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4章 閑話 マリアの冬休み

なんだか最近城が騒がしいわね。このマリア・クダン抜きでお祭りでもしているのかしら。

いつも構ってくれるラーサーや、お目付け役のスパティフィラムもいない。そういえば、今日はやけに雪が降るわね。結構積もってきたわ。

……そろそろ毎年恒例行事である、雪祭りの時期ね。今年も屋台料理を食べれるだけ食べてやるわ。ふふふ、いい感じに雪が降って来てくれたわね。

そうだ、あの子たち先に雪祭りの準備をしてるんじゃないでしょうね。

だとしたら、大人しく待っている訳にはいかないわ。


さっそく中庭に出て、こちらも先制の一発として雪だるまでも作ってあげるわ。大きさは……大きければ大きいほどいいわね。

「ひ、姫様!?中庭で何を?」

あら、若い衛兵さんに見つかってしまったわね。

「ここで見たことは、あなたと、わたくしだけの秘密ねっ」

ウインクを添えて、こういっておけば大抵の衛兵さんは黙っていてくれるのよね。この間、他国のお姫様から教えて頂いた裏技よ。ラーサーに告げられると後でうるさいもの。あなたという人は何歳になってもそんなことをして!という呆れるラーサーの顔が浮かぶ浮かぶ。

ふふふ、マリア・クダンだからこそ、いつまでもこういうことができるのよ。おわかり?ラーサー。


雪をころころ、スノーボールは大きくなればなるほど雪を更に絡めていく。速い速い。

ああ、もう胸のあたりまで来たわね。随分と重くなっちゃて。はじめは手のひらサイズのかわいい子だったのに。

よし、こんなところでいいでしょ。先制の一発としては充分よね。

他に面白いことはないかしら。


庭の端っこに、何やら可愛らしい娘がいるわね。ちょっと声をかけてみましょう。一緒に雪だるまを作ってくださるかも。

「あなた!なにをなさっているの?」

「はっ、ひゃい!ごめんなさい、悪いことしている訳じゃないんです」

なんだか謝られてしまったわ。怒ってないのだけれど、大きな声で呼びつけたのはまずかったわね。

「で、何をなさっているの?」

「あの、仕事の休憩中に中庭を散歩してたら、これが……」

その可愛らしい娘の両手に包まれて、これまた可愛らしい小鳥の雛がピヨピヨと鳴いていた。

か、かわいいわね。クリリとした目が特に。

「……どうするつもり?自然の摂理に従って食べるのかしら?」

「食べませんよ!?えっ!?そんな発想すら持っていないんですけど!」

「そうね。食べるのは薦めないわ。肉付きが良さそうではないですし」

「そういう問題ですか!?」

「そういう問題よ。可愛くても肉付きが良かったら危うかったわね。あなた、お名前はなんていうのかしら?可愛いから覚えてあげるわ」

「……私、肉付き良くないですよ?」

「食べないわ!」

「ほっ。アイリスと申します。冬の間だけ城で働かせていただいております」

「アイリスね。覚えたわ。わたくしは、マリア・ク……。マリアよ!」

「マリアさんですね。私も覚えました。マリアさんはお城に勤める貴族様なのですか?」

うーん、身分をあかすと面倒そうね。ただ遊ぶ相手が欲しいだけなのだから。


「洗濯係よ!」

「そんな華麗なドレスで!?嘘ですよね!?」

「王族専属洗濯係よ!」

「あっ、そんな仕事があるんですね。知らなかったです。私は雑用ばかりをやっているお手伝いさんみたいなものです。結構いろんなところに足を運んでいるので、もしかしたら仕事でなんどか目にかかっているかもしれないですね」

「そうね。それはそうと、何をして遊ぶ?」

「いや、遊びませんよ!?もう休憩も間もなく終わりですし!仕事に戻らないと」

「えー」

「えー、じゃないですよ。マリアさんは仕事に戻らなくて大丈夫なんですか?」

「今日は寒いからいいのよ」

「そんな感じでいいの!?」

随分と真面目な娘ね。ラーサータイプだわ。可愛いけど、遊んでくれない常識人ね。


「戻るにしても、その雛はどうするの?」

「ええと、この木の上に巣があると思うんですけど、ちょっと高くて……。借りている服で木に登ったら痛めてしまいそうなので、一旦着替えて来ようかと」

「その必要はないわ。わたくしが登るわ」

「そのドレスで!?いやいや、じゃあ私が登ります」

「大丈夫よ。ドレスを傷めずに木に登る天才だから」

「そんなのあるの!?でも、万が一傷ついたら……」

「洗濯すればいいのよ!」

「王族専属洗濯係ってそんなに凄いの!?」

ふふふ、木登りでこのわたくしの右に出る者はいないわ。

よっと、このスルスルと木に登る動き。重力と反発しているかとも思えるほどのスピード。

ほーら、あっという間に巣まで到着よ。


「マリアさん!巣はありましたか?」

「あったわ!他の雛もいるわ。一羽肉付きのいい雛がいるけど、食べる?」

「食べません!気をつけて降りてくださいね」

ふふふ、このわたくしを気にする必要などなくてよ?

このスルスルと木を降りる動き。水に流されているかのように優美に。ほーら、あっという間に地上よ。


「マリアさん!ドレスが!?」

「あら……、糸がほつれているわね」

「あわわわ、せっかくのドレスが……」

「怒られてしまうわね……」

いつもドレスを着せてくれる婆に。あとラーサーにも。

「マリアさん、私も一緒に謝りに行きます。助けになるかは微妙ですが」

「いいのよ。どうせ他にも怒られる材料はいくらでもあるのですから」

「マリアさんっていつも何をしでかしてるの!?」

「まぁいろいろね。あなた、この後はどんな仕事をなさるの?」

「えーと、床磨きと、それと雪が降って来たので城の玄関周りの掃除もしなきゃ」

「わたくしも手伝うわ。暇だし」

「暇なんですね……。いいんですよ、せっかくの休みなのでしょう?」

「毎日が休みみたいなものよ。今日はあなたと一緒に居ることにするわ。夕食も一緒よ。タクさん食べるのよ」

「肉をつけさせるつもりですか!?」

「ふふふ……」

新しいお友達ができたわ。面白くて可愛い、アイリスって言うの。


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