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モブにチート

 異世界トリップした主人公が、チート能力を得て『俺TUEEE!』と活躍、どんどん出世してハッピーエンド。

 なーんて、王道テンプレの展開だし、よくあるストーリーだと思う。

 ただし、『二次元に限る』だけどさ。

 現実は世知辛いもんだよね。

 実は、この度わたしも異世界トリップを体験しました。

 でも、『神様に依頼された』とか『国家に勇者召喚された』とかの使命有りきじゃない。

 事故トラブルというか、他人の犯した犯罪に巻き込まれた被害者ってだけ。

 それなのに、元いた世界に帰れないと神様に宣告されちゃった訳。

 運が悪かったってヤツ。

 神様曰く「自分の創った世界の魔法使いが術を使って、世界と世界を繋げてしまった。

だが、それは『世界相互不干渉』という創造神同士の誓約に違反する行為だ。

もちろん察知した瞬間に魔術を解除したが、その際に術式で繫がった空間へタイミング悪く通りかかった君を連れて来てしまったようだ。

気の毒だが、君を帰す為とはいえ、また世界間を接続することは出来ない。

神々の掟で禁止されているには、相応の理由がある。

生態系の違う世界がアクセスすると、病原菌などの悪影響をお互いに与えてしまうんだ。

君だって謎の害獣の大量発生や、未知の伝染病が猛威を振るう元凶になどなりたくなかろう?」

 まあ、他にも色々と説明されたけど、理解できた部分はこれ位。

 なにせコッチもパニックになってたし。

 そんな事情で、わたしは生まれ育った故郷に帰れない。

 いちおう神様から被害の慰謝料や補償もしては貰えた。

 まず私と似た外見をもつ民族の言葉や読み書きが可能な状態にしてくれて、今まで受けた教育と同等の学問や常識も上書きされた。

 これで、この異世界で右も左も解らないという事にならなくて済んだ。

 あと環境に身体が適応できるようにと、此処では至極ありふれた病気に対する抗体なども投与されたらしい。

 ついでに身につけている服や小物や所持金も、こちらで生産・流通している品物に変えてくれた。

 ここまでが、被害の補償という話だった。

 で、さらに慰謝料として授けられたチート能力。

 これが問題で、いま困ってる。

 なんと『他人の才を奪う能力』なんです。

 ソレって泥棒じゃんか!

 嫌だよ、使いたくないよ。

 いえ、ちゃんと反対意見も主張もしたよ?

 ただ流されて承諾したとかじゃないから。

 だけどね、ココってゲームみたいな世界で、人が職業に就くには生まれ持った才能スキルが必要なんだって。

 『生まれたときに天の加護で与えられた才をもとに能力を伸ばし、長じて職業に就く』っていう考えらしい。

 つまり、この世界で生まれておらず、当然ながら加護もない人間は暮らせない。

 だから、わたしに『天賦の才を盗む能力』を与えたんだと。

 ええ~っ!?

 いやいや、待って!

 それなら普通に人並みの加護を下さい。

 はい、頼みました。

 それこそ縋り付く勢いで。

 すると、『無理!』と断言されました。

 この世界のルールとして、不可能だと。

 神様といえども規則を破れば、世界の調和が乱れ、異常気象などの災害が起こるそうです。

 だったら、わたしがチート能力を得ること自体おかしいじゃん!

 ええ、ツッコミましたとも。

 神様のお答えは、「そもそも人間の加護にはない能力だから」

 なんでも「神様の使いが悪人に罰として行使する能力」らしい。

 理屈としては「神に与えられた才を使って悪事を働いた人間から加護を取り上げる」という事でした。

 ちなみに、わたしは「神から許可されて移住した異世界人なので」ギリギリセーフ。

 神様に「特別の扱いです」と、ドヤ顔されても嬉しくない……。

 こんな感じで一通りのレクチャーやら手続きが終わると、神様に安全で人目を惹かない場所へ送られて、そこでお別れとなりました。

 もうお会いする事は無いでしょう。

 そして今、すっごく悩んでる。

 能力を使うか否か。

 だって、恐いもん。

 何が恐いって、わたしのチートは神罰として使用される能力だから、対象は犯罪者に限定される。

 だったら良心も痛まないし、罪悪感も味わわなくて済んでラッキーでしょって思う?

 あっまーいっ!

 これって犯行現場を押さえなきゃならないし、場合によっては凶悪犯とも接触しなきゃならない。

 下手をしたら、こっちが怪我しちゃう。

 もしも巧くやれたとしても、そんな犯罪行為に使われる才能がマトモだと思う?

 例えば盗んだり、騙したり、殺したりする力……。

 いいとこ闘う技術がせいぜい?

 こんなわたしでも乙女だし、格闘技の才能とか要らないわ。

 護身術が必須の危ない職業は選びたくないしね。

 もともと一般人で、二次元ならば『モブ』に分類されるようなキャラだもん。

 どこにでも居る平凡な人間なんだから。

 普通の堅実な仕事に就ける才能が欲しいし、こんなチート能力は上手に使いこなせないよ。

 神様もどうせなら十人並みのスペックで操れる能力にして頂戴よね。

 あ~あ、どうしたら良いの……。

 グゥキュルル~。

 うう、こんなに将来を悲観してる時でもお腹が空くなんて。

 わたしは蹲っていた道端から仕方なく立ち上がり、近くの屋台をフラフラと物色して安い食べ物を買った。

 不味くはないけど、美味しくもない。

 質より量の食事をしていると、誰かとすれ違った。

 う~ん、行儀悪く食べ歩きしていたのが良くなかったのかな?

 それとも、平和ボケしてると言われる日本人気質が悪党には一目瞭然だったのか……。

 あ~、その、お財布を盗られそうになりました。

 引ったくりだ!と気付いた瞬間、

「ドロボ~ッ!!」って叫んじゃってた。

 思わず知らずやっちゃったんだけど、盗人はダッシュで逃げて、その場にわたしはペタンって座り込んじゃった。

 ビックリしたし、短い間にいろいろ起こり過ぎて心がついていけなくなってた。

 周りの通行人達も大声に驚いてたし、本人がへたり込んだまま動かないものだから、やがて街の警備員たちが駆けつけてきて何だかんだと尋問された末に、わたしは神殿預かりになってしまった。

 ほら、わたしってコッチに家族とかいないから。

 身元を保証したり、引き取りに来てくれる人なんて誰もいないもん。

 しかも無職だし、犯罪者ではないけど不審人物だと思われたみたい。

 しかし意外や意外、これから事態が好転するの。

 神殿の巫女さんが親身にお世話してくれて、こちらの相談にも乗ってくれて。

 何とか神殿の雑用係として働けることになりました。

 わ~い、バンザ~イ♪

 えっ、チート能力はどうしたって?

 こんなもの『猫に小判』、『豚に真珠』、『モブにチート』ですよ。

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