4章 27話
城が慌ただしい。嵐の前はまず静けさが来るというが、今回の嵐はいきなり騒々しかったわけだ。嵐の中心、それは一体誰だろうか……。
「スパティフィラさん、一体何事でしょうか?」
朝から慌ただしく、姿を見せないラーサーにも違和感を覚えて、傍らに佇む彼女に聞いてみた。
「私の口から申し上げていいのか分かりかねますが、大物が来ているとだけ伝えておきましょう」
「大物?誰にも言わないから教えてよ」
「そういう訳にもいかないですね」
「私も気になる」
アイリスも最近顔を出さないラーサーが心配な様子だ。
「……アイリス様がそこまで言うなら仕方ありません。お話ししましょう」
なんで!?アイリスと俺の格差が凄くないですかね。しかもそこまでって、大したこと言ってないし。ちょっとお願いしてただけだよ?うすうすっていうか、めちゃくちゃ気が付いていましたが、おかしくないですか!
「ダータネル家の当主と、そのご子息が来城しておられるのです。かなり無理な要求を以前からなさっているようで、わざわざ親子で来たってことは本腰を入れに来たということでしょう」
「無理な要求とは?」
「話せません」
「お願いします」
「……アイリス様がそこまで言うのなら」
異議あり!君とは決着をつける必要がありそうだね。
「宰相の役職を自分に任せるようにと、そう国王様に嘆願しに来たのですよ。ドーヴィル様も十分に優秀な方なので、国王様は変える必要性がないとはねのけていましたが、わざわざ腰を上げて来たということは、勝ち目でも見出したのでしょうかね。それでラーサー王子もアーク王子も公式の場へと赴いております」
「なんで話してくれなかったんだよ」
「巻き込みたくないっていうのが正直なところでしょうね」
俺の記憶が正しければ、エリザのパパ上は裏でちょくちょく悪いことをしているはずだ。そこを突かれて、更に経済的なプレッシャーを材料に交渉すれば、勝ち目のない話でもない気がして来た。巻き込みたくないとか、そんなことじゃない。諸々関係のある話だ。いよいよ、俺の人生も佳境に入って来たようだ。
俺もその場に居合わせたい。関係のある事なんだ。せめて、立ち会わせてほしい。
と、思っていたら、天の啓示か、見知った顔の騎士が部屋に入って来た。
以前、騎士兵舎で最初に見かけた騎士だ。
「クルリ・ヘラン様。あなたに会見の場への招集がかかっております。どうぞご一緒にお越しください」
「俺に……?」
「ええ、あなたにです」
直接には関係ないはずなのだが、なぜ?
スパティフィラさんも訳がわからないようだ。
不安な気持ちしかないが、立ち会いたいと心で願っていたことでもあったので、ここは着いていくほかない。
場所は王の広間。公式の会見で使われる場所だ。一般に立ち入れる場所ではない。もちろん一度も入ったことはない。
しっかりと武器など持っていないか身体検査をされて、俺もわけのわからないままに場へと踏み込んだ。
会場には、既に役者が出そろっていた。
一番奥の王座に座る国王様。袖に立つ王子二人とエリザのパパ上宰相エヤン・ドーヴィル。
距離をおいて、それらと向かい合って立つ親子二人。ダータネル家の親子だと推測できる。
王座へと続く通路には騎士が一列に並び、会見に来たダータネル家の二人を挟んでいた。騎士団長の一段と大きな姿も見えた。これじゃあ、王族を害することは不可能だ。そんな意図を持った人物などいないだろうが。あっても全く可能性は見いだせない。
俺はダータネル家二人の隣に案内された。立ち位置としては、ここでいいのだろうか?
「では、必要な面々はそろったな。話に入ろうか」
口を開いた王座の男。つまりは国王様なのだが……。俺はあの人を知っている。知っているとも。ええ、知っている!!
最悪だ。あの人は、風呂で一緒になり、アイリスが可愛いという話をして、王都の軍事まで話してくれたあのおっさん。忘れもしない。風呂場で一緒に滑り合ったあのおっさんなのだ。あの金髪の頭は忘れようもない。アーク王子の金髪は父親譲りであったか……。
「あ……」
思わず声が漏れる。国王様の俺を見る目が一瞬からかったように見えたのは気のせいだろうか。
「我がダータネル家のため、このブラウと愚息フレーゲンのために国王様の時間をいただけたことに、まず感謝したい!」
隣に立っていた体格のいい男が、会場中に響き渡る大声でそう告げた。商会のトップだっけ?流石に、商売人なだけあって声の張りが凄い。
「別に良い。ただし、我も息子たちも、更には、そなたがどうしてもと必要と言う赤髪の客人も暇ではない故、言いたいことだけを述べよ」
赤髪の客人とは俺のことか。良かった、客人扱いで……。ところで、俺の招集はブラウ・ダータネルがさせたのか?なぜ?
「ではそうさせてもらう!」
そういえば、この大声で話す隣にいる愚息、あれ?こっちも知っているぞ。以前手紙をくれた男だ。敬愛してくれていた人。しかもだ、更にその前から俺はこいつを知っている。そうだ、仮面舞踏会でアイリスに乱暴を働こうとして、逆に乱暴されたて血だらけになった残念な彼だ。あのどうしようもない人物か。そりゃラーサーがあれほど嫌悪するわけだ。アーク王子とも対立しているっていう……。
一体、その大物のダータネル家が何をしに?スパティフィラさんの言っていた通りの要求なのか。だったら、俺は意地でもエヤン・ドーヴィルの肩を持つべきだろう。この人に恩も同情もないが、エリザは既に俺にとって大切な人だ。彼女を守るためにも戦えるだけ戦ってやる。
「まず一つに、国王様の側に人の面を被った狐がおります。狐に国政を任せては、この国の未来が不安でなりません。隣国のアッミラーレ王国に不穏な動きがあるとの話もあります。いつまでも、そんな無能な宰相を傍に置いておくべきではござらん」
いきなりのド直球な申し出。乱闘にならないか心配になるほどだ。エヤン・ドーヴィルの顔の血管がピクリと動いたのが分かった。
「エヤン・ドーヴィルはこの我が有能だと判断して側に置いておる男だ。別にそなたに言われずとも、この我の判断に間違いはないと思うが」
「そうですかな?国王様は人の行いに対してかなり寛容なお人だ。国王様にとっては小さなことでも、私のようなか弱き国民にとっては小さなことだとは思えない悪事を行っている役人は多くおります。特に、エヤン・ドーヴィル殿はそういった小悪人の代表だと、私の耳にはよく入ってきますね」
やはりそこを突いてくるか。エリザパパは顔の表情を変えていないが、思うところは結構あるのではないだろうか。そのままポーカーフェイスでお願いします。
「お主はか弱くは無かろう」
「いやいや、この場においては弱小も弱小、猛獣に囲まれた子ウサギのような気分でございます」
「……まぁよい。それより、エヤンが悪事を働いているという証拠はあるのか?一方的な主張では、お主が私利私欲のために宰相を陥れているとしか聞こえんな」
「はっ……もちろんございます。と、言いたいところですが、流石は宰相様であられる。なかなか尻尾を掴ませてはくれない。ただ、時間の問題だと言っておきましょう。いずれ、必ず証拠を揃えてまいります」
「そうか……。宰相の職を自分に寄越せと日々申す割には、力のない主張だな」
「恐れ多い。私はそんな強欲な人間ではござらん。ただ、他人よりは上手くできる自信があるだけのこと。私に任せれば、我が商会のようにこの国も更に発展させる自信があるだけでございます。国を思えば、こその嘆願でございます」
国王様のどこまでも冷静な対応と、ブラウのどこまでも強気な押し方……。その割には確かに、証拠も何もなく、武器なしで敵陣へとやってきたような拍子抜けさ。一体彼らは何をしに来たのだろうか。未だ、宰相の足元はがちがちに堅いはずだが……。
「国王様、もちろんおっしゃりたいことはそれが第一でございますが、本日はもう一つだけ重要なお話があります。どうか、今しばらくのお時間をいただきたいと思っております」
「お主が実入りもなしに帰るとは思っておらぬ、さっさと述べるが良い」
オホン! と会場中に響き渡る咳払いをし、一同に再び緊張感を与えた。彼の主張は、どうやらこれからが本番なようだ。
「わざわざ呼び出して申しわけなかったな、クルリ・ヘラン殿」
「……え?俺ですか?」
国王様とブラウだけで会話していたのに、ここに来て俺に振るのか。もしかして、俺が話のキーになってくるのか?だとしたら、発言には気をつけねば。
「そうです。ヘラン領の次期当主様のお時間をわざわざ割いていただいて大変恐縮しております。しかし、今日はあなたの罪について、国王様の御前でお話ししなければなりません」
聞き間違えでなければ、彼は罪と申さなかっただろうか。
俺の罪?ほっぺがチャーミングなところとか?お尻がプルンとしているのも罪深い。
「国王様!今日はこのクルリ・ヘランという男がいかに危険な男かをこの場を借りて述べさせて頂きたい」
「お主の目的はそこか。良い、赤髪の客人は正式にこの城の客として迎えた御仁であり、次期ヘラン領を支える重要人物だ。そんな方の罪を問おうとするのだ、気をつけて言葉を選ばなければ、どちらが罪に問われるか分かっておるな?さぁ、述べてみよ」
脅しとも取れる国王様の発言。しかし、ブラウという男も、その息子にも焦りは一つとして見えない。一体全体、なぜ俺が矢面にたつことになったのか……。後ろ暗いところはない。父さんは……ないよね!?国王様は俺の肩を持っているようにも見える。ラーサーは心配の眼差しを向けてくれている。アーク王子は……わからない。ピンチになったら、彼は助けてくれるのだろうか?わからない、人の気持ちというのは。
「クルリ・ヘラン殿の罪、実に原始的な罪ですが、彼は非常に獰猛で野蛮な男です。先日我が息子が彼から暴力を受けております。聞けば、嘆かわしいことに一方的な暴力だったとか……」
ああ、あれか……。血だらけになってたもんね。でも、やったのは俺じゃないのよ?それに正当性はこちらにある。
俺は挙手をした。
意見を述べるためだ。
「述べよ」と国王様が。
「はい、暴力を働いたのは事実ですが、いくつか重要な情報が抜けております。フレーゲン・ダータネル殿が友人アイリスを無理やり連れ去ろうとしたため、実力を持ってそれを排除したまでです」
「だそうだが、如何か?」
「我が息子がそんなことをするとは思えませんな。親バカとも取られかねませんが、実に出来が良く、女子にも人気のある息子です。家には毎日、華麗な令嬢から息子との縁談を望む手紙が10通は届きます。そんな息子が、一人の女性に執着し、無理やり連れ去るなど考えられませんな。それに、そのアイリスという女性、聞けば大変貧しい家の長女らしい。玉の輿を狙って、我が息子に接近したと推測する方が自然だとは思いませんか?」
「アイリスはそんな人じゃない!」
頭に血が上った。俺の罪を問いたいのならば、そうすればいい。彼女を陥れる必要性はないはずだ。
「そうですかな?庶民でありながら、貴族専用の学園に入る時点で、下心があると思えますがね」
「正式な手続きで入っただけだ。チャンスがあるからそれを掴んだだけだ。ブラウ殿はやましいことばかり考えているから、他人もやましく見えるのではないか?」
「……ふん!小賢しい」
挑発染みた視線と、言動の数々。怒りが爆発しそうだが、絶えねばならない。冷静に行かないときっと手玉に取られる。
「我が息子は彼の暴力によって、前歯二本と、頬骨を折っております。医者からの正式な診断書も貰っております」
証拠と言わんばかりに書類を取り出し、それと同時にフレーゲンがニィーと歯を見せて笑った。彼の前歯二本が金の歯に入れ替わっており、それが折れた証拠だと言いたげだ。……アイリスのキックはそこまで強烈だったのか。
「先に手を出してきたのはフレーゲンの方です」
「証拠は?どうやら、クルリ・ヘラン殿には傷一つ見当たらないようだが?まともに男子が喧嘩しあって、こんな一方的な結果になるとは思えませんな。我が息子は抵抗することなく、相手からの無情な暴力を一方的に受けたのです。当事者以外にも目撃者がおります。必要とあればお呼びしますが?」
「随分と都合の良い目撃者だ」
国王様が俺の気持ちを代弁してくれた。一緒に風呂で滑り合っただけのことはあったようだ。
「国王様はクルリ・ヘラン殿の肩を持っているようだが、この人物は非常に危険です。ことはただの喧嘩ではござらん。将来、この国を背負って立つ重要人物の非情な行いだ。領民が心配でなりませんな。我が大切な息子がこんなことになっておるのです、どうか処分のほどをお願い致します」
国王様はしばらく沈黙していた。何か考えている様子だ。俺の処分を、だろうか?だとしたら嫌だな。俺は自分の行いに後ろめたいところはないのだから。罰則なんてくらったら、きっと生きづらい世の中になってしまう。
「お主の一方的な主張が強すぎて信じる気にはなれんな。ただでさえ、そなたはないことをあるように言うのが得意だ。残念ながら、その都合の良い目撃者とやらも信用することはできんな」
「左様ですか……」
「クルリ・ヘランは無罪放免、それ以外になかろう」
「はぁ、国王様がそういうのならば仕方がない……」
正義はあった。この国に、この国の王様には正義があったんだ。俺はこの国でちゃんとまっすぐ生きていける。なんだか、凄く嬉しい。
「これは、話したくなかったのですが、このような結果になっては仕方ありませんね。クルリ・ヘラン殿の罪を重くしてしまいかねますが、もうこの話を持ち出すしかありませんね」
負けを認めたかと思ったブラウが、もう一度息を吹き返したように顔色がいい。いや、むしろここからが本番だと言わんばかりの顔だ。
「まず、証拠品を持って入っても構いませんかな?」
「必要と言うのなら良いだろう」
「はい、会場の外で控えさせている者に持たせております。持って入れ!」
会場の後ろ、重たい扉が開く。腰の低い男が、長細い布にまかれたものを持って入り、それをブラウに渡してすぐに退室した。
「皆さん、これを見ていただきたい」
彼が布から取り出したのは、一本の剣だった。それは……。
「剣です。騎士の皆さま方、警戒なさらなくて結構。私は剣を全く使えないのでな。まずはこの剣を見ていただきたい。非常に類まれなる名剣だ」
警戒して、中には剣を取り上げるように命令を待つ騎士までいたが、国王様は片手で彼らを制した。会場の空気が一気に柔らぐ。
「どうした、確かに優れた剣に見えるが」
「まず、この剣に見覚えはないかな?クルリ・ヘラン殿」
見覚えも何も……。
「これは私が打った剣です」
「そうですな。非常に優れた腕の持ち主である。聞けば、鍛冶師十傑委員会の正式メンバーであるとも」
「だからどうした」
「この剣、誰に授けたものか覚えておりますかな?」
「同じ十傑委員会の『銭ゲバ』殿に授けました。彼から教えてもらった技術でつくったものですから、お礼の意味も込めて譲ったものです」
「結構。調査とも相違ない。国王様、先ほど名前が出た通称『銭ゲバ』、サイシン・ウプストル殿ですが、今現在は王都最大のクダン牢獄に入っております」
『銭ゲバ』が牢獄に!?なぜ?
「サイシン・ウプストル。名前に聞き覚えがある。かなり商才逞しい鍛冶師だったはずだが、なぜその人物が牢獄に」
国王様でも知っていた人か。そういえば、貴族位が与えられるかもしれないと言っていたほどだ。そんな有名人で何もかも恵まれていそうな人がなぜ牢獄なんかに。
「サイシン・ウプストルは弟子の一人を斬ったのですよ。この剣でね!」
前に突きだしたその剣は、俺が打って完成させた魔法剣だ。この剣で弟子を……。『銭ゲバ』が……。
「この剣、聞けば通常の剣ではないらしい。魔石を埋め込み、魔力を流した剣という。魔石というのは通常人の体に身に着けて使うものだ。その力を剣に流すという斬新な発想だ。一見素晴らしい発想に思えるが、サイシン・ウプストル殿の話によれば、この剣を握りしめたとき、なにか心を惑わされたという。金にも仕事にも恵まれた男が、突如大事に育ててきた弟子を斬ったのです。本人の罪を問うのは当然として、この剣をつくった男にも罪は及びませんかな?少なくとも、心を惑わす、というのは非常に悪質な犯罪だと思うのですよ」
「……これまた、形のない迷信的な話だな」
国王様の言っていることは、まさにその通りだともう。俺だって、何がなんだかわからない。心を惑わす?俺の剣が?そんなはずはない。そんな魔力は流れていなし、そんな感情をも込めていない。あるはずがないんだ。そんなこと……。
「サイシン・ウプストル殿が出来た人物だというのは多くの方が知っております。証人探しなど必要ないほどに。しかも、彼は弟子を斬った後、血塗られた剣を持っているところを従業員にも見られております。本人も認めておりますし、疑いの余地はないでしょう。この剣は間違いなく人の心を惑わすのです。悪魔の魔力が込められております。クルリ・ヘラン殿は魔法にも長けておられるし、不可能ではないと思うのです」
「そんな机上の空論を話されても困る。『銭ゲバ』サイシン・ウプストル殿は本当に心を惑わされたと言ったのか!?」
「ええ、こちらも証拠探しなど必要もなく、彼自身が衛兵に述べております。もちろん公式な記録もございます」
「嘘だ!ありない!ありえない……そんなの。ありえるはずがない……」
そんな訳がないんだ。俺はただ、新しい技術に夢中になって剣を打っただけだ。そんな、心を惑わすなんて……。わからない、本当にそんなことがあるのか?副作用として、そういうことは起こり得るのか?まずい、自信がなくなって来た。
「クルリ殿、偶然とお思いかな?」
「……それはそうだ。確実な証拠なんて何もないじゃないか。こんなの言ったもの勝ちだ」
「では、あなたに聞きます。この魔法剣、いままで何本打ちました?」
「二本。それだけだ」
「もう一本の行方は?」
「ハンターの知り合いに渡した。名前は―」
「結構。ハンターの名前はガルドミラと申します。彼もまた、今はクダン牢獄にいます。魔法剣に取りつかれて、同僚を斬ったためです。こちらは自身の罪を否定しておりますが、はたしてこんな短期間に、こんな出来過ぎた偶然が起こりますかな?」
「……うそだ」
ガルドミラさんまで?なんであの人まで同僚を!?まともな人だったじゃないか!
なんでだよ。嘘だよ、俺はただ、いい剣が打ちたかっただけなのに。
そんなこと、ありえるはずがないんだ。
「証拠を確認してみないことには何もできないな。一旦、この場は解散とする。クルリ・ヘラン、そなたは尋問室で待機するように」
ずっと肩を持ってくれていた国王様からの通達だ。従うしかない。王子たちは誰も口を開かなかった。彼らは何を思っているのだろうか?俺に失望したか?だったら……。
俺だけ会場を先に出た。
尋問室で、付き添いの騎士と二人で待った。会話はなかった。そんな気分じゃない。
何時間待ったかは覚えていない。でも、ちゃんと事は進んでいたようだ。
「クルリ・ヘラン殿。そなたの処遇が決定した。証拠充分とみなし、そなたの罪が濃厚とみられるため、クダン牢獄への一時入獄が決まった。ただし正式に罪が決まったわけではない。これから更なる証拠集めが必要となる。次回、裁判の間で正式に判決が下る。それまで、そなたを収監することとする」
俺は自分の心に恥じるような行動はとっていない。でも、俺は収監されるらしい。きっと信じていれば救われるだろう……か?
……クダン監獄か。俺の没落もいよいよ近いらしい―。
4章お終いです。