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3章_14話

視界が白い霧に包まれていた。


いや、霧ではない。

雲といったほうがいい。

ふわふわとした白い雲に覆われている。


雲は水分が気化したものと聞いたことがあるが、これはほんのり暖かくて気持ちがいい。

もちろん湿気もない。快適な雲だ。


体を覆ってくれており、幸せな気分にさせてくれる。


「ああ、これは夢だ」


夢を見ながら夢だと自覚してはいるが、今はずっとこうしていたい。


現実は厳しいものだ。


一度に大事な友人を二人も失ったのだ。

夢の中でぐずってだらだらするくらいの贅沢を貰ったっていいじゃないか。


そうだよ、今日くらいいいんだよ。


目が覚めたらまた勉強の毎日だ。

そこには大事な友がもういない。


休めるうちに休んでおこう。心も体も。



「随分とお疲れの様子ですね」

背中から女性の声がした。


エリザの声だった。


声がした後、こんどは背中を触られる感触があった。

どうやらエリザが添い寝したようだ。


ああ、いい夢だ。

神様と言うのは本当にいるのかもしれない。


傷心の俺にきちんとこういったご褒美をくれるのだから。


「気分はいかがですか?」

「うん、悪くないよ」


背中に寄り添うエリザの感触がなんだか夢とは思えいくらいリアルだ。

本当に素敵な夢だ。

いつまでも続いてほしい。

そう思えてしまう。



「はっ」

あまりにも幸せすぎたせいか、起きてしまった。

もっと見ていたかった。

「くっそー」

あんないい夢なかなか見れるものじゃない。


「あー、いい夢だったー。ん?」


自分のベッドで目を覚ましてすぐに違和感に気が付いた。


目が覚めているはずなのに、背中に寄り添って誰かが寝ている感じがする。

夢と同じ感触だ。

確かに背中越しにだれかいる。



恐る恐る振り返ってみた。


「おい、なんでいるんだ」

そこにはレイルがいた。


施錠されたはずの俺の部屋になぜかこの男がいる。


「やぁ、いい夢見れたようだね」

「うるせー、でてけ」


ベッドから蹴りだし、見下した。


「おい、なんでベッドの中にいた」

貞操の危機だ。ここはきつく尋問せねば。


「いやー、きっと寂しがってるかなーって」

「寂しくても男と添い寝する趣味はない。あとどうやって入った!?」

「それは、内緒」


もう、うざいので首を絞めておいた。

これに懲りてもう侵入してこなければいいのだが。



部屋で一人になり、改めてヴァインとクロッシがいない事実を感じた。

なんだかとても寂しい。部屋が広く感じる。

前も一人で過ごす時間は多くあったのに。

今日は嫌に寂しい。


いつも楽しんでいた紅茶も味が薄く感じられる。


思いにふけっていると、ドアが荒くノックされた。


ヴァインのノックじゃない。

彼のはもっと荒い。通常運転で荒いのだ。


「どなたです?」

ドアを開けると豚がいた。

いや、豚顔の男と、連れの男が二人立っていた。


「クルリ・ヘランか?」

「はい」

「俺はカラーコ・マールだ。わかるだろう?」

「ああ」


カラーク・マールの息子か。

見た目がそっくりだ。


「ちょっと面貸せよ」

「いいけど」


父親同様ずかずかやって来て、要求か。

やっぱり親子だな。



呼び出されたのは校舎の裏側。

木が生い茂る辺りで立ち止まった。


日陰に入っていて心地のいい場所だ。


「父さんから聞いたぜ。随分生意気なことをしたらしいな。代わりに俺が痛い目見せてやるぜ」

「何?喧嘩でもするの?」

「そうだよ」

「3対1は喧嘩とは言わないけどな」

「うるせっ」


真ん中のカラーコが来ると同時に後の二人も来た。


喧嘩の結果としては、惨敗だ。


3人相手はきついし、なんか途中でどうでも良くなってしまった。


結果、一方的にぼこぼこにされました。


それで奴らも満足したのか、去っていった。


木陰に入っているので、横になるとそのまま昼寝できそうなくらい涼しく気持ちのいい場所だった。


体中痛いが、なんだか意外と気分はスッキリしていた。

喧嘩とはいえ、体を動かしたのがよかったのだろうか。


腕を頭の後ろで組み、空を見上げた。

気持ちのいい天気だ。

喧嘩でぼこぼこにされていなければもっといい気分だっただろう。


もったいないことをしてしまった。

まぁいいや。

少し寝よう。



浅い眠りの最中、女性の声で目が覚めた。


「隣、よろしいですか?」


顔を向けると、頭上から綺麗な女性がこちらを覗き込んでいた。


涼し気なパンピースを着ている。

スカートの丈が短くて、つい下着が見えてしまった。


悪意はない。不本意だ。


ピンクのパンツなんて見るつもりはなかった。

本当だ。


「エリザ・・・どうぞ」


まずい、下着が気になる。


白いワンピースの下に、ピンクのパンツか。た、たまらん!


「あらあら、顔中傷だらけですよ?」

「ああ」


エリザが俺のことを心配してくれているのか。

嬉しい限りだが、パ、パンツが気になる。


「ダメですよ、弱い男はモテませんよ」

「ああ」


パ、パンツがピンクと言うことは、う、上もピンクなのだろうか。


「もう、話を聞いているのかしら。まぁカラーコ達は私が血祭りにあげましたけど」

「ああ」


普通に考えて上もピンクだろ!

普通揃えるよな!

上下ピンクとか、た、たまらん!!


え?いま血祭りとか言った?

なんの話!?こわー!



「ほら、口元の傷口拭いてあげますね」

ああ。

「ハンカチもピンクか」


「ハンカチも?」


しまった!!

思考と発言が逆になってしまった。


エリザはワンピースを抑え、顔を赤くした。


直後、飛んでくる平手をもろに食らうことになった。

「あ!いたー!」




涼しい風が吹く木陰で、俺の顔だけがホカホカと熱かった。


「い、痛い」

「クルリ様が悪いんです!」

「は、はい」


確かに下着を見た俺が悪い。

でも悪意はなかった。

事故だ。


でも、その後想像を膨らませたのは反省せねば。

「ご、ごめんなさい」

「一度だけ許します」


エリザはぷいっと顔を背けた。

なんだかかわいい。




「来週さぁ、デートしてくれない?二人きりで」

ちょっとだけ間が空いたので、不意に口を開くとそんな言葉が出てきてしまった。

自分でもよくわからない。

なんでこんな言葉が出たのか。


やはり俺は心の奥で寂しがっているのかもしれない。


「え、ええ、いいですけど」


エリザが顔を赤くしながら承諾してくれた。

やった。


しばらく二人で何も話すことなく、その場にいた。

なんだか夢の続きみたいな、ステキな時間だった。


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