになるのですが、私をミーナさんのパーティに入れてくれないでしょうか。もちろん、ずっとではなく、今回の件が片付くまでで結構ですので、お願いできませんか」
ミーナが困った顔で俺の方を見る。
俺は別に行動する理由が同じなのだから構わないと思う。ニッコリ笑顔で頷いてみた。
ミーナは、一瞬渋い顔をしたが、そこは勇者だ。
「わかりました。ただし、私たちと一緒に行動するのはラーシャさんだけでお願いします。兵士の方にはご遠慮していただきます。あぁ、ラーシャさんの護衛は大丈夫ですよ。私が死ぬ気で守りますし、オルガさんは、騎士レベル50超えですから多少の魔物は相手になりません」
周りの兵士達が驚嘆の声を上げる。まあ、レベル50って確かに少ないよな。
「ミーナは、私より強いからな。まあ、他にも強者はおるし、姫の守りは大丈夫だろう」
騎士団長のオルガよりも強いと言われ、ミーナの勇者としての株も急上昇だ。
「ミーナさんの言う通りで構いません。足手まといにならないように頑張ります。そうですよね、彼氏さんを守りながらパーティを組んでいらっしゃるのだから、安心できます」
ミーナが何か言おうとしたが、俺はミーナの手をぎゅっと握った。
ミーナがこちらを見て少し頬を染めて頷いた。よし、言わせね~よである。
「あらぁ、うちのパーティで一番強いのは、ミーナさんの彼氏さんですよ」
カ、カルさん。貴女は、そういう人でしたよね。
みんなの視線を一気に集めちゃったよ。
「アハハ、さすがミーナ(勇者)さんの彼氏ですね。そうでなければ、普通彼氏とか連れて歩きませんよね」
ラーシャさんも自棄になっているようだった。ミーナは嬉しそうに俺の腕に抱きついている。
反対側の腕は……言うまでもない。
俺たちは、明日朝食をとった後合流することとして、その場を離れた。
なんと、今回部屋は1つしか取れなかった。大部屋である。
といっても4人用の部屋なので、少し狭い。まぁ、そこは我慢するしかない。
ベッドはWサイズが2つだ。もちろん2人、3人で別れている。
カルさんもオルガと一緒だとWサイズでもギリギリだ。
俺たちの方は3人だから当然ギリギリ。というか密着度がいつもより増してます。
狭いのは我慢できるが、アソコは我慢できない。
今、リンとかに触られたりしたら暴発しそうだ。
何故だか知らないが今日の2人は妙に艶めかしい。2人とも頬を染めて、目も潤んでいる。
「今日のマオくん、いい匂いがするぅ」
「御主人さまの匂いを嗅いでいるだけで幸せです」
何々どうして、こんな積極的なの? アカン。
可愛い子に積極的に迫られたら、俺の理性はヤバイ状態だ。
隣にカルさん達がいなかったら、本当やばかった。
何とか眠りにつくことができたが、2人は俺を抱き枕状態にしていた。
次の日の朝、朝食を終えた俺たちが1階で待っているとラーシャさんが階段を走って降りてきた。
途中でつまずくのは、もうお約束レベルの話だ。
俺は、すっと行動してラーシャさんが倒れる前に両腕で支えた。
ラーシャさんの胸が腕に当たってしまったのは不可抗力であろう。
え? ぷにゅぷにゅ何ですけど。カルさんとかもこんな感じ?
えぇ、凄い。などと思っている時間は僅かである。
「コホン。マオくん、いつまでラーシャさんを触っているつもり?」
ミーナ怖いよ。いきなりラーシャさんケガさせるのダメでしょう。
いや、まあケガなんて一瞬で治せるけどさぁ。
「御主人さま、早く離れないと今日は不幸が訪れると思うの」
リンまで変なことを言っている。
「大丈夫でしたか?」
俺はラーシャさんに話かけ、自然に体を離していった。
ラーシャさんは、躓いたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くしていた。
「あ、ありがとうございました。マオさんのおかげで助かりました。こ、これからは気を付けます」
何だか少し緊張しているような口調であったが、あまり男慣れしていないのかな。
年は20歳前後ぐらいに見えるけどな。
「ラーシャさん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
俺は優しい口調でラーシャさんに言った。ラーシャさんは、小さい声でハイと言って頷いた。
その後すぐにリンが俺に追突してきた。俺とラーシャさんを離したがっているみたいだ。
まあ、フラグたてさせないためだろう。
ミーナが何かラーシャさんに言っていたが、俺はリンに連れていかれ離れてしまったので何を言っていたのかは聞き取りできなかった。
しばらくして、俺たちはヘルメド国にある迷宮に向かっていくことにした。
ヘルメド迷宮は、80階程度の深さと言われている。前勇者もレベル上げとかに使用した迷宮だ。
そこそこ強い敵とかもいるのかもしれない。
それに場合によっては、迷宮が深くなっている可能性もある。
もしもの場合も想定して、今度は油断しないようにした。
そして、いよいよ出発する時になって俺は気付いた。
「そうだ。ラーシャさんのパーティ登録しないと」
決して彼女の素晴らしい持ち物を近くで見たいわけではない。
パーティに入れるためには仕方ないのだ。
「それなら、さっき私がしといたよ~」
さすがミーナ、女性をパーティに組み込むの早すぎ。
絶対、俺にはさせてくれないんだな、わかっていたけど。
俺は、そんなの気にしないよ~という雰囲気をだしながら、フラウの街を出て、俺たちはヘルメド迷宮を目指し北へと向かった。




