二等辺三角関係
妻の想い人が死んだ。
ふわふわした男だった。
同じ大学の同窓生で、人付き合いが下手な僕にも声をかけてくれるような人当たりの良い男。誰とでも満遍なく付き合うが、心の内側には誰も招き入れないような男。
アイツの紹介で、僕ら夫婦は知り合った。
最初はお互い学生グループの一員としての付き合いだった。
だけど、三人の友人つきあいは社会人になっても続いた。
時々ふらっと現れて家でご飯を食べたり、大学の同窓会や友人の結婚式の際には泊まっていく。
それは、僕と妻が結婚して家庭を築いてからも同じだった。
妻にとって、僕はアイツのオマケだったろう。そんな僕を結婚相手に選んだ理由は、アイツが家庭に納まりきれない、夫婦の枠に嵌まれないような男だからではないか?
アイツは捕らえどころのない男で、はっきりと二人が深い仲だったと判る証拠もない。
たぶん不倫ではなかったんだろう。
ただ何となく、
「……いつかアイツと一緒に出て行くんじゃないかって思ってたよ」
お茶を飲んで一息ついたら、ポロリと言葉がこぼれた。
夫婦そろって出席した葬式から帰り、喪服を着替えて居間でくつろいでいる。
「あら、わたしもよ。……あなた達ふたりで居なくなるかもって思ってた」
少し驚いた表情の妻が応える。その丸くなった瞳がちょっと可愛い。
「どうして……」
「だって、あなた、彼が好きでしょう?」
「君だって」
好きだろう。
嫌な顔ひとつ浮かべず、いつも手料理をごちそうしていたじゃないか。
いつだって笑顔で、和やかな楽しい時間だった。
「そうね。……彼はあなたが好きだったと思うわ」
「……アイツは君のことが好きなんだと思ってた」
これは僕の邪推にすぎなかったのか?
アイツの気持ちはどうだったのだろう?
勘が鋭く直感で生きているような男だったから、ひょっとすると僕らの気持ちを察していたかもしれないが。
アイツ自身は僕ら二人をどう思っていたのか?
「聞けば良かったな、アイツに……」
「聞けないわ。……だって壊したくなかったんだもの」
三人の関係を。
ずっと一緒にいたかった。
たとえ三角関係だとしても。
「そう、だな……」
もうアイツをなくす恐れがないから言えるのだ。
僕たちはアイツを亡くした。だけど、夫婦ふたりの間でアイツの記憶は生き続けるに違いない。
アイツが僕らふたりを結びつけたのだから。
これからも、ずっと……。
この掌編は筆者が数年前に見た夢をもとにした話です。
本日(一月二日)はお正月の行事『初夢』にちなんで投稿してみました。
葬式エピソードは縁起が悪いかと思いましたが、これは逆夢と解釈すれば吉なのだそうです。