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デレまで待てない

 世の中には『ツンデレ萌え』なるモノがあるらしい。

 もし『好みのタイプはツンデレです』という女の子がいるなら、是非とも紹介してもらいたい。

 私の再従兄はとこに。

 彼はいわゆるツンデレ属性なのだ。

 当人は『人見知りなだけだっ!』と否定するだろうけどさ。

 でも、初対面の人には緊張するあまり硬い表情で無口になる様子が『ツンツンしている』と見えなくもないし、身内相手だと優しく面倒見が良くなるから『デレてる』と解釈されるのも仕方ないんじゃないかなぁ。

 そんな彼は雰囲気イケメンでもある。

 顔の造作や体型は『可も無く不可も無く』の普通なんだけど、学年首席に裏付けされた知性や裕福な家庭で育ったことを窺わせるマナーの良さや清潔で上品な着こなしなど、それらを足して総合するとイケメンのイメージを受ける。

 だからパッと見の第一印象は良い。

 女の子にモテる。

 ただし、先に言ったように人見知りなので会話すると好感度が下がってしまうらしい。

 仲良くなれるまで時間のかかるタイプなのに、女の子側のモーションが途切れてしまうのだ。

 しかも当の再従兄は人見知りだから、それほど親しくなってない女生徒に自分からアプローチなんてしない。

 そのせいで頻繁にこくられるくせにフリーで、ガールフレンドもいない。

 ヘタレめ。

「……でも、それって理恵ちゃんの所為じゃない?」

 父方の再従兄のことを愚痴った私に、友人が言った。

「ええっ!?何でっ?」

 予想外な返事を聞いて、私は思わず叫んだ。

「りっちゃん、学食で大声出すなよ。周りの皆の迷惑になるだろ」

 頭上から降ってきた声に振り返ると、噂をすれば影、ご本人の登場である。

「ごめん」

「気を付けろよ。……それで何の話してたの?」

 ちょうど空いてた隣の席に腰をおろし、再従兄が訊いてくる。

「タケ兄さんに彼女が出来ない件について」

「っ!ン、ぐぅ!ゴホッゴホッ……!」

 口をつけたばかりの日替わり定食を噴き出しそうになりながら、何とか飲み下したものの咽せる再従兄。

「大丈夫?タケ兄さん」

 いちおう責任を感じて背中を撫でながら確認する。広い背中は合気道で鍛えた筋肉がついており、『文武両道』を文字通り体現している。

 タケ兄さんは、立派な名前に負けてないトコが凄いよね。

「……り、りっちゃんが変なこと言うからだろ。こんなトコで恥かしい話すんなよ。第一、大きなお世話だ」

「え~、だって~。美花ちゃんは私が邪魔してるみたいに言うしさ~」

 ちょっと睨まれてしまったので、話の矛先を変えてみる。

「それは違うだろ。りっちゃん、次から次へと女の子紹介してくるし」

 再従兄も意外に思ったのか、呆れた顔でツッコむ。

「それは『篠原さん親戚なんでしょ?紹介して』ってお願いされちゃうから。断ると誤解されたり、変な噂が流れるもん……」

 本当の事だけど、自分の保身に走った結果でもあるので言い訳がましく呟く。

「前に何か有ったのか?」

「う~ん、つまりね、『紹介できないって何で?篠原さん、先輩のこと好きなの?』とか、そんな感じ……」

 心配して顔を険しくする再従兄に、比較的マシな内容を伝える。

「だからタケ兄さんが苦手に思ってるのは知ってるけど、私も頼まれると断り辛いんだよ。

 ま~、タケ兄さんに彼女が居れば簡単に済むんだけどね~」

 『文武ふみたけ先輩には彼女がいるから無理なの。ゴメンね』って、突っぱねられればラクチン。

「と言う訳でさ~、早く彼女を作って欲しいなって」

 その気になってくれればラッキーとばかりに、少し煽ってみる。

「……俺が人見知りなの、知ってて言うかね。初めて会う知らない女の子と付き合うなんて無理」

「そこはガールフレンドから始めるとか……」

「無理。無理だから」

 食い下がってみたけど、取り付くシマもない。

「大体そういうりっちゃんも彼氏いないだろ?」

「私はタケ兄さんと違ってモテないから」

 地味で平凡な目立たない女の子だし、色恋沙汰には縁が無いんだよね。

 他人の恋愛事情には巻き込まれちゃってるけどさ。

 タケ兄さんも困ってるんだろうけど、私だっていい迷惑なんだから。

 なので、粘って説得してみる。

「ね~、よく知らない人は駄目でも、好きな子の一人や二人いるんでしょ?」

「二人もいたら大問題じゃねえか」

「まあね。じゃあ、好みのタイプとかは?友達に誰か紹介して貰いなよ」

「そこまでして彼女ほしい訳じゃないからな」

「モテるからって余裕ぶってると、イヤな奴って思われるよ」

「この話題止めてくれよ。まだ俺だから良いけど、他人にはやるなよ。こんなデリカシーないこと」

「も~っ、タケ兄さんたら酷い。分りました、悪かったわね、無神経で。

 もう行こ、美花ちゃん」

 ピシャリと言われて腹が立ち、空になった食器を持って立ち上がる。先に返却口へ向って歩き出すと、追いかけて来た友人が口を開く。

「理恵ちゃん言い過ぎじゃない?落ち込んでたよ、篠原先輩」

「ちょっと位ヘコんで反省したら良いじゃん。もうツンデレには付き合いきれないよ」

「理恵ちゃんも大概ニブイと思うけど」

「まあ私は頭良くないから」

「いやいや、そうじゃなくって……先輩の気持ちを察してあげなよってこと」

「うわっ、ツンデレメンドクサイ」

 これでも可愛がってもらってる再従妹だし、我慢してタケ兄さん目当ての女生徒の応対を頑張ってきたのに。

「理恵ちゃんには先輩あんなにもデレてるのに……」

 何でか『残念な子』でも見るような目つきになる友人。

「そりゃ身内で妹分だもん。長い親戚付き合いしてるんだから、仲良くて当然でしょ」

 この点はハッキリと主張しとかなきゃ、周囲に勘違いされちゃう。

「……先輩も苦労するわね、コレじゃ」

 確かに現実じゃ生身の男がツンケンしてても我慢して、デレてくれるまで付き合い続けるような女は世間に居ないかも。

 そりゃ漫画やドラマみたいに大金持ちの社長令息だとか、ハリウッドスター並みの超絶イケメンとか、ノーベル賞をとれるほどの大天才だったら別だろうけど。

 やっぱり『ツンデレは二次元に限る』なんだろうか。

 は~っ、何処かにタケ兄さんがデレるまで待てる女の子がいないかな……。

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