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3章_15話

エリザとの初デートだ。


朝から何度顔を洗ったか。


服も整えた。

少し硬い気もしたが、ちょっとかっこいい服装を選んでみた。


何度も鏡で確認する。


「うん、大丈夫だ」



待ち合わせ場所は噴水の前だ。

学園の人気デートスポットである。


少し待ち合わせ時間より早く来た。

遅れるよりはいいし、何より家にいては落ち着かない。


辺りを見回すが、エリザはまだ来ていなかった。

流石に早すぎたかな。



しばらく待っていると、人影が現れる。

背後から来たその二人を見た。

衝撃的な二人だった。


アークとアイリスが並んでこの噴水に向かってきているではないか。

いつの間に仲直りしたのだろうか。

アイリスが嫌がっていたはずだが。


なんだかそんな二人が来たので、つい隠れてしまった。


噴水を中心に広がる広場。

二人はその一角のベンチに腰を掛けた。


俺はこの広場の傍にある木陰に隠れた。



「いつかここに来たことあったけ?」

「うん、あんまり覚えてないけど確かあったと思う」


二人の会話に笑顔はない。

なんでだ!?


楽しいデートではないのか?


「俺は最低な人間だ」


は!?

アークは何を言い出すのだろう。

いきなり俺は最低だ!?意味が分からない。二人は一体何をしに来たんだ?


「いえ、私の方こそ最低よ」


うわっ、アイリスまで。

なんだあの狂った空間は。一体何をしにきたんだ!?


「俺の方が最低さ。俺は最近何をしてもダメなんだ。何をしても失敗してしまう。俺はなんてダメな奴なんだ」

「いいえ、私こそ何をしてもダメなの。この間も・・・、あー思い出すだけで頭が痛いわ」

「いや、俺の方こそダメなんだ」

「違うわ、私こそ」



何してんだ、あの二人!

互いを褒め合う訳でもなく、己の自慢をするわけでもない。

ひたすら自分を卑下しているだけだなんて。


おかしいよ!あの二人やばいよ!


「俺なんて王子失格だ。ラーサーが次期王に就任すればいい。そうだ、それがいい」

「何言ってるの。アークは勉強も、運動も、容姿だっていいじゃない。そんな人が弱音はいちゃだめよ」

「えっ!?い、いや、でも俺は本当にもうダメな奴なんだ。こないだヘラン領から先に帰っただろ?あの時馬車が倒れて俺とラーサーが投げ出されたんだ。

ラーサーはクッションの上に落ちて怪我はなかった。でも俺は馬糞の上に落ちた。俺はそういう男なんだよ」

「そ、それはすごいね・・・。でも、私もダメなの。この間すべてを失ったの。いや、もともと私なんて何もないのよ。空っぽな女なのよ」

「そんなことないさ。アイリスは良く笑うし、それにすごい!そうだ、アイリスはすごい!」

「そんなぁ、私凄くなんかないよ」

「すごいさ、アイリスはすごいんだ!」

「アークだってすごいよ。きっとアークはすごい人になるよ」


なんだ、なんだかんだあの二人は上手くいきそうな気がする。

俺が心配するまでもなかったか。


でも、馬糞はないでしょ。

王子だよ?

プププッ。



「あら、覗きなんていい趣味じゃないですわね」

「エリザ!?」

いつからみられていたのだろうか。

ちょっと恥ずかしいな。


「来てたなら教えてよ」

「あら、随分楽しそうにしてたから」

「意地悪だなー」

「ふふん」


エリザは笑った。

こんなに素直に笑うのを見たのは初めてだ。

綺麗だと思った。


「行こうか」そっと手をさしだす。

「ええ」エリザは嫌がることなく、手をつないだ。



二人一緒に歩き出す。

待ち望んだ瞬間であった。


「どこ行こうか」

「どこへでも」


ふたりで何でもない話をした。

本当になんでもない、ただの日常の話だ。


あれが好きだ、あれが嫌いだ。

あまり頭には入らないが、ただ一緒にいるのが楽しい。幸せと言うのはこういうことかと思わせてくれた。


「エリザ、俺今楽しいよ」

「ええ、わかっていますよ」


二人で歩き回り、疲れたころに適当なベンチで休んだ。


ランチは手作りの弁当だ。


ありきたりなものが入っていた。

だけど、どれも美味しい。味なんてわからなかったけど、美味しい。


「あ、そんなに急いで食べないでください。喉詰まりますよ?」

「まさか・・・」


ごめんなさい。詰まりました。死にかけましよ。

エリザのお茶で何とか助かった。よかったよ、危うくデート中に死んだ愚かものとして歴史に名を残すところだった。


食後もエリザと話し込んだ。

ベンチでゆっくり過ぎる時間とともに、エリザと語り合った。

何を話したかなんて覚えていない。

けれどそれでいい。一緒にいられることが、今はいい。


しばらく話し込んで、ふと、目の前のベンチにいる人物に気が付いた。


ベンチの背もたれに両の肘をのせ、脚は大きく開かれていた。

こんな暑い夏に、その人は暑そうな格好をしている。


猫先生だ。


「何見てるニャ?」


絡んできたので、目を逸らした。

まずいのに見つかった。


「二人で何してるニャ」

「いえ、ちょっとデートを」

じと目になる猫先生。


「もう日が暮れるまでそう時間がないニャ。さっさと帰るニャ」

「はい、俺たちもそろそろそれぞれの寮に帰ろうと思ってたとこです」

「違うニャ。早く帰って、日が出てポカポカしているうちにパコパコやるニャ」

「「・・・」」


これだよ!!

これだからこの人に会いたくなかったんだよ!!


全部ぶち壊しだよ!

雰囲気も何もないよ!


ほら!エリザの顔に黒い縦線入ってるよ。

乙女の前でパコパコとかやめて!!


「パコパコやるニャ!」

なぜ言い直したのか。

聞こえなかったわけじゃない!

聞こえないふりをしてたんだ。


こうして、エリザとの初デートはパコパコによってぶち壊された。

帰り道に、仲良く歩くアークとアイリスを見た。


終わり良ければ総て良し。

なんだか思い言葉が俺にのしかかった。

もうパコパコしてしまえばいい!!



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