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4章 23話

「ちょっと、やめてくださいっ!!」

アイリスとラーサーを探しているとき、会場の隅で女性の腕を無理やり引っ張って連れて行く連中を目撃した。

凄く可憐な女性だ。雰囲気は。顔が見えないからね。

美人だからってわけじゃないけど、俺の正義の心が燃えて来た。鉄拳制裁!!だ!!


会場の外に連れ出したところで、こちらも追いついた。

「ちょっと待て」

声に振り向く一同。

暴漢は3人。誰も彼も、高価そうなアクセサリー、金ぴかの仮面をつけている。

全く、クマさんのお面を被っている俺を見習いなさい……あのぉ、交換してくれませんかね??


「んあ?なんだテメー。やたら渋い声しやがって」

「これは魔石のせいだ。その女性を離せ。嫌がっているではないか」

「は?どこの馬の骨か知らねーが、引っ込んでいろ。後から俺らの家柄聞いてビビっても知らねーぞ」

「家柄で腕っぷしが強くなるのか?」

「当たり前だろ。権力は力だ。試すか?」


女性の腕を引っ張っていた、その代表格の男が目の前までやってきた。


「お前、この場で俺に勝とうと思ってんのか?別にお前が俺たち三人相手に勝てる力を持っていたとしよう。だから何だ?」

ん?何を聞かれているんだろうか?ちょっとわからない。

「いや、乱暴するならお前ら倒して女性を助けるつもりだけど」

「まず俺に勝てねーし。勝ったところで後日もっと痛い目に遭うぜ。分かってんの?」

「いや、ごめん。わかんない」

「あ?舐めてんのか、てめー。てめーがどこのしょぼい貴族か知らねーがな、間違いなく俺らより格下だって言ってんだよ。細かい仕草を見ればそんなの一発でわかる。俺にかすり傷一つつけて見ろ。お家断絶して後々親族に恨まれる、なんてことになりかねないぜ」

「……ごめん、もう一回言って」

挑発されているのはわかるけど、なんか魔石のせいで彼の声が擦れてるんだよ。肝心なところがほとんど聞こえなかった。それに彼、だんだんと早口になって来てるし。


「もうキレたぜ。てめーは処刑だ。もう謝っても許さねーから、そのつもりでいろ」

「あのー、魔石外してくれません?なんか擦れてよく聞こえなくて。すんません、それでもう一度お願いします」

ガッ! と音がして、俺の被っていたクマさん仮面が割れたのが分かった。

どうやら、正面から拳を叩き込まれたらしい。これだから、仮面はいかん。視野が狭くて仕方がない。


頬骨にジンジンと痛みが伝わって来た。

「いってー!!この野郎、許せねー」

殴った彼の方がこぶしを痛めたみたいで、なんか逆上している。

丁寧に聞き返したつもりだったのに、なんか激発してしまった。まぁ、正義はこっちにあるし、相手してもいいよね。


「待って!」

大きな声がして、そちらに意識が向いた。

先ほどさらわれかけた女性だ。


「クマさん、ごめんなさい。もうこれ以上私のために頑張らないで。彼ら、なんだかものすごく高貴な貴族みたいだし。あなたに迷惑がかからないうちに逃げて。私は……自分で何とかするから」

「自分の身分がよく理解できた女じゃねーか。どうだ?女はこう言ってるぜ?まぁお前はもう逃がさねーけどな」

ようやく魔石を外してくれた彼。声が透き通って聞こえてくるよ。


「なんか逃がしてくれないらしいし、やっぱり見捨てられないよ」

「……ごめんなさい、クマさん」

「そんなに気に病まないで。自分の意志で来たから」


その女性、被っていた羽根つきのゴージャスな仮面を脱ぎ捨てた。

「私はアイリス。ターゲットにするなら私にしなさい」

ヒューッと口笛が鳴ったのが聞こえた。

男の中の誰かが吹いたようだ。

アイリスのその美貌に、釣った魚の大きさを知ったようだ。


……ていうか、アイリスだったのか。

彼ら、仮面をかぶっていたのに、よく大当たりを引いたもんだね。

「随分と身分の低い人物が紛れ込んでいると思っていたが、これは……これは……」

アイリスを値踏みするように、代表格の男がその姿を見ていた。


女性の正体は大事な友達のアイリスだったし、この男どもの行動も既に見るに堪えない。

そろそろ、こんな茶番も終わらせるべきだろう。


「お前ら、悪ふざけが過ぎたな。少しばかり痛い目を見せてやろう」

「ふざけた仮面をつけているかと思いきや、頭までお花畑か。いいぜ、お前みたいな正義ぶった野郎を返り討ちにしてやるのが一番気持ちいいんだ」

「だからクマさん、待って!!」


アイリスが、再び大きな声を放った。

「クマさんはもう帰って。ここは私がなんとかするから」

「なんとかって……」

「彼らの言う権力やらなにやらは……正直怖いけど、私たちに非はないはずだよね。それに手を出してきたのも向うが先だし……」


全員がアイリスの次の言葉を待っていた。待っていたんだけど、彼女から出てきたの、強烈なハイキックだった。

代表格の男の体が吹き飛ぶ。凄い威力のけりだ。


その後に、立て続けに取り巻き二人もアイリスのストレート、チョークスリーパーに沈んだ。


「……やり過ぎちゃった。できるだけ丸く治めたかったんだけど」

「ふふっふ、いや、ちょうどいいんじゃないかな?こんな連中にはさ」


俺は割れたクマさんの仮面を取った。ついでに、魔石も。

「あっ、クルリ!?クルリだったの?」

「うん、アイリスを探している途中であいつらの非行をみつけてね。まぁ、痛い目みて当然な連中だよ」

「ごめんね、私のせいで顔が……。痛くない?」

「ちょっとだけ。外は冷えるし、会場に戻ろう。ラーサーをみつけたら今日はもう帰ろっか」「うん……ごめんね」

まだ申し訳なく思っているアイリスの方をポンポンと叩いてやり、会場の裏口扉を開いた。


「見たぞ……!」

顔中血だらけにして、暴漢の代表格が起き上がった。

顔中血だらけって、アイリスの蹴りはそこまで強烈なのか。蹴られないように気をつけよう。


「赤髪の男、お前の顔、絶対に忘れないぞ。お前から受けたこの屈辱と傷。後日嫌って程お返ししてやるぜ」

まず言いたいことがある。その屈辱と傷を与えたのは僕じゃありません!僕はやってません!


「どうせだし、名前も教えてやるよ。クルリ・ヘランって言うんだ。よろしく」

「フハハハハハ、馬鹿め!!どうせ突き止める予定だが、余計な手間が省けた。クルリ・ヘラン、覚えたぞ。俺は記憶力がいいんだ。ついでだ、この俺の顔を忘れるなよ。我が名はフレーゲン。家名は――」

「家名は結構です。どうせ忘れるし……」

それに血まみれで顔もよく見えない。

「絶対に許さんからな!パパに言いつけてやる」

パパに言うんかーい!!

血まみれで鬼気迫る迫力があったというのに、その一言で台無しだ。


「はぁー、もう興味が失せた。行こう、アイリス」

「いいのかな?放っておいて」

「いいんだよ。早く行かないとパパに言われちゃうから」

アイリスがちょっとだけ笑ってくれた。

「そんなの……言ったらダメだよ」

ちょっとだけ小声にしてそう告げてきた。


「貴様ら!!笑ったな!許さん、許さんぞー!」

「一人で来るなら、その喧嘩いつでも買うよ。じゃあな」

ちょっとだけ躊躇うアイリスの手を引いて、その場を後にした。

その後ろからフレー……何とかさんがまだ叫んでいる。傷が何とか、屈辱がなんとかと。

最後にもう一度確認しておくが、蹴ったのは俺じゃないですからね!!


「ごめんね、クルリ。パーティーには馴染めないし、こんなトラブル起こすしで、もう最悪」

「大丈夫。俺も一歩間違えてれば大事故だったから……。さっ、ラーサーをみつけて帰るとしよう」

「いいのかな?楽しんでいたら申し訳ないけど……」

「うーん、いいんじゃないかな?」


あれだよ、あれ。きっとね、ラーサーは……。


アイリスと一緒になって探すことしばらく、それらしき人物を見かける。


「ねぇ、クルリ。あのー、間違ってたらラーサー王子に申し訳ないんだけど……」

「いや、たぶん間違ってないから」

会場の端っこにひっそり立つ、ちょこっと背の低い男性。

手にしたグラスは謎のジュースが飲まれずに満杯のままだ。

温かい会場で、それはそれは冷たい空気を纏って鷹の仮面を被った貴公子が一人でたたずんでいた。


「うそ……、ラーサー王子ってしっかりした感じじゃなかった?こういう場でも堂々と振舞っているものとばかり……」

「俺もあんまり詳しくないんだけどさ、たぶんこういう場は苦手なんだよ。大勢が一堂に会して規則性なしにコミュニケーションをとるような場が」

「ラーサー王子にも苦手があるんだねぇ。なんだか、親近感が沸いちゃった」

「だよなー。そういえば、初めて会ったときもあんな感じだった気がする……」

「……連れて帰ろうか」

「そうだな」


後ろからそっと近づき、ラーサーの肩に手を置いた。

「見つけた」

「ア……アニジぃぃー」

若干声が震えているのは気のせいだろうか。渋い声のする魔石はもう捨てたので、すぐに気づいてくれたみたいだ。

相当待っていたご様子。もっと早く見つけてあげれば良かった、そんな気持ちになってくる。


「帰ろうか」

「うんっ!」


帰りは三人一緒の馬車だ。

慣れない場から去ったからか、馬車の中の空気は異常なほど和んでいた。

空気が柔らかいという感覚を全身で体感している。


「アニキたちと一緒なら平気だと思ったんですけど、やっぱりダメでした」

「そんなに落ち込むな。俺だってダメダメだったし、得意だからって自慢にもなりはしない」

「そうですけど。でもアニキは綺麗な女性を口説いていました。やっぱりアニキは凄いです」

見られていたか……。

「俺だと気づいていたのか?」

「ええ、アニキくらいしか、あんな格好はしないだろうなと思っていましたから」

あんな格好とは!?しかも、ほぼスパティフィラさんのセンスだからね!

「まぁあれだ。でも、失敗してるからね、これが」

大やけどするところだったし。

アイリスまで、へぇーそんなことしてたんだー、みたいな視線を向けてくる。やめてほしいです……切実に。そういう場じゃないのか!


「途中二人の姿を見失いました。それからは最悪に不安でした。一体どちらへ行かれていたのですか?」

「あっ……」

アイリスが申し訳なさそうにする。

彼女に非はないはずなのに。


「ちょっとしたイベント。面白かったから参加できなくて残念だったな」

「そんなのあったんですか。楽しむどうこうじゃなかったのでいいですけど」

もう懲り懲りだと言わんばかりに、ラーサーは息を吐きだした。


「もうしばらくはああいう場には参加したくないです。そういえば、私の兄も会場にいましたよ。流石に馴染んており、ああいうところは兄を見習いたいですね」

「あー、いたいた」

「そうなの?せっかくなら会いたかったけど」

その言葉、彼に教えてあげたい!

きっと天にも昇る思いになるはずだから。

「帰ってマメスープが飲みたい」

「さんせーい」



――。


「貴様、フレーゲン」

「ほう、声がやたら高いが、その話し方はアーク王子殿かな?」

アイリスを探し回って会場の外にまで来た王子は、偶然にも傷だらけのフレーゲン一行と出会った。

「……なぜ血だらけだ」

「……気にするな、大丈夫だ。久しいな、ど田舎の学校へ行ったアーク王子」

「馬鹿にするなよ。伝統と格式のある学校だ。それに面白い奴らもいる」

「そんな伝統やらのために王都生活から離れるなんて阿呆のすることだ」

「……血は大丈夫か?話に集中できない」

「大丈夫と言っている!俺は今機嫌が悪いんだ!俺をこんなにしたそいつを処刑してやらねばならん!」

大きく声を上げて、その直後にいやらしい笑みを浮かべた。過去にも何度か実行した“処刑”の具体的な方法を想像して、その時味わったいびつな喜びを思い出して。

「悪い癖が出ているな。いくら金があろうとやってはいけないこともある。特にこの俺の眼の前ではな」

王子にすごまれてもフレーゲンの顔からいやらしい笑いは消えなかった。

二人は見知った顔で、過去に因縁もあるのだが、今はすでに薄い関係である。


「お前には関係のないことだ」

「そうかな?ことによっては、直々に制裁を加える」

「この俺にそんなことできるかな……?」


二人はしばらくにらみ合い、フレーゲン一行が先にその場を去った。

王子は彼を止めなかった。何をするかは知らないし、確かに彼を力づくで止めるのはまずいことでもある。

フレーゲンの実家、ダーターネル家は王都一の商会を経営する一家である。





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