プロローグ
2013年、5月。じりじりと太陽が照りつける。夏までまだ間があるのに、と英里佳はため息を着いた。
「ったく、何でこんなに暑いのよ……」空を見上げ、ぶつくさつぶやく。
とにかく、身体が重い。とりあえず座りたい。
どこか休めるような店はないのかとあたりを見渡す。路地裏にちいさな店があるのを見つけた。
(こんなとこに、何の店だろう?)
英里佳はおそるおそる近づいた。
ガラス張りの外装。ドアノブにOpenのふだが掛かっている。
ドアには店名だろうか。M、とだけ記されていた。
英里佳は、おそるおそる店に近づいてみた。真っ白な床の真ん中に、花が敷きつめられているのが見えた。青い花や、紫の花。まるで花の絨毯。
その上に、女の人が二人、座っている。一人は花かんむりをつくっていて、もう一人は本を読んでいるようだ。まるで、店の中の時間が止まっているかのように、二人は微動だにしなかった。
人間だろうか。それとも、等身大のマネキンなんだろうか。確かめようと、英里佳はドアを開けた。
その時。
「……いらっしゃい」
突然、話しかけられた。
「……!」
花かんむりをつくっている方が、こちらをじっと見つめていた。
それが、英里佳と茉由理の出会いだった。