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幽霊が夢枕に立つとは限らない

 ここのところ夜勤続きで昼日ひるひなかに寝るせいか、眠りが浅い。

 世間の人々が働いたり何だかんだしている時間帯だから、人の声やら足音やらが聞こえてくる。

 気にしないようにと思っても、耳につく。その結果として、熟睡できない。

 そもそも夜と同じ静けさを昼間に求めても実現不可能だろう。

 仕方ない事とあきらめている。

 とは言え、夢うつつで眠る状態の影響なのか、よく同じおかしな夢を見るようになった。

 こうやって寝ていると、ドアの鍵を開けて見ず知らずの人たちが部屋に入り込む。

 ほとんどの場合は二人組だ。

「……どうですか?お手頃だと思うのですが……」

「……何だか寒くないですか?」

「北向きのお部屋ですから、夏場は涼しいですよ……」

 とまあ、こんな具合にベッドで寝てる自分を無視して話し続ける。

 そして、部屋中をウロウロして、あちこち開けたり閉めたりしたあと出て行く。毎日ではないが何日か置きにくり返される。

 最初に夢を見た時は泥棒が入ってきたと勘違いして、すごく恐かった。

 さすがに今では「またこの夢か」と慣れてしまったけれど。


「ただいま戻りました」

 物件にお客様を案内した先輩が一人で帰社した。

「お疲れ様です。……駄目だったみたいですね、やっぱり」

 お客様が一緒でないということは、成約にならなかったのだ。

「お客様に日当たりが悪い部屋は気が滅入ると言われたよ」

 自分のデスクに座った先輩が溜め息まじりに答える。

寒気さむけがしますものねー、あの物件」

「北向きだから仕方ないだろう」

「僕が前にお客様を案内した時は、いびきが聞こえたんです。それで、壁の薄い部屋は困るって仰られて駄目でした。……でも、あの部屋の周囲も空き物件なんですよ。おかしいですよね」

「お前、滅多なこと言うなよ。お客様が恐がるだろう」

 先輩が咎めるような顔つきになる。

「だって、事故物件なのは事実でしょう。あの物件は洗い屋を頼んでロンダリングして、お客様への告知義務を無くすべきですよ」

 相場より格安の家賃に釣られた客を案内しても契約に繋がらない現状では、会社にとって人件費ばかり掛かって損だ。

「まあ、なあ……。だけど、殺しとか自殺じゃなくて、病死だぜ。それに、坊さんに頼んでお経もあげて貰ったんだぞ」

「でも、誰もいない筈なのに人が住んでる気配がするって、隣りやお向かいどころか上下階の住人も恐がって引っ越しちゃったって聞きましたよ」

「……坊さんで駄目なら、神主さんか?」

「お祓いしても効くかなあ?人が亡くなることを『永眠』と言いますけど、文字通り眠ったまま亡くなったって話ですからねえ。案外気づいてないんじゃないですかあ?」

「何に?」

「自分が死んだって事にですよ」

「まさか」

「いや~、当の幽霊さんに自覚がないなら、客つれて出入りしてる僕らは不法侵入でしょう。怒らせて祟られたりしませんかねえ?こわい、こわい」

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