第二十話 カーマ国王に報告
馬車で1日半の距離のところが2日で着いた。
ほぼ走りながら移動したから当然だ。
疲れてきたらカルさんの治癒で全回復。
怖いよこれ、無限に働くことができるじゃん。ブラック思い出したよ。
俺たちは、ホクトの町で久しぶりに風呂とベッドにありつけた。
「極楽~極楽~」
「む、マオ。極楽とはどういう意味なのだ」
湯舟に浸かっているとオルガに聞かれた。そうか、こっちの世界には無い言葉なのかな。
「う~ん、気持ち良くて幸せって意味かな」
「なるほど、確かにいいな」
残念だが、男と女は風呂が別になっていた。
違う風呂に入っている女性陣が何を話しているかは気になるが仕方ない。
まともな食事を終えて、また2人、3人と別れて部屋に戻る。
ベッドの上で寝転がっているとリンがすぐ隣にやってくる。
「御主人さま」
甘えた声で俺にくっついてくる。
「リンちゃん、ダメですよ。女の子がそんなはしたないこと」
ミーナが妬いてるようだ。
俺とリンの間に無理矢理入ってきて、リンを引き剥がす。
ミーナの風呂上りの匂いが良すぎてたまらないのだが。
理性を抑えるのも大変だ。いや、抑える必要があるのだろうか。
……あるな。
ここにリンがいるのに少女の前で変なことは出来ないだろう。
残念だが機会を待つしかない。
「ミーナ、ずるい」
「リンちゃんだって、ズルイわよ。私が魔王に連れ去られたときはマオくんとずっと一緒だったんでしょう」
そこぉ、そこ気にする? ミーナ可愛いすぎだよ。
俺は後ろからミーナを抱きしめていた。
「あ、マオくん。ダ、ダメ。恥ずかしいよぉ」
みるみるうちにミーナの顔が真っ赤になっていった。
ダメって言ってる割に全く抵抗していないし、ヤバイ理性吹っ飛ぶ。
「え~ん。御主人さま元気なくて大変だったのに。ミーナ探しても感知に引っ掛からなくて、私御主人さまのお役に立てなくて……」
リンが泣いた。マジ泣きだ。
ミーナもちょっときつく言い過ぎだと思ったのか。
「ごめんね。マオくんだけでなく、私のせいでみんなに迷惑かけたね」
ミーナがリンを抱っこして俺とミーナの間に入れてきた。
「リン、お前は役に立ってるよ。ちゃんとミーナも感知してくれたじゃないか。それに四天王やアンデッドたちも倒してくれたし。ミーナが無事だったのもリンのおかげだよ。感謝してる」
そう言って頭を撫でると少し落ち着いたようだった。
リンは、少し悪い顔したかと思ったら、俺の方を見て目を閉じてきた。
こいつ、調子にのってやがるな。
そんなにご褒美を上げるわけないだろうが。しかもミーナの目の前で。
俺は、リンの額にキスしてやった。
「あ、御主人さまはイジワルです」
ミーナが何だか俺の方を見ているので少し抱き寄せた。そして唇にキスをする。
「マオくん、大好きです」
魅了が効いているわけではない。だって、ミーナのステータスを見ると耐性Lv3に上がってる。
もう、ミーナに洗脳やら魅了は効かなくなってくるだろう。
そう考えていたら、ミーナの方から俺にキスをしてきた。
俺が魅了されてしまうやろう~。
俺とミーナの間でリンが俺の腹をパンチしているが、効かないから気にしない。
結局、そのままの状態で俺たちは朝まで寝ていた。
朝食を終えて俺たちは、馬車に乗り都市カーマを目指した。
適度にカルさんが馬に治癒を使っていたせいか、進み具合も順調だった。
これは、オルガ大変だなと思った。
オルガを見ると俺と目が合い、何かを訴えていた。
気のせいかカルさんの肌はツヤツヤしていた。
数日でカーマに到着し、すぐにカーマ王と会うことになった。
リンは相変わらず別室待機だ。説明については、オルガがすることになっていた。
「……という訳でカーマ迷宮の魔王が魔物を操ってカーマを襲撃させていました。魔王は、勇者ミーナに討伐されました」
ミーナが捕まったこととか、俺が一度死んだこととかの説明は省いてある。
さすがオルガだ。
「よくやった、勇者ミーナとその一行よ。これでカーマに魔物の大群が来ることはあるまい。そして、オルガ達の復帰とマオ殿の魔術師団入りが決まったな」
あ、そう言えばそんなこと言ってたか。
しかし、俺はミーナと一緒にいたいし、こんな国にずっといるとか嫌すぎなんだが。
「カーマ王、失礼します。私は、カーマ迷宮の魔王を倒したことにより、勇者になることができましたが、まだまだ若輩者です。真の魔王は、アークザリア迷宮の奥深くにいます。その魔王を倒すためには、更に修行、経験を積まないといけません。マオは、私にとって不可欠な存在なのです」
ミーナ、俺が不可欠だって、嬉しいこと言ってくれる。
でも親父(魔王)を本当に倒すつもりなんだろうか。何十年かかかりそうな気もするけどな。
カーマ王は、うむぅとか言いながら何か考えているようだ。
「カーマ王、私からもお願いがあります。ミーナ殿のパーティに同行させてもらって、非常に良い経験をし、騎士のレベルもかなり上がりました。まだまだ私も強くなれると思っています。今後もミーナ殿のパーティに随行させて頂きたい」
「何と、オルガまでそのような事を言うか。確かに魔物の脅威が減れば現状でも問題ないのだが、お主は騎士団長なのだから長期不在は……」
カーマ王が話終える前に何やら緊急を伝える者が乱入してきた。
いや、これ、勇者と話をしている時に割り込むなんて、打ち首ものではないだろうか。
「カ、カーマ王失礼いたします。実は先ほどピーコ様に食事を運びに行きましたら、どこからか紛れこんでいたのか吸血コウモリにピーコ様が襲われていまして、ピーコ様は……」
え? ピーコ様って誰? っていうか吸血コウモリってそんなに怖い生き物だったっけ。
よく見れば、乱入してきた者の手には1羽のインコが握られていた。
「おぉ、ピーコ。こんな姿になってしまうなんて何てことだ」
あれ? 王様もしかして鳥大好きだったの? そんなに一大事だったのか。
涙しているカーマ王の傍にカルさんが近づいていった。
「王様、失礼致します」
そう言って、カルさんは王様からピーコを受け取り、治癒を発動した。
すると死後間もなかったせいもあるのだろう、ピーコは息を吹き返し、ピーピーと鳴き始めた。
「おぉ、ピーコ。カルよ、その魔法はもしや治癒Ⅳではないのか」
カーマ王は、ピーコを頬に摺り寄せながら、カルさんに尋ねた。
「はい、王様。私は、ミーナさん達と冒険をし、色んな経験をすることによって、この魔法を取得しました。私のこの力は勇者のパーティでも大いに役立つと考えています。先ほどオルガ騎士団長も言われたとおり、私達はまだまだ強くなれます。この力はカーマ国にとっても有用なものです。是非、私達が勇者のパーティに随行することをお許しください」
ピーコの復活に喜ぶカーマ王は、カルさんのお願いを快く聞いてくれた。
どんだけ、鳥大好き王なんだ。
そしてカルさん何気にオルガだけでなく、自分も行くことをアピールしてるし、大人の女性は怖いと思った。
まあ、カルさんの治癒Ⅳはメチャ便利なんだけど、一歩間違えるとブラック企業並みに働かされそうだ。
「カーマ王。勇者パーティの随行の許可を頂きありがとうございます。今回の魔物騒動の理由としては、亜人差別が根幹にありました。私も亜人ではありますが、差別は受けていません。他の亜人も差別される理由などないのでしょうか。私ごときが言うことではないのかもしれませんが、もう少し差別的な考えを弱くしないと第2、第3の魔王が生まれてくる可能性は否めないと思います。それに今回の旅において、私とカルは、マオ殿の奴隷であるエルフに何度命を助けられたか。彼女は非常に優秀な弓魔師です」
「ふむ。確かに亜人だからと言って一括りで差別するのは問題だったかもしれんな。今後は少し考えを改めないといかんか。また、魔王が誕生しても大変だしな」
おぉ、カーマ王の聞き分けがいい。
確かに前回は洗脳で欲望丸出しだったけど、少し落ち着いて考えることができるようになったのか。
カーマ王は、リンもここに連れて来ていいと発言した。
兵士の一人がリンを迎えに行って、リンを連れてきた。
リンは俺の横にピタッとくっついている。俺は小声で礼をするようにリンに言った。
リンはペコリと頭を下げた。
「お主がオルガ達を救ってくれたエルフか、感謝するぞ」
カーマ王がドワーフ以外の亜人に礼を言うなんて今までになかったことなんだろう。
周りの兵士達も驚いていた。
ただ、リンからしたらカーマ王は大嫌いなのだろう。何も言わず黙ったままだった。
俺はリンの手をぎゅっと握ってやった。
「もう良い。下がれ」
カーマ王は、ピーコと遊びたいのか俺たちとの用事を終えてしまった。
俺たちは、またオルガの家で泊まることとした。
オルガの家に着くまで俺はリンの手を握っていたが、ミーナから何か言われることはなかった。
さて、パーティはこのまま継続することになったが、俺たちは今後どうしていったらいいのか話し合わないといけない。
俺とミーナが正式に付き合うには親父(魔王)に認めてもらわないといけない。
今の力では無理っぽいから、レベル上げていかないとならないだろう。
オルガとカルさんは、完全に親父(魔王)にびびっていたらしい。
いや、普通そうなんだろう。魔王を目の前にして生きてるだけで凄いのだから。
どうレベル上げをするか話し合っていたときにミーナが突然何かに気付いた。
「あ、家に帰らないと」
え? 何で。今、それ大事なこと?
「この前、マオくんの家族を紹介してもらったから、うちの両親にマオくんを紹介しなきゃ」
うん、俺たちの関係をハッキリ紹介してもらわないといけないな。
これは大事なことだった。さすがミーナ。
なぜか他の3人の目が冷たい気がしたが、大事なことなのでスルーした。
「よし、次の目的地は、ミーナの実家だ」
俺が半ば強制的に次の目的地を決定すると、3人が深いため息をついていた。




