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6話

王都についてからは両親とともに忙しい挨拶回りが待っていた。

有力貴族やら国に仕えるお偉いさんやら、パーティーが始まる前にもうクタクタだ。


夜になり、ようやく会場へと案内された。

当然だが皆正装だ。

俺はこういう場は初めてなので背広を新調してもらっている。

以前の可愛らしい体型とは違い、今は身長も伸びて正装が似合う好青年になっている。

鏡を見ては自己満足し、また鏡をみつけて自己満足の繰り返しだ。


「お集まりいただきました皆様方。

クダン王国第一王子、アーク・クダン様のご登場です」

不意に司会からの一声があり、皆の視線を集めた。

視線の先から王子がこれまた煌びやかな佇まいであらわれた。

皆が拍手で迎える。

会場の前に居る女性陣の王子に向けられたステキ光線が気にはなるものの、今日の主役登場で会場は一気に華やいだ。


「皆様、今日は私のためにお集まりいただきましてありがとうございます。領民の皆様のおかげで無事14歳まで健康に育ちました。

心より感謝致しております。

堅苦しい挨拶は以上にして、皆様会場の食事、音楽を存分にお楽しみください」


王子は挨拶を終えると、舞台から降り、早速囲まれてしまった。

本来なら有力どころへ自分から挨拶しようと思っていたのだろうが、下心満載の連中に捕まってしまっている。

嫌そうな顔一つせず対応している。うん、偉いなー。


両親は両親で他の領主たちとの会話を楽しんでいた。


あれっ!?そういえば会場中、既にグループみたいなのが形成されている。

こういうのは徐々に作るものかと思っていたが、皆毎回顔を出しているから知り合いがいるのは当然か!

やばい!完全に取り残された。


パーティーの時間は刻一刻と過ぎる。誰にも挨拶できていないし、なんか一人でいるのが恥ずかしくなってきた。

意を決して王子に挨拶に行こうと決めたが…

王子を囲む集団に圧倒されてしまった。


いや、諦めるか!

俺は集団のやや外からひっそりと、王子を眺めた。

視線があえば、視線があえば「あっ王子、おめでとう!」っていう感じで行ける!!

じーと見続けたが、視線は合わない。

付き人で王子の親友のレイルとは奇跡的に目があったが、なんだ?あいつみたいな顔をされて終わった。


やばい、多分これ今日は無理だ。

ていうか、皆のプレゼントがすごすぎる。宝石をジャラジャラさせている間から、短刀をあげるのは恥ずかしい。

短刀を忍ばせて王子を遠くから眺めている俺、一歩間違えたら暗殺者だこれ。


流石に諦めがつき、会場中知っている人物がいるか探してみた。


だれかー、だれかー。

ん?あれは?

ふと見知った顔がいた。

あれって、第二王子のラーサー・クダンだよね。


年は2つ下で、現在は12歳か。

第一王子とは違い一人寂しく、音楽鑑賞をしている。

第一王子と第二王子でこうまで違うのか。

まぁ俺も第一王子の方に用があってきたしな。

とりあえず暇なので近づいてみた。

指で背中を一つつき、えいっ!


「えっえっ、な、なんですか?」

「クルリ・ヘランと言います」

「え、ああ、はじめまして、ラーサー・クダンです」

「ヘラン領…知ってる?」

「はい、トラル・ヘランさんが領主の」

「温泉…あるけどくる?」

「温泉?私なんかがお邪魔してもいいんですか?」

「もちろんです!

ヘラン領は綺麗で、最近湧き出た温泉もあります。きっといい旅行になりますよ!」

「ではお言葉にあまえます。準備が出来次第向かいますね」


やっった!一人勧誘成功!

「では、お近づきの印にこの短刀をあげます」忍ばせておいた短刀を渡した。これで晴れて暗殺者卒業だ。

「いい造りですね。ヘラン領にはいい職人もいるようですね」

「いや実は俺の手作りです」

「えっこれを!?すごい!是非つくっているところも見せて下さい」

「いいよ」


周りはグループとかできてて話しかけづらかったけど、第二王子とは仲良くなれた。温泉来てくれるらしいし、手ごたえありのパーティーだったな。


父親の方はダメだったらしい。

何してんだよ。詰問しておいた。


領内に戻り、数日後、ラーサーより手紙が届いた。

一週間以内にきますっていう内容だったが、手紙を出すなんて律儀なやつだ。

領内では既に噂が広まっており、歓迎ムード一色だ。

王族が来るのは建国以来ではないのか、領民たちがそんな話をしているのを聞いた。

こんな穏やかな雰囲気とは裏腹に後日、俺と父親は胃をキュッとされる想いをする。



「ラーサー様がおいでです」

早馬に乗った伝令が王子の到着をいち早く知らせた。

間も無く着くとのことだ。

領民が屋敷までの道に行列をつくっている。

屋敷の準備も完璧だ。

あとは王子が来るのを待つだけ。


外から領民が騒ぐのが聞こえる。どうやら着いたようだ。

我が家の総出で迎えに出る。

やけに馬車が豪勢で、大人数なのが気にはなるが、ムードに乗って騒いでみた。


「トラル・ヘラン殿ですな」

「はい」

馬車の先導から一人が父親に向けて言った。

「王妃のご到着です。失礼のないように」


「「ええっ」」やばい、父親と全く同じ反応をしてしまった。


事実、続く馬車から出てきたのは、本物の王妃とラーサーだった。

急いで皆が頭を下げた。


「顔をかげて上げて下さい」

王妃の優しい声で顔を上げた。

綺麗な人だなー、純粋な感情が出てくるほどに美しい。

ラーサーが側で手を振ってるのが茶目っ気あってなんだか可愛い。

「よよよよようこそおいで下さいました、ハーティ様」

父親もこういうのは慣れてないらしい。朝食を吐き出しそうな顔をしている。


「あまり外へ出たがらないラーサーが自分からヘラン領へ旅行に行くと聞いて、嬉しくて着いてきました。あまりかしこまらずに、いつも通りで大丈夫ですよ。温泉楽しみにしております」


王妃は花園も見てまわりたいとのことで、一応ある観光ルートを父が案内することになった。


俺とラーサーは観光ルートを逆からまわる。

乗馬ができるようなので、こちらは乗馬でまわることにした。

流石は第二王子。パーティーでは一人だったが、外ではおつきのものが3人常についている。

「お招きありがとうございます、クルリさん。母も久々の旅行で楽しんでいます」

「いえ、まさか本当に来ていただけるなんて」

おつきのものの視線が怖くて、なんか気軽に話せない。

「クルリさん、乗馬は得意ですか?」

「まぁほどほどに」

「私のおつきのものたちは鎧やら武器で重装備です。駆けて彼らを振り切りませんか?」

意外と悪いやつだなーと思った。誘いには乗ったけど。


馬の質の違いもあったのだろう。あっという間に振り切り、二人でルートを逸した。

「旅行は自由にまわるのが醍醐味ですからね」綺麗ない笑顔だが、イタズラ小僧のそれにも似ていた。

「うん、その通りです」


ルートからは逸れたが俺のよく知る地だ。穴場スポットをこれでもかと教えてあげた。

何よりも水のうまさが気に入ってくれたようだ。

俺の指示のもと整備した温泉施設も自慢した。ラーサーは嬉しそうに聞いてくれている。うーん、ありがたい、ありがたい。


「クルリさん気をつけて、どうやら森に近づきすぎたみたいです」

ラーサーの視線の先に狼型の魔物がいる。

幸い群れではなく、老いた一匹のようだ。


「クルリさん、私に任せて下さい。私ひ弱ですが、魔法は得意なんですよ。

発火せよ!ファイア!」

ラーサーの放った魔力が火となり、魔物をとらえた。

背中から火が魔物の体を覆うが、魔物は逆上しこちらの突進してきた。

「そんな!?」

「焼き尽くせ!ファイア!」

今度は俺の魔力が火となり狼をとらえた。動きを抑え、そのまま焼き尽くした。

あたりには異様な匂いが充満した。


「すごい!これほどの魔法を使えるなんて」

「いやぁ、まぁね」炎魔法はよく使うしね。

「鍛冶の仕事もレベルが高く、領民を統治する器もある。おまけにこの魔力。ああ、アニキと呼ばせて下さい!!」

「えっと、いいよ」

つい調子に乗ってしまったが、いいのか?まぁいいか。


我が家に戻ると王妃様も戻っていた。おつきのものがカンカンではあるが。

「おお、クルリ。ではハーティ様、温泉の方は息子が詳しいので案内させます」

逃げたなあの父親。

「花園に囲まれた温泉があると聞いています。楽しみですわ」

「ええ、宿もできたばかりで、王妃様とラーサー様が一番客になります」

「それはラッキーね、ラーサー」

「はい、母上」



「まぁ綺麗」

温泉に着き、王妃様は感嘆した。

湯けむりが花園に降りかかり、幻想的な空間を作り出している。

温泉に入ればあたりに見えるのは煌びやかな花たち。空は青く、手元には透き通る温泉しかない。領内最高の温泉がここだ。


「ところで、この温泉にはどのような効能がおありで?」

知らぬ!!

「温泉自体の効能は呼吸器系の異常緩和。ただしここの温泉は特別でして、花園に囲まれているゆえ、花の成分が温泉に溶け出しています。これが肌の美白、美容に効果絶大でございます」適当に言っちゃった。


「まぁ、本当に素晴らしい温泉ですわね。一刻も早く入りたいですわ」

「花の養分が溶けだ出して温泉の香りは素晴らしいものになっています。上がった頃には気づかれる思いますが、体にも花のいい香りが残りますよ」

「素晴らしい、もう私待ちきれません!」

うわっ、めっちゃ食いついた。


案内を済ませ俺とラーサーは男湯に入った。

女の風呂は長い。体が冷めた頃ようやく王妃が出てきた。

聞かずともその恍惚とした顔から満足感が伝わってきた。

香りが特に気に入ったようで、結局2日滞在の予定が、この人7日も滞在していった。


王妃が広めたのか、王妃が来たことが広まったのか、次月我が領の旅行者は50倍も増えた。

ほとんどが美を求める奥様方であり、彼女らは美のためなら金を惜しまず、領内に金をじゃんじゃんおとしてくれた。


クルリ・ヘラン、わずか14歳にして、美の恐ろしいまでの魔力を知る。

「父さん、母上って美容にどれくらいお金使ってるの?」

「ふふ、クルリが知るにはまだまだ早い」

父親の顔に若干の悲壮感があったのでそれ以上は聞かなかった。






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