4章 12話
王都、王城、ビバ都会!
なんだかんだで、王都へ行くことをすごくワクワクしている俺。
学年末テストから解放されたのも大きい。
馬車の中でウッキウキ状態だ。
道中で手に入れた葡萄酒をあおりながら、馬車の中から景色を楽しむ。
旅慣れてきた感じがする。なんだか今の俺、通ですなぁ。
「すごく楽しそうだね」
馬車に同乗しているアイリス。彼女も見た感じ上機嫌だ。
酒はいらないと断られている。
「うん、出発する前は、なんだか面倒だなぁとか考えてしまったけど、いざ出発するとワクワクして来たよ」
俺、ワクワクして来たぞ!
「私も同じかも。そういえば、クルリの学年末テストいい成績だったね」
総合3位のアイリスに褒められてもイマイチ……。
「そう?ありがとう。アイリスのほうが凄いけど」
「私はほら、いつも勉強しているから。クルリはいつ勉強しているんだろう?って思っちゃう。ああ、アーク王子や、レイルさんもそんな感じ」
確かに、奴らはいつやっているかわからない。
あれはいわゆるスペック高いというやつだ。腹立たしい。あー、腹立たしい。
その王子とレイルだが、あの二人は別の馬車で既に王都へ向かっている。
王子の命令で馬車をすっ飛ばしていたな。
アイリスが行くから、いろいろと準備が必要なんだろう。エロ本隠したり。エロい趣味隠したり。エロい店のポイントカード隠したり。
隠しまくりだな!王子。
「アーク王子たち、結構急いでいたね。何をあんなに急いでいたんだろう?」
「それはね、男にはいろいろあるから。あまり深く突っ込んだらダメだよ、これ。本当に」
「そうなの?覚えておく」
アイリスが王子のどんな姿を想像をしているか知らないが、変なイメージを埋め込んでいたらごめんなさい!
「王都に行ったら、まず何しようか?」
「お仕事がしたい、かな」
王子からアイリスを雇う承諾は得ている。アイリスに伝えたら、そりゃ喜んでいた。
臨時収入だー!って喜び飛び回っていたよ。テストの結果は、よかった、と呟くくらいだったのに。
テストでアイリスに勝って、宙を飛んでいたエリザとは価値観が180度違う。
あの宙を飛んでいたエリザ……、悪くない兆候だと思う。少なくとも、俺はそっちの方が好きだ。
「そ、そう?でも、いきなり仕事が始まるとは限らないし、ちょっとは暇潰せると思うよ」
「うーん、時間があるなら……、あっそうだ、あれしようよ」
「あれ、とは?」
「あれだよ、あれ。魔物狩り」
働く気満々!てか、働く気しかない。
王都だよ!?バカンスだよ!?少なくとも俺はそう思っている。
それなのに、魔物狩り!?危ないよ!
怪我しちゃうよ!
血が出たら痛いよ!
「なんでまたそんなことを」
「クルリと馬車に乗っているとね、どうしても初めて出会ったときの清々しい気持ちを思い出すの」
出会ったときの清々しい気持ち?
褒められてる?絶対、褒められてる!
「クルリと商人を助けたときに得た大金。あぁ、忘れられない思い出……」
お金かい!
清々しいほど気持ちよく稼げた素晴らしい思い出かい!
「あれはたしかに美味しい話だった」
「そう、人の役に立つし、学園で学んだことも活かせる。しかも、稼ぎがいい」
「人の集まるところに、魔物も多く集まる。だから、王都では魔物を狩る専門職がいるんだっけか?」
「そうなの。しかも、資格なんていらなくてね、私でもすぐに参加できるの。前々から、そこだけは王都を評価していたの!」
「そこだけ!?国中の若い田舎者はみんな王都に憧れがあるけど!?」
「そうなの?みんな魔物を狩りたいのね。いい稼ぎだもんね」
違うけど!?
王都の華やかなイメージ目当てだけど!?
「皆王都に来たいんだね。それならなおのこと、行く機会がある私がそれを実現しないとね!」
「流石だよ、アイリス。本当に逞しいよ」
耳をぴくぴく動かして、窓の外を横目で見るアイリス。
耳を自力で動かせちゃうんだね。意外な特技を見せられたよ。
なぜ耳が動いたかは知らないけど、アイリスが横目で視線を逸らすときは大抵何か頼みごとがあるときだ。
こういう時は、黙って話してくれるのを待つ。
どうせ大したお願いじゃない。でもアイリスは重たく考えすぎてしまうから、そこはフォローのし甲斐がある。
「あのね、ちょっとやましい自分が恥ずかしいけど。私は結構計算高い女なの」
「ほうほう」
「魔物狩りもね、一人ならやらないよ。リスクとか考えると怖いし。でもね、今はあれでしょ?ほら……クルリもいるし」
「よし行こう!」
「えっ、ええ!?」
俺ちゃんとアイリスに信頼されていたのか。
それが再確認できただけでも、十分なことだ。
俺の将来、困ったときはお願いしますね!
「その、クルリって魔法も剣も一流だし、一緒にいたら安全に魔物狩りも出来るから。ごめんね、嫌ならちゃんと断ってもいいんだから」
「魔法も剣も一流のクルリがお供いたしましょう!」
「自分で言っちゃった!そういうの自分で言っちゃうんだ!?」
魔物がなんぼのもんじゃー!
危険がなんぼのもんじゃー!
王城へのいい手土産じゃー!
「アイリス、詳しい手段とか知ってるの?」
「うん、もちろん。手配書が出回っている魔物以外は、基本的にモブだね」
「モブとかいるんだ」
「そう、モブは数をこなしてなんぼって感じかな。その分安全度は高いし、数も多い。短期間で稼ぐなら、手堅くモブを狩るのが一番だね」
想定していたな?随分前から頭の中に温めていたな?
だって言葉がスラッスラ出てくるもの。
「じゃあ、それで行こう。王城に入るのも一日遅らせようか。入った後じゃ、きっとある程度行動は制限されそうだし。魔物狩りなんて、まさにお偉いさんから怒られそうだ」
「そうだね。馬車が王都に着くのは、夜くらいかな?」
「たぶんそのくらいだ。もう少し早くなるかも。まぁ夕から夜ってとこか」
「じゃあ今日は王都の宿に泊まろうか」
「そうなるね。よしっ、せっかくだし、王都で一番いい宿をとろう。ふふっ、金ならある!」成金領主の息子だからな!
札で焚火してやろうか!ごめんなさい、本当はそんなことはできません。勿体ない。
「クルリがそうくることは知っていたよ!でもダメです!今日は安宿に泊まります。しかも、私の支払で」
「なんで!?」
「一つ!明日は私の都合でクルリを連れ回すから、支払いは私が。実はちょくちょくお金を貯めているの」
「ほう。続きを」
「二つ!豪華な宿に泊まると、本末転倒だから!クルリのその感じだと、明日の稼ぎよりお金を使いそうだからね。それなら早く王城に入ったほうがいいでしょ?」
「それもそうだ」
「三つ!すべて私の都合で回っているけど、今までもクルリには山ほど迷惑かけているから、もう一個迷惑を乗っけちゃえっていう開き直り!」
「おおっ!」
「以上!反論は受け入れます」
「なし!それで決定!」
流石だ、アイリスもすごくいい兆候だ。
このままどんどん貸しを作ってくぞ。
一度目を閉じて、息を吐きだし、アイリスが再び目を合わせて来た。
「ありがとう。じゃあ、また少しだけ付き合ってね」
「少しと言わず、将来もね」
主に俺のために。
「じゃあ、クルリのベッドはそっちね」
「はいっ!?え、ええっ!?」
俺は困惑した。困惑しないわけがない。
なんでか!?そんなの決まっている!
王都に着いたとき、既に夜だったから、すぐに宿をとることにした。
アイリスが宿を見繕い、手続きもすべて行ってくれた。
行こっ、と言われたときに俺の部屋の鍵を貰えなかったのを忘れていた。
気が付くと、アイリスに案内されるままに部屋へ。
……同じ部屋だ。
二人で、同じ部屋に泊まることになった。
俺が奥で、アイリスが手前。
えー、手前が良かったー。だって、地震とか怖いし。とか、そんなどうでもいいことは考えていない。
マジでどうでもいいよ、そんなこと。
いいの!?アイリスさん、そんなことでいいの!?
あなた、将来のお姫様になるかもしれない人だよ!
どこの馬の骨かは……わかっているか。
いや、でも俺と一緒でいいの?
いままでも近くで一緒に寝たことあったけど、密室で二人きり!?
大丈夫ですか!主に俺の男性的欲望らへん!
「あのぉ、部屋一緒なんだ」
「うん、やっぱり別だと高いし。ごめんね」
「ごめんって、謝ってほしい訳じゃないんだ。本当に。でも、ほら、大丈夫かな?ほら、ほらほら、ほらぁ」
「私は大丈夫だけど。クルリは嫌?どうしても嫌なら、部屋を変えるけど」
凄く悲しそうな顔で言われてしまった。
悲しませる気なんてなかったんだ。でも、結果的にそうなりそうだ。
「い、嫌じゃない。グッド、グッジョブだ!」
「そう?グッジョブね、グッジョブだよね」
「あははは、あのさ、お腹空かな?」
「うん、ぺこぺこ」
「じゃあ、何か食べに行こうか」
夕食はどちらが支払うか、押し問答になった。押し切りで俺が勝った。
せっかくだし、いいものを食べよう。
地味で、美味しそうな店を探す。
それが二人の出した妥協案だ。
結局、いい匂いを醸し出す定食屋に入った。店は綺麗だし、ちょっと高めだが、またまた押し切った。
味は、旨かった。うん、旨かった。でも、いまいち食事に集中できない。
この後、宿で一緒に寝ることを考えると不安で仕方ない。
チェリー的な不安じゃない。
チェリー的不安は、その裏に大きな喜びがあるので、実は世界一幸せな不安だったりする。
しかし!
今の俺の不安はそんなものではない。
間違って、いろいろあったらどうしよう。
王子とは決闘が必要になるだろう。
エリザには、謝罪かな?
謝罪?なんか違う。まだエリザとはそういう関係じゃないし。
でも謝罪の気持ちが出て来たってことは、俺にエリザとそういう関係になる願望があるのか?
わからない!でも、今夜理性を保たなくてはならないことは、わかる!
「お客さん、いい食いっぷりだね!今日沢山仕入れているから、ニンニクプラスしようか?体力つくよ」
「つかなくていい!」
店員め、何を余計なことをしようとしている!
サービス精神は程々にな!繁盛しろよ!
「そうかい?じゃあ、あれだね、お客さんだけ特別に毒虫の乾物あげちゃう。食後に食べると、いい体力つくよ」
「つかなくていい!」
店員め、何を余計なサービス精神を燃え滾らせてんだ。
でもサービス精神は大事だよ!繁盛しな!
まずい、そっち方面に話を振るから、いけないことを考えそうだ。
スープでも飲んで落ち着こう。
ん、このスープ、いい味出している。
「おっ、そのスープ精力のつく肝をすりつぶして味にアクセントつけているんだ。いい体力つくよ」
店員んー!!
既にサービス済みだったか!繁盛するはずだよ!
客びっしり入ってるもん!
アイリスもごくごくとスープを飲んでいる。
大丈夫だろうか……。
食べ終わった後、俺の提案で少し散歩することにした。
気を静めるためだ。
「王都の夜って明るいね。ここはまだ王都の端なのに、人が多くて賑わってる」
「うん、なんか都会って感じだ」
「散歩してたら気分良くなってきたね。今夜は気持ちよく眠れそう」
気持ちよく!?
いかん、いかん。
なんか、頭の舵が変な方へ向かっている。
ある程度散歩して、アイリスが戻ろうかと提案したので、そうすることにした。
一歩一歩、宿が近くなる。
そして、目の前に、宿にたどり着いた。
「あ、アイリス、俺は一服してから入るね」
「煙草なんて吸ってた!?」
「ああ、そうじゃない。ちょっとそこらで引っかけてくるから、先に戻ってて」
「チャラ男!?いつから!?」
「そう、じゃない。ちょっと筋トレするから、先に戻ってて」
「筋トレ!?どうしたの?まだ散歩していたいの?でも、もう遅いよ」
「……はい、宿に入りましょうか」
明日は魔物狩りだ。
今日は体を休めなくてはならないのに、俺の頭は変な思考が堂々巡りだ。
宿に入って、アイリスは最低限の身支度でベッドに入った。
美人はあれだろうなぁ。きっと汗とか掻いてもサラサラしてるから。
俺も気になるほどじゃないけど、てか気になっても仕方ない。
体を拭くタオルは借りられるが、とても無理だ。
この場で上半身裸になんて恥ずかしくてなれないし。
俺って結構乙女?
ワッキャワッキャ一人ではしゃいでいると、隣のベッドから気持ちのいい寝息が聞こえてきた。
アイリスがいつの間にか、寝入っていたのだ。
その安らかな顔を見てると、アホな考えも消えていった。
俺も寝よう。明日は、早そうだし。
それから、俺も沈むような感覚と共に睡眠に入った。
夢に中でエリザに腹パンを5発くらったのは、俺の深層心理がそうさせたのだろうか。