ある後輩の高校時代の記憶。
何かをこじらせ勘違いしちゃってる女の子が突然書きたくなり、それを続編に使いました(笑)
しかもこじらせ方が周りにバレないような、心の中で繰り広げる系の勘違いです。
個人的には書いてて楽しかったのですが、案外短くなりました(笑)
サラッと読める感じになってると思います(なんかこのフレーズ毎回書いてる気がする)。
一応ザマァ展開作ってます(笑)
初期年齢
一輝 14歳→12歳
私――篠宮千尋の通う高校には、「王子」と称される先輩がいる。
中学を卒業し、高校1年生になって早5か月。そろそろ学校に慣れ始め、中間試験後の文化祭を意識し始めた頃に、私は「王子」と呼ばれるある男子生徒について聞いた。
彼の名前は、森下一輝。本当に「王子」という渾名がぴったりなくらい、品のよさそうなイケメンだ。入学して最初にできた友達が、大層彼のことを褒めていたので、その日、私たちは3年生の教室へ向かって彼を拝見しようと思ったのだ。
2年生の教室の階は新鮮だったけれど、どうやら私たちと同じようにその「王子」を見ようとしている女子生徒が何人もいたようで、すぐに彼のいる教室がわかった。人混みの中、背筋を伸ばし、つま先立ちでようやく見えた、栗色のサラサラの髪の長身の先輩。
その時はまだ、私の心は彼に鷲掴みされていなかった。
それから一週間ほどたって、中間だテストだと騒ぎ始めたころ、学校の図書館では人が多すぎるので地元の図書館で勉強しようと、ある土日に自転車を走らせてそこへ向かった。
そこの読書室で勉強道具を広げたとき、見覚えのあるキラキラオーラを感じ、バッとそちらを見た。
「…あ、」
思わず小さな声が口から洩れてしまったが、あまりに小さかったので誰にも聞こえなかったようで安心した。けれども私の目は確かに、あの「王子」こと森下先輩をとらえていた。
真剣な表情で机にノートにサラサラとペンを走らせている彼に、少なからず胸が熱くなったのだが、一瞬の気のせいだと思い、私は自分の勉強を始めた。
それから数時間が経過し、勉強に飽きた私は、図書館に蔵書されている本を読もうと席になった。その時は彼の座っていた席があけられていたが、勉強道具はそのままだったので恐らくトイレに行ったのだろうと、その時は何気なく自分も席を外した。
キョロキョロと自分の好きな作家さんの本を探していた時、夢中になっていた私は横に人がいたことに気づけず、思い切り体当たりしてしまった。
「ぅわっ、す、すみませ…っ!?!?」
「あ、こちらこそ」
何故だ!!と叫ばなかった私をどうかほめてほしい。
なんていったって、学校の「王子」にぶつかってしまった。その時の私は王子にあえて興奮し、どうかしていたのだが、「王子」も触れられるちゃんとした人間なのだということに初めて気づいたのである。
まあそんな感じに、私は初めて彼とこんな至近距離で話したわけだ。
「…その本好きなの?」
図書館では静かにするのがマナー。でもさすがにそのかすれ声は殺人兵器だと思う。
その場にぁああああっと言って悶え寝転がらなかった私を誰かに褒めてほしい。っていうか賞状とかトロフィーとかほしいレベル。
「…は、はいっ」
「そうなんだ、いいよね。俺も好き」
あああああ、もうこれ狙ってない!?狙ってるよね!?あんだけ女子生徒に人気だってことは女慣れしてるわよね!?
これは「私も好き!」って言って抱き着いてもいいパターンじゃないのかな!
軽くキャパオーバーした頭を整理していると、そのすきに返答のなかった私をつまらないものだと思ったのか、彼は「じゃあね」といって消えてしまった。それでも、最後に私に挨拶してくれた。
―――たったそれだけのことだけで落ちてしまうなんて、なんとも私は単純な女なのである。
そこからいつあの先輩が来てもいいように放課後も土日も自転車を走らせてあの図書館に通った。あそこだけが唯一私と先輩が関われる場所だと、2回目に会った時に確信したのだ。
あれだけ多い先輩のファンが何故この場所を知らないのかって、恐らく彼女たちには部活やらがあるし、何より勉強は学校の図書室で出来る。例えこの図書館にうちの学校の生徒が来ても、そういう人はうるさい学校の図書室じゃ集中できない、勉強に本腰入れている人だけ。
つまりキャーキャー騒いでいる頭の無さそうな女たちはこんな穴場を知らないってわけだ。
それからずっと会いに来たのが功を奏したのか、先輩から勉強を教えてる教えられるの関係にグレードアップしたのである。自慢ではないが、中学時代にすでに3人と付き合った経験のある私にしてみれば、もしかしたら先輩の恋人…なんて夢じゃない。ましてや、先輩の同級生はおろか、私の友達だって知らない先輩を私は知っているのだ。
「あの、森下先輩、ここわかんないんですけど…」
目をうるうるとさせ、先輩に上目遣いに頼んでみる。一瞬だけ目が合い、ス、と何事もなく逸らされた目線に、照れているんだなと思う。
そしてそのまま、「ここを代入したらいいよ」とちゃんと教えてくれる。
先輩の隣の席という素晴らしいポジションを手に入れた私に、誰も勝てない。もうこれはこのままゴールインしかないでしょ。どうしよう、やっかまれて先輩の女の同級生に呼び出されたりなんかしたら!…そしたら颯爽と先輩が現れて助けてくれるだろうけど。
「先輩って、今彼女いるんですか?」
お互いの勉強を終え、図書館を出る際に思い切って聞いてみた。すると、彼は驚くべきことに首を横に振ったのである。
恐らく好きな人もいないだろう。好きな人がいたとして、彼ほどの容姿があればすぐに付き合ってるはずだもの。ってことはいま、完全なるフリー。つまり、恋人ポジションに限りなく近いのはこの私。
「先輩っ!」
「ん…?何?」
「また勉強教えてくださいね!」
「でもテスト明日だけど…」
「テスト終わっても勉強教えてくださいって意味ですー!」
「ん…まあいいけど」
「やったぁー!」
そう、こうやって先輩に猛アタックすれば、私に振り向いてくれるんだって。
――――そう信じて疑わなかったのが、間違いだったのか。それとも。
中間テストが終わり、教室の空気は一気に文化祭モードに変わった。
初めての高校の文化祭。学級委員を中心に、いいものにしようと誰もが考え、活発的に話し合いが進んで、私たちのクラスはお化け屋敷になった。
テスト終わった後も、先輩はたまに図書館に来てくれる。きっと私に会いに来てくれてるのだろう、私を見つけると、すぐに本の話とかをしてくれる。どれもこれも、私と先輩の、みんなが知らない秘密の話。そう、2人だけが知ってる、その空間。隣で文化祭の話をしている友達なんかは、絶対知らない話なのだ。
思わずクスクスと笑った私を、一生懸命お化けの話をしていた友達が気味悪がったのは私のせいじゃないと思う。
「っていうか最近、千尋一段と可愛くなったよね」
さっきまで私を気味悪がったくせに、突然そんなふうに言い始めた友達に、驚く半面、やっぱり?と思う自分がいた。なんといっても、私はいま、みんなの憧れあの「王子」の恋人ポジションに近い立場にいるんだから。
「えー、そんなやめてーうけるー」
軽く流すが、ここでふと思う。
もしかしたら先輩も、私のこと可愛くなったと思ってくれるかもしれない。
もしかしたらそんなことを直接私にいってくれちゃったりして。
きゃーと心の中で騒ぎ立てる私の悲鳴は友達には聞こえないが、急に黙った私を彼女は怪訝そうに見つめていた。
「そういえば、あの「王子」、誰と文化祭回るのかな…彼女かな!」
「……!」
彼女!!
でも今彼はフリーのはず。
ってことは何?そのポジションに近い私は、彼からお誘いが来ちゃったりするってこと?そうなの!?
もはや止まらない私の妄想を知らない友達は、後にその時の私をこう語る。「心ここにあらずだった」と。
そして文化祭まであと一週間となった時だった。
その日もいつもと同じように図書館に行って、先輩を待った。案の定、私がいることに気づいた先輩は、何の疑いもなしにこちらへ歩み寄り、私の隣の席に着いた。
もうこれって私たち恋人でいいんじゃないのかな。そう思い始めた私を置いて、先輩が一冊の本を私に渡してくれた。
「これ、君の好きな本の作家の新刊」
「えっ、そんな、私のために…?」
「いや、もう俺読んじゃったし、それに、」
「いいんですか!ありがとうございます…っ!」
なんだろう、嬉しい。私のためにこうやって貸してくれるなんて。
思わずギュッとその本を抱きしめると、心なしか、彼のにおいが本からした気がした。
抱きしめたのがよかったのか、
「そんなに喜んでもらえると、こっちもうれしい」
とあまり見せない笑顔を至近距離で拝ませてくれたのである。これはもう写真を撮って待ち受けにしたいレベルだ。
鼻血を出さずこらえた私の努力など知らず、彼は「じゃあちょっと俺借りてくる」といって席を立った。
そこで私はある重大なミスに気付く。
…私、先輩の連絡先を知らない。
これはやばいかもしれない。だって、もし先輩に文化祭誘われたりなんかしたら、連絡の取りようもないし、ましてや先輩からの告白だっていつかわからないもの。
もしかして先輩って意外と古風な人?それでもいいけど、やっぱり先輩の連絡先くらい知っておきたいな。と思い、しばらくしたら先輩が返ってきたので、思い切って連絡先を聞いてみた。すると。
「いいよ。…あ、ごめん、家に忘れてきた」
携帯の意味!!
いやでもそんなおっちょこちょいなところも素敵です。
そう、私はどんな先輩でも好き。いつもの王子様風の先輩も、勉強を教えてくれる頼りになる先輩も、ケータイを忘れちゃうドジな先輩も。
だってどれもイケメンで、素敵だから。
「じゃあ今度会った時に聞くので、ちゃんと携帯してくださいね!」
満面の笑みでそういうと、彼は照れたのか、フイッと顔をそらしてしまった。ああ、そんなところも素敵ですよ先輩。
それから一週間後。何故かあの連絡先を聞いた日から先輩に会うことなく、そのまま文化祭当日を迎えてしまった。
たぶんこのパターンで行くと、当日にみんなの前で私を誘って告白って感じかしら。やだもう先輩ったら大胆!
完全に浮かれきっていた私を、無理やり友達がシフトに連れていき、暫くブスッとしたままシフトをこなしていると、同じクラスの男子が何やら騒いでいるのが聞こえた。
「え、何々、どうしたの?」
「すっげー美人がこのお化け屋敷の中にいるんだってさ!」
「ああ、たぶん大学生だぜ?」
「3人で来てたんだけど、どれも美人でさー。俺的にはあの長い髪の人がタイプ!」
「あー、俺も!なんつーか優しそうだよなー!」
ふーん、先輩以外の男子って本当に一途じゃないわよね。まあ別に私には関係ないけど。私より美人かどうかは知らないけど、先輩と私に関係ないんだったらもはやいないのと同じね。
フン、と鼻を鳴らし、そのままシフトを続けようとした時だった。
バサッとお化け屋敷に設置された黒い布が揺れ、3人の女性が怯えた表情で外に出たのは。恐らくあの3人だろう。確かに長い髪の女性は綺麗だったし、たぶん…いや悔しいけど私より美人。まあでも私のほうが若いしね。
ナチュラルに施された化粧に、お化け屋敷で怖かったのか潤む瞳は庇護欲を掻き立てられそうだ。現にさっき興奮気味に話していた男子たちも見とれてしまっている。
と、そこで廊下からワッと歓声が聞こえた。見ると、そこには待っていた展開。つまり先輩が私に向かって早歩きしてきてくれているのだ。悲鳴をあげそうになったが、ここはヒロインのように待っていたといわんばかりに笑顔で迎えよう。
そう決意し、「先輩っ!」と大きく息を吸い込んでそう声に出そうとした、その時だった。
「一輝くんっ!」
誰も呼んだことのない彼の下の名前が、軽々しく廊下に響き渡った。
え、と言ったのは男子か、周りの野次馬か、それとも、私か。
いずれにせよ、初めて見たあの黒髪の女の人が、私の彼氏になる「王子」の名前を呼んでいることに、強い嫉妬心にかられた。
思わずその非常識な女に掴みかかりそうになった時だった。
「渚っ」
感極まったようにそう返す先輩に、私は言葉を失った。
私は知らない。あんなふうに嬉しそうに人の名前を呼ぶ先輩を。
私は知らない。あんなふうに満面の笑みで女の人に近づく先輩を。
私は気づいた。――――あんなふうに私が彼に駆け寄られたことがないことを。
「先輩!!」
それでも信じられなかった私は、思わず、近づく二人の距離をこれ以上埋められないように、女の人の前に立ちはだかり、先輩と向き合った。
が、そんなの先輩にとってはただの障害物でしかなくて。
「―――どいて」
初めて聞いたあんな冷たくて低い声に、私は息をのみ、まるで彼に操られた人形のように、素直にどいてしまった。
だがそれを見ていた、渚と呼ばれた黒髪の女性が、少し怒ったように口を開いた。
「こら一輝、そんな風に後輩に言っちゃだめじゃない」
「…悪い」
「あ、…いえ、」
――――どうやら私は、人生最大のミスと、人生最大の恥ずかしい勘違いを自分の中で繰り広げていたらしい。
それから私は何事もなかったかのように野次馬の中に消えると、黒髪の女性は、他の2人の女性に断りを入れて、森下先輩と二人で文化祭を回ったという。私はもちろん友達と回ったが、その間に何度かその二人を目撃し、私と友達は二人で涙を呑んでたこ焼きを食べた。
後に聞けば、2人は付き合っている恋人ではないという。だったらなんであんなに距離が近いのだろうという疑問は当時わからなかった。かといって、その辺を聞けるほど、私と先輩は仲良くはなかった。何故なら私は、先輩にとってそこまで重要なポジションにいるわけではなかったのだから。
正直、あの時、先輩とあの黒髪の女性が名前を呼びあったとき、「先輩は私のものですよね!?」とかなんとか言わなくてよかったと思う。ぶっちゃけそんなことを心の中で思ったのは事実だ。でも言わなくて本当によかった。
なんか言ったら私、きっと今こうやって社会人になってあの黒髪の女性―――渚さんと仲良くお酒飲んでないもの。
私より6つつほど年上の彼女は、あの時よりもっと綺麗で。同じ会社で、彼女の下で働くようになったのだ。渚さんは私のことを覚えていないけれど、私はよく覚えている。まあ、そんなこんなで信用をゲットした私は、ようやく先輩と渚さんの関係を知ることができた。
二人ぼ異母姉弟。つまり、半分血のつながった家族。
それを聞いたときはまだワンチャン、とか思ったが、すぐにそれは砕け散る。
だって彼女、気づいていないかもしれないけれど、口を開けば森下先輩の話しかしないのだ。さらにざ残業となれば彼女のスマホには、必ず、かつて「王子」ともてはやされた森下先輩の着信が鳴る。
これを相思相愛と言わずして、なんと言うか。
彼女は多分、森下先輩の気持ちに気づいていない。でも、森下先輩は確実に彼女のことを誰よりも深く愛している。飲み会の席や残業のとき、必ず迎えに来るのがその証拠。―――かつて勉強を教えた後輩がいることなんて、目に入らないくらい。
高校時代、彼と自分が両思いと信じて疑わなかった自分が恥ずかしくて仕方ない。でもそもそも、本当の間違いは、私が彼に認識されると思っていたこと。
どう考えたって、彼の瞳に私は写っていなかった。
彼の目にはいつだって。
「私、一輝くんに甘えちゃっててだめねー…結婚できないかも」
「大丈夫ですよ、渚さん」
だって、あなたの旦那さんになりそうな人、今そこまであなたを回収しにスタンバってますから。
今日も私は恥ずかしい高校時代を思い出しながら、いまだ進展しない2人の関係を見守っている。
いやぁ…大人になってまで高校時代に恥ずかしい過去を掘り返されるのはきついですねぇ…しかもいまだくっつかない。
完全なるモブの女の子視点の話でしたが、いかがでしたでしょうか!
ハッピーエンド?多分彼女にはちゃんとした春が来るでしょう!たぶん(笑)
「隠し子」の続編といってもいいのかわからない作品ですが、作者的には「勘違い系女子をザマァしたい!」というだけで書いたお話ですので、読者の皆様がニヤニヤしながら読んでいただければいいなと思ってます。
ここまで読んでくださりありがとうございました!