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4章 1話 

お盆だったのでしばらく怠けた。

4章入ります。

一年後期が始まります。

4章は王子といろいろやりたいと思います。


今日は午後から授業なので、いつもの鍛冶作業で一日のスタートをきろうとしていた矢先、部屋の窓が外側から勢いよく開けられると同時に、男が飛び込んできた。


「王子!?」

綺麗なフォームで一回転して着地の衝撃を和らげる辺り、相当な運動神経の良さが窺い知れる。どうでもいいが。

俺の部屋は常に外敵に侵入される運命にあることを理解した瞬間でもある。


「あんたどこから入ってんですか」

「ん?いや、まぁ……いろいろあって」

「いろいろってなんですか。王子だからってなんでもしていい訳じゃないですよ」

「すまんな。ん?お前は相変わらず鍛冶作業か。全く貴族らしくない」

「好きでやっているので放っておいてください」

「一旦それはやめて、俺に協力しないか?」


王子がしゃがみ込んで、座っている俺に視線を合わせてきた。

意外と真面目な雰囲気だ。実はただ事じゃなかったりして。


「な、なんでしょう」

「実は今、アイリスの後を付けている」

はい、アウト!ストーカー見つけました。午前9時31分、王子を逮捕いたします。


「おい、何をしている!」

手首を掴むと振り払われてしまった。

「いえ、ちょっとした冗談ですよ」

「なんのことだ。クルリ、お前暇ならちょっと手伝え」

暇じゃないけどな。

王子の調子が戻ってきたと思いきや、もともとの唯我独尊的な一面が出てきたな。

面倒くさい。


けど、彼に協力すると俺の将来にプラスな影響があるはずだ。

保険はいっぱいある方がよろしい。


「はっ、不貞クルリが王子の公務護衛の任務に就かせてもらいます」

「なんだお前、そんな堅いやつだったか?」


ほっほほ、これで合法的にストーキングの権利を得られた。

もしもの時は王子のせいにしてやればいい。


アイリスの後を付けるか。目的は何にしろ、少し気になるところではある。

彼女は普段何をしているのだろうか。


「アイリスはさっきこの部屋の近くを通った。見つかりそうだったからこの部屋に飛び込んだ次第だ」

「いや迷惑なんでやめてください」

「次からはやめておこう」

「いや普通初回もないですから」


ぐちぐちいいながら、王子とのストーキング作戦が始まった。


早々にアイリスを見つけ、ゆったり歩く彼女の後ろ姿を眺めやる。

周りにも不審がられないように、できるだけ自然体で。


「アイリスが気になるからって、こんな陰湿なことを」

「バッ!お前、誰がそんな!別にアイリスのことを気になっているとかじゃないからな!」

テンパってて、子供みたいな言い回しだ。


「じゃあなんで付け回しているんですか?」

「付け回すとかいうな。護衛と言え、護衛だ」

「護衛?それは私の仕事でしょうに」

王子の護衛、一貴族として立派な職務だ。それをしているのは俺のはずだが。


「最近な、どうもアイリスの様子が暗い。そうは思わないか?」

「いいえ」

「ふん、鈍い男だ。だから女にモテない」

なんだこいつ、最近アイリスと仲いいからって調子に乗りやがって。

夏のヘラン領でのこと覚えてんだぞ!


「アイリスは間違いなく最近落ち込んでいる。我が友が悲しんでいるというなら助けてやるのが筋だろう。だからこうして後を付けまわし……、護衛してながら原因を探ろうと言うのだ」

「今付け回すって言いかけましたよね?やっぱりそうですよね。私たち付け回していますよね?」

「……アイリスに何か起きているならこの俺がそれを取り除いていてやるまでだ」

「いや付け回すって言いましたよね?」


無言の怒りを感じながら、合法ストーキングは続いた。


アイリスは本日、朝の授業だけを履修している。

真面目に授業を受けている様子を窓の外から眺めた。


授業に原因はなさそうだ。

「至って精力的、授業は真面目に聞いていますね」

「原因はこれではないか」


アイリスは授業が終わると、その足で図書館へと向かった。

どうやら授業の復習をすぐさまやるらしい。

流石だ。流石は秀才、尊敬します。

俺たちは本棚から相変わらず覗いています。


「至って勢力的、復習も順調ですね。私も少しばかり勉強したくなりました」

「今日はダメだ。原因はこれでもないか……、いや待て誰か近づいてくるぞ」


王子の指摘通り、謎の美女三人組がアイリスに近づいていく。

皆身ぎれいで、ブロンズの長髪を持っている。

いかにも育ちがよさそうで、歩きかたや小さな仕草に品がある。

流行りだろうか、全員クマさんのブローチをつけている。

肌もつやつやで、間違いなく美人の類に入る。尻も骨盤が大きく、それでふっくら見える。

きっといい子供を産むに違いない。いや、どうでもいいいが。


王子は怪訝そうな顔をしている。

俺は真っ青な顔をしていた。


彼女たちの顔がにやにやしているからだ。友好的ではない、あれは悪意に満ちた顔だ。

まずい、まずいぞ!


消される!あの小さな悪意をもった3人の美女が王子に消される!

彼女ら間違いなくアイリスに嫌がらせする気だ。

前々から小耳にはさんではいたが、アイリスは学園で嫌がらせを受けている。

エリザが本来の仕事を忘れているので、それほど苛烈ではないが、間違いなくいじめまがいのものはあるのだ。


それをいま彼女らがやろうとしている。

今は王子の監査中だぞ!命を粗末にするな!


彼女らが消さるのは自業自得なのだが、実際アイリスはそんな小さなことに心を痛める少女ではないのだ。

なんなら俺より心は強いと思う。


「あーらごめんなさい」

三人組の先頭を歩いていた女性がわざとらしくアイリスの椅子にぶつかった。

アイリスのペンが滑り、本に横線が入る。


「ワザとじゃないのよ。許して下さる?」

「ええ、ワザとじゃないなら仕方ないですよね」

にっこりと答えるアイリス。そんな態度を見せられ彼女らは満足しなかったのか、不機嫌そうにその場を立ち去った。


嵐は去った。


しかし、傷跡はでかい。

アイリスにじゃない、アイリスは本当に何事もなかったように勉強を再開した。

俺は知っているのだ、アイリスはこんな程度で負けるような女じゃないことを。

むしろこれを反骨精神にして頑張っている節だってある。

だから俺も今まで放置して来たんだ。


幸いエリザに火が付きそうな様子もないことだし、病原菌は小さい。

俺は納得している。アイリスは全く気にしていない。


王子は……、あっ、火が着いてますね。


去りゆく先ほどの三人組の後を、王子が大股で追いかける。

フリーズ!

急いで王子の体を羽交い締めする。


「放せ!原因が分かった、今すぐ取り除いてやろうではないか!」

「早計ですよ。あれは今どきの少女流挨拶です」

「そんなものあるか!いいから放せ!」


物凄い勢いだし、これ以上は俺に飛び火してきそうなので放した。

「わかりました。好きなだけやりたいようにやってください。あーあ、アイリスが悲しむなー」

「……、貴様なんだその歯切れの悪い言い方は」

「いえ、何でもありませんよ。どうぞ彼女らを焼くなり煮るなりしてください」

「わかった。何もしないからなんでアイリスが悲しむか教えろ」

アザラシみたいな顔をしてやった。

なんだかその顔が一番勝ち誇った気分になれたのだ。


「アイリスはあの程度何も気にしていませんよ。むしろあれくらいあったほうが彼女は頑張れるんです。自分は平民だから差別されて当然、だから人一倍頑張って認めてもらわなくちゃ、それが彼女の根元にある精神です」

「本当か?」

「本当です。人一倍頑張ってアーク王子たちに認めてもらわなくちゃ、それが彼女の気持ちです」

「……、よし分かった。あいつらは執行猶予つきで釈放だ」

嬉しそうにしやがって。単純っていいな。

「はい、積もったら逮捕しましょう。その時は私にご一報を」

惨殺は可哀そう。罰もほどほどにね。


アイリスの自習を見届けて、尾行は続いた。

張り込みで一番大変なことは何か。

体力を要することだ。


アイリスが学園の庭園の中で食事を摂っている間、俺が使いっぱしりになって食事を調達した。

俺の分はカツサンド。

たっぷりソースをかけてもらい、サンドしてもらった。

王子の分は、野菜サンド。生野菜を挟んでやった。


「おい、俺もそっちがいい」

「我がまま言わないでください」

ここは押し通した。嫌がらせを権力でねじ伏せられてはたまらない。

アイリスは幸せそうに昼食を終えた。

今のところ何も問題はなさそうに見えるが。

それでも王子は何かあると言う。


うーん、俺にはわからないけど、24時間アイリスのことを考えている王子にはわかるのかな?

まぁそろそろ大事な話をしなければならない時間だ。


「王子。人はなぜ他人に報いると思います?」

「それは様々なことが考えられるな。純粋にその個人のことが好きとか、その個人に恩があるとか。はたまた報酬をもらっているとか」

「それ!私の今日の働きに何をくださるのでしょうか」

「それはアイリスの問題が取り除かれたら、何をやるか考えよう」

ぐぬぬぬ、こやつめ!うまくかわしおったわ。


以前高価な品を頂いたことがある。

あれは良かったな。家が倒れてもあの宝は残るように、商人に預けてある。長期の出資と言う形をとっているのだ。

もっと資産を増やしておきたい。今回もいいものを期待したいのだけれど。

それには、やはりアイリスの悩みを取り除かないといけないな。


「あっアイリスが動きますよ」

「よし、俺たちも動くぞ」

こうして怪しい二人のストーキングは続く。


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