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5章 7話


ただ待つっていうのは、意外と疲れるものだし、正直しんどい。ロツォンさんからの報告を受けるたびに落ち込んでいては、こちらの体が先にダウンしそうだ。

そういう訳で、リラックスする意味も込めて書庫へと来た。ここは昔から好きだ。落ち着いていて、適度に窮屈で、あの賢者モラン爺もいる。

今日はなんの本を紹介してもらおうか。そういえば、最近は落ち着いて本を読むことも少なくなった。


「おやおや、お久しぶりですな。坊ちゃん」

「帰って来てもう一週間になるんだけどね。書庫から出てこないからモラン爺になかなか会えないじゃないか」

「ワシはただの使用人故、顔を見せる必要もないじゃろ。それにここに閉じこもっていてもいろいろと話は耳に入る。最近は随分と騒がしいことに巻き込まれているようですな」

本を読みながら受け答えするモラン爺。一体情報源はどこにあるのだろうか。昔から不思議で底の見えない人だ。


「モラン爺と二人でのんびり本を読んでいたのが懐かしいよ」

「昔を懐かしむほどまだ歳をとってはいなかろう」

「それもそうですね」

「どうじゃ?久々にいろいろと教えてあげようか。坊ちゃん」

リラックスするために本を読みに来たのだけど、モラン爺と話していると不思議と知識欲を搔き立てられる。久々だし、ここは素直に甘えて教えを乞うとしようかな。

「よろしく」


ようやく書物をしまい、俺の元まで来てくれた。

久々の教鞭で、この人も案外楽しそうだ。


「最近苦労気味の坊ちゃんにいい魔法を教えますよ。結界魔法です。どうやら茶々を入れてくる人間が多いようですので、自分の身を守れるくらいには使えるといいですなぁ」

「結界魔法科か。是非教えてよ」

「では、早速。今日教えるのは初歩的結界魔法です。まずは屋敷の周りに3か所、等間隔に凝縮した魔力を打ち込んできなさい」

それ以上は教えてくれないので、とりあえず指示に従うのみ。

魔力の具現化は得意中の得意だ。ぎっしりと魔力を振り絞り、杭状にして土の中に打ち込んだ。

正三角形になるようにポイントを選び、丁寧に作業を終えた。


報告しに行くと、モラン爺は目をつむって待っていた。どうやら魔力の探知を行っているらしい。

「ふむ、丁寧な仕事じゃ。よろしい、次はこの3点を結ぶ。自分の打ち込んだ魔力ポイントを探知できるかの?」

「はい、可能です」

「その三点を結ぶイメージで魔力を地面から空へと向けて放出してみなさい」

んー、よくわからないが、点と点を結ぶように線上に魔力を放出していった。これでいいのかな?


「ふむふむ、いい感じじゃ。今高さ5メートルってとこかな。あと15メートルは欲しいところじゃ。頂点で合流するようにいけるかの?」

「まだまだいけますよ」

要求通りちょうど高さにして20メートルほどまで伸ばしてそこでストップした。これで三角錐状に魔力の壁ができたはずだ。

「最後に魔力の性質を変える。聖の性質変化を入れるんじゃが、やったことはないじゃろ?」

「はい、聖属性なんて初めて聞くくらいです」

「まぁ簡単なんじゃがな。純真じゃよ。純粋な気持ちをこめてみ、聖属性の魔力に変化するから」

純粋な気持ち?どうやるんだ?

悪い人、来ないで!こんな感じでいいのかな?


「おおっ!?できとるできとる。よろしい、完成じゃ。これで邪な考えを持つ者は容易にはこの屋敷に立ち入れんわい」

「よかった。結構簡単ですね」

「そうじゃろ、そうじゃろ。……しかし、普通は出来んけどな」

「……」

「普通は一年間ほどの修行がいる。それでもこれほどの結界ができるとは限らんし。ワシが作る結界よりも出来が良いもの……」

……あれ?やっちゃった?最近やっちゃうことが多いな。

「なんでそんなことをやらせるんですか!」

「出来そうじゃなーっておもっての。そしたらできたわい。流石は坊ちゃんですな」

「やめてよー。また変人へと一歩近づいてしまった感じだよ」

「ほっほほ、変わっているのは悪いことじゃあないと思うぞ。とりあえず、結界は完成したし、今日から安心して眠るとよい」

「なんかモラン爺意地悪だよ。もう休もうかな。一応結構魔力を持っていかれているし」

「早く眠るとよい。ゆっくりと眠れるうちに……」

なんだか未来を悟ったような言い方に一抹の不安を覚えながら、書庫を出ることにした。


「お待ちなさい、坊ちゃん」

「ん?何か?」

「坊ちゃんの魔力の性質ですがの……」

「なに?」

「いや、んー、昔どこかで読んだことのある性質。大事な情報だった気がするが……。んー、忘れたわい。まぁ良いわ」

良くないよね!凄く気になるよね!

思い出せない人を追い込んでも仕方ないので、フッと思い出すことを祈っておこう。早めにお願いしますね。


騒がしい父も寝込んでおり、ロツォンさんは外へと出向いている。静かな屋敷が夜を迎え、それに甘えて早めの就寝を取ったのだけれど、これほどまでにタイミングよく事が起こるのかと驚くほどにそれは突如訪れた。


ベッドの中で眠っているとき、バッと音がしたんじゃないかという勢いで瞼が開いた。

間違いない。結界に引っかかった者がいる。……4人。かなりの手練れだとわかる。緊張が全身に走った。邪な心を持つもの以外は引っかかることのない結界だ。間違いなく敵である。

夜中に4人、刺客か……。


飛び起きて、近くにある剣を握りしめる。

結界が探知した4人の元へと急いだ。


居た!感じた通り確かに4人。

……ん?

「あの……、なんで既に満身創痍なの?」

4人と事を構えようと思ってきたのだが、来たら既に4人が血まみれで這いずりまわっていた。なんで?我が家には番犬とかいないはずだけど。


「くそっ!!なんだこの異常なレベルの結界は!?こんなの初めてだ」

眼帯の男がようやく立ち上がり、そんなことを言った。

……えっ!?結界にやられたの!?昼に作ったやつ?

「アニキ、どうする?任務続行か?」

「当たり前だ。幸いにも、馬鹿なターゲットが自分から結界の外に出てきた。我ら4兄弟が仕事をしくじるはずもない。こうして運も向いてきているし、さっさと済ませるぞ」

男3人に女が一人。全員が体中に武器を仕込んでいる。

かなりの達人だとわかる。

迎え撃つつもりだが、気を抜けば間違いなくこちらがやられる。


「こいっ!」

4人が息の連携で飛びかかって来た。ピッタリのタイミングだ。かなりの熟練度が伺える。

ここは広範囲魔法ではじくしかない。


ドーム状に炎の壁を出現させる。流石に無理はしないようで、4人が一斉に下がる。隙が無い。本当に手練れだ。


「ぐはっ!」

なぜだか、一人が崩れた。

「どうした弟よ!?」

額に切り傷のある弟と呼ばれた男が吐血して倒れ込んだ。本当にどうした!?魔法は当たっていないはずだけど!?


「アニキ、結界のダメージがえげつない……。俺が結界に最初に引っかかった分ダメージが一番大きいし……」

それまだ引きずっていたのか……。なんか申し訳ないよ。

「くそっ!お前は休んでいろ。3人で仕留めるぞ」


一人抜けても相変わらずの連携で、息の合った動きで攻めてくる。

魔法を飛ばしてきて、それを交わすと別の誰かが武器を投げてくる。気が付けば距離を詰められ、無理やり剣ではじくしかない。受けて、かわして、こちらも精一杯の魔法を飛ばして反撃する。本当にギリギリのところで戦うしかない。

一連のやり取りがしばらく続いて、先に変化を起こしたのは向こうだった。


「くそっ!こんなにできるとは聞いてないぞ!」

「アニキ、こいつただの貴族じゃないぞ」

「体力が厳しいし、もうあれをやる。準備しろ!」

「アニキ、あれをやると騒ぎになりますぜ」

「いいからやれ!このまま時間が経つとこちらがやられかねない」

「……わかった」

大きな変化が来るようで、さきほどまで休んで隙を伺っていた額に傷のある弟も復帰してきた。


唯一の女のメンバーが呪文を唱え始めた。さっきのやり取りで彼女が魔法を使えるのは知っている。詠唱の長さからして、なにか大きいのが来る。

ならば、こちらから仕掛けるのみ。

4人に向けて炎魔法を放ち、俺自身は詠唱中の女へと飛び込む。炎魔法を処理する間に、俺の剣が届くはず……届かなくても詠唱は中断できる。


しかし、ここで予想外な出来事が。

眼帯をつけたアニキと呼ばれる男が炎魔法を交わさず、正面からぶち当たり、その勢いのままこちらに突進してきた。

仕方ないのでこちらを剣で払う。手にしていた短剣で受けられたが、斬撃や魔法でのダメージもあり簡単に倒れ込んだ。

「馬鹿な!流石に愚策だ」

詠唱を守るための行動だとしても愚かすぎる。手加減した魔法は放っていない。もろに受けてしまっては間違いなく致命傷だ。これで詠唱は中断できないが、一人は確実に戦闘不能に陥った。結界のダメージを引きづっている男と合わせて、二人が戦闘不能に近い状態だ。


「ふははは、馬鹿はお前だ。詠唱は完了した」

足元で死にかけの蝉のようにわめく眼帯の男。強がりでしかないはずだが……。


女の詠唱が完了し、膨大な魔量が発生するのを感じた。

魔力が4人に流れ込む。こんな魔法は初めて見る。


「もう終わりよ。少し騒ぎになるだろうけど、“鬼神化魔法”を発動させて死ななかった者は皆無よ」

勝ち誇った声を上げる女。その容姿が徐々に変わっていく。

肩幅が広くなり、全身に筋肉の隆起が起こる。肌色が赤くなり、頭には一本の逞しい角が。変化が終わった時、そこには体調2メートルを超す化け物が4体立っていた。


「言っただろう、馬鹿はお前だと」

……眼帯の、先ほど虫けらのように倒れていた男まで復帰している。瀕死だったはずなんだけどな。

流石に冷や汗が止まらない。

先ほどまでの状態でもギリギリの戦いだった。

結界でダメージを負った額に傷のある男までも回復している。

「あまり長い時間は持たないのでな。早めに終わらせて貰うよ」

今日一番の笑みを浮かべて、4兄弟が突っ込んでくる。

先ほどまでのスピードとはケタが違う。

4人が同じタイミングで、驚異的なスピードで迫ってくる。


―かわす!?無理だ!

さっきみたいに魔法のドームを作るか!?いや、到底詠唱が間に合わない。

まずい、速すぎる。その割にいろいろと考えることができているけれど、体が反応してくれない。

……っく、ダメだ!


4人からの攻撃が、時間にして一秒足らずでこちらに届き、4発が同時に急所に突き刺さる。

もはや痛みなど感じる暇もなく、俺の体は宙に飛んだ。

人の体ってこんなにも簡単に飛ぶのか……。ついでに意識も飛んでいきそうだ。

ああ、なんだか走馬燈が見えるんじゃないかっていうくらい景色がゆっくりだ。

俺は猛スピードで飛ばされているはずなんだけど、空中散歩しているかのように景色がゆったり流れていく。

終わったな。これは流石にゲームオーバー。良く生きたよ。最期は権力の前に負けてしまったけれど。頑張ったよ、俺。

色々あったけど、これで終幕だね。


「ぐほっ!!」

いや、終わらなかったみたい。

体が地面に叩きつけられ、それと同時に激痛が全身に走った。化け物たちからの遠慮のない凄まじい4発を受けたのだ。こりゃ、ただで済みそうにもない。よくある肋骨の折れた本数でダメージレベルを表すと、間違いなく6本は持っていかれている。……いや、8本にしておこう。10本でも可。


「ほーら、もう虫の息じゃねーか。畜生が、鬼神化までさせやがって。これをやると後で一週間はまともに動けなくなるんだよ」

「知らねー……よ」

ダメだ、言い返したいのに声すらまともに出ちゃくれない。ひどく喉が渇く。


「誰か来る前に終わらせちまえ。結界を壊す時間だって必要だ」

「おうよ」

仰向けに倒れる俺に、額に傷のある男が迫る。その巨大化した手には少し寂し気に見える短剣が握られている。寂しくても小さくても間違いなく俺にとっては致命的な武器になる。あれで心臓を一突きにされるだろう。

動かなくちゃ。逃げなくちゃ。でも、体が言うことを聞いてくれない。

万事休す……。

「じゃあな、貴族の坊ちゃん!」

短剣が振り下ろされ、俺の心臓を貫いた。


……すごく眠い。

もうすぐ力尽きるだろう。残った力でなんとか辺りを見た。屋敷には結界がある。簡単には突破できないだろう。それに、中にはモラン爺もいる。ラーサーもいる。ただじゃやられないはずだ。力になれなくてごめんよ。

じゃあ、俺は眠るとしよう。


―バキッ!


なにかが割れた。

ああ、肋骨がもう一本いったか?

ん?いや、これは王都でラーサーが紹介してくれた魔石ショップで購入した魔石が割れたんだ。あんなに頑丈だったのに、流石にこの化け物たちの攻撃には耐えられなかったか。いい値段したのにもったいない。


違う……。

魔石は打撃によって割れたんじゃない。なんとか視界の端で魔石をとらえる。

この魔石、こんな色していたかな?こんな灰白色を?それに割れたというより、中が砂状になっている。これって……?


あ、わかっちゃったかも。

食べちゃったんだ。俺が。

魔力を欲して気づかない間に魔石からずっと吸収していたのか。結構な量だと聞いていたんだけど……、すごい食欲だこと。

けど、もう関係ない。心臓から血があふれ出している。本当に、これが最後——


「ここ最近で一番の強敵だったぜ。名誉に思いな」


命はいまだ消えないみたいで、そんな声をかすかに聞き取れた。

案外しぶといな、俺。

……今、地震が起きた? いや、これは俺の体が揺れているだけか。

最後っていうのは、こんな感じなのか? なんだこれ?


途端、俺の体が重力に反するように起き上がる。意識も急にはっきりした。

耳も目も何もかもが敏感に感じられる。

刺された心臓は……、傷がふさがり血も出ていなかった。幻覚だったのか? そんなはずないけど。不思議なことが起きたものだ。

力を入れてみると、今度は体が少し浮いた。体に力がみなぎる。この感覚はあれだ、魔力を吸収して暴走したときのあれ。なんでそれが今このタイミングで?しかもかなり強力だ。


「なんだ?なぜまだ起き上がれる。しかも浮いてる!?」

額に傷のあった男はまだそばにおり、異変に動揺し、その強化した力で目にも止まらぬ速さで短剣を突き刺してきた。

それを魔力の壁で防いだ。短剣が見えない壁を抜けることはない。魔力だけでこの化け物の力に勝ってしまった。さっきまで全く反応できなかった相手のスピードがゆったりした動きに見えた。

「こいつ、なんだこの魔力は!?」

他の三人も駆けつける。

先ほどまでの余裕は感じられない。俺の変化に戸惑いを隠せていない。


「何が起きている!?」

彼らは誰に尋ねるわけでもなく、そんなことを言った。なら俺が答えよう。

「……俺もわからない」

正直俺が聞きたいくらいだ。なんで魔力がこんなに暴走しているんだ?かつてないほどの高ぶりを感じる。

「貴様、ふざけているのか!?」

「ふざけていない。けど、なんかいろいろ良くなったみたい。折れた骨も完治しているみたいだ。心臓も、ほら塞がった」

「この野郎!」


異常な状態で冷静さを失った眼帯の男。しかし、合図をすると4人の熟練したコンビネーションはすぐに戻り、息の合った動作で一気に距離を詰め、前後左右から同時攻撃を仕掛けられた。

こんなスペードで、しかも岩をも砕くであろうパワー。それが4人同時の攻撃。俺じゃどうしようもない。防御も不可能だ。だったはずだ。

だったはずなのに、やけに動きが良く見える。

この4人の攻撃を、またも四方に魔力の壁を張ることで防いだ。


どの攻撃も見えない壁を突き抜けない。哀れなほど非力だ。


「馬鹿な!?どうなっている!?どうなっているんだ!!」

「もういい。終わりだ。俺は腹が減った」

ほとんど無意識だった。あとでどうやったか思い出せと言われてもわからない。なんか、できた。っていうのが一番ふさわしい。


俺が手を差し出すと、空間が歪んだ。

空気中に魔力の動きが作り出す渦ができた。

「いただきます」

突き出した手のひらを握りしめると渦は回転しだし、みるみると辺りの魔力を吸い取る。

人からも、自然からも。

腹が満たされるのがわかる。


「なんだ!?力が……」

4人の鬼神化が解けた。解かされたというのが適切だろう。俺の手によって。

「まだ時間はあるはずだ!なぜだ!なぜ!!」

渦の回転は止まらない。

鬼神化の魔力を吸い取った後も、彼らの魔力が枯渇するまで渦は飲み続けた。辺りの景色も変わらないが、確かに俺にくわれ続けた。そして、全てが静かになった。


「ふー、ごちそうさまでした」



日が昇り、ベッドから起き上がり、顔を洗った。

朝食を食べ、屋敷からの景色を少し眺める。

熱い紅茶を煎れて、冷ましている間に、地下室へと向かう。


「あのー、すびませんでしたっ!だから、その、朝食を貰えないでしょうか?」

そこには顔をボコボコに腫らした4人組が縄に縛られてそこにいる。

昨夜いろいろとやりたい放題やってくれた彼らだ。


「え?なんだって?」

「……いえ、なんでもないです」

俺の怒りを察してくれたようだ。賢いようで助かる。

「あのー、いつ頃解放して頂けるのでしょうか?」 

「え?解放されるとでも?人の命を狙っておいて?」

「……すみませんでした!」

そろそろ紅茶がいい具合に冷めたんじゃなかろうか、ちょっと飲みに行こう。

「えっ!?行かれるのですか?マジで!?マジで解放してくれないんですか!?」

マジですとも。

紅茶を飲んで、軽く体を動かして、また地下室へ。


「あのー、私たちどうすれば?」

「え?なにが?」

「……すみません。怖いから普通に話してくれませんか?」

「え?何かおかしいかい?」

「……その優しい感じの声のトーンに、開ききった眼との差が凄く怖いです。はい」

「ああ、そうなんだ」

「……すんませんでした!自分ら調子乗ってました。その、地元じゃ最強だったし、王都に出ても無双してたんで、ほんとうぬぼれてました!大貴族のお抱えになってたし、もうこの世界は自分たちのもの、ってくらいに思ってました。すんませんでしたっ!」

「は?」

「すんません!本当に世界は広かったです。まさかイケメンクルリ様がこんなに強いとは思いもしませんで。いやー、本当に井の中の蛙でしたね」

「イケメン……ね。続けろ」

「あっはい。で、何を続けたらいいんでしょうか?」

「何をしに来たか。知っていること全部吐くんだよ。お前らの雇い主は誰だ?豚野郎をつけて吐け」

眼帯の男は悩んだ様子を見せて、プロの根性を見せたのか言い渋った。


「え?言わないの?」

「すんません!マジで怖いんでその優しいトーンにガン開きの目、やめてください!自分らの雇い主はダータネル家のブラウ・ダータネルです」

「は?さっき言ったこと忘れたの?豚野郎をつけろよ」

「え?あっはい。雇い主は豚野郎のブラウ・ダータネルです」

「よろしい。任務は俺を殺すことか?」

「そうです。あと父君のトラル殿もです。豚野郎のブラウ・ダータネルからの依頼は以上です。あと息子の豚野郎フレーゲン・ダータネルからは特にクルリ様をひどく痛めつけるように言われました!」

「ほう、結構」

とうとう本格的に力業に出て来たか。それほどこの地が欲しいか。そして、それほどまで欲深いか。もう許す必要性は皆無だろう。


「よし、正直に吐いたご褒美に朝食をやろう。林檎の皮でいいか?」

「そんな!そんなのないっすよ!」

「え?嫌なのかい?」

「そりゃいいやっすよ!」

「じゃあ、ヘタ?種?」

「……皮、ありがたく頂きます」


それからも彼らから情報を絞り出した。出るわ出るわ。過去のダータネル家の悪事。しかし、肝心なこれからの動きについては知らないらしい。彼らは彼らの仕事にしか興味がないそうな。プロ根性ご立派。


「クルリ様、あのーいつ頃解放して頂けるのでしょうか?」

「ああ、モラン爺から洗脳魔法がないか聞いて、あればそれをかけてからかな」

「やめてください!それだけは!」

それだけは嫌らしく、もがき騒ぐので、まぁそこは止めてあげることに。


「お前らはこれからヘラン領で暮らすんだ。土地を与えるからそこで慎ましく暮らすように。脱走やトラブルは許さない。わかるよな?」

「……わかります」


うるさい4人組を解放した。

こんなことをしている場合じゃないんだ。

俺はエリザを探さなくちゃいけないのに。

一難去るとまた一難来る。こんなんじゃ、いつになったらエリザを探し出せるんだ。もう会えないのか?

悶々とした日々が過ぎる。ロツォンさんもラーサーも日に日に疲れていっている。このままじゃ良くない。でも、どうすればいいんだ?


……そんなとき、屋敷に奇妙な一通の手紙が届いた。

俺は迷わずそれを開いて読みこんだ。


それからの出来事は本当にあっという間で、史上最悪の災厄、は突如襲ってきた。





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