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第二十一話 勇者の俺に関する説明が雑な件

その夜の俺は、両手に花の状態で川の字になって寝た。


別に何かあったわけではない。ただ両隣の2人が俺の腕を掴んで寝るだけだ。


ミーナは、胸が当たってますけど、どんな拷問なのこれ。


俺の体は正直だよ、しっかり反応しています。男だから仕方ない。


悶々としながら、俺は一夜を過ごした。


翌朝、俺たちは出発の準備をした。


ミーナの故郷は、アークザリア王国の北西、ヘルメド国との国境付近にあるパルオの町だ。


都市カーマからだと、西に向かって俺とミーナが初めて会ったベルベの森を抜け、更に西に行ったところにパルオの町がある。


ベルベの森は、それほど道が整備されているわけではないので、俺たちは徒歩(走り)でパルオの町を目指すことになった。


カルさんに治癒Ⅳは本当に素晴らしい。


俺の治癒Ⅲでも体力回復するが、疲れは治らないで蓄積される。


でも治癒Ⅳは疲れも消し去る効果がある。


つまり、いつでも絶好調に戻れるのだ。


だから、カルさんの魔力が切れるまでは、走りっぱなしだ。


カルさんの魔力量も結構増えていて、まさに24時間働ける状態だ。



俺たちは、一日でベルベの森に着いた。


「わあ~もうベルベの森だ。ここでマオくんと会ったんだよね」


ミーナが俺との出会いを思い出しているようだ。


「え? 何々。ここは思い出の場所なの? おねぇさん話聞きたいな」


出た、カルさんの恋バナ好きだ。


ミーナとの出会いを懐かしく思うのもいいけど、カルさん達の馴れ初めも気になる。


「私、ここでマオくんに唇を奪われてしまって…」


うぉい、その説明どうかと思うよ。省き過ぎじゃないかな。


「マオさんたら、肉食系だったのですね」


「御主人さまは、肉食系。だが、それがいい」


リンまで変なこと言ってるよ。


俺は、ミーナを野蛮な冒険者から守り、怯えているミーナを落ち着かすために魔淫のスキルを使ったことを説明した。


「マオさんのキスには、そんなスキルがあるんですね。もしかして、私もキスされたらミーナさんみたくメロメロにされてしまうのかしら」


オルガが俺とカルさんの間に素早く立って俺を威嚇した。


いやいや、人の婚約者に手出したりしないから。


カルさんも後ろで悪そうな顔して笑っていないで。


「今のミーナに魅了スキルは効かないですよ。ミーナがメロメロなのは素ですから」


ミーナは俺の言葉に否定することもなく、恥ずかしそうにモジモジしている。


やはりミーナは可愛い。


「私は御主人さまのスキルでメロメロになってしまいます。もっとしてもらいたいです」


リン、何言ってるの。それ、ここで言いますか。


ミーナの雰囲気が変わってるじゃないですか。


「あれぇ~、マオくん。もしかしてリンちゃんに魔淫スキル使ってるのかな? いつ使ってるのかな?」


こ、怖い。雰囲気が変わりすぎですよ、ミーナ。


剣に手をかけるのは止めた方がいい。


ましてや、ライトセイバーとか使われた日には消滅しますから。


「い、いや誤解だ、ミーナ。リンに対しては、精神状態を落ち着かせるためにしかスキルを使用していないぞ」


う、うん。これは嘘言ってないから大丈夫。


大興奮してたリンを落ち着かせるためだからな。


ミーナは、じぃ~っと俺を見ていたが、何か納得したみたいだ。


あれ? もっと責められると思ったのだが。


「マオくん、嘘は言ってないっぽいな~。それとも私の真偽スキルでは見破れないのかな」


勇者になった際に取得したスキルか。マズイな。


これではミーナの前で嘘つくことが出来ない。勇者恐るべしだ。


「私は子供だから、すぐに精神不安定になるの。だから御主人さまからもっとキスをしてもらわないといけないんです」


都合のいい時だけ子供になるリン、これ以上ミーナを煽らないで。


「リンちゃん。貴女が本当に精神不安定かどうかは、私が先に見極めてあげますからね。安心してください」


ミーナ怖いよ。いつもの可愛いミーナに戻って欲しい。


「三角関係ですね~。いいな~青春っぽい」


他人事だと思ってカルさんは楽しそうだ。


とりあえず、2人を呼び寄せて、ミーナとリンの頭を撫でることにした。


「俺たちはパーティメンバーなんだ。出来るだけ仲良くしていこうよ。お互いに信じられないとか、そんな関係にはしたくない」


すると、ミーナもリンもお互い信用はしているとのことだった。


単に俺の取り合いの件でもめているらしい。


俺は今までリア充爆発しろとか思っていたが、実はモテるのも大変なんだと初めて知った。


どう対応していいのか、俺にはさっぱりわからない。


ただ、これ以上2人は言い合うことはなかった。


2人とも俺から頭を撫でられて少し落ち着いてくれたようだ。


「マオくんの隣気持ちいい~」


「御主人さまの隣は最高です」


嬉しいけど、こんなにくっついていたら、何もできないから。


今日は、ベルベの森でキャンプすることにした。寝袋は3人寝れる大きめのものだ。


また、俺が真ん中になって川の字で寝ることになった。


欲求不満が溜まるばかりだ。何とかしないといけない。


それから、2日間のうち、何回か魔物と遭遇することがあった。


なぜだか分からないが、獲物は早い者勝ちみたいな感じになっていて、みんなサクサクと倒していった。


そのおかげで、ストレスも少し解消できた感じだ。


もしかして、みんなもストレス溜まっていたのだろうか。


そしてカーマを出発してから4日目。ミーナの故郷パルオの町に着いた。


町というより農村という感じだった。



ミーナの案内で実家へと向かう途中、ミーナは結構町の人に声を掛けられていた。


そりゃあ、こんな小さな町から勇者が生まれれば目立つのだろう。


しばらく歩いて、畑に隣接している家に着いた。ミーナの家なんだろう。


「お母さん、ただいま」


ミーナが扉を叩きながら声をかける。家の中からパタパタ音が聞こえ、女性が顔を出す。


「まあ、ミーナ。元気にしてた? 今日はどうしたのよ」


母親らしき女性は、見た目が若くスラッとした美人であった。


「お母さん、今日は私のパーティメンバーの紹介にきたの」


パーティメンバー? 俺の紹介じゃなくて? ミーナはチラチラ俺の方を見ていた。


なるほど、いきなり紹介するのは恥ずかしいからパーティメンバーとか言ってるのかな。


「あら、そこにいらっしゃる皆さんかな? どうぞ、狭い家ですが中に入ってください」


俺たちは、大きな丸いテーブルが置いてある部屋に案内された。


「もうすぐお父さんも仕事から戻ってきますから」


ミーナの母親がそう言ってからすぐに玄関の方から声が聞こえた。


きっと父親が帰ってきたのだろう。


お茶を用意してきた母親の後ろから父親らしき人物も部屋に入ってきた。


「お父さん、ただいま」


「おう、ミーナ元気そうだな。こちらの方達は、パーティメンバーなんだって。いつも娘がお世話になっています」


ミーナの父親は、椅子に座りながら、軽く会釈をしてきたので、こちらも会釈する。


「まずは、うちの家族を紹介するね。お母さんのミルリ・セルジロとお父さんのカナム・セルジロです」


「「よろしく」」


「次にパーティメンバーの紹介するね。まずは、カーマ国で騎士団長をしているオルガさんです」


「オルガ・ノートスです。ミーナさんのお力になれるよう、精一杯頑張ります」


ドワーフの見た目と一国の騎士団長という立場からか、ミーナの両親は、とんでもない者がミーナのために力を貸しているのだと思い、少し緊張した顔つきになった。


「騎士団長であるオルガさんがパーティメンバーなら、私達もミーナのことを心配しなくてすみます」


「本当だ。騎士団長さんの強さがどれくらいかはわからないが、とても心強いです」


ミーナの両親は、オルガを信頼したようだ。


「オルガさんの左隣に座っている人がカルさんです。カーマ国の魔術師団に所属していて、オルガさんの婚約者でもあり、僧侶のJOBを持っています」


「なんと、こんな美しい方がオルガ殿の婚約者だとは」


うん、俺もそれは思った。どうしてオルガとカルさんは仲良くなったのかな。


「あなた、カルさん達に失礼ですよ」


「カル・スメラです。みなさん私がオルの婚約者と聞くと驚きますけど、いつものことなので気にはしていないです。あとミーナさんのパーティメンバーに加わることができて非常に光栄と感じています。よろしくお願いします」


「カルさんは、治癒Ⅳの魔法が使えるんですよ」


「「えっ」」


ミーナの紹介に両親は驚いたようだ。


そりゃそうだろう。治癒Ⅳなんて使える者が、このアークアザリアでも片手ほどの人数しかいないのだから。


ミーナの両親が凄い人達がパーティに加わってくれていると思い、少し興奮状態になっていた。


しかし、残りは少年の俺と奴隷のリンである。


いったい、どんな反応をするのだろうか。ミーナがモジモジし始めた。


いよいよ俺の紹介をするつもりなのだろう。


「えっと、カルさんの隣にいるのが、わ、私の彼氏のマオくんです。人間っぽく見えるけど魔族です」


「「……」」


え? そんな説明の仕方ありなの。ミーナは恥ずかしいのか顔が真っ赤になっている。


「マオくんの隣が奴隷のリンちゃんです」


間髪入れずリンの紹介もきた。


いや、雑過ぎないか? 両親の反応が気になる。


「ま、魔族」とか「奴隷…」とか呟いていたみたいだが。


ミーナの両親は、急に『うっ』と言ってから2人共テーブルに突っ伏した。


すかさずミーナが母親のところへ、オルガが父親のところへいった。


「「心臓が止まっています」」


ショックが大きかったのだろうか、カルさんはミーナに何か言いながら、両親の蘇生を行うことにした。


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