第二十二話 オルガ先生ありがとう
「あれ? 今、河川敷に居たのに。いつの間にか家に戻っている」
ミルリさんから生き返ったみたいだ。
父親も同じようなセリフを言って、起きてきた。河川敷? 三途の川って本当にあるのね。
「お母さん、お父さん、落ち着いて。カルさんがいるから大丈夫だから」
ミーナ、安心するところはそこではないだろう。何回死んでもいいとかという問題じゃない。
ミーナの両親は、ハッと気が付いて俺とリンを見た。
「初めまして、マオと言います。見た目は人間の様にしていますが、魔族です。俺は魔族ですが、無意味に人間を襲ったりはしません」
「私はエルフ族のリンといいます。御主人さまに命を助けられ、自ら志願して奴隷となっています」
ミーナの両親は、まだ考えが落ち着かないようだ。
まあ、さっきみたいに心臓が止まらなければ問題ないけど。
助けを求めるように2人はミーナに視線を移す。
ミーナは、まず俺について、暴漢から救ってくれたこと、種族等の差別をしないこと、リンを助ける経緯などを簡単に説明した。
ミーナの命の恩人ということで少しは俺に対する感情も変わってくれたと思うのだが、娘をたぶらかしているのでは? と思われていそうだった。
「マオは、カーマの魔物襲撃の際、魔物討伐に協力してくれたし、迷宮の魔物達もたくさん倒してくれている」
「マオさんは、オルガの腕を治療してくれたりして非常に優しいです。また、ミーナさんのことも大切にしていることが普段の行動からよくわかります」
オルガとカルさんがフォローを入れてくれる。
カーマ国の騎士団長や魔術師団の人が嘘を言う訳でもなく、ミーナの両親も俺のことを少しは見直してくれたみたいだ。
それでも、娘の彼氏が魔族なのが心配なのだろう、ミルリさんが小声でミーナに聞いていた。
「ミーナ、あなたもしかして魔族にたぶらかされていない?」
「お母さん、大丈夫。私はマオくんにたぶらかされてなんかいませんよ。私、勇者になったの。耐性スキルで魅了とか洗脳とかは受付ません」
「うそ、ミーナは御主人さまに魅了されまくり」
こら、リン変なことを言うんじゃない。
小声だから多分周りには聞こえていないと思うが、余分なことを言うな。
俺は、リンをメッと睨んだ。リンは俺と目が合ってシュンとなった。
「「え? 勇者」」
両親が驚くのも無理はない。つい先日まで(見習い)だったし、成長早すぎですよね。
「うん、マオくんとパーティ組んで魔物いっぱい倒したの。この前は魔王も倒したのよ」
「魔王って、ミーナあなたいつからそんな嘘つきになったの」
ミルリさんが呆れた声で言う。
「本当だよ。マオくんが大ダメージ与えてたので私はちょっと斬りかかるだけでよかったけど」
「むぅ、あの時のミーナは鬼のようだった。ミーナは怒らしてはいけないと思った」
何やらリンは思い出しながら、ぶつぶつ言い体を震わせていた。
「ミーナの言うことは嘘ではない。我が国のカーマ迷宮に魔王が誕生していたのだ。それにより、都市カーマに魔物の襲撃が起こったのだ。我らは迷宮の深くで魔王と出会いみんなで協力して魔王を倒した。魔王は誕生したばかりで、レベルもそれほど高くなかったのが良かったのかもしれない。それでも我々は命がけで戦った」
オルガが説明してくれた。
ミーナが誘拐されたとか、洗脳されたとか余分な事を言わないところがオルガである。
ミーナは、それでも半信半疑の親に転移のスキルを発動したり、治癒を発動したりしてスキルが増えたことを説明した。
「おぉ、本当に色んなスキルが使えるんだな。確かに勇者になると複数のスキルを取得するらしい。よくやったなミーナ」
カナムさんもミーナが勇者になったことを信じてくれたみたいだ。
ミルリさんは感動して涙を流していた。
「ミーナが勇者になったのなら、今日は美味しい料理にしないとね」
ミルリさんが腕まくりして、厨房へ消えていく。ミーナもすぐにその後を追っていった。
その場に残った俺たちが何となく話題に困っているとカナムさんが聞いてきた。
「あ、あのぉマオくん。君はミーナの彼氏と聞いたんだが、実際ミーナとは、どこまでの関係なんだ?」
お父さん、聞きたいよね。
あんな可愛い娘が魔族であろうがなかろうが彼氏が出来てたら気になりますよね。
「ミーナは処女。間違いない。3日前にも確認した」
おぉぃリン。何言ってるの事実だけど。
「そ、そうか。処女なのか。まだ、そんな関係にはなっていないのだな」
お父さん、喜びすぎです。
「でもぉ、ミーナさんとマオさんは、しょっちゅうイチャイチャしてますよ」
カルさん、事実(爆弾)言わないでください。
それが俺の楽しみなんですから、お父さんも焦らないで。
「大丈夫。私がいつも御主人さまを見張ってるから、ミーナにはできるだけ近づけない」
いや、全然大丈夫じゃないですよ、リン。
お父さんもよろしく頼むとか言わないでください。
「お父さん…」
「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない」
あ、この人メンドクサイ人だ。
「カナムさん、俺はミーナの事が大好きです。だから、絶対ミーナを守ってみせます。そこは任せてください」
思い切り宣言してやった。厨房の方で何かガシャンと音が聞こえたが気にしないことにした。
「う、うん。君が彼氏なのは、正直納得はしていないのだが、娘を守ってもらうことはよろしく頼む」
納得してもらえないか~。どうしたら、納得してくれるのかな。
うちの親父みたいに倒せば納得してくれるのだろうか。いやいや、それはないだろうな。
その後は、お父さんが娘自慢を話してきた。
ミーナは一人娘で、勉強はそこそこ出来ていたらしい。
少しおっちょこちょいだけど、優しくていい娘に育ったという話だ。
15歳になりJOBが勇者(見習い)になったときはショックだったらしい。
何しろ魔王を倒さないといけないのだから。
現魔王は、前回勇者を倒しているし、娘の事が気になるのは当たり前だ。
オルガが修行すれば、魔王もきっと倒せますよ。とか話を合わせていたが、どんだけ修行が必要なのかは不明だと言いたい。
しばらくして、ミーナが大きな鍋とスープを入れる皿を持ってきた。
そしてスープを取り分ける。なぜか俺からだ。嬉しいけどお父さんの視線が痛い。
「ミーナ、カナムさんが俺のこと納得してくれていないみたいなんだ。彼氏としてはダメなんだろうか」
お父さんに仕返しのつもりで、みんなにも聞こえるように言ってみた。
するとミーナは、お父さんの方をきりっと睨んだ。
「お父さん、私とマオくんのことを認めないなら、このスープは無しです。というか、もうお父さんと話もしません」
いいぞ、もっと言ってやれミーナ。
カナムさんの顔がみるみるうちに青ざめていってるよ。
「ミ、ミーナ何を馬鹿なことを。お父さんはミーナを信頼しているよ」
ミーナは黙ったまま、オルガやカルさんといった順番でスープを配っている。
もちろんお父さんの所にスープはない。
「い、いや納得した。ミーナが選んだ人物(魔族だけど)だ。お父さんは納得したよ」
「納得するのは当然です。マオくんは素晴らしい人なんですから」
ミーナがリンのスープを配り、最後にお父さんの前にスープを置いた。
お父さんはホッとしたようだが、俺の方をチラリと睨みつけてきた。
ミルリさんが料理を次々に運んできてくれた。
ミーナが配った野菜スープは凄くいい匂いがしていた。リンも半分涎が出ている状態だ。
皆が席につき、食事が始まった。俺はスープを最初に飲んだ。……旨い。
いつもの野菜スープも旨いのだが、これは更に美味しくできている。
「旨いっ」
思わず声に出してしまうくらいだ。少し恥ずかしかった。
ミーナがふふっと笑ってくれていた。
「マオくん、喜んでくれて何よりです。私が作ったスープから食べてくれるし嬉しいよ」
「ミーナ、いつもより旨く感じるのだが、どうしてだ?」
「う~ん、いつも通りに作ったのだけど、もしかしてスキルのせいかな」
そう言えば、勇者になった時になぜか料理スキルも取得していたな。
こんなところで活かせるなんて、ヤバイ胃袋もがっちり掴まれている俺。
他の料理もメチャ旨だ。お母さんが作った料理なのだろう。
料理スキルがかなり高いとみた。
こんな美味しい料理を毎日食べれるカナムさんは幸せ者だろう。
リンなんかはもう食事に夢中で必死に食べている。普段食事を与えていないみたいじゃないか。
もっとゆっくり食べて欲しい。
オルガとカルさんも食事の美味しさに驚きを隠せないようだ。
俺たちはお腹いっぱいになるまで食べてしまった。ちょっと食い過ぎただろうか。
「私たち結構食べてしまいましたね。少し気が引けるので、何かお手伝いとかしましょうか?」
俺がミーナの両親にむかって言ってみた。
「うむ、それではマオくん。明日、私の木こりを少し手伝ってくれないか」
カナムさんからお願いされたので、手伝うことにした。その後、風呂に入って寝ることになった。
ミーナの家では、寝れる部屋が3つあった。
両親の寝室とミーナが以前使っていた部屋と客室用の部屋だ。結果、俺はオルガと客室。
ミーナ、カルさん、リンはミーナの元自室に寝ることになった。
ベッドは、それぞれ1つずつしかない。ただ、無駄に大きいので3人ぐらいは寝れそうだ。
オルガは身体がデカいから、俺と2人で寝るとベッドもいっぱいだ。
俺はミーナと離れて寂しかったが、仕方がない。オルガは、何だか嬉しそうだ。
ま、まさかコイツは両刀使い?
「いやぁ、最近カルが激しくてね。いくら回復してくれても、限度があると思うんだ」
違った。カルさんから離れて喜んでいやがる。くそ~羨ましすぎるだろう。
俺とミーナは一度もそんなことないのだからな。
しかし悔しがるだけの俺ではない。
今後の事も考えて俺は、オルガから人間の女性の喜ぶツボとやらを教えてもらった。
非常に参考になった。
オルガを尊敬したのは、これが初めてかもしれない。オルガ先生ありがとう。
早くこの知識を使うときが来ることを祈りながら俺は寝た。




