4章 19話
ラーサーが接待してくれる日だ。朝から気分も体も軽い。
朝食はラーサーとアイリスと3人で摂った。
テーブルは長さばかりが目立つ長方形型で、端と端に座れば相手の顔もはっきりしないようなものだった。
ラーサーが気にかけてくれたのだろう、食事は三人隣りあわせに用意されていた。
「野菜が美味い。街ばかりがこんなに発展しているため、てっきり王都は新鮮な野菜が手に入らないものと思っていたけど、本当に美味いよ」
「これらは全部城の庭園で作ったものですよ。アニキの同級生、エリザさんの母君が管理しているものです」
「そうなんだ。意外だな、あれほどの家格だから土いじりなんかとは一生無関係と思ってた」
「エリザさんの父君は賢しい方でとっつきづらいのですが、母君は凄く気さくな方ですよ。良く笑う人で、私なんかは子供の頃から可愛がってもらっています」
へぇー、意外。意外過ぎて、もはや意外という感情以外思い浮かばない。
どちらかと言わずとも、気性の激しい部類に入るであろうエリザ。それなのに母君がそんな人柄だったとは。エリザがたまに見せる、どこか温かい本質は彼女の母譲りだったのか。
「野菜のお礼もあるし、一度会ってみたいものだ」
「ええ、機会があったら是非会ってみてください、面白い方ですよ。結構フラフラしている人なので、捕まりづらいかもしれませんが」
そう笑顔で教えてくれるラーサー。本当にエリザのお母さんに懐いているようだ。
「おほん、俺にも同じものを持って来てくれ」
そんな会話をしていると、いつの間にかアーク王子が同室に入って来ていた。
自分の存在を知らしめるように咳払いを一つして、俺たちが食べている朝食と同じものを給仕係に要求していた。
テーブルの、それこそ顔がはっきりしない一番遠くの席に座る王子。
わざとらしすぎて逆に恥ずかしい。
アイリスに会いたいなら近くに、それこそ側に座ればいいのに。
ラーサーが目を細め兄の情けない姿を一瞥した後、俺に視線を向けて来た。
「兄は普段、自室で食事を摂ります」
そう、小声で伝えてきた。ラーサーにも兄の情けない性根が分かりきっていた。
「じゃあ、放っておこうか」
「それが一番ですね」
ラーサーと二人協力して、アーク王子がいないものとして振舞った。
アイリスが、いいの?みたいな顔してるけど、いいんだ。めんどうくさいからね、あの人。
「おい、ラーサー。お前の近くにあるドレッシングとってくれないか」
「兄さんの側にも同じものがありますよ」
「これはあれだ、一本ずつ使っていった方がエコだろ。ほら最近王都もゴミ問題で騒いでいることだしな」
ラーサーがめんどうくさい顔して、また耳元に口を寄せてくる。
「かなり面倒くさいですね。さっさと食べて出かけましょう」
「ちょっとは優しくしてやってもいいんじゃないか?本音が丸聞こえだけど、一応理にかなったこと言ってるし」
「アニキは優しいですね」
はぁーと息を吐きだし、今度は本当の兄に答えた。
「仕方ありませんね。今持っていきますよ」
「やはり、それには及ばない。お願いしているのはこちらだし、取りに行かせてもらおう」
ラーサーがドレッシン入った瓶を兄に投げつけたそうな顔をしている。付き合いも長いので、なんとなくわかる。
器のかなり大きい部類に入るであろうラーサーでも、自分の兄に対しては急に器が狭くなり、ところどころ罅が入り簡単に怒りが漏れるようだ。兄弟というのは微笑ましいなと思えた。
「おやっ、これはこれは、アイリスじゃないか。テーブルが大きいので気づかなった。何やら可憐な女性が同席しているとは思っていたが」
見知った顔がわからないほど大きいテーブルでもない。もし本気で言っているならとっととメガネをかけることを薦める。
「アーク王子って視力が悪かったりする?」
素で言葉を受け入れたアイリスが王子の身体面を心配をした。
余計な手回しをするからだ。ちょうどいい機会だ、視力悪いキャラに転向でもしたらいかが?
「目覚め時は少し視力がぼやけるのでな。それより、アイリスは今日より仕事らしいな。場所が場所なだけに、案内の勤まる者も少なかろう。良ければ俺が案内しよう。なにしろ、この城には生まれてより住んでいるのでな」
「そうだね。悪いけど、頼んでいいかな?」
「はは、まぁこのレベルだと俺以外に勤まるはずもないか。多少手間だが友のためなら労をいとまないのが人としての美徳、というものだな」
案内したいだけだよね?そんな心の抗議を、ラーサーが代弁してくれた。
「何やら兄には大変な仕事のようですね。私にとっては一杯の紅茶を飲み干すほど簡単なことなので、アイリスさんは私が案内しましょう」
「おっと、世間一般の人にとっては大変な仕事でも、俺にとっては紅茶にレモンを絞る程度の仕事だ。ラーサー、やはり俺の方が楽にこなせそうなので、俺が引き受ける」
「そうですか。ただ、私は紅茶の量を指定していません。わずかな量しか入っていない紅茶を飲み干すほどの労力です。レモンを絞るよりも楽ですね」
「おっと、それはこちらとて同じ。実は俺のレモンは既に皮も薄皮も向かれていて、ちっさい粒状態でしか存在しておらず、軽く息を吹きかけるだけでレモン汁が出るほどだ。敢えて先ほど絞ると表現したのは、そっちの方がわかりやすいと思ってのことだ。つまりは、呼吸さえすればレモンを絞れる。これは流石に俺の方が労力を必要としないな」
なにをやりあってんだろうか、この兄弟は。
どっちでもいいんですけど。なんならラーサーの後ろに控えている女官が、あれ?じゃあ私が行きましょうか?みたいな顔してるんですけど!
「それに、ラーサー、お前は大切なお友達を待たせているではないか。クルリ君は将来のヘラン領を継ぐ身。いずれはこの国にとっても欠かせない人物となろう。そんな人物をまたせるのはもはや国益を害しているにほかならず。な?そうだよな?クルリ?」
眼力がすごい!
瞳孔開きっぱなしなんですけど!獣が獲物をとるときの集中力を感じたので、あっけなく俺は折れることを決意した。
「ラーサー、アイリスはアーク王子に任せようじゃないか。早く王都を見て回りたい」
「そうだよなぁ。友を待たせるのは良くない。ラーサー、ほら小遣い持たせてやるぞ。これで二人仲良く菓子パンでも買って食べたらどうだ?」
「はぁー、小遣いは母から頂いておりますので結構です。それにわざわざ王都まで来ていただいて菓子パンなんて食べさせられませんよ。わかりました、アイリスさんは働きに来ているので、くれぐれもその邪魔はなさいませんように」
「そうか、そうか。事故の無いようにな」
勝ち戦に満足したのか、王子の顔に余裕が戻った。
隣で、様子を見ていたアイリスも安心した様だった。
「アーク王子、お世話になります。私ならもう行けるので、いつでも案内してください」
「おう、しかしもう少しのんびりしていて構わないぞ。そうだな、あと20分ほど……」
呆れたようにラーサーがため息をつき、俺の袖を引っ張ってその場を後にした。
ちょっと気になったことがあるので、ラーサーに尋ねることにした。
「具体的な20分の意味するところ、わかるか?」
「父上、つまりは国王様が執務室に入る時間帯ですね」
……俺とラーサーの間に沈黙が広がった。
俺たちが沈黙する理由は覚悟が足りなかったからなのか。アーク王子の本気度を舐めていたようだ。
「朝から疲れること山の如くですが、もう頭から取り去って楽しみましょう」
「そうだな。俺も疲れた」
ラーサーが先導してくれて、城の外まで来ていた。まだ塀の中なので、庭的な場所に出たのだろうか。
少し騒がしい音がして、すぐに白馬が引いた馬車がやって来た。
「普段より職人に手入れさせている美馬です。安定した動きをしますよ」
凄いのは馬だけではなかった。
馬車の内装も、俺が王都に乗って来たものとは明らかに作りが違う。
重量があるので、あまり長旅用には向かないらしいが、一日限りで使うには最高の空間だ。
「プランは組んでありますが、余裕は持たせています。どこか希望があればそちらを優先します」
うーん、可愛い子がキャッキャウフフしているところ?言えるはずもないので却下。
「特になし。我が友ラーサーがドキドキの観光プランを用意してくれているようだしね」
「それはそれは、ご期待していてください」
御者が馬車を走らせる。
正門までやって来て、再度あの巨大な正門が開いた。ご苦労様です。
しばらく王都の街中を走った。
窓から眺める景色は壮観だった。どこもかしこも人、人、人。
市場が遠目に見えたが、あちらはもっと騒がしそうだった。それだけ人の活気に満ちていて、中に混じればこちらの気分も高揚するだろうと思われた。
「アニキ、そろそろですよ」
「おっ、もう着くのか。景色を見ているだけでも結構楽しいものだな」
「慣れれば雑多なものに感じるのが悲しいですけどね。さぁ降りる準備を」
ラーサーがまず連れて行ってくれた場所、魔石ショップが並ぶ区域だった。
貴族の集まる住居に近い場所だ。
魔石は高価なもので、需要のほとんども貴族なので当然の立地ではあった。
「うん、好き!」
「ふふ、だと思いました」
魔石ショップはヘラン領にはない。
書物での知識や、実物を何度か目にしたことあるけど、その度に憧れのような気持ちがあったんだ。
本来物欲が強い方ではないと思うが、今は強烈に購買欲が刺激されている。
最悪買わなくてもいい。でも、全部のお店を見て回りたい!
女性がウインドウショッピングするような気持ちに似ているだろうか。
「ラーサー、行こう。何処からにする?」
「時間はいくらでもあります。端から周ってみるのがいいでしょう」
「そうだよな。わかってるなー」
まずは一番手前にあったお店へ。立地がいいのだろう、お店は繁盛しているようで、店員の数も多かった。
端から商品を見て行く。魔石の近くに説明書が置かれていた。
どんな魔法が付与されているか、製造者、その他もろもろ、事細かに書かれている。
大変残念なことに、すんごく高価だ。
金は持っている。買おうと思えば数個買えるが、高価な買い物に慣れていないので決心がつかないな。
それに何か決め手が乏しい商品ばかりだ。
「焦ることはありません。他の店も見て回りましょう」
流石はシティーボーイのラーサー、離れしているのか体中から余裕のオーラ―を放っている。若干光って見えるのは気のせいか?側にいてくれて頼もしい限りです。
「ラーサーは買わないのか?」
「私はいつでも来られますので。必要になったときにでもまた」
「そうか。そうだな」
時期によってはセールとかあるのかな?
恥ずかしいので聞けない。だってそんなこと気にする客なんかいなさそうだもん。
それから何店か回った。うーん、欲しいか欲しくないか聞かれると欲しいけど、決め手がない。
値段を考えると尻込みしてしまう。
「アニキ、次はあちらへ行きましょう。きっと気に入りますよ」
「ん?」
ラーサーが最初から想定していたかのように、その店へと足を進める。
なにか、他とは違うのだろうか?
「こちらのお店、魔石をその場でカスタム出来るんです。しかも、値段は他店より安い。その分、既製品を売っている店よりデザインは劣ります。アニキのことだから、デザインより機能性を重視すると思いまして」
「うん、好き!」
ラーサー、分かってる!それだよ、それ!
養子で我が家に来てくれないかな?
店の中に入ると、確かに他の店より格式が下がった気がする。
でも、この魔石が店内を埋め尽くしたかのような雑多感、嫌いじゃないんだよなぁ。
「ラーサー王子、また来てくださいましたね」
線の細い、背中の曲がった男がラーサーに挨拶した。
「実は私の愛用の店でもあるんです。私もデザインより機能性重視ですからね」
「そういうことだったか」
そうそう、ラーサーとは基本的に波長があう。きっと好き嫌いが近いからなのだろうと納得した。
「今日はどのような御用で?」
「今日は私のアニキを連れてきました。アニキに相応しい魔石を作ってほしくてね」
「そうですか。少し……変わったお客のようですね」
客にいきなり変人宣言だと!?失礼過ぎる。斬られても文句言えないんじゃ……。
「ああ、アニキ気を悪くしないでください。ここの店主は少し変わった眼の持ち主で、まぁ性格も少し変わっているんですが……」
「いや、気にしてないから。少し変わった眼というのは?」
「ええ、相手の魔力の特性を見抜く眼の持ち主です」
魔力を見抜く眼の持ち主……。何、そのまさに俺とラーサーくらいの年代が凄く憧れそうな能力。
かっこ良すぎるんですけど!
「そんな大それたものではござらん。ちょっと特徴がわかる程度ですからな。ラーサー王子も珍しいが、この赤髪のお客人の魔力、これまた見たことがないものです」
……信じていいのかな?
「ラーサー、追加料金とか取られるの?」
「安心してください。そんな怪しい商売はしていないはずです」
「ほっほ、聞こえておりますよ。別に料金は取りませんから、少し聞いていきなさいませんか。大層珍しいものをお持ちだし、知っておいて損はないと思いますが」
なんだぁ、タダか。じゃあ見てもらおうかな。
「あからさまに安心しないでくださいよ、アニキ。昔からタダほど高いものはないというじゃないですか」
「そ、そう!?じゃあ、ちょっとだけ払おうかな。ちょっとだけ」
「まぁ自由にしてください。赤髪の客人、名前をお聞きしてよろしいかな?」
「クルリ・ヘランと申します」
好きなものは平穏です。
「クルリ・ヘラン殿、あなたの魔力を一言で言うならば、“渦”です。それもかなり大きい巨大な渦」
「渦?」
「渦、ですか……」
グルグル回るあれだよね?いろんなものを飲み込んじゃうやつ。あ、想像したら結構怖いな。
「“渦”でございます。あなたの魔力は、他人の魔力を飲み込み、己のものにしてしまう特性があります。あなたに害意があれば、隣のラーサー王子の魔力も飲み込んでしまうことも可能でしょうな」
可能でしょうなって、何無責任なこと言ってんだ!
そんなこと簡単に言って、王族を害する可能性とか云々言われて、首飛んだらどうすんだ!
「アニキ、そんな凄いことが出来るんですか!?」
「いや、できないから!濡れ衣着せられた気分だよ!」
「でもご主人は確かに正確な眼の持ち主なのです。これまでに見てもらった者も、はずれたものはありませんでしたから」
そうなの!?凄腕の持ち主!?
「まぁ慌てなさるな。あくまで害意があればのこと。それに見たところ、まだ自覚はないようですし。クルリ殿、なにかこれまでに他人との違いを認識する出来事はありませんでしたかな?例えば……他人の発した魔法を、それこそ飲み込んだとか……」
あるんですけど!
しかも、つい最近なんですけど!
タイムリー過ぎて笑えないんですけど!
「……ない」
「ありますね、これは。アニキ、何を隠す必要がありますか。私は出会ったときよりアニキが凄い方だと知っておりましたが、それが証明されたではありませんか。是非、胸を張ってください」
胸を張る?……でもさぁ。
「隣にいるだけで魔力を飲み干さるかもしれないんだよ?魔力が枯渇した人間は場合によっては命も失うかもしれないって話もあるし。……完全にやばいやつでしょ」
「アニキはそんなことをしないと、私は知っています。正しく力を使えば、きっとヘラン領、いやこの国にとって、更には歴史に功績を残せるかもしれません。それだけの力を持っているんですよ?」
……揉めすぎ、照れるわ。
店主もほら、そこまでは言ってないって首を振ってるし。
「ラーサーがそこまで言ってくれるなら悲観的には捉えないようにするよ。ただ、公表することもないけどね。さ、今日は魔石を買いに来たんだ。店主、俺にあった魔石を用意してくれ」
「はい、しばしお待ちを」
店主が奥へ引っ込んでいる間、ラーサーの魔力の特性を聞いてみた。
「私はいたって平凡なものです。ただ少し、平均的な魔力より透き通っているようです」
「透き通っている?」
なんだかイメージにぴったりな気もしないでもない。いや、ぴったりだ。
「透き通っているなんてものではないです。完全に透明。ラーサー王子の魔力は無色透明、つまりはいくらでも変わりようがあるものです」
奥から戻って来た店主がそう告げた。
幾らでも変わりようがある魔力……。めっちゃかっこよくないですか!?それ!
「ラーサー王子が歩まれる道、その全てがラーサー王子の魔力に影響を与えます。最近少しいびつな方向に変わっていったと思っていましたが……そういうことでしたか」
今俺を見たよね!?俺を見ていびつになった原因に納得したよね!
表出ろ!決闘だ!
「しかし、ラーサー王子には魔よけの魔石を持たせております。害意のあるものと接すると、王子に害を及ぼすだけでなく、その魔力をも悪い方向に向けさせます。だから、そういう者が近寄れば魔石が力を発揮します。その魔石がクルリ殿を拒否していないのであれば、悪い変化ではないのでしょうね」
そうなの?ツンデレ?落として上げる、爺ツンデレなの!?
「クルリ殿、そなたにはこれを用意しよう。カスタムできる店で、既製品で申し訳ないのだが」
「なんだよ。カスタムしに来たのに」
「特殊な魔力の持ち主だから仕方あるまい。凡庸な魔力の持ち主の方がこちらもいろいろカスタムできて楽しいものですがね」
嫌味言われた。いよいよ決闘の日は近いか?
「こちらはガルングガル大火山から噴出する天然魔力を大量に封じ込めただけの魔石です。天然の魔力で故、何か特別効果があるものではないです」
「じゃあ結構です」
「そうおっしゃりなさるな。そなたの“渦”、既に大きなものだがまだまだ成長盛り。これから成長するに従って、更なる魔力を欲するかもしれぬ。お主の体が摂取するものだけで足りなくなれば、いずれ他人のものに手を出すかもしれぬ。そうなれば、誰も望まない未来が待ち受けるでしょうな」
「それは困る」
「ですから、あなたの意識に反して暴走したときには、この魔石から魔力を飲み込めるように身につけておけばよいでしょう。そうそう空になるほどの量ではござらん」
「……お幾ら?」
「家が一軒建つほどです。なかなか手に入る物ではない故」
「家といってもピンキリだな。我がヘラン領では住民の増加に伴い新興住宅地を格安で領民に提供したりもしたし、世の中を探せばもっと安い家だってあるやもしれん」
「要らぬなら結構」
「買います……」
高いけど、あんなこと言われたら買わざるを得ないよね。
仕方ない、使った分は剣を打って儲けようじゃないか。
また稼げばいいんだよ!また!
自然と拒否する体を無理やり従わせて、持って来ていた金のほとんどを支払った。
金を払うと店主がブレスレット状にしてくれた魔石をくれた。
オレンジ色の、まさに溶岩の光を閉じ込めたような魔石だ。
高かったので、大事に首にかけた。ぶつけて傷つけないようにしないと。
用は済んだので、店を後にした。
再び馬車へと戻る。
「なんか、高い買い物をさせてしまったようで申し訳ありません。アニキがあまり高価な買い物をする質じゃないことを失念しておりました」
謝らないでくれ。恥ずかしいから。
もっと貴族らしくお金は使っていくべきだろうか。いざというときに恥をかかないためにも。
「これでラーサーを傷つける可能性が一時的にでもなくなったんだろう?なら安すぎる買い物だな」
「アニキ……。アニキ大好きです!」