3章_17話
アイリスの女子寮はまずいし、何より俺の部屋が一階だったことが大きい。
本日、ゴロウことアルフレードは俺の部屋で泊まることになった。
でかい、けもの臭い、よく食べる、ベッドを占拠する。
もうやだ。この子嫌いです。
「バウッ!」
向こうも同じ気持ちらしい。
庭に出そうとしても嫌がられるし、あきらめてベッドは譲ることにした。
たった一日だ、堅い床で眠るのもいいだろう。
それよりも、明日は犬小屋を作ってやるから今日中にアクセサリーを仕上げておいてあげるかな。
もちろん、予定通りジャガイモのアクセサリーをだ。
鉄を熱して、しばらく鍛えるために打ち続ける。
もう体にしみ込んだ作業だ。
今回はアクセサリー用なので、少量の鉄だ。
固まらないうちに型作りもしなければならない。
ジャガイモか……、一応植物図鑑を取り出して精巧に作ってやろう。
こんなに細かい作業はいつ以来だろうか。
だいぶ前にレイルと医療器具を作って以来かな?
あれとは違い、タダのアクセサリーなので気は楽だ。
それでも細部までこだわるのは、性格かなー。
ジャガイモごときに3時間もかけ、どこからみても完璧なジャガイモアクセサリーを完成させた。
うむ、普通にかっこいい気がして来た。
バカにするつもりで作ったのに、なんか変な気分だ。
まぁ盾よりはいいか、それにつけたらマヌケに見えるだろう。
今度はレザーを取り出して、首輪を作る。
専門分野じゃないが、まぁなんとかいける。
これまた憎きゴロウにはもったいないものが出来上がり、ジャガイモのアクセサリーをとっつけて完成だ。
逃げ回るゴロウを捕まえて、首輪をはめた。
「……イメージと違うな」
さっきまでどこから見ても野良犬でしかなかったゴロウだが、首輪を付けたとたん見た目が映えた。
うーん、違うな。
貶めたかったのに、なんだか本当の立派な救助犬に見えてきたよ。
ゴロウが動くたびに、アクセサリーのジャガイモが光を反射してキラキラと光る。
あれ?めっちゃかっこいいぞ!
どっしりとベッドを陣取るゴロウの首元がどうしても気になる。
キラキラとジャガイモが輝いているのだ。
なんだあれ。あんなつもりじゃなかったのに。
ちょーかっこいいじゃん!
時計を見た。既に深夜12時。
やるか?やろうか!
恥もプライドも捨て、俺はもう一つジャガイモのアクセサリーを作ることにした。
恥ずかしながら、自分用だ。
今度は上質な鉄を取り出し、念入りに鍛える。
2度目だけあって、型作りも先ほどより早く正確だ。
2時間を要して、キラッキラ光るジャガイモのアクセサリーを完成させた。
これ売れるよ!すごくかっこいいもん。
どこにつけようか考えているうちに睡魔が襲ってきて、その日は倒れるように眠った。
次の朝、ゴロウの踏み付けで目を覚ました。
奴め、この家の主が誰かまだわかっていないようだ。
食堂で朝ごはんを調達して、今朝は部屋でゴロウと一緒に食べた。
皿の上に乗せないと食べないんだよなー。
どっかの貴族にでも捨てられたのだろうか。
勝手な想像だが、そう思うと少しかわいそうに思えてくる。
「バウッ!」
どうやら足りなかったらしい。なかなか通じ合ってきたなー、あー、やだやだ。
もう一度食堂に行くのも面倒なので、俺の食べかけのパンを分けてやった。
なんだか嫌そうな顔をしている。
分けてやったのに、どうやら食いかけは嫌らしい。
「わがまま言うなよ。俺だってまだ食べたいのに分けたんだぞ」
「バゥ」
わかってくれたらしくて、食いかけのパンを食べ始めた。
なんだよ、意外と素直じゃないか。
いかん!いかん!
今一瞬だが、気が緩んでしまった。
こいつは敵だ。忘れてはならん。
今日限りの縁です。明日から一切世話しませんよ。
ゴロウは食いかけのパンもあっという間に平らげた。
残ったカスもサラごとペロペロ舐めて、名残惜しんでいる。
「くーん」
あ、こいつこんなかわいい声も出すんだ。
「しょうがないなー。もう一回食堂にいくよ」
軽めの肉料理ならまだあったはずだ。パンも貰ってこよう。
やっぱ大型犬でよく食べるんだね。
おばちゃんに事情を説明して、パンをいっぱい貰った。
やつなら食べきるだろう。
「ほー、ホーワッツ、オーツ」
自分でもよくわからない言葉が出た。
部屋に戻ると、ゴロウが特大のう〇こをしていたのだ。
なんてことだ。人生これまで他の生物の糞なんぞ処理したことないぞ。
湯気ってるけど、出来立てほやほやなの!?
いやー!どうすればいいの!誰か助けてください!
けどここは俺の部屋で、使用人はもちろんいない。
自分で創意工夫をこらし、糞を無事厚紙で掬い上げた。
トイレへと流す。
終わったよ。俺の人生の修羅場ベスト5には入っただろう。
一息つき、皿にパンを乗せてゴロウの元へと持って行った。
いくらでも食べてもいいぞ。
あ……食べない。
出すものだしたら、逆に食べないんだね。
なるほどなるほど、大量のパンは食欲激減した俺が処理した。
覚えてろよ、ゴロウめ。
一日はあっという間にすぎて、放課後になった。
部屋から畑へとゴロウを連れていく。
ガチガチに震えたトトはやはり犬嫌いらしかった。
近くに犬小屋を作るから、慣れてもらうほかない。
「やだやだ、絶対人間食べれるサイズだよ」
わからんでもない。
でも大人しい犬種だから。
遅れてアイリスもやってきた。
俺の作った首輪とジャガイモに大変感動したようだ。
「なにこれー!かっこいいなー!お似合いだよアルフレード」
アルフレード?ああ、ゴロウのことか。
やっぱり予定と違うな。
本来の予定だと、ここでアイリス爆笑のはずだったが。
完全にかっこいいジャガイモになってしまった。
ちなみに、俺もジャガイモのアクセサリーを身に着けてきた。
あれからつける場所が決まらなくて、結局ネックレス仕様にした。
服の中に隠れているけど、そのうちバレちゃうかなー。
ゴロウのように褒めてもらえるといいけど。褒めてもらえるよね、きっと。
「え?クルリの服の中のネックレスってジャガイモ?」
おっと、アイリスとゴロウが楽しそうにしている間に、先にトトが気が付いたようだ。
「ふん、そうだよ」
「なんでジャガイモ?ダサくない?」
……聞かなかったことにしようか。
「ビニールハウスの隣に犬小屋作るから!」
「なんで!?怖いからもっと離してよ!」
「ビニールハウスの出入り口付近に作るから!」
「なんで!?僕なんかした!?」
さて、木材を調達してこないとな。
先生に聞いて回ったらすぐ手に入るだろう。
「おーい、お前の家を調達しに行くぞ」
ゴロウに声をかけて一緒に行こうとしたが、あまり乗り気じゃなさそうな感じだ。
ちょっとは仲良くなれたと思ったが、そもそも動くのはあまり好きじゃないらしい。
しょうがない、一人で行くか。
「じゃあアルフレードは私と一緒に食堂に行こうか。今後のご飯の準備をしてもらわないとね」
アイリスが声をかけると、尻尾を振りながら付いていった。
……、ああいうやつなんだよね。
わかってたじゃない。
俺知ってたじゃない、気を許した自分をいつまでも悔いてしまう。
そんな気分だ。