最悪の始業式
第1編・・最悪のクラス替え
「ジリジリジリ!」壁に不自然にかけてある時計が鳴った。僕は、二度寝しないようにわざわざ目覚まし時計を高い位置に置いてあるのだ。未だ夢と現実がうやむやなまま、起き上がった。
今日は、井出中学校で3年目となる始業式。毎年この学校では、クラス替えがある。
「どんなクラスになるのかなぁ?」と、不安と期待を胸に抱いたまま1階のリビングに降りてきた。
キッチンでは、お母さんが朝食の準備を忙しそうにしている。お父さんは、僕が起きる前の朝早くに仕事にいってしまう。だから、僕は、いつも一人で朝食を食べなければならない。
「おはよう!」と、互いに挨拶をすると、僕は自分のイスに座り、朝刊の新聞を見た。今日のテレビ欄を見ながら、「今日は魔王がやるのかぁー」などと心の中で呟いていると、「はい。朝ごはん。今日から中3になるんだからビシッとしなきゃね!」
お母さんの言うことは本当にうるさい。だけど、これにいつも助けられてきた。
たとえば、僕がお弁当を忘れかけた時に、お母さんが「お弁当もった?」と注意深く言ってくれたおかげで、弁当を忘れずに済んだ。他にも数え切れないほどあるが、ここでやめておこう・・。
今日の朝食は、味噌汁と大好きな目玉焼き。よく、目玉焼きはソースか醤油のどっちかと言うけれど、僕はソースじゃないと食べられない。
そんなことを思っているうちに朝食を食べ終え、1ヶ月も着ていなかった制服を身にまとい終えると、「ピーンポーン」と、」チャイムの音が聞こえた。
わっちだ。わっちは、小2からの親友で、いつもこうして僕の家まで迎えに来てくれる優しいヤツだ。
鞄を持って出ようとして、お弁当がないことに気づいた僕は、お母さんに「お弁当は?」と聞くと、「あれ?今日はお弁当ないんじゃなかったっけ?」と一言。ちょっとドジってしまった僕は、玄関を飛び出る。
そこには、不満げな顔でこちらを見るわっちがいた。
「ごめん!待った?」とお詫びを言って、いつもの道を2人で歩いて行く。通りの木々は、新しい季節を待っていたかのように桜が咲き誇っている。とても綺麗な光景に僕は、鞄から携帯を取り出し、近くの桜を1枚パシャリ!僕につられてわっちも、鞄から珍しい迷彩柄の携帯を出して、1枚パシャリ!
2人とも携帯をしまうと、いつもの道を再び歩き始めた。
通りのガソリンスタンドは、人気がなく、1ℓ180円もを超している。
そのガソリンスタンドを通り過ぎた直後、後ろから人の声がした。
「おーい!てる、わっちー!」
同級生の星だ。僕とわっちと星は小6に知り合い、現在まで交友関係を築いている。でも、よく星はわっちを馬鹿にする・・。
「よぉー猿!」
これは、星がよくわっちに言うことだ。わっちは相変わらず無視をして行く。
新しいクラスで3人とも一緒になるといいな、なんていう話をしながら井出中の正門の前まで来た。正門では、生徒会の人達が入学生のクラス表を配っている。
「そういえば・・、この頃はとても緊張したなー」
と、僕が言った。中学初めてのクラスというのは、とても緊張ものだった。誰も友達がいない、ましてこの3人ともバラバラになってしまったからだ。
そんな過去を振り替えながら、昇降口に入る。一瞬どこの下駄箱か迷ってしまったが、すぐにわかった。
クラス替えは、2年の教室で発表するらしくまた去年の人たちと会うことになった。
みんな、髪型や制服が変形していて中には染めている人もいる。同級生におどおどしながら席に着くと、友達の小嶋ことコジが僕の肩を叩いて言った。
「久し振り。同じクラスになるといいね!」
その言葉に一安心した。やっぱり変わらない人は変わらないんだなあと思った。
チャイムが鳴るのを待っていたかのように、先生がはいってきた。元担任の川上だ。川上は、横浜国立大学卒のエリート先生だが、そうとは思えないほどユーモアがあって面白い先生だ。
「みんな席につけ。これから新しいクラスの紙を配る。」
この先生の一言で、みんなはとても騒がしくなった
僕のところに紙が回ってきた。最初は何が書いてあるのか全く分からなかった。気持ちを落ち着かせてもう一度見てみる。
「あった!」
思わずわけがわからなく叫んでしまった。僕のクラスは、「3年2組・18番」だった。なんと、わっちと星も同じクラスだった。これにはさすがにびっくりして、友情の縁というものを感じた。
クラス内では、まだ騒ぎがおさまっていない。
「よっしゃぁー!」と大声で喜ぶ人もいれば、
「最悪ー!」と、不満げにいう人もいる。
僕は、どちらかといえばは不満側だ。正直に言うと、不安なのかもしれない。だって、友達がわっちと星ぐらいしかいないのだから・・。
まだ、不安が抑えきれないまま先生が言った。
「それじゃ、今からそのクラスに行ってください!私は、もうこれであなたたちとはお別れです・・。さようなら。」
先生の言葉がやけに悲しそうだった。それは、のちの明日わかることだった。
先生の言葉で、ゾロゾロと教室を後にしていく。中には、もうあえないようなお別れの会話をしてる女子もいる。
僕たちも教室を後にした。わっちも一緒に付いてくる。僕たちの新しい教室は、3階なので2階から階段を使って歩く。しかし、それがやたらと長い。上るだけでしんどいこの階段を1段づつ踏みしめて上がっていく。もう少しでオレ達の教室だ。近づくたびに、鼓動が高鳴る。